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やさしい栄養常識
★これぐらいは知っておきたい★

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月刊ボディビルディング1981年6月号
掲載日:2020.05.29
健康体力研究所 野沢秀雄

植物性たんぱく質は食べ方が悪いと効果がない

<植物性たんぱく質はコレステロールを下げる>

 食事とコレステロールの関係について、国立栄養研究所で次のようなデータを発表したことがある。それによると、6人の被験者に次のような6種類の食事法をさせ、血液中のコレステロールがどう変化するかを測定した。①自由な普通食 ②牛肉か豚肉200グラムを毎日食べる肉食期(10日間) ③凍とうふ4枚(72グラム)を毎日食べる植物性たんぱく食期(40日間) ④普通食期(17日間) ⑤肉食期(9日間)
 その結果、明らかに植物性たんぱくを食べたときにコレステロールは低下し、動物性たんぱく質に戻すと再び上昇することが判明した。このことは、動脈硬化で悩む人や、高血圧患者の人にとって何よりの朗報であり、中高年者向きの食品として大豆製品が好適であることを裏づける資料である。
 大豆や大豆を原料にしたとうふ・納豆・みそ・凍とうふなどはアルカリ性食品で、コレステロールの心配がないので、従来から食べることをすすめる人が多かった。
 柳沢成人病研究所の柳沢文正博士も「潰瘍やガンの患者に大豆をすすめてびっくりするような効果をあげた」と報告している。
 だが、残念なことに、枝豆のように蒸したり、煮豆のようにグツグツ煮ても、大豆の組織が緻密なために消化されにくい欠点があり、とくに歯の悪いお年寄りには無理と考えられる。
 普通の健康人でも大豆たんぱくの消化吸収は約78パーセントにすぎず魚・鶏肉・牛乳などの97%にくらべると
ずっと少ないわけだ。そのうえ、生大豆にはトリプトファン・インヒビターという吸収阻害物質が存在するので、ボリボリ食べると消化不良をおこし、ますます体調を悪くする。

<こうすればよい>

 大豆を加熱して、たんぱく質を抽出したのが豆乳やとうふだ。
 分離たんぱくの消化吸収率は93~94パーセントまで向上するので、歯の悪いお年寄りや、よくかまないで食べがちな幼児や子供にも安心である。

温かい料理はカロリーが高い

<冷たい料理はカロリーを下げる>

「カロリーが多いか少ないかは、食事の種類だけで決まる。材料に何をどれだけ使ったか分かれば計算できる」とあなたは単純に考えてはいないだろうか。ところが実は、食品材料以外に、カロリーを左右する要因がいくつかあるのだ。
「1カロリーとは、1リットルの水を1度C高めるのに必要なエネルギーに相当する」という定義のように、シチューやみそ汁などを鍋に入れて、20度から100度まで加熱すると、仮に5人分(1リットル)とすれば、合計80カロリーの熱量が増えたことになる。冬の寒いときは、熱いシチューやみそ汁を食べたほうが、それだけ熱エネルギーが体に与えられて有利である。
 反対に、冷たい料理を食べたときは胃の中で体温近く(約37度C)まで暖める必要があり、それだけカロリーを消耗することになる。同じ材料を使った料理なら、冷たい料理のほうが低カロリーだといってまちがいない。
 なお、夏の暑い季節は体温を発散して体を冷やしたほうが有利だから、冷たいビールやアイスクリームを食べると「おいしい」と感じる。冷たい食べ物は口腔、食道、胃などを冷やして熱を奪ってくれるからだ。

<日光浴もカロリーに関係する>

 私は海でのんびりと日光浴をするのが好きだが、そんなとき、不思議なことに、朝食を食べただけで、そのまま夕方まで何も食べなくてもさほど空腹を感じない。あるとき表面体温計(サーミスター)で直射日光を受けている肌の部分を測ったところ、何と50度Cにもなっていた。
 人体は体温が上昇しすぎないように汗を蒸発して熱を放散することによってバランスをとっているが、もしこの調節機能がなくて、受けた太陽熱をすべて吸収するとしたら、体の内部にとほうもないようなカロリーが蓄積されることになろう。おそらくすぐに生命に危険をきたす過剰熱量になってしまうにちがいない。
 日光浴をしてお腹がすかないのは太陽熱を受けるからで、冬の寒い日などなるべく日にあたりポカポカすれば、食事量はそれだけ少なくて済み、低カロリーでもいいわけだ。
 太陽熱によるカロリーは、食事からとるカロリーとちがって、体内で脂肪に変わったりする心配がなく、かえって新陳代謝を高めて古い脂肪を燃焼することが知られている。やせたい人は海に行き、全身を日に焼くとよい。一石二鳥なのだから・・・。

香辛料は体の発達に有害か?

