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JPA技術入門講座<5>
パワーリフティング・セミナー<スクワット>③

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月刊ボディビルディング1983年10月号
掲載日:2020.12.14
著者=JPA技術委員会委員長・中尾達文
監修=JPA国際部長・吉田進

試合用のスクワットのフォームと呼吸方法の実際

熱い夏場のトレーニングはさぞ大変だったと思いますが、全国のビギナー諸君、暑さに負けないで頑張ってください。
 さて、今月号は、実際の試合用のスクワットのやり方について、その呼吸方法とフォームのやり方について、その呼吸方法とフォームを含めて解説していきたいと思います。

<1>ノーブレッシング方式によるスクワット

 これは、ラックからバーベルをはずして、スクワットの動作を完了するまで、最初に呼吸したら、その後は一切呼吸しないやり方である。
 まずバーベルの前に立ち、すべての雑念を捨て去り、ただひたすら目前のバーベルをかついで立ち上げることのみを夢想すること。そして、意を決したのちに素早くシャフトの下に入り、両肩をシャフトにしっかりとつける。
 この時のポイントは、両肩をバーベル・シャフトにそって当てるというような、ソフトな感じでなく、むしろしっかりと両肩をシャフトに打ちつけて、くい込ませることである。なお、シャフトをかつぐ位置は、三角筋上面より約3cmくらい下がったところがよい。
 がっちりとシャフトを肩にくい込ませたら、静かに精神を集中し、タイミングを計りながら、2~3回、フーフーとシャフトの下で呼吸をくり返し、いよいよ両肩に全力を集中し、ラックからシャフトを浮かせる瞬間に、思いきり大きく息を吸い込んで試技にはいる。
 その時の息の吸い込む要領は、口を大きく開けて吸い込むのではなく、むしろ口をつぼめて、ちょうど海女がシューッと息を吸い込む音が聞こえるくらいに、しっかりとより多くの空気を吸い込むことである。
 ノーブレッシング方式では、この時の呼吸が試技を行なう最初で最後の呼吸となり、当然のことながら、その後はスクワットの試技が終了するまで一切呼吸はしないのである。
 こうして、吸い込んだ空気をいったん口および胸郭の中に貯めて、次に、その空気をツバを飲み込むのと全く同じ要領で腹腔内に送り込んで、しっかりと腹部(特にヘソ下凡田)に貯めることである。
 この時、はっきりと胸部よりもおなかの方がふくれていることが、外から見てわかるくらいではなければならない。そして腹部にしっかりと力を入れ、ゆっくりと、まさしく相撲のすり足のように、ほんの1~2歩だけ下がって両足のスタンスをがっちりと決める。スタンスが決まったら、両足の足裏全体をピッタリ地面に吸いつけるようにふみしめ、両ひざをピンとまっすぐにのばし、両脚(両腿)全体に充分に力を込める。
 顔は斜め前方をしっかりと見つめ、なおかつ上半身は背すじを伸ばし、胸を張って、ゆっくりと臀部(腰背部を含む)からしゃがんでいく。決して、ひざから先に前に突き出るような感じで曲げながらしゃがんではいけない。
 つまり、重量拳のロー・クリーンの時のような、ひざの角度でしゃがんでは、スクワットのような体重3~4倍以上もの重量をかついで、立ち上がることはまず無理であろう。
 かつて、私のスクワットに対する考え方に明確な指示を与えてくださった住友金属の足立東雄選手の「スクワットはひざでかつぐのではなくしり(腰背部を含む)でかつげ」という名言を私はは今も決して忘れない。
 そして、しゃがみながら、上体はできる限り後方にそり返るくらいに背筋に力を入れ、他方、両ひざはちょうど相撲の“そんきょ”から仕切りの動作に移る時のように、大臀筋を後方へ突き出しながら同時に、両ひざを前後に移動することなく、斜め外側に向かって充分に押し開かれなければならない。そうしないと、重い重量をかつげばかつぐほど、両ひざが前方に突き出してしまい、その結果、上体がくの字型に折れ曲がり、結局つぶれてしまうことになるからです。
 こうして、充分にピック・ジョインが逆転するまでしゃがんだのち、立ち上がるわけであるが、この立ち上がり方にも次の2つの方法がある。
 まず1つは、外側に開いた両ひざを開いたままの状態で、内側に全然しぼることなく立ち上がる方法で、このタイプの代表的選手としては、因幡英昭選手や中川幸雄選手があげられる。
 この方法の立ち方をする選手のスクワットの足幅は、平均して肩幅よりかなり広目である。また、このタイプの選手は、大腿部のつけ根が非常に強靭なことが特徴でもある。
 もう1つの立ち方は、ピップ・ジョイントが下がって立ち上がる動作に切り替えた瞬間に、それまで外側に開いていたひざを、今度は内側にしぼり込んで立ち上がりながら、再び大腿部とひざ、及び腰の関節角度が鋭角から90度、そして鈍角と移行する時に、重量が一番重く感じられて、一瞬、立ち上がる動作が停止しそうになる、いわゆるスティッキング・ポイントを通過する瞬間に、それまで内側にしぼり続けていた両ひざを再び外側に開き直して立つ方法です。このタイプの代表的選手が前田都喜春選手です。
 この方法で立つ選手のスクワットのスタンスは、平均して前記の方法の選手よりやや狭い。
 ところで、立ち上がる動作の途中でどうして再び両ひざを外側に開きかえすのかという点をちょっと説明しておこう。
 スクワットで立つ時に両ひざを強くしぼれば、確かにしゃがんで立ち上がる時には、かなりのところまで立ち上がれるのであるが、ひぞをしぼるだけという方法では、どうしても上体が前傾してしまうために、かついでいるシャフトが前後にぶれてしまって、かついでいるバーベルの重さの比率が、それまで保たれていた大腿筋部分よりもひざの方の部分に多くかかってしまう結果、バランスがくずれて、つぶれてしまうのである。
 この重心移動を瞬時に元に戻すために考え出されたテクニックが、スティッキング・ポイントを通過すると同時に、両ひざの内側へのしぼり込みを中止し、再び両ひざを外側へはじき返してやる方法なのである。

