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食事と栄養の最新トピックス⑫
タンパク質必要量

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月刊ボディビルディング1981年6月号
掲載日:2020.05.29
健康体力研究所 野沢秀雄

1.タンパク質信仰??

 いまやブームの岩手県、小西勝見さん(新日鉄釜石勤務・岩手県ボディビル協会事務局長)から、次のような手紙が「新聞記事」と共に寄せられた。
 “タンパク質の必要性は種々の面から認識されており、多くとることが好ましいと思われています。ところが同封の新聞記事では、タンパク質のとりすぎが問題のように受取れます。この記事について、どう思われるか、アドバイスをお願いいたします”―という内容だ。
 同封された記事の著者は、医事評論家として活躍されている杉靖三郎氏。タイトルが「日本人の食生活④-タンパク信仰」となっており、「必要量を超えれば有害」という見出しがついている。
「ありー、ほんまかいな」―この記事を中心に今月は「タンパク質必要量」について再検討してみよう。

2.1日当り40gでも足りる?

まず杉氏の書かれている記事からポイントをかいつまんで、その主張を聞いてみよう。
「体を構築する栄養素は主としてタンパク質。体を動かすエネルギー源にはでんぷん質や脂肪類、そして体内で物質代謝がスムーズにゆくにはビタミン、ミネラル類が十分になければならない。これら栄養素の質と量との相互のバランスが適当でないと私たちは活力がにぶり、虚弱になって、さらには特殊な栄養障害も現われてくる」
「タンパク質は20種類のアミノ酸から成り、これらのアミノ酸がどれだけあるか、それの割合がどうなっているかによって質の良否がきめられる。特に8つの必須アミノ酸が適当な比率で食物の中に存在していることが、良質タンパクの条件になっている。(FAO=国際食糧農業機構の処方)」
「牛乳・卵・肉・魚のタンパクは大体FAOの基準にかなっているが、藻類(クロレラなど)・緑の葉(柿の葉など)・ある種の細菌・きのこのタンパクもアミノ酸組成からは良質といえるが、消化・吸収はよくない。一般に種子や穀物・豆・芋類のタンパクは必須アミノ酸の1つか2つを欠いている。だが植物タンパクも2~3種類を混ぜ合わせると、アミノ酸組成は良質になりうる」
 ―杉氏の意見は次第に専門的になってくる。植物性タンパクの場合、アミノ酸の比率がアンバランスなことは事実である。そのために不足しているアミノ酸を強化して、動物性なみの効果をあげるようにメーカーでは配合をしているわけだ。杉氏の意見は次のように続く。ここからが問題である。
「このような品質の高い、良質のタンパクの必要最少量は、熱源としてのカロリーが十分であるならば、体重65kgの成人で1日に約25gであることが広く受けいれられている。安全率を十分に見たタンパク質所要量は、成人で体重1kg当り0.8gが適当であるとされている」―この点では私が日ごろ体重1kg当り2gと述べていることと相当に差がある。杉氏はその根拠について次のような例をあげている。
「アメリカの有名な栄養学者、H・チッテンデン(1856~1943)は83歳で死ぬまで、成人してとったタンパク質は1日40gであったが、一生を通じて優れた健康を保ったという。(カロリーは1800、体重は65~70kg)
 最近アメリカ上院特別委員会では、米国人の食物のタンパク・脂肪・でんぷん質の望ましい割合は、13%:58%:30%であると報告している」
「タンパク質はこれ以上に増やしても妊娠・授乳・病気からの回復期を除けばなんの利点もなく、分解した後、かえって有害物質をつくってしまう。つまり、よく言われている『ご飯を少なく、肉・魚などのおかずを多くとれ』というのは、健康には悪く、成人病の発生に手を貸すことにもなりかねないわけである」
「いうまでもなく、幼児は成長のために、成人よりもタンパク質所要量は多い。生後2ヵ月の乳児では体重1kg当り3.6g、4ヵ月で2.7g、18ヵ月で1.3gであるという」
 ―以上が杉氏のタンパク質必要量に関する意見である。

3.特殊状況を重視しろ!

