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なんでもQ&Aお答えします 1982年1月号

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月刊ボディビルディング1982年1月号
掲載日:2020.08.20

どうしても大胸筋が発達しないが

Q.ボディビル歴は2年あまりです。キャリアの割には体位もよくありません。ことに胸の筋肉の発達がすこぶる遅く、現在通っているジムの先輩の指導で、あらゆる手段を講じてみましたが、結果はかんばしくありません。
 最近では、トレーニングをやる前から「どうせいくらやっても胸は大きくならないのじゃないか」とった先入観が生じ、大胸筋のトレーニング時における精神の統一と集中もできず、ベンチ・プレスの挙上可能な重量も減少していく始末で、完全にスランプに陥っています。
 かようなわけですが、大胸筋を順調に発達させ得る何か良い方法はないものでしょうか。何卒よろしくお願いいたします。参考までに、現在のトレーニング・スケジュールと体位は次のとおりです。

《トレーニング・スケジュール》
(スプリット・ルーティーンを採用)
〔註〕それぞれの日のトレーニング後の疲労感はかなり強く、時として微熱のでることがあります。《体位》

〔註〕それぞれの日のトレーニング後の疲労感はかなり強く、時として微熱のでることがあります。《体位》

〔註〕腹のまわりにはかなり脂肪あり。(兵庫県 Y・T 会社員 26歳)

〔註〕腹のまわりにはかなり脂肪あり。(兵庫県 Y・T 会社員 26歳)

A.スランプの原因はオーバー・ワークにあると考えてまず間違いはないでしょう。このことは、トレーニング後の疲労に関するあなたの記述からも容易に察しがつきます。それにしても、後になって微熱が出るほどトレーニングを行うというのは、はっきりいって気違いざたであるといえます。
 一度定めたスケジュールを忠実に行うことはもとより大切なことですが、あくまでもそれはトレーニングの強度と量が適切な場合に限ります。ボディビルのような抵抗運動は、運動によって身体を無理に痛めつけたからといって
よい結果が得られるものではありません。
 ビルダーとして、ある程度大成した人たちの中には、ときおり自分の実績を美化するために、苦しいトレーニングを根性をもって克服してきた、というようなことを広言してはばからない人がいます。
しかし、そのような話はあまりまともに受けとらないほうがよいでしょう。
 というのは、その人がなんといおうと、その人のからだが発達して大きくなったのは、その人があなたの場合のようにオーバー・ワークにならなかったからに違いないからです。
事実、ボディビルというものは、オーバー・ワークの状態では決して効果が得られるものではありません。あなたも、このことを再認識して、トレーニングに対する態度をまず改める必要があると思います。
 では、オーバー・ワークをもたらした原因について、もう少しほり下げて考えてみることにしましょう。まず2つの問題点があります。
①全体のトレーニング量が多すぎる。
②胸そのもののトレーニング量も多すぎる。
 このうち、とくにあなたのご質問の主旨である胸のトレーニングのやり方について説明します。
 トレーニングの量というものは、本来、実施者自身の身体的な完成度に応じて定めるべきものです。つまり、初心者の段階では初心者に相応しいトレーニング量で、また、中級者の段階では中級者に適したトレーニング量で行うべきだということです。
 あなたは現在、胸の運動を合計27セット行なっておられますが、これは、現段階のあなたにとっては多すぎるといわざるを得ません。
 はっきりいって、あなたのからだは全身的にかなり体脂肪がのっていると考えられるので、各部のサイズの割には、それほど実質的な筋肉の発達がなされていないのではないかと思われます。
このことは、べンチ・プレスやスクワットの運動時の力量からも容易に推察できます。
 したがって、正直にいわせていただけば、現在のあなたのからだは、ビルダーとしては中の下、もしくは中の中程度の段階だと判断されます。あなたもこの現実を素直に受けとめて、速やかに胸のトレーニング量を減らすことを考えるのがよいと思います。
 ちなみに、あなたが現在行なっている胸のためのトレーニング量は、そのまま上級者の段階にある人が行なっても、量的には十分なものであるといえます。では次にA・B2つのコースのスケジュール例をあげてみましょう。

