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やさしい科学百科
カロリーとエネルギーの話〈3〉

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月刊ボディビルディング1983年10月号
掲載日:2020.12.15
畠山晴行

〈1〉恒温動物への進化

 前号で入浴の効果について少しふれましたが、さらにつっこんで考えるには、体温を維持することの意味を知る必要があると思います。
 わたしたち人開をはじめとして、哺乳類、鳥類は進化の過程で”体温を一定に保つ”という能力を得ました。人間はほぼ37℃です。馬は37.7℃で、ハツカネズミは36.5℃、象36.2℃、そして鳥は少しばかり高めで40~43℃といったところです。
♫犬はよろこび庭かけまわり、猫はこたつで丸くなる♫という歌でもわかるように、動物により、それぞれ快適な外気温度は異なりますが、これはその動物の体温によるもので、前述のとおり体温はごくせまい幅にあるのです。
 なにはともあれ、恒温動物は自前でからだの内部環境の中でも最も重要な1つである”体温維持”の能力をつかんだのです。このことによって、生命の火を安定して燃やすことができるようになりました。学習、思考、動作などの基本的行動能力も”体温維持”により、ここまで発達したのです。

〈2〉もし体温維持ができなかったら

 わたしたちの体温は、ひじょうに精密に制御されております。夜と昼とでは多少の差はありますが、それでも約1℃です。 2℃も変わったらたいへんなことになります。   
 しかし、動物全体から考えると、前項に記したように、哺乳類と鳥類だけしか体温維持の能力をもっておらず、その他の動物は変温動物と呼ばれ、かなりの幅で体温が変化しても生きていけます。わたしたちは、体温維持という能力をもったばかりに、大きな体温変動がゆるされなくなってしまったのです。
 さて、いまここに体温変化が0℃から40℃までの幅に耐えられる動物がいたとしましょう。  
 生命を維持するためには、常に体内で化学反応が行なわれていなければなりませんが、例えば40℃のときには、0℃のときの16倍のスピードで反応が進行してしまいます。
 10℃上がるごとに倍々になるのですから、20℃で4倍、30℃では8倍です。
 カロリー計算などをしたことのある人だったらわかると思いますが、どんた場合においても、わたしたちの基礎代謝(常温で安静にしているときの必要エネルギー)は、大幅に変動するとはありません。
 しかし、上の計算でもわかるように変温動物は環境温度いかんで、その数値がかなりの幅で変化してしまうのです。例えば、わたしたちの仕事や、頭の回転が、まわりの温度に左右されてこのように大きく変動したのでは、たまったものではありません。

〈3〉温熱の効果

 「サウナに入ると新陳代謝がよくなる」と言いますが、この”新陳代謝”は体内での化学反応です。体内での化学反応は、酵素の仲だちによって進行することはすでに述べたとおりですがこの反応には2種類あります。
 1つはエネルギーを放出して分解する反応です、筋肉運動は、機械的に、あるいは熱の姿でエネルギーを放出するので、この反応になります。また、脂肪分解などもそうです。
 もう1つは、前とは逆にエネルギーをとり込んで合成する反応で、髪の毛がのびたり、筋肉が大きくなっていく等の反応です。
 体内の化学反応は一度に起こるわけではなく、段々に進行していくことは度々記すとおりですが、この過程における分解を異化、そして合成を同化と呼びます。特に温熱刺激が与えられた場合、同化作用は促進します。
 さて、わbたしたちのからだは、異化と同化の連続で、”新旧交代劇”が演じられて、つねにつくりかえられていますが、これを一般に”新陳代謝”というのです。
 ”新陳代謝”は”物質代謝””物質交代”とも言います。この代謝ではエネルギーの出し入れが行われますので、エネルギーに注目した場合は”エネルギー代謝”とも言うことがあります。
 代謝が活発になって、 細胞ひとつひとつの生命力がアップされれば、これにこしたことはありません。
「ひきはじめのカゼはサウナで治る」とよく言われますが、温熱の刺激によって作意的に僅かに体温を上げれば、これが引き金になって代謝を正常化させることができるわけです。
 すぐにカゼを引くような状態では、代謝がにぶくなっておりますので、体温も多少低下しているはずです。よく「尻を冷やすと痔になる」と言われますが、 これも熱が少ないために、まともな代謝が行われにくいためです。
 なお、刺激を与えるといっても代謝促進の条件がそなわっていなければなりません。つまり、十分な栄養があってはじめてその効果を得ることができるのです。
 ところで、風呂に入るといった短時間の温熱刺激であれば、代謝促進の引き金になりますが、長時間の刺激は好ましいものではありません。強制的に代謝が促進されつづけ、それによって生じた熱までも放出しつづけなければならず、エネルギー浪費の悪循環をくりかえして、かえって代謝がおかしくなってしまうからです。
 サウナ・レオタードも、短時間着て発汗、温熱を得ようとするならよいとして、着ていればヤセルとばかりに、3日も4日も着込んでいる人がいるようですが、 こんなことをしていると、いつか体調をくずしてしまいます。

