フィジーク・オンライン

ボディビルダーに多い肩部の傷害について
≪その発生原因とハリ治療≫

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1981年6月号
掲載日:2020.05.29
滝沢新一(スポーツ・トレーナー 鍼灸師)

肩部の損傷はこうして起こる

 肩部の傷害は、ボディビルダーにとって、練習時に運動機能に制限をもたらすことが多く、その影響は多大である。そして、その傷害の発生原因は、ボディビルの練習による場合が少なくない。
 その傷害の程度は、肩を軸にして手を廻すと軽い痛みを感じるくらいのものから、あるトレーニング種目を行なう時にのみ痛みを感じるもの、さらには、何もしなくても常に疼痛を感じる場合など、様々である。
 この様な肩部の傷害の場合、上半身のトレーニングにほとんど肩関節が関与しているために、やむなくトレーニングを中止しなければならなかったりそこまでいかなくても、充分な練習が出来なくなったりしてしまうが、中には、他の部位と同様に、異常を感じながらもトレーニングを続行している練習者が見うけられる。
 コンテスト・ビルダーなどは、その目的上、練習を続けなければならない状態に置かれているため、毎回のトレーニングのスタート時に、ウォーミング・アップの時点から、すでに痛みのために苦痛を顔に出しているが、血行が良くなるにつれ痛みが緩和されてくるので、それが習慣となってしまい、特別な治療を施すこともなく放置しているようだ。
 たとえ軽度の痛みでも、それは、その部位の注意信号である、運動器の機能を正常な状態で充分動かすことが出来ないばかりでなく、放っておけば前回の腰痛と同様、慢性の疼痛に移行してしまう恐れが充分にある。
 また、ひどい疼痛があるにもかかわらず、それを無視してトレーニングを続ければ、疼痛を増大させるばかりでなく、一方で本能的に痛みをかばっている他の関係のない部位にも傷害を波及させる事になりかねない。
 たとえば、片側の肩を痛めている時に、スタンディング・ダンベル・プレスを一定期間行なっていると、拳上する時に、疼痛を少しでも緩和させるために、本能的にどちらかに腰を移動するため、腰椎が曲がり、片側だけに負荷がかかってしまい腰痛の原因となることがある。肩の関節傷害は、他のスポーツにおいても、一般的に治癒するのに長い時間がかかる事が多く、また、何度も繰り返すことがよく報告されている。
 では、どのような時に傷害を起こすかを考えてみよう。
①過度のトレーニングにより、筋および骨膜が炎症を起こした場合―肩のように、他Y方向に運動できる関節を球関節といい、その筋肉を三角筋というが、ひと口に三角筋といっても、動かす方向によって、筋肉の一部のみが刺激をうけるだけなので、種目を変えたりすると、まったく新しい刺激となることがある。とかく新しい種目を行なう時は、効果を期待して頑張るが、度が過ぎないように気をつけて欲しい。
②姿勢が悪いために起こるもの―パートナーと組んでトレーニングをしている場合、特にフォーレスト・レップス法を行なっている時などに、練習者と補助者のタイミングが合わなかった時など(たとえば、ライイング・ワンハンド・ダンベル・サイド・レイズを行なっていて、真上にダンベルを上げるべきところを、補助者が後方斜め上に上げた場合など)
③心身の状態がよくなく、積極的に練習をする意欲が無い時、あるいは練習中に急に緊張をなくした場合。
④冬季のウォーミング・アップ不足によるもの―充分なウォーミング・アップがされていない筋が、急激に負荷をかけられ、引きのばされた場合など。

 その他、不可抗力によるもの、原因不明のもの、複雑な要素がからみあったもの等がある。
 一度傷害を起こしたことがある種目およびトレーニング方法については、出来るだけその原因を追求し、自分なりの予防法を考えて欲しい。
 ボディビルのトレーニングにおいては、筋肉・靭帯にウェイトによる負荷と共に精神的刺激(コンセントレーション)が繰り返し繰り返し与えられるために、緊張の連続を余儀なくされ、強直状態にまで発展してしまうことがある。ウォーミング・アップと共に、クーリング・ダウンが重要な事は、このような異状緊張を引き起こさないためである。
 常に筋の柔軟度が向上するような運動を行なって、関節の可動範囲を広げる努力を怠らない事も重要なことであるし、栄養面、特にカルシウム不足にならないようにすることも忘れてはならない。そして、心身の調子によってトレーニングの内容に変化をつけること。特にパートナーがいる場合、とかく相手のペースにつられる事が多いので、あくまでもマイペースを守ることが練習において最も重要な事である。

肩部の針治療

 針治療は、一般的には全身療法であるが、肩部の傷害においては、局所療法が主となる。硬結し、痛みの強い部位が主要治療部となることが多い。肩関節の拘縮を起こさないようにしながら、圧痛点に針を3~5センチ刺入すると共に、肩関節に関与している各筋の付着部にも刺入し、電気刺激を与える。
 また、皮内針という小さな針を皮下に刺入し、そのまま放置し、約1週間刺激を与え続ける事によって鎮痛効果をもたらすようにする。実証タイプの人(活力にあふれた人)には、中国針(太い針)を使用して強い刺激を与える方法もあるが、脳貧血を起こしたり不快感が残ることもあるので、この場合は特に慎重に行なうようにする。
 肩関節の傷害の中でも骨そのものに異常がある場合がある。たとえば骨増殖による棘の形成、つまり、腱の附着部の骨が出っ張るような場合には、それに伴なう痛みは針治療でとれるが、棘そのものの治療は望めない。これは整形外科の分野であるが、肩関節を構成している肩胛骨、上腕骨、および鎖骨に関与している三角筋、上腕二頭筋三頭筋、肩甲大筋、棘上筋、棘下筋、大胸筋などの筋、腱、腱鞘、靭帯に疼痛の原因がある場合は針治療の対象となる。これは、腱線維組織の回復能力が大きいためで、通常、短期間の治療で完全に治癒する。
[なお、先月号で2カ所、ミス・プリントがあったので訂正します。
①乳酸菌とあるは乳酸等 ②新陣代謝とあるは新陳代謝]

#img
#img_t
背部肩関節周囲部の主な治療点(ツボ)
月刊ボディビルディング1981年6月号

Recommend