《トレーニング・スケジュール例》
記事画像3

腹直筋の上部を発達させたいのですが

Q.ボディビル歴は2年10カ月、勤務先のクラブでトレーニングしています。私は現在、腹部の運動としてシット・アップ(傾斜度約30度)とニー・スラストを行なっています。
 ところで私の腹直筋は、中部から下部にかけてはまあまあ発達しているのですが、上部の発達があまりよくありません。腱画で仕切られた最上段の筋そのものの面積は別に小さくはないのですが、隆起がありません。
いままでも、前述した運動の他にもいろいろな運動を試みてみたのですが、ほとんど効果はみられませんでした。
 そこでお尋ねしたいのですが、腹直筋の上部の発達を促すにはどのような運動が有効なのでしょうか。できれば2種目ほど運動を教えていただきたいと思います。なお、現在、クラブで使用している腹筋台は、肋木と兼用になった傾斜が自由に変えられる形式のものです。
(岩手県 H・K 会社員 25歳)
A.腹直筋の上部の発達を促すには、改めていうまでもなく、上部の部分をより重点的に収縮させる運動を行えばよいということになります。それでは、さっそく運動を紹介することにします。

◎トルソー・テンション・1/4シット・アップ
<かまえ>床に仰臥し、両脚をあぐらをかくときのような形に組む。ただし、この運動の場合は、普通のシット・アップのように下半身を固定する必要はない。下半身を固定するとかえって効果が得られなくなる。
<動作>胸を張り、腹筋の上部をできるだけ伸ばした状態からまるめるようにして、背中の半分ほどを床から浮かすようにシット・アップを行う。背中を浮かすときに、顔を仰向けかげんにし、アゴを上方へ突き出すようにして動作を行うとより有効になる。
なお、腕は頭の後ろで組むよりは、胸の上で組むほうが腹筋の上部を収縮させやすいように思われる。

◎スティープ・レッグ・レイズ
 アブドミナル・ボード(腹筋板)の傾斜を45度よりも強くして行うレッグ・レイズ〔写真参照〕
<動作>運動のやり方は普通のレッグレイズとだいたい同じであるが、腰と背を限界まで板から浮かすように両脚を高くあげる。レッグ・レイズという運動は、上体を深く屈曲させるほど、傾向として腹直筋の上部に強く効くようになる。
ただし、アプドミナル・ポードの傾斜が緩やかだと、上体を深くまげたときに、腹直筋の上部にかかる負荷が不十分になるのでその点に留意する。
〔スティープ・レッグ・レイズ。写真より傾斜を強くして行う〕

〔スティープ・レッグ・レイズ。写真より傾斜を強くして行う〕

中学2年生、なんとか体格をよくし、体力をつけたいが

Q.ぼくは中学2年生です。身長の割に体が細く、とてもやせているのでなんとかして体格をよくしたいと考えています。といっても、単に体格をよくして、体型の美しいからだつきにしたいというのが狙いではありません。
 僕は現在、学校の部活動で卓球をやっています。しかし、短期間にある程度体格をよくし、体力を強くするにはそれだけでは不十分ではないかと思っています。そのようなわけで、僕はボディビルを行うのが一番よいのではないかと考えました。
 都合がよいことには、以前、家に同居していたイトコの器具があるので、ボディビルを始めようとすれば明日からでも始められます。しかし、トレーニングをやりすぎて学習にさわっても困るので、まだ始めずにいます。
 そこでお尋ねします。僕のような場合、どのような方法でトレーニングを行えばよいでしようか。運動のやり方も含めて教えてください。
〔註〕その他、けんすいの出来る場所が近くにあります。(三重県 水野伸次 中学生 14歳)

〔註〕その他、けんすいの出来る場所が近くにあります。(三重県 水野伸次 中学生 14歳)

