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食事と栄養の最新トピックス⑯
どこまでが有効で、どこからは無効か?<その2>

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月刊ボディビルディング1982年1月号
掲載日:2020.08.21
健康体力研究所 野沢秀雄

1,メガビタミン主義とは!!

 たんぱく質や糖質だけでなく、どの栄養素も偏ってとりすぎることは間題であるが、とりわけ危険性が高いのはビタミンやミネラルの微量栄養素である。過剰の害や副作用が心配されるからである。
 ところが最近はビタミンDやビタミンEのブームで、「今までの栄養必要量は少なすぎだ。毎日1gのビタミンCや1000単位のビタミンEをとるくらいでないと本当の効果は上らない」という意見が主流を占めだしている。
 外国一流選手の食事法をみると、何種類も薬剤を使用し、まるでこれらドラグやサプルメントフーズの競争のようにさえ見受けられる。
「果してここまで多くとらなければならないのだろうか?」「ボディビルのトレーニングがあまりにも激しすぎるので、栄養素、とくにビタミンやミネラルもよほど多くとらねばならないのだろうか?」――こんな疑問を誰でも持つだろう。
 マイク・メンツァーのセミナーに出席して私が最も尋ねたかったのはこの点であり、また出席した方も同じ質問をしていた人があった。
「メガビタンといわれるように、各ビタミンを複合して多量にとる方針について、あなたはどう思うか?」「ボディビルダーにはとりわけ多く必要とされるのか?」――これに対するメンツァーの回答は「NO」であり、必要性はあまりないという。

2,普通くらいでOKか!

 それでは本当に、何もしない人と、まるきり同じ量でよいかというと、これにも問題はある。厚生省では労働強度別にビタミンについて増加の必要量を明確に示しているのだ。スポーツに伴なって、あるレベルまでは多くとることが必要であるが,では基準がどこにあるか、これを見極めることがポイントである。
 前回のたんぱく質の場合と同様に,年令・性別・労働強度・トレーニング歴などによって、必要量は変化する。体協スポーツ委員会では別表のような基準を発表している。
 スポーツの試合やトレーニングをおこなえば当然エネルギーは消耗され、また新陳代謝が亢進して、各種栄養素の要求量は当然ながら増加する。栄養素の種類によって異なるが、1.5~10倍くらい多くなる。とくにビタミンBやビタミンCの増加率が高いことが注目される。
 ポイントは2つある。1つはボディビルのトレーニングがどの位ビタミンやミネラルの補給を要するかという量的な問題である。二番日はビタミンやミネラルをどこまでとれば有効で、どこから無効、もしくは危険かという基準の間題である。
 一番目のビルダーの必要量についてマイク・メンツァーにセミナーの席で尋ねたが、「それは個人ごとの練習量によって異なる」という返事にすぎず、それ以上の、たとえば最も激しくトレーニングするトップビルダーの場合にどうかという点についてまでの回答は得られなかった。
 外国雑誌をみても、栄養の記事はいろいろ載せられているが、定見というものがなく、ある人は「これらビタミン、ミネラルをよほど多く摂らねばならない」と述べているのに対し、他の人は「そんなにとることはない」と批判的な意見を述べている。
 結局、どの説が正しいかという判断は、自分たちの勉強を積み重ねるしか方法がない。
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3.必要量・安全量・危険量

 冒頭に述べたように、ビタミンやミネラルには特に過剰の害が著しい種類がある。油溶性のビタミンAやビタミンD、それにほとんどのミネラル類である。健康雑誌「わたしの健康」56年9月号に熊本大学の北原怜氏が、グラフにより有効量・無効量を示しているので,今月はとくにこれを紹介する。ビタミンを多くとっている人に参考になるだろう。ただしこの数値も決して今までの常識からいうと少ないものでなく「こんなにとってもいいのか?」と心配する人もあるにちがいない。ビタミンの大量投与を前提にした意見である。逆にいえば,この基準以上とっている人は無効になっているか、あるいは危険量の付近に近づいている人である。合理的な量にまで低減させてかまわない。

■ビタミンA

〔欠乏〕夜盲症・皮ふの乾燥・角膜の肥厚・細胞膜が弱くなる。
〔摂り方〕腸からの吸収をよくするため植物油を使った食事を共にとるのがよい。
〔過剰〕ビタミンA剤として摂りすぎると、皮ふの乾燥や黄変、むくみ、関節痛が起こるので、特にA剤はその量に注意すること。
〔効能〕カゼ・ウイルス感染予防・カイヨウ防止・ガンの予防
〔食品〕植物油・ニンジンオイル・肝油・大根葉・ほうれん草・うなぎ・春菊・卵・バターなど。
㊟Ⓐまで落ちると欠乏症で死亡。Ⓑの段階では最低の必要量しか足りていないので、食生活によっては欠乏するおそれがある。したがってⒸぐらいを摂るのが望ましい。 ただしⒹ以上になると過剰症の危険が出て、Ⓔでは中毒を起こし,Ⓕに至ると死亡する。

㊟Ⓐまで落ちると欠乏症で死亡。Ⓑの段階では最低の必要量しか足りていないので、食生活によっては欠乏するおそれがある。したがってⒸぐらいを摂るのが望ましい。 ただしⒹ以上になると過剰症の危険が出て、Ⓔでは中毒を起こし,Ⓕに至ると死亡する。