<辛い物は頭を悪くする?>

「カレーライスやコーヒーは刺激物が多いので、食べると頭が悪くなる」
「わさび漬けやとうがらしは老人の食べ物だ。発育期の子供が食べるとバカになる」
 どういうわけか、このような説が一般に流れているらしい。“ラーメンにこしょう”“ホットドッグにねりがらし”はつきものだが、最近ではこういった香辛料を入れないで食べる学生が多くなっているとか。これはどうした理由だろうか?
 “受験期の子供の食事”といった婦人雑誌の特集記事を見ると、確かにこんな注意が出ている。
「胃や腸が刺激を受けてただれたりカッカとのぼせて汗が出る」「交感神経が刺激されて、イライラしやすくなる」「辛いのでごはんやお茶を食べすぎて満腹になりやすい」などである。
 確かに幼児に刺激の強い香辛料を与えると、味覚神経の形成を妨げたり、香辛料に含まれているアルカロイドや配糖体成分によって神経が麻痺することも考えられるが、あくまでも成長期にある幼児や子供に多量に与えた場合のことであって、われわれが日常食べる範囲ならまず影響はないと考えるのが常識だ。

<香辛料よりもっと恐いもの>

 香辛料だけでなく、子供の神経発達を妨げる食品はほかにもある。ビールや日本酒
、タバコなどである。父親たちの中には「きょうはお祝だからいいだろう」と小さな子供にビールや酒を飲ませる人がいる。
 それだけではない。最近は中学生でビールを飲んだりタバコをすったりすることが流行して、互いに自慢しあう風潮があるが、これこそ神経を麻痺させ、良悪の判断を失わせてしまう元凶である。未成年者にアルコールとタバコを禁じている背景には、内臓や神経への影響を警告した医学的なデータがあるためだ。
 香辛料などの刺激物は「食欲増進・消化機能の亢進」に役立つことも事実である。適度な刺激は単調な受験勉強にかえってプラスである。現代っ子に一番人気のある料理はカレーライスだというから、もし本当にカレーライスが頭を悪くするというならたいへんな問題になる。毎日連続して食べるわけではないのだから、あまり気にしなくてよい。

酵素は危険がいっぱいの商品

<酵素は美容にも効くというが・・・>

 最近ブームの酵素。生野菜やフルーツ、玄米などに菌を繁殖させて、そのまま粉末にしたものや、水やアルコールで成分を抽出したものが5千円前後の高価格で売られている。
「スターの〇〇さんも愛用されて、見ちがえるほどきれいになった」「××会社の社長が飲用されて、病気がなおっただけでなく、はげていた頭の中央から毛がフサフサと生えてきた」といった実例もかなりあるという。
 だが、この酵素に化学者たちはいくつかの疑問をもっている。酵素とは、すべての動物、植物、バクテリヤ、酵母など、生命を営むものが、それぞれの細胞の中でつくり出すもので、複雑な化学反応を促進させる役割をおこなう高分子のたんぱく質である。
 唾液の中に含まれていて、でんぷんを麦芽糖にかえてくれるアミラーゼや胃液の中に含まれていて、肉や卵のたんぱく質を分解するペプシンなどは比較的なじみ深い酵素であるが、人間の体内には判明しているものだけでも約650種類もの酵素がある。
 では、なぜこんなに多種類の酵素があるのだろうか。それは、
①酵素は「基質特異性」といって、1つの作用に対して1つの酵素しか作用しない。
②それぞれの酵素は最適温度、最適ペーハー(酸性・アルカリ性の条件)および最適濃度のときにしか有効に作用しない。
③すべて体内で自動的につくられるもので、体外から与えられることを前提にしていない。
④熱、酸、アルカリにきわめて弱い。

<宣伝どおりにはいかない>

 というわけで、健康増進や美容のために酵素を用いても、本当に生きたままで体内に吸収されて、期待した効果を発揮するかどうか、まったく不明である。それどころか、製造工程中に活力が失われたり、胃の強い酸度とペプシンのために分解したり、あるいは正体不明の酵素や菌が繁殖したりして、まったく意義を失っている場合もある。