A.ボディビルは、体格をよくし筋力を強くするということに関しては、確かに効果的な運動であるといえます。しかし、ボディビルは、どちらかといえば中学生向きの運動とはいえない面もあるので、あなたもその辺のところをよく
自覚して使用重量などは決して無理をしないように注意して行なってください。
 では、実際的なトレーニングの内容と方法について説明することにしましょう。
 まず採用種目ですが、当分の間は、シット・アップ、スクワット、べンチ・プレス、コントロールド・チンニングの4種目で十分だと思います。これらの種目のやり方を順に説明します。

◎シット・アップ
<かまえ>両足首を固定して腹筋台の上に仰臥する。
<動作>できるだけ反動を使わないようにして上体を起こす。
<注意>背を反らした状態で上体を起こすと、腰(腰椎の辺り)を痛めることがあるので注意する。上体を起こすときは、頭、肩、背の順にからだを板から浮かし、上体をまるめるように起こすのが安全である。
そして、上体を倒すときには、起きるときとは逆に、上体を徐々に伸ばすように行う。
<効果>主として腹。

◎スクワット
<かまえ>バーベルを両肩に載せるようにしてかつぐ。
<動作>腰背部を湾曲させないように留意してしゃがみ、十分にしゃがんだら立ちあがる。
<呼吸>しゃがみながら息を吸い、立ちあがりながら吐く。そして、息を吐くときは、少しずっ吐くようにしないと苦しくなるので、唇の間から少しずつ吐くようにする。
<注意>しゃがむときに、腰背部が湾曲すると腰を痛めるおそれがある。といっても、しゃがむときに、上体が垂直、かつ、反りすぎるのもよくない。いくぶん上体が前傾した姿勢で運動を行うのが安全である。
 なお、立ちあがるときは、しゃがんだときの姿勢以上に、上体を前傾させないように留意して立つようにする。立つときに上体を前傾しすぎると、大腿部に対する効果が減少するだけでなく、腰を痛める危険性も増大する。
<効果>大腿筋(主に大腿四頭筋)、腰。

◎べンチ・プレス
<かまえ>べンチの上に仰臥し、両腕を伸ばしてバーベルを胸の上方に保持してかまえる。バーベルを持つ左右の手の間隔は、肩幅の倍くらいの間隔でよい。
<動作>両腕を屈してバーベルを胸のあたり(乳首のあたり)へおろし、シャフトが軽く胸に触れたら元の位置へあげ戻す。
<呼吸>バーベルをおろしながら息を吸い、上げながら吐く。息を吐くときは、スクワットのときのように少しずつもらすように吐く。
<注意>バーベルをおろすとき、あまり胸の上部の方(鎖骨の方)へおろすと肩を痛めることがあるので注意する。シャフトの握り幅が狭いと、胸よりも腕に強く効くようになってしまうので留意する。
<効果>胸(大胸筋)、腕(上腕三頭筋)。

◎コントロールド・チンニング
 べンチや椅子などの上に乗り、体重を加減して行うチンニング(けんすい運動)のこと。
<かまえ>鉄棒の真下にべンチ、あるいは椅子などを置いて、その上に立つ。次いで両手で鉄棒を握り、脚を屈して体重を両手にかける。
<動作>足を浮かして完全に鉄棒にぶらさがらないようにして、台の上に乗ったまま、脚でからだの重みをコントロールしながらけんすい運動を行う。
<呼吸>からだを引き上げながら息を吸い、おろしながら吐く。
<注意>この運動は、広背筋の発達を促す場合には、どちらかといえば広いグリップの間隔で行うのがよいといえる。しかし、腕力の強化を含めた基本的な体力を強くするには肩幅くらいのグリップ間隔で行うのがよいと考えられる。

 では次に、トレーニング・スケジュール例を、第1、第2、第3段階に分けて記し、それそれの注意すべき点を述べることにします。

◆第1段階(開始時)のスケジュール

〔註〕バーベルを使用する運動は、いくぶん余裕の感じられる重量で行うようにする。また、チンニングは、10回のうち、自力で出来るところまでは自力で行い、残りを脚でコントロールして行うようにするとよい。

