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食事と栄養の最新トピックス16
どこまでが有効で、どこからは無効か?<その3>
――炭水化物のとり方――

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月刊ボディビルディング1982年2月号
掲載日:2020.08.27
健康体力研究所 野沢秀雄

1.嫌いすぎていないか?

 「炭水化物は太る」という固定観念が強すぎて、食べる量をなるべくカットしたほうがよいと誤解している人が多い。たしかにエネルギー消費量を上廻って食べすぎた場合は、炭水化物が脂肪に変化し、肥満の原因になる。これは事実である。
 けれどもエネルギー消費量に見合う範囲内であれば、脂肪に変化することをあまり気にしなくてよい。むしろ適度に食べることが、毎日のトレーニングを楽にして、たんぱく質の有効利用を助け、内臓に負担をかけることも少ない。
 食事分折をしていると、「ごはんは食べないのにやせない」という人がおり、調べてみると、パンやうどん、ポテトチップスなどを多食しているケースがときたま見られる。また「コーラや果物なら平気だろう」と食べすぎている人も多い。
 今月は炭水化物に関する話題を中心に、望ましい食べ方を検討することにしょう。

2.人類が依存する重要な栄養素

 「主食・副食」という考え方が特にアジア民族に強い。主食とは米や小麦・とうもろこし・いも類を用いた食事であり、摂取カロリーのうち大きな比率を占めている。「満腹した」という場合、多くはこのような炭水化物によるところが大きい。
 考えてみると、人類が生命を保持するのに、植物を栽培し、葉・根・種子などを食用に供することを知恵として覚えてから、これほどの繁栄を得たのである。野生の動物を食べたり、飼いならしてその肉を食べるだけではとうてい今日の人口増をまかないきれない。資源エネルギーの面からみても、炭水化物のほうが、たんぱく質よりもはるかにコスト安で経済的に供給できるものだ。
 「アメリカ人や日本人はムダの多い不経済な食事法をしているのに対し、開発途上国では栄養不足でバタバタ死んでいることを実感として知っている人は案外少ないのではないか?アメリカ人は開発途上国の50人分、日本人は30人分が救われる食糧に相当する栄養素を一人当り毎日食べている計算になる」この言葉は国際栄養学会で発言された有名な言葉である。
 銀座や新橋の街を早朝歩いてみると、飲食店の路上に前夜客が残した食物がビニールの袋に入れて捨てられている風景をよく見る。その内容も肉や魚などエネルギーをたっぷり含んだ食品が結構多い。
 石油資源に限界があり、また日本のような狭い土地で、効率よく食糧をとる方法を1人1人が考えなおす時期に来ている。このような点からも、炭水化物の役割を再認識しておきたい。

3.体内での役割と貯蔵限界量

 たんぱく質が人体の細胞を構成する材料となるのに対して、炭水化物と脂胞は人間が活動するときのエネルギー源となるものである。人間を車にたとえれば、たんぱく質が車体(ボディ)や各部分品に相当し、炭水化物はガソリンあるいはプロパンガス、脂胞はこれらを貯蔵するのに適した形になった物に相当する。(脂胞については次号で詳しく検討する予定)
 炭水化物は糖質とせんいに分けられる。分折をすると、最終単位として糖分になるものが多く、また構成分としてH₂Oが含まれるので「含水炭素」と呼ばれたこともあった。
 体内に入り消化を受けるにつれて、分子量がだんだん小さくなり、ぶどう糖となって血液(小腸のじゅう毛から静脈に入りこむ)に吸収され、全身の必要な場所に運ばれてゆく。
 重要なポイントは、ぶどう糖のままでは体内にそれほどストックしておけないという事実である。人間には平均4~5ℓの血液が存在するが、その血液中に含まれるぶどう糖量は血液100mℓ当り80~100mgである。したがって、血液中には、全部でも5g程度である。(糖尿病の人は異常に血液中のぶどう糖が多く,尿にもあふれて出てくる症状を示す。いわば全身が砂糖漬けになった状態と考えられる。こうなると副次的に多数の障害が現われるので、糖尿病の人は厳重に炭水化物を制限しなくてはならない)
 ぶどう糖は肝臓で化学合成を受けてグリコーゲンに変化する。また筋肉内でもグリコーゲンに変化して貯蔵される。ただし肝臓中にしろ、全身の筋肉中にしろ、貯蔵される量はわずかで、肝臓中に、100g、筋肉中に250g程度だ。血液中のぶどう糖などと合計しても360g程度である。
 そして、毎日の運動エネルギーとして消費される炭水化物の量は300~400g程度と考えられる。もちろん個人差があり、毎日トレーニングや労働で体を激しく動かしている人はエネルギーが多く消粍されている。運動不足の人はエネルギー消費量も少ない。
〔図1〕炭水化物の摂取量