漢方薬にも副作用がある

<朝鮮人蔘の薬理効果と副作用>

 数多い健康食品の中で、朝鮮人蔘は古くから漢方処方に用いられており、「日本薬処方」やFDA(アメリカの食品医薬品行政局)の医薬品リストに登録されている医薬品でもある。便宜的に「朝鮮人蔘の生形を保つものやカプセル入りのものは医薬品、粉末状になっているものは食品」とみなされているが、薬理作用が強いだけに用い方を誤ると恐い。
 デパートの健康食品売場で「失礼ですが、お客様は手足が冷えやすく、血圧もかなり低いのではありませんか?」などと声をかけられる。
 そう言われてみれば確かに自分はやせ型で顔色も青白い。それに近ごろ妙に疲れやすい。さっそく顆粒状になった人蔘茶を買い求めて飲用を開始したところ、約2週間で手や足の裏がホカホカ暖かくなり、血圧の調子もよいようだ。こうして2本、3本と買って飲んでいるうちに、今度は心臓がドキドキして眠れなくなり、冷や汗がドッと出るようになった。あわてて服用をやめて医師の診断を受けたところ、「血圧が180、しかも尿にたんぱくが出ている」と宣告されてしまった。

<なぜこんなことになるのか>

 西洋医学の場合、病名がちがえば与える薬が異なるのが当然であるのに対し、東洋医学の場合、病名が正反対であっても同じ薬を患者に与えることがよくある。朝鮮人蔘は低血圧の人にも高血圧の人にも効果をあげる薬品なのだ。韓国から送られてきた説明書によると、①興奮している神経を鎮静させ、マヒしている神経を興奮させる。②低い血圧を上げ、髙い血圧を下げる。③強心剤のように元気づける作用と、解熱剤のように代謝を抑制する作用をもつ。
 といったように、互いに相反する効能が確認されているのだ。ではどのように区別して用いるのだろうか。
 漢方には「補瀉の法則」があり、同じ症状を訴えても、その人の体質を観察し、成分不足の人には補うための処方を、成分過剰の人には対外へ排除するための処方を与えるというように使い分ける。さらに朝鮮人蔘の場合は、「少量与えると、一過的に血圧が高くなるが、継続的に多量に用いると低下する」といった特有の作用も理解しなくてはならない。
「漢方薬だから、いつまで飲んでいても害にならない」と考えるのは間違っている。信頼できる薬局や医師に相談しながら服用し、体調が元に戻ったらやめるのが正しい。

腹いっぱい食べると血のめぐりが悪くなる

<腹いっぱい食べると眠くなる?>

「ごはんを腹いっぱい食べたら眠くなってウトウトしてしまった」という経験を誰でも持っているだろう。
 そんなときコーヒーを飲んだり、タバコを吸ったり、なんとか目をさまそうとするが、努力すればするほど眠くなる。昼食後の授業や会議に身が入らないのはこのためである。つまり、これは脳細胞に送りこまれる血液の量に関係があるのだ。
 わずか500gの心臓から、その100倍もある全身へ絶えず血液が送りこまれている。全体の血液量は体重の約13分の1、量にして約4リットルということになる。
 この血液が、身体各部の活動に応じて栄養や酸素を供給し、古くなった残渣や炭酸ガスを回収してまわる役割を果しているのだが、なにしろ絶対量が足りないから、引っぱりだこだ。
 筋肉が活躍しているときは、血液はその筋肉部位に集中的に集まるし、食事のあとは胃腸に集中的に集まる。俗に「カッとなって頭に血がのぼる」というが、まさにそのとおり血液が頭に集まる。また、風呂に入ったあと皮膚に血液が集まって体が赤くなる。

<頭脳は血液の14%以上を要求>

 ところが、脳細胞は酸素欠乏にきわめて弱く、つねに新鮮な血液を送ってやらなければならない。しかも、その量は、全血液量の7分の1、つまり14%を要求している。
 運動によって血液循環がどっと早くなっても、脳へ送り込まれる血液量は変らない仕組みになっている。全血液量の14%というと、約0.6リットル。脳の重量が約1.4kgだから、その半分ぐらいがいつも新鮮な血液と酸素でリフレッシュされていることになる。
 だが、食事を腹いっぱい食べたあとは、胃腸のまわりに血液が集中するので、脳にくる血液は14%ぎりぎりということになり、脳の活動はどうしてもにぶりがちになる。「血のめぐりが悪い」「頭の回転が悪い」「食べたらすぐ眠くなる」といわれるのも当然なのだ。
 空腹になりすぎると、頭にいく栄養素が不足するので、適当な間食をとることはむしろよい。反対に、避けたほうがよいものとしては、チャーハン、野菜いため、卵焼きなどで、これらは腹もちはいいが、食べすぎると胃腸に負担をかけることになる。
月刊ボディビルディング1981年6月号

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