〔註〕バーベルを使用する運動は、いくぶん余裕の感じられる重量で行うようにする。また、チンニングは、10回のうち、自力で出来るところまでは自力で行い、残りを脚でコントロールして行うようにするとよい。

◆第2段階(開始2か月後)のスケジュール例(2~3日おき週2日)

〔註〕4種目を各2セットずつ行うのはあくまでも体力的に余裕が感じられる場合に限る。2カ月たっても、トレーニング量を増やすのが体力的に無理と判断されたなら、セット数を増やすのを先に延ばす。

〔註〕4種目を各2セットずつ行うのはあくまでも体力的に余裕が感じられる場合に限る。2カ月たっても、トレーニング量を増やすのが体力的に無理と判断されたなら、セット数を増やすのを先に延ばす。

◆第3段階のスケジュール
 第2段階のスケジュールが余裕を持ってこなせるようになったら、内容はそのままで、トレーニングを1~2日おき、週3回行うようにするとよい。そして、その後は、各種目における筋力を向上させることに専念する。
スクワットやべンチ・プレスにおける筋力が向上するということは、体格がよくなることを意味するので採用種目をいたずらに増やす必要はない。
 あなたのように、からだが細く、体力のない人にとっては、採用種目を多くすることは、運動の効果が分散されてしまい、かえってよい結果が得られなくなる場合が多い。したがって、効果をあせらずに、1年間くらいは採用種目を増やさないようにして、個々の運動における効果の集中度が減少することのないように配慮してトレーニングを行うのがよいといえる。

ツー・ハンズ・カールの正しい運動法

Q.ボディビルを始めてから6カ月になります。初めの頃は何をやってもギコチない感じでしたが、近頃ではだいぶ運動にもなれてきました。しかし、なぜか腕の運動だけはいまひとつピンときません。
 現在、上腕囲は32cm、ツー・ハンズ・カールは30kgで行なっています。しかし、運動中も、運動後も、あまり効いた感じがしません。そのようなわけで、一応、念のためにツー・ハンズ・カールの正しいやり方を説明していただきたいと思います。
(奈良市 三森浩 会会員 27歳)
A.カールに類する運動は、安易な動作で運動を行うと、その運動としてのポイントがはずれ、上腕二頭筋に負荷が十分にかからなくなります。したがって、カールのような運動を行う場合には、使用重量をあまり欲ばらないで、
なによりもまず上腕二頭筋に負荷が的確にかかるように留意して運動を行う必要があります。
 では、次にごく基本的なやり方について説明します。

◎ツー・ハンズ・カール〔写真参照〕
<かまえ>バーベルをアンダー・グリップで持ち、立った姿勢で大腿部の前にかまえる。なお、この場合の左右のグリップの間隔は、両ももの幅くらいが適当である。
<動作>肘を支点にして、バーベルを胸の前ですくいあげるような感じで巻き上げる。腕が十分に屈曲した状態になるまで巻き上げたなら、負荷を上腕二頭筋のカで支えるように留意して、できるだけていねいな動作で元の位置へおろす。
<注意>バーベルを巻き上げるとき、肘を左右に開いたり、または後方へ引いたりすると、運動の動作が、巻き上げるというよりは、引き上げるといった感じになり、上腕二頭筋に負荷が十分にかからなくなる。
 また、運動は終始、反動を使わないように留意して行わなければならない。ことに手首の反動(スナップ)を使わないように留意する。巻き上げるときにスナップを利用すると、上腕二頭筋にかかる負荷が軽減されてしまうので、運動としてはマイナスである。
 なお、運動時における動作の速度は、自分自身の気持の上で、別段ゆっくり行なっているとも、また、ことさら速く行なっているとも感じない、ごく自然な速度がよい。バーベルを上げるときも、また、おろすときも、終始一貫した動作で運動を行うようにするのがよい。
(回答は1959年度ミスター日本、NE協会指導部長・竹内威先生 演技指導は平井ボディビル・センター会長・熊岡健夫先生)
ツー・ハンズ・カール

ツー・ハンズ・カール

月刊ボディビルディング1982年1月号

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