■ビタミンB₁(サイアミン)

〔欠乏〕疲労・不眠・食欲不振・循環器障害・消化不良・無筋症・体重減少・精神異常・かっけなど。
〔摂り方〕症状に応じての摂り方を決める。栄養補給と保健の意味ではB₁単独よりもB群と共に1日に数回に分けて摂る。B₁剤と区別が必要。日本のいわゆるビタミン剤にはB₁単独のものが少なくない。
食品〕ビール酵母・玄米・魚・卵・豚肉・そら豆・セロリー・レバー・落花生・枝豆・アスパラガスなど。

■ビタミンB₂(リポフラビン)

〔欠乏〕ロ内災・ロ角炎・くちびるの荒れ・腸炎・光過敏症・涙の分泌過剰・目の充血がおこる。
〔摂り方〕保健の意味で長期に摂る場合はB群と共に摂り、1日3~4回に分けて摂る。
〔食品〕ビール酵母・牛乳・チーズ・レバー・魚・卵・いなご・セロリー・かぶ葉などに多い。
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㊟Ⓐまで落ちると欠乏症で死ぬ。Ⓑは最低必要量しか足りていないので、食生活によっては欠乏するおそれがある。Cぐらいを摂っているのが望ましい。 ただしD以上になると過剰症は出ないものの、もうむだである。

㊟Ⓐまで落ちると欠乏症で死ぬ。Ⓑは最低必要量しか足りていないので、食生活によっては欠乏するおそれがある。Cぐらいを摂っているのが望ましい。 ただしD以上になると過剰症は出ないものの、もうむだである。

■ビタミンB₃(ナイアミン)

〔欠乏〕皮ふが発赤しかゆくなる。食欲不振・ウツ病・歯槽膿漏・下痢・シミなどがおこる。
〔摂り方〕保健の意味で長期に摂る場合はB群といっしょに1日数回に分けて摂る。
〔効能〕ウツ病・アル中・二日酔の予防と治療に効果のあることが解明されつつある。一般にビタミンB₁・B₂の約10倍必要。
〔食品〕バター・肉・レバー・魚・ビール酵母に多い。必須アミノ酸の一つであるトリプトファンを摂ると、それが体内でナイアシンに変る。
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■ビタミンB₆(ピリドキシン)

〔欠乏〕食欲不振・下痢・皮ふ病・ロ内炎・失明が起こる。
〔摂り方〕保健の意味で長期に摂る場合はB群と共に、1日2~4回に分けて摂る。
〔効能〕タンパク・脂肪・炭水化物代謝に関係。中枢神経の正常な働きに必要。筋肉増加にも関連。
〔食品〕レバー・とうもろこし・ビール酵母・ぬか・肉・はちみつに多い
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■ビタミンB12

〔欠乏〕貧血(日本の女性では20%の人が貧血)・神経症を起こす。胃全摘手術後は特に注意(胃でB12が活性化されるため)。
〔摂り方〕1日に2~4回、保健の意味では他のB群と共に核酸(ビール酵母に多い)といっしょに摂るのが効果的。
〔食品〕動物食品のみに存在。ことにレバーに多い。したがって完全菜食主義の人は卵やチーズを若干加えること。また鉄の補給も忘れずに。
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■ビタミンC(アスコルビン酸)

〔欠乏〕壊血病・出血しやすい・ウイルスの抵抗力低下・免疫性の低下。
〔摂り方〕1日2~4回に分けて摂るのがよい。大量に摂っても結石・貧血の心配はない。ただ下痢があれば量を減らせばよい。尿量がふえることもあるが、これも心配ない。
〔効能〕ガンの症状緩和・延命(ガン患者にはCが極度に少ない)・免疫力が増す。シワやシミを防ぐ。解毒作用を持つ。コレステロールの除去。
〔食品〕多量に必要なので合成品で摂る。ローズヒップ・緑色野葉(大根の葉や春菊・アルファルファなど)・果実(柿・みかん・いちごなど)にはC強化因子が含まれているのでいっしょに摂るのが望ましい。
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■ビタミンD(カルシフェロール)

〔欠乏〕体重減少・食欲不振・ひきつけ・骨発育不全・くる病。

〔摂り方〕食後に摂る。心臓や腎臓疾患の人は800I.U.でとどめること。
〔過剰〕D剤として過剰に摂った場合,異常な口渇・嘔吐・下痢・動脈硬化が起る。Dの中毒には注意したい。
〔効能〕骨・歯の発育・維持。
〔食品〕肝油・牛乳・卵黄・干ししいたけ・酵母に多い。
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■ビタミンE

〔欠乏〕シミ・不妊・産前産後の不調・貧血・筋ジストロフィー・動脈硬化・老化促進が起こる。
〔摂り方〕一般には食後。治療には食前、鉄といっしょに摂らないこと(結合して活性を失なう)。甲状線機能亢進・糖尿病・高血圧・リウマチ性心臓病の人は初めてから多く摂らず30I.U.からスタート。
〔効能〕(最大血圧の高い)高血圧・動脈硬化・神経痛・リウマチ・更年期障害・腎臓病・若返りにもいい。スポーツ選手にも必要。
〔食品〕濃縮高単位小麦胚芽油、植物油に多い。症状がひどい場合にはE剤または高単位Eを服用。
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月刊ボディビルディング1982年1月号

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