〈4〉食べるサウナ

 昔からの言いつたえで「カゼをひいたら、熱いミソ汁にネギをいっぱい入れたのを飲んで、ふとんをかぶって寝れば治る」というのがあります。
 本誌にも度々紹介されているようにタンパク質は消化吸収されていく過程で、 30%のエネルギーを熱として放出します。特に熱いミソ汁の場合ですとその反応は速やかに起りますので、からだ全体がホカホカになります。からだの内部からあたためるということでこれはもしかすると、サウナ以上に効果があるかも知れません。

〈5〉冷熱の効果

 冷熱(冷刺激) もまた代謝を促進します。ただし、温熱では同化を促進しましたが、冷刺激では、体温維持のためにエネルギーを優先的についやします。いかに熱を産出するか、ということが第一になるからです。
 なお、冷刺激により、交感神経が刺激されますので、温熱と冷熱を交互にあたえるような(湯の風呂と水の風呂に交互に入る)入浴方法は、自律神経を正常化させ、血行をよくすることにもなるでしょう。

〈6〉風呂のいろいろ

①蒸気浴

 江戸の中期まで、 日本の風呂は今のような温水浴ではなく、蒸気浴だったそうです。内風呂の普及にともない、温水浴にかわったということです。
 フィンランド サウナといえば、街のサウナ屋さんのような乾熱浴が本物だと思いがちですが、 もともとはこれも蒸気浴だったのです。蒸気浴もなかなか効果としてはいいようですが、どうもむし暑くてかないません。そんなところから、今日のサウナ風呂ができたのでしょう。

②超音波風呂

 超音波とは、耳で聞くため以外に利用する音波をいいます。超という文字から、耳に聞こえない高い周波数の音だという人がおりますが、聞こえようが、聞こえまいが、関係ないのです。
 銭湯やサウナに行くとよく0.5~2ミリ程の気泡群を発生しているのがありますね。音波というのは、空気や水などの粗密の波ですが、気泡がこわれるとき発生する音波のエネルギーを、皮膚、筋肉、骨というように深部にまで伝えていきます。
 おもしろいことに、温水の中でこの超音波をあてると、骨から先に温度が高くなるのです。ふつうの温水浴の場合は、血液を介して熱を伝えていくのですが。超音波のこのような温熱作用は、音響インピタンス(電気でいえば抵抗のようなもの)の差によって生ずるのです。
 銭湯の湯音は42~43℃くらいですが、超音波風呂のこのような効果はぬる目の温度(39℃くらい)で、 すこし長めに入ったほうがいいようです。骨があたたまることによって、増血効果が期待できますし、皮膚の脂肪もいっしょに流し落す乳化作用もあります。また、温熱による同化作用により水虫や痔、 リウマチにも効果が認められております。
 数年前、峪音波洗顔器というのがはやりましたが、あれもまったく効果がないというのでもなく、私もすでに10年以上も前に同じようなもの試作しておりました。
 水圧の高い温水シャワーがあればそれを顔にあてることにより、超音波洗顔器以上の効果をみることができるでしょう。

③低温サウナ

 前号で、ナウナは高温にする必要がないと書きましたが、最近、低温サウナがかなり出はじめてきたようです。遠赤外線サウナ、ということですが、むづかしい言葉を使っているために、なにか特別なもののようにきこえますが、これはどこにでもあるありふれたもので、例えば石焼芋の熱い石からも出ております。
 サウナ風呂の中のサウナ·ストープに黒い石がつんであるので、そのそばに行けばいいだけの話です。
月刊ボディビルディング1983年10月号

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