フィジーク・オンライン

食事と栄養の最新トピックス⑪
胃腸を強くする食事法〈4〉

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1981年5月号
掲載日:2020.05.25
健康体力研究所 野沢秀雄
 胃腸強化法も回を重ねること4回になり、いよいよクライマックスになってきた。毎月の連載内容はお役に立っているだろうか?
 今月は腸をテーマに知識と体験をまとめておこう。

17 小腸の構造と役割

 十二指腸につづいて、空腸・回腸が連続している。この3つをあわせて小腸と呼んでいる。
 虫垂炎で知られる盲腸というのは空腸部分にできているエアーポケットでこの中に異物が入りこみ炎症をおこすわけだ。
 小腸の長さは5mから8mまで個人によって差がある。ちょうど日光のいろは坂のように、くねくねと折りたたまれて、腹部内の容積の大部分を占めている。脂肪体質の人は単に体の表面に脂肪が付いているだけでなく、腹腔内の腸間膜にもベッタリと脂肪の層がついていて、この脂肪を除くのは大変な苦労がいる。
 アメリカでは手術で腸を切取り、蓄積されている脂肪を除く方法が流行している。超肥満体の人はこうしないと脂肪がとりきれないわけだ。
 小腸の長さは欧米人と日本人では相当に差がある。肉や牛乳・チーズなど消化性が良い食品が主体の場合、小腸の長さが短くてすむ。日本人は穀物を主食にしており、
野菜や海藻をよく食べるので腸が長い。「その国民にあった食品を食べるのがよい」といわれるのは上記の理由のためである。
 さて小腸では、十二指腸から送り込まれた栄養素を最終的な段階まで分解する作用をおこなう。すなわち、たんぱく質はアミノ酸に、炭水化物はぶどう糖や果糖に、脂肪は脂肪酸とグリセリンといった具合に、その栄養素が構成されている最小単位まで分解されるわけだ。この作用は小腸壁から分泌される腸液(トリプシン、アミロプシン、エレプシン、ラクターゼ、マルターゼなどの消化酵素をたっぷり含んでいる)がおこなっている。
 最新の研究によると、栄養素は完全に最小単位まで分解されなくても、ペプタイドや脂肪球のままでもかなり小腸から吸収されることが判明した。
 小腸の第二の役割は、分解された栄養素を体内へ吸収させることだ。小腸の内部壁には「じゅう毛」というヒダが密生しており、その表面から栄養素がジワジワと吸いこまれる。どこに吸いこまれるかというと、じゅう毛の内部が毛細血管になっていて、血液内に栄養素が入ってゆく。
 栄養をいっぱい満たした血液は、小腸から肝臓へと運ばれてゆく。この血液循環のことを門脈といい、体内を流れる重要な静脈の一種である。肝臓に入って変化を受けて、再び血液の流れに乗って、筋肉や脳など必要とされる場所に栄養素が運ばれる。

18 大腸の構造と役割

 人体に利用されるべき栄養素は、このような過程で体内に入ってゆくが、消化されない物質や、消化が悪くてそのまま残ってしまったもの、あるいは一時的に量が多すぎて吸収しきれなかった栄養素は、小腸を通過して大腸へと運ばれる。
 大腸は長さ約2mで、やはり複雑に屈曲して直腸を経て肛門に連がっている。大腸の役割は、まず第一に水分を体内へ吸収させることである。ドロドロの状態では始末に悪いし、またせっかくとった水分を排泄してしまうのは無駄なことである。大腸を通過する間に徐々に水分が失われて、便の固さになってくるわけだ。
 大腸の第二の役割はビタミンをつくり、体に吸収させることだ。大腸には数億個もの菌が存在し、酵素を分泌して整腸作用をおこなっている。
 ヤクルトで知られるシロタ菌やビフィズス菌は大腸に生息する菌の一種で「健康に良い」とPRされている。
 これら大腸菌は食物カスを再利用して、ビタミン類を体内でつくりだしている。ビタミンB₂・B₆・B₁₂など大腸内で自家生産される割合が比較的多い。これらビタミンは水溶性なので、水分と共に体内に吸収され、血液に入って重要な役割をする。
 「よくガスが出る」と訴える人がいるが、大腸が異常醗酵しているとき、炭酸ガスやメタンガスを発生し、腹を張らせたり、おならを放出したり、下品なことがおこるわけだ。

