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パンプアップの研究<4>

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月刊ボディビルディング1983年10月号
掲載日:2020.12.14
健康体力研究所
野沢秀雄

1.海外からもアンケートに参加

 本誌7月号の「パンプアップに関するアンケート」は反響が大きく、読者から直接寄せられた回答が約150通、全国のトレーニングセンターにお願いして協力いただいた回答が約70通、合計で220通にも達した。
 中には遠くニューヨークから参加された山口澄郎さんの例もあり、あらためて皆様に心よりお礼を述べたい。
「結果はどうなっているのだろう?」「自分の意見や質問は反映されるだろうか?」とアンケートを寄せられた方は興味深く、集計結果の発表を待っていることだろう。また、アンケートこそ出さなかったが、毎日のトレーニングと関係の深いパンプアップについて多くの読者の方が結論を注目されているにちがいない。
筆者自身もワクワクしながら、一人一人の回答を拝見したのだが、結局は以下に述べるように、集計結果はバラツキが多く「これが確実」といえる状態に達していない。
逆にいえば、それだけ研究が遅れていて「定説がない」といえる。
 また、個人ごとの差が大きかったり、同一の人でもパンプアップについての認識が足りず、どの条件で、どのようなパンプアップがおこるか、つかみきれていない面もあるようだ。
 今後もトレーニングとパンプアップについて、状態を確認しつつ、ボディビルに励んでいただきたい。
 そして、ご意見や本原稿についてお気づきの点があればドシドシお知らせいただければ何よりである。
<別表>パンプアップに関するアンケートの集計表

<別表>パンプアップに関するアンケートの集計表

2.アンケートの集計結果

 まず別表にアンケートの集計をパーセントで示すことにしよう。
別表を見てお気づきのように、①②と⑧⑨のように、質問内容が同一でペアになっている場合がある。だが結果は必ずしも統一はされておらず、「重い重量を用いた方がパンプアップする」という設問にも「YES」と答えている。このような場合、意見欄に「自分はどちらでも同じようにパンプアップする」と書かれているので、これはこれで正しいわけである。統計の判断に「多数決の原理」はあてはまらず(有意差があるかどうか等の検定方法があることはある)、片方が正しく、片方が正しくないと決めることはできない。
 とくに「重い重量でパンプアップする」という人が64%ある反面、そうでない人が36%あり、個人差が大きいと見るべきであろう。
 「パンプアップの研究2」で述べたように、いちがいに、高重量一辺倒とか、軽重量×高回数だけで何セットも反復するのではなく、重さをセット毎に変え、回数も出来る限り何回も反復する方法で、パンプアップを早く起こさせることが可能である。
 ただし、トレーニング歴の長いベテランの人だけを集計するという、きめ細かい分析をおこなうと、「軽い重量で高回数トレーニングしたほうがパンプアップする」という答えが多数にのぼる傾向がわかる。そこで、パンプアップの本質を再確認しながら、筆者の考えを以下に述べてゆきたい。

3.一般に言われている学説

 運動生理学の専門書によると、筋肉運動のメカニズムには2系統(学者によっては3系統)あると述べられている。

①有酸素性メカニズム

 運動強度が強くなく、呼吸により血液中にとりこまれた酸素が、 筋肉運動を反復させるATP再合成に役立ち、 疲れずに、 長時間トレーニングできるシステム。途中生じる疲労物質の焦性ぶどう酸が、酸素によって水と炭酸ガスにまで分解されるので、乳酸の蓄積はなく、グリコーゲンの分解も長時間続くことになる。
 したがって体内にグリコーゲンや脂肪が蓄積されていて、酸素を運動中にじゅうぶん摂りこめるなら、1時間でも2時間でも、同じ運動を持続することができる。スポーツの例では、マラソンやジョギング、 スキー、1500m競泳などの種目が挙げられている。ただし、筋肉が出すパワーは小さいとされている。