〔図1〕炭水化物の摂取量

4.適切な摂取量の範囲

 以上のように、炭水化物は多く食べても体内に貯蔵しておく量は限られている。したがってエネルギーとして要求される量を超えて、過剰に体内に摂取されると、肝臓内で脂胞へと合成され、血液中に入って、体内の各組識に運ばれてゆく。もっとも脂肪がつきやすいのは腹部などの皮下脂肪である。ついで腸と腸の間や内臓の内部や外部、あるいは筋肉細胞の中にまで脂肪が入りこむ。脂肪こそは貯蔵にもっとも適した物質で、体重の2倍くらいの脂肪を貯蓄することさえできる。
 太りすぎている人は脂肪そのものより、ごはんや甘い菓子などに由来する炭水化物の摂りすぎに問題がある。この点が強調されすぎると、「炭水化物は悪い栄養素だ」と誤解され、ボディビルダーの中には大会前など全く食べない人さえいる。このタイプの人は肉・魚・卵・プロティンなど、たんぱく質摂取量が多すぎて、かえって内臓に負担をかけている。適度に糖質を食べれば、トレーニングの活力源になり、内臓に負担をかけることも少ない。
 健康体力研究所では、食事分折をおこなう際に、図に示したように炭水化物の摂取量が全体の60~70%(重量比)になっている場合ランク4の最高点とし、60%以下はランク3、70~80%ランク2、80%以上ランク1と採点している。
 全体の食事量は個人により差が大きいが、概略して毎食ごはんを1杯ずつまたはトースト1枚をとることはトレーニングをする上で決してマイナスではない。この基本を守らず、すべてカットしてしまうことは決して賢明でない。逆にごはんやパン、アイスクリーム、菓子など食べすぎてはいけないことはいうまでもない。食事法のむずかしさは多すぎても少なすぎても不可、バランスが大切という点にある。
 野球部やラグビー部、ボート部などの合宿中のメニューを調査し、分折してみると、たいていは「どんぶり飯でおかわり自由」となっていて、選手たちは主にごはんで空腹を満たしているようだ。それでも足りないとき、ラーメンを食べに出たり、焼いもやポテトを買いこんで、コーラやジュースと共に食べている。
 こんな食事法では基礎体力ができるはずはないが、その一方で、トップクラスのボディビルダーの中には「コンテスト前の数カ月はごはん・パン・麺類・菓子類はもちろんのこと、果物や野菜・ビールまで制限している」という人がいて驚いてしまう。
 これらは両極端な例であるが、ほどよくバランスをとって、多種類の食品をおいしく食べることが、健康・体力づくりの大切な心構えである。
 以上から、一般の人やこれからトレーニングを実行しようとする初心者の人はやや炭水化物を減らして、上級のボディビルの一流選手たちは炭水化物をやや増やして、妥当な食事法に変えていっていただきたい。炭水化物の少ない食事法では、たんぱく質からわざわざぶどう糖へと体内で合成がおこなわれ,これをエネルギー源として使用しなければならない。たいへんな労力と費用のムダになるので、カロリーや栄養素の比率をよく計算して、適度に食べることが大切である。
 また、糖質には「たんぱく質節約作用」があり、糖質とたんぱく質が共存していれば、たんぱく質が本来の役割をフルに発揮して、約10%は浪費せずにすむことが発表されている。「糖質の炎の中でたんぱく質が燃焼する」とも語られているが、このことを意味している。
 消化吸収率がよく、エネルギーに変るのが早く、疲労回復に役立つ炭水化物を大切に考えていただきたい。
付表:炭水化物の多い食品とメニュー

付表:炭水化物の多い食品とメニュー

月刊ボディビルディング1982年2月号

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