19 直腸と肛門の役割

 大腸の最終部分が直腸で、すぐに出口の肛門と連がっている。
 直腸は食べた食物カスが便となって待機している部分である。正常なら口に入った食物が排便されるまでには12~24時間かかるが、何らかの理由で「便秘」になったときは、何日間も滞留したまま動かないことがある。こんなとき、大腸壁から水分が依然として奪われてゆくので、便はますます硬くなり、よけいに出にくくなる。
 便秘をすると大腸で菌が異常醗酵して、肌に大きなできものがブツブツできたり、目まいがして、健康上決してよくない。
 日ごろ、植物性せんいの多い食品を意識して食べることが大切である。たとえば、ミカンは内部の袋ごとかんで食べたり、ピーナッツは皮ごと食べたり、セロリやアスパラガスは緑色のせんいの部分まで全部食べるとよい。
 最近、クロレラやアルファルファ、プルーン、こんにゃくからつくったマンナンなどが「ダイエタリーファイバー」という総称をつけて愛用されるようになった。そのわけは、これらせんいの多い食品が腸を整えて、菌類の適度な繁殖に役立つこと、およびファイバーとファイバーの間に、コレステロールや脂肪などを包みこんで、体外へ排出する作用が注目され出したからである。
 逆に、消化不良や食あたりなど、小腸や大腸で栄養素が利用吸収されない場合、水分の多い状態で体内に吸収されないので、体はやせてゆくばかり。下痢は1日でも早くストップさせなければならない。
 便秘にしろ、下痢にしろ、直腸や肛門に多大な負担をかけることになる。肛門は括約筋という筋肉が周囲をかこんでおり、ふだんはしっかり締めつけて便が出ないようにおさえている。
 便秘や下痢のたびに、括約筋が過度に作用し、これを反復していると、痔になりやすい。またトイレが長い人は、肛門括約筋を弱めることになる。便秘の場合、とくに力んで無理をしがちである。男性より女性に、痔主が多いのはこのような理由である。
 痔には段階によりいろいろな症状が現れるが、ペーパーでごしごしふくと、出血がすすみ、さらに悪化させることになる。排便後にシャワーで洗い流すのがもっとも良い。すでに痔覚症状のある人はぜひシャワー法をとるのがよい。

20 腸のトラブルQ and A

 以上、ごく概略に、口から肛門まで食物が体内でどう利用されるか述べてきたわけだ。せっかく食べても小腸や大腸で栄養素が吸収されないと意味がないことがお分かりいただけたろう。
 口から肛門までは、いわば一本の管が通っており、この中に入っている食物は体内に入っていても本当の意味では体内ではなく、消化不良や下痢をしていると大部分が通過するだけで排出されてしまう。
 せっかく食べた栄養物がうまく体に入って効果をあげないと無駄になってしまう。最後にこのことを含めて読者の方から読せられた質問をQアンドAの形で紹介しよう。
Q 食品添加物や農薬、あるいは医薬品などは、胃腸に入ったあと、どのようにして体内に入り、害を及ぼすのでしょうか?今話題になっているステロイド・ホルモンの消化吸収についても簡単に教えてください。
A なかなか良い質問です。これらの合成高分子物質は、胃や腸で分解されません。それはこのような合成物を消化する酵素が体内にもともと無いためです。
 では、小腸でも吸収されずに、大腸を通過して便に出てしまうかというとそうでもなく、一部は強い酸やアルカリにより変化を受けたりして、やはり小腸から吸収されます。そして肝臓にゆくのですが、肝臓でも処理する能力がないので、どんどん蓄積したり、あるいは腸間循環といって、この間に静脈中に濃縮して貯ったりするのです。
 医薬品は病気を治すことが目的なので、ある程度は、こうして体内に入って有効に作用するのが良いわけですが毒性のある物質が体内に入り込み、蓄積することは決して良くありません。これらは発ガン性の可能性がないともいえないので、なるべく食べないほうが良いことはいうまでもありません。合成着色料や香料・医薬品のとりすぎに注意しよう。
 ステロイド・ホルモンも上記と同じです。胃腸で分解されたり、腸から吸収されたりしないので、錠剤や粉末のホルモン剤をとっても効果はそれほど大きくありません。
Q 牛乳を飲むと、腹がゴロゴロして、すぐ下痢します。私は特異体質でしょうか。最近良い製品が市販されていると聞きましたが、効果はどうでしょうか?
A 牛乳に含まれている乳糖を分解する酵素が欠落している人が10人に1人ぐらいの割合でいます。あなたもその1人だと思いますが、このような人が、冷い牛乳をガブガブ飲むと、必ずといっていいほど下痢をします。
 最近、乳糖をあらかじめ酵素処理してパック詰にした製品が発売されているので、これを利用するといいでしょう。また、普通の牛乳を飲むときは、体温ぐらいにあたためて、最初のうちは少しずつ飲み、だんだん量を増やすようにしてみてください。そして「また下痢をするのではないか」と、あまり神経質に考えないようにすることも大切です。
Q 私の友人は腸内に腫物ができしばらく入院していましたが先日39才の若さで亡くなりました。何か食生活に関係があるのであしょうか?参考までに、その友人はヨットが好きで、いつも水にぬれていてそのためか、よく「痔が悪い」とこぼしていました。
A たいへんお気の毒です。大腸部分には腫瘍ができやすいのでよく注意しなければなりません。ふつうは出血で徴候が判るのですが、痔の悪い人は、痔の出血と間違えて見逃してしまいやすいのです。
 食生活との関係ですが、西洋の人に大腸ガンが圧倒的に多く、これは肉や甘い菓子の食べすぎに関係が深いといわれています。今まで日本人には少なかったのですが、最近は食生活が西洋の人と同じようになってきたためか、急激にふえています。野菜や海藻など、せんいの多い物を若い時から多く食べるようにすることがいいのです。
月刊ボディビルディング1981年5月号

Recommend