②無酸素性メカニズム

 運動強度が強く、筋肉が反復するのに酸素の補給が追いつかず、無酸素、もしくは低酸素の状態で筋肉が収縮するときのシステム。これは次の2つに分類される。

2-1無酸素非乳酸性メカニズム

 筋肉が収縮するエネルギーはADP(アデノシン3リン酸)が1個のリンを放出して、ATP(アデノシン2リン酸)に、さらにもう1個のリンを放出して、アデノシン1リン酸にまで分解される。酸素が存在すれば、可逆的にADP→ATPというように再合成されるわけだが、酸素がなくても、短時間ならATPへ再合成される。これには同じ筋肉内にあるクレアチンリン酸CPが分解されそのとき解散されるエネルギーによってADPはATPへ合成される。
 専門家の研究によると、約7.7秒がこのメカニズムの継続可能時間といわれ、跳躍、投球、打撃といった単発の運動が例にあげられている。スポーツの種目では100m走、砲丸投げ、ウェイトリフティングなどが相当する。瞬発力(パワー)は強い。

2-2無酸素乳酸性メカニズム

 ADPからATPへ再合成するエネルギーとして、筋肉中のグリコーゲンが乳酸に分解されるときに生ずるエネルギーも利用される。専門家の研究では約33秒間が、この乳酸を生じる過程で得られる可能なエネルギー供給継続時間とされている。スポーツの種目では 400m走、スピードスケート、100m競泳などが相当するといわれる。
 ある程度以上に乳酸が蓄積するとATPを再合成する反応が抑制され筋肉は収縮することができなくなる。100mや200mの全力疾走なら、ほとんど呼吸による酸素供給の恩恵なしに遂行できるが、400mとなると、筋中グリコーゲンが減少し、乳酸の蓄積によってATPの再合成が抑制され、ゴール到着後、倒れて立ち上がれない場合も出てくる。パワーは中くらいで、「ミドルパワー」と呼ぶ人もいる。

4.乳酸を速く多く発生させるには?

 むずかしいメカニズムを紹介したのは、パンプアップ現象が乳酸の蓄積と関係深いことを再認識したいためだ。
「パンプアップとは血液が一定の筋肉に集中し、かつ疲労によって生じた乳酸が筋肉たんぱくと変性反応をおこし硬直した状態」と筆者は定義した。
 運動の種類やトレーニング方法の違いにより、乳酸を生じやすい場合と生じにくい場合があることは、前述の説明でご理解いただけたであろう。すなわち、ランニングや水泳、ラジオ体操のような運動では、1時間やろうが2時間続けようが、乳酸はあまり生じずパンプアップ現象も少ない。当然ながらボディビルのように筋肉が隆々と発達してくることもない。
 パンプアップがおこるには、ある程度は酸欠状態になって、筋肉内に乳酸が貯ってくることが必要不可欠といえるわけだ。もちろん蓄積しすぎると、ブレーク状態といって、筋肉が痛んで動けない(反復できない)状態になるわけだが、ボディビルダーは「3MORE REPS!」とか「ONE MORE REP!」と力をふりしぼり、時にはパートナーの助けを借りて意識的にこの状態を得ようとがんばっている。
 「それなら呼吸をわざと止めて重い重量でトレーニングしたほうが、乳酸を多く生じ、パンプアップに良いのではないか?」と思う人が出てくるかも知れない。だが現実には、このような方法は苦しくて続かないし、ムダである。筆者のみるところ、「このトレーニングは有酸素運動、このトレーニングは無酸素運動」と初めから区別できるものでない。ランニングでも長時間スピードをあげて走っていると、脚の諸筋肉は無酸素状態になり、パンプアップをおこしてくる。
 逆に、ボディビルも最初から無酸素運動ではなく、初めは呼吸により酸素が筋肉に送られ、スムーズに運動しているが、やがてトレーニング強度が増すにつれ、酸欠状態になり、乳酸を生じ、パンプアップしてくるわけだ。