〈2〉正常呼吸方式によるスクワット

正常呼吸法式の場合は、ノーブレッシング方式のようにラックからシャフトをはずす時に呼吸をしたきりで、それ以降、スクワットが完了するまで一切呼吸をしないというやり方ではなくラックからシャフトをはずしたら、1~2歩バックして、両足のスタンスを決め、上体、特に腰背筋部に充分に力を入れてそりかえらせるようにして、さあ、これからスクワットのしゃがみに移行しようとする直前に、前記した要領で、口をつぼめて息を吸い込んで行なう方式である。
 呼吸のやり方や、吸い込んだ空気の腹腔内への貯め方、それにスクワットのしゃがみ方、立ち上がる方法は前記のノーブレッシング方式と全く同一である。
 では次に、ノーブレッシング方式と平常呼吸方式によるスクワットの利点と欠点を比較しってみましょう。 〔別表参照〕
記事画像1
最後に、私の言うパワーリフティング競技における試合用の重量スクワットのためのノーブレッシング方式の呼吸に関係した注意点等を指摘した興味深い論文を紹介しておきます。

「ヘッティンガー博士は、健康な(呼吸・循環器系統)スポーツマンの場合呼吸圧迫の危険は大きくないと見なしている。なぜならば、圧迫は比較的早く過ぎ去るからである。
つまりそれは、瞬間的な循環障害にすぎず、よく知られている目の前が暗くなる現象は、何の害もひき起こさない。それは等尺的、静的な力のトレーニングにとって特に重要であることを知っておくべきである。なぜならば、ここでは呼吸圧迫なしでは実施することができないからである。
一般に、重量を引き上げる際に息を吸って、最高の緊張の時点と、重量をおろす際に息を吐くべきであると言われている。これは基本的には正しい。しかし、深いひざ曲げと下腹部の練習(スクワットのこと)の際には、逆に行なうべきであろう。
重い重量作業の際には、声門を閉塞させる胸内圧迫が発生する。これは、緊張が終了するまで静脈血が心臓へ流れもどるのを延ばす。緊張が終わると心臓に対して過度の血液供給が起こるが、それは、病気のために心臓がそれほど正常に働いていない場合には危険である。(ほんの僅かでも心臓や肺に疑念があれば、重量スクワットは行なってはいけないし、医者に助言を求めなければならない)

この胸の圧縮と胸内圧迫は、止息現象をひきおこす。それは、幸いにしてめったにないことであるが、めまい、気絶、失神として表われる。
そして、多くの休止をとり、短く、鋭く、ピストンのように呼吸することによって、最もよく防止される。
どんな場合にも、それはリズミカルな呼吸よりよい。リズミカルな平常呼吸法は、ある試みの準備の場合には適しているが、重量の重いバーベル運動の際には適さない。
それはまた、個々の練習の間、つまり、ひっぱりあげることと、押し挙げることの間の休止の間にも使用され得る」(ベースボールマガジン社発行・陸上競技選手のための新しい筋力トレーニング)次回はスクワットの最終回として、その注意点、及びスーパースーツ、ニーバンデージ等の利用の仕方等について述べることにします。
月刊ボディビルディング1983年10月号

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