 杉氏の意見の中で「それは確かにそうだ」と同感する点はある。たとえば
①過剰に食べることは決して有益でない。無駄だけでなく、体の負担にもなりかねない。
②「現代人は飢餓で死ぬ人の数より、食べ過ぎで死ぬ人のほうが圧倒的に多い」と言われるように、食べすぎ・肥満・コレステロール増加・血圧増加・糖尿病・痛風などの成人病にかかりやすい。
 ―たぶんこのことを主張したかったのだろう。だが次のような点で説明不足である。もう少し根拠をよく解説しないと納得できないだろう。
①杉氏の基準が普通の人を対象にして述べられており、スポーツマンの強度のトレーニングを前提にしているわけではない。
②成人後の人を対象にしており、新陳代謝が盛んな10代・20代の若い人が対象ではない。
③「タンパク質のとりすぎが成人病になる」と受取られやすいが、実際にはタンパク質が悪いというより、全体としての食事のとりすぎが問題と思われる。むしろ悪いのは肉・魚・卵などの摂取に伴って口から入る動物性脂肪である、これが成人病の元凶と思われる。
④成人の1日あたりのタンパク質の必要最低稜が体重1kg当り0.8gというのは、あくまでも新陳代謝をカバーする最低量であって、最適量ではないこと。
⑤成長期の乳幼児は、現在0~2ヵ月3.3g、2~6ヵ月2.5g、6ヵ月~1年3.0g、1~2年2.9~2.7g・・・であり、杉氏の発表している数字と少し異なる。
⑥また厚生省が発表している成人1日あたりの必要量は70gであり、平均体重60kgで割算すると、体重1kg当り約1.2gとなる。
 ―以上のように詳しく状況をみてゆくと、タンパク質必要量はケースバイケースで、とくに成長期でトレーニングをおこない、体重を増やしたい人には、もっと多目にタンパク質をとらなければならないことがわかるだろう。

4.トレーニング期の必要量

 身体が大きくなって、体重が増えてゆくときは、必ずタンパク質必要量も増加する。日本ボディビル協会の指導者講習会で、受講者の方には詳しいグラフと図表で解説したが、年間で体重の増加がもっとも著しい12~15歳のとき、タンパクしつ要求量もグンと増加する。身体を構成する細胞がタンパク質でできているので当然といえば当然のことである。
 ウェイト・トレーニングで筋肉を大きくさせようとするとき、原理はまさに同じである。次第に重いバーベルやダンベルを持とうと努力すれば、身体のほうでこれに応えて「ム・負けるもんか」と筋肉細胞のサイズを増してゆくわけだ。そのときの材料が食事からとるタンパク質である。
「トレーニングだけでなく、食事法に配慮してゆくと筋肉の望ましい発達が早く得られる」といわれるのはこのためである。
 FAOのタンパク質所要量に関する報告書をみても、スポーツのような重労働の場合に、必要量は増すと述べられている。体協のスポーツ科学委員会では、望ましいタンパク質量として、体重1kg当り2gをすすめている。またUSAの最新報告では2.7gくらいに効率のピークがあるとしている。
 したがって、体を大きく発達させようとする人は、普通の人と同じ食事内容では不足するので、やはり高タンパクになるように、食事法を考慮してゆくことが大切である。
 ただし、杉氏の主張のように多すぎてもいけない。「食べなくてはいけない」という熱意のあまり、タンパク質が過剰になっているビルダーがよくあるが、決して私も多くとればとるほど良いとはすすめていない。体重1kg当り1.8~2.2gの範囲になるように、食事のプログラムを組んで1日5食くらいの配分で少量ずつタンパク質をとることをすすめている。
 胃腸に負担をかけずに適量に食べることが大切である。食事法のむずかしさは、多すぎても少なすぎても効率がわるく、その人の状況に合わせて食事をとることが大切である。

5.「普通の人」はどうなのか

 ではトレーニングをしていない普通の人(自分の家族や友人・知人など)は、どのようなタンパク質のとり方をすれば良いだろうか?
 良質のタンパク質を効率よくとることが望ましいことはいうまでもないが具体的には、各人の状況にあわせて次のような点をポイントにすればよい。
1.健康管理を考える人は、動物性タンパクより、植物性タンパクを意識的にとるようにする。コレステロールや血圧の点からも安心である。とうふ・納豆・ハイプロテインなどのとり方をふやすとよい。
2.すでに成人病のある人も意識して植物性タンパクをとるとよい。とくに肝臓病の人は機能回復によい。
3.太りすぎで、やせたい人も高タンパク主義をお忘れなく。しばしば減食しすぎて、体の成分であるタンパク質・ビタミン・ミネラルの不足に陥り、体調をかえって悪くするケースがふえている。
4.発育期の人はトレーニングやスポーツをするしないにかかわらず、体重1kg当り1.5~1.8gは確保するように。
5.受験勉強で頭を使う人や、社会生活でストレスを受ける人たちにも高タンパクが必要である。
6.さらに、外傷(ケガ・ねんざ・骨折など)・火傷・手術を受けた人などは、傷を受けた細胞の修復に高タンパクが必ず要求される。なおりが早いわけである。
7.胃かいよう・十二指腸かいようの人も、内臓に穴があいている状態だから、この傷をなおすのに高タンパクが必要である。
8.その他、腎臓病でネフローゼ症候(尿細管からタンパク質がもれる病気)の人や、高血圧の人、糖尿病の人などは、植物性高タンパク食品をとるのがよい。
 ―以上、どの場合も共通して、タンパク質をやや多い目に(体重1kg当り1.2~1.5g)摂取すると好結果をもたらすわけだ。
 結論として、杉氏の意見のように、とりすぎることは決してよくないが、一定必要量のタンパク質を毎日適度に食べることが健康上、大切なことである。要はバランスのとれた良い食事法をすることである。各人の工夫と研究を期待してペンを置く。
月刊ボディビルディング1981年6月号

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