 では、高重量のトレーニングをするのがよいか、比較的低重量で高回数反復するほうがパンプアップしやすいのか、理論的にどちらが正しいのであろうか?
 もうお分りのように、早く酸素が不足し、筋肉がくたびれて、乳酸を速く多く生じるトレーニング法が、パンプアップを早くおこすことになる。そのための努力や工夫を一流ビルダーは懸命におこなっているが、結局「高重量なら低回数にならざるを得ないが、そのときでもセット間の休憩時間をなるべく少なく、ほとんど休まずにやること」「やや軽い重さなら連続して20回~30回以上いっきに反復すること」という結論に達する。中級~上級の練習者の場合は、単なるセット法でなく、セット毎に重量や回数を変えるマルチバウンデッジ法を採用するケースが多い。この場合、どの方法がパンプアップをおこしやすいか、有名な末光健一選手は、自分の体験から次のように語っている。
 「まず1セット目は10回反復できるぎりぎりの最大重量でおこなう。
 次にわずか減らしてなるべく10回、次にもう少し減らしてなるべく10回......というように、休み時間をおかず、次々と低減してゆく方法がよい。みるみる筋肉が膨張して大きくなる」
――これが彼の成功の秘訣で、研究会で発表してくれている。
 この教えを活かしてMR東京になった川上昭雄選手、MR神奈川になった白坂義夫選手など、成功している人は多い。

5.ボディビル有害説??

 アンケートに答えてくれた人の中に「重い重量で低回数練習したあと、軽い重量で高回数練習すると非常によくパンプアップする」(東京都・北村和民さん)「セット数は少なくてもインターバルを短かくし、集中してトレーニングすればよくパンプアップするように思う」(東京都・松山登代志さん)のように、上記の結論と同じ意見を述べている人が結構多い。
 また、「精神の集中が大切」と指摘する人が多く、まさに気分がのって体調が良いなら、セット間のインターバルをおかず、次々とトレーニングをこなしてゆけ、結果としてパンプアップが良くおこる。これと逆に、やる気が湧かない時はダラダラ時間ばかりかかり、パンプアップしにくい。これを実感している人は多い。
 ところで、第3項の一般的な学説をもとに、「ジョギングや水泳などの有酸素運動、いわゆるエアロビクスは酸素を消費する運動なので、心肺機能によいが、バーベルやダンベルの運動は無酸素運動だから体に良くない」と言う人がいる。ボディビルの関係者の一部にさえ、「それぞれの運動に長所、短所があり、ウェイトトレーニングは心肺機能を鍛えない点はマイナスだ」という意見がある。
だが、前述のとおり、「このトレーニングは有酸素、これは無酸素」と明確に区別するのでなく、双方が混ざりあい、ないしは段階的に移行するものである。ボディビルを行う者はハーハーと息をはずませており、脈拍も早くなっている。特にスクワットなど大きな筋肉群を動員した直後は、マラソンランナーのように息がはずみ、心臓は早くなっている。
 「ボディビルが静的運動だ」とするのは間違いで、最近の研究ではサッカーやラクビー以上に酸素消費量の多い運動であると発表されている。(体協スポーツ科学委員会のデータより)
 ウェイトトレーニングは、自分の力に応じ、また目的に応じて採用種目、重量、回数などを自由に変えられ、選択の幅はひじょうに広い。いちがいに善悪を決めるのでなく、弾力をもって長所をよく活かす方向を学者の皆さんにお願いしたいと思う。
今まで批判的であった空手の分野でも、極真会館の大山館長のように、積極的に長所を認め、ウェイトトレーニングをすすめる記事を雑誌に発表される時代になっている。

「ボディビルは息をとめるので心臓によくない」「ボディビルは心肺機能を鍛えない」などという古い考えはもうこのへんで一切捨てよう。
一パンプアップに関するアンケートの考察が、ほんの入口で思いがけず長びいてしまった。残りの項目は次号以下にまわして、なるべく詳しく解説してゆきたい。そして「パンプアップと筋肉の発達はどの程度関係が深いか」について検討してみたい。

(以下次号)
月刊ボディビルディング1983年10月号

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