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ボディビル講座
ボディビルディングの理論と実際(32)

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月刊ボディビルディング1983年10月号
掲載日:2020.12.11
名城大学助教授 鈴木正之

第6章トレーニング種目

Ⅱ.上腕三頭筋の運動<その2>
◎ダンベルによるトレーニング

 ダンベルによる上腕三頭筋の運動も、他の肩や胸の運動と同じく、左右別々に実施できる特色を生かして、ツー・ハンド、あるいはワン・ハンドでもって行なう方法が多々ある。
 ダンベルにおける利点と欠点は、バーベルの時より可動範囲が広くなり、筋や関節に負荷を大きくかけることができるという利点がある反面、大きなあおりや反動を使うチーティング方法で行なうと、肘を痛めるおそれがある。そこで、エクセントリック(筋の伸張性収縮)な動きを大切にして、腕を屈する時の過程をゆっくり行なえば、トレーニング効果の上からも有利である。
 また、ワン・ハンドの場合は意識集中もしやすいので、スタンディング、シーテッド、ライイングなどのいろいろのフォームでトレーニングすればさらに効果的となる。
 これでバーベルとダンベルによる上腕三頭筋の運動が数十種類できるわけであるが、これらの採用にあたっては、長頭筋、内、外側頭筋を考慮することはもとより、上腕三頭筋の上方、下方も考えてトレーニング・バリエーションを組めば、その結果はより大きいものとなる。とくにバーベルの場合は、グリップが平行になるため、肘が開きやすく長頭筋側への刺激が強くなるため、ダンベルの場合は、肘の締めによる内側頭筋、外側頭筋への刺激を大切にする。
【図1】ダンベル・フレンチ・プレス

【図1】ダンベル・フレンチ・プレス

《1》スタンディング・ツー・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:ダンベル・フレンチ・プレス,中級者)

 <かまえ>両手にダンベルを持ち、肘を開かないようにして、頸のうしろにかまえる。
 <動作>肘を開いたり、前へ出したりしないように注意して、ダンベルを直線的に押し挙げる。
 <注意点>かまえの時に、肘が耳横から開いたり、前に出たりしないようにする。これは、三角筋やその他の筋に力を入れずに、三頭筋への集中力を高めるためにぜひ守りたい。また、プレス時にそのまま押し挙げると、ダンベルが弧を描き、前に出やすいので、上体をほんの少し前方に出し、ダンベルをうしろの方に押し挙げるようにするとよい。
 フレンチ・プレスのあとで、三角筋の補助によるフロント・プレスに移れば一層効果も大大きい。
 <作用筋>主働筋......上腕三頭筋。補助筋......三角筋(フロント・プレスの時)
 
【図2】ワン・ハンド・フレンチ・プレス

【図2】ワン・ハンド・フレンチ・プレス

《2》スタンディング・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:ワン・ハンド・フレンチ・プレス,初級者)(図2)

 <かまえ>片手にダンベルを持ち、肘を曲げてダンベルを頸のうしろにかまえる。片方の手は、胸をかかえ込むようおにするか、三頭筋を支えるようにする。
 <動作>肘を外側に開きすぎないように注意しながら、ダンベルを押し挙げる。
 <注意点>動作の基本は前項と同様であるが、ワン・ハンドのため意識集中が強くある。また、片方の手で肘方向をコントロールすることができ、プレスを補助することも可能である。
 <作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
【図3】ワン・ダンベル・フレンチ・プレス

【図3】ワン・ダンベル・フレンチ・プレス

《3》スタンディング・ワン・ダンベル・ツー・ハンド・フレンチ・プレス(通称:ワン・ダンベル・フレンチ・プレス,初級者)【図3】

 <かまえ>1つのダンベルのプレートかシャフトを両手で持ち、頸のうしろでかまえる。
 <動作>ダンベルを頭のややうしろ上方に向かって、真っすぐに押し挙げる。
 <注意点>重量をもつポイントが小さいため、肘を頭側に締めやすく、しかも手首が縦方向に重量を支持することができるので、バーベル・シャフトで行なう場合よりも動作がやりやすい。
 <作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
【図4】インクライン・フレンチ・プレス

【図4】インクライン・フレンチ・プレス

《4》インクライン・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:インクライン・フレンチ・プレス,中級者)【図4】

<かまえ>片手にダンベルを持ち、インクライン・ベンチに腰掛け、ダンベルを肩のうしろにかまえたら、もう一方の手で上腕を保持する。両手で行なう場合は、両手にダンベルを持って、両肩のうしろにかまえる。

<動作>肘を伸ばしながら、ダンベルを頭のややうしろに押し挙げる。補助をする手は、ダンベルを持った方の肘が開いたり、前に出たりしないように、上腕をおさえておく。

<注意点>インクラインの特徴は、ワン・ハンド、ツー・ハンド共に、フィニッシュの状態で負荷抵抗が継続していることにある。また、背をもたせかけることによって上体が安定するので、三頭筋への集中力と動作の正確性が高まる。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
【図5】シーテッド・ダンベル・フレンチ・プレス

【図5】シーテッド・ダンベル・フレンチ・プレス

《5》シーテッド・ツー・ダンベル・フレンチ・プレス・アンド・フロント・プレス(通称:シーテッド・ダンベル・フレンチ・プレス,中級者)【図5】

<かまえ>両手にダンベルを持ち、ベンチに腰掛けてダンベルを頭のうしろにかまえる。なお、背もたれのついた椅子を利用してもよい。

<動作>先ず頭のうしろのダンベルを押し挙げることによりフレンチ・プレスを行ない、次いで、ダンベルを肩におろし、つづいてフロント・プレスを行なう。

<注意点>腰掛けることにより、下半身が安定するので、プレス動作がやりやすい。動作はフレンチ・プレスとフロント・プレスを交互にコンビネーション・プレスするだけでなく、先ず、フレンチ・プレスのみでオールアウトするまで行ない、次いでフロント・プレスに移行するという方法をとってもよい。フロント・プレスの場合は上腕三頭筋に負荷をかけるために、肘を下げないで、むしろ肘を前方に上げるようにする。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。補助筋.........三角筋前部(フロント・プレスの時)
【図6】シーテッド・ワン・ハンド・フレンチ・ブレス

【図6】シーテッド・ワン・ハンド・フレンチ・ブレス

《6》シーテッド・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:シーテッド・ワン・ハンド・フレンチ・プレス,初級者)(図6)

 <かまえ>ベンチに腰を掛け、片手にダンベルを持って頸:のうしろにかまえる。そして、もう一方の手で、ダンベルを持った方の上腕を保持する。なお、これらシーテッドの場合は、背もたれのついた椅子を利用してもよい。

 <動作>肘を伸ばしながら、頭上に押し上げる。片方の手は肘が開いたり、前に出たりしないように上腕を押さえておく。

 <注意点>上腕三頭筋に負荷をかける動作の基本的な注意点は前項と同様であるが、この運動による強化の特色はダンベルを持たない方の手の利用方法である。
 すなわち、反復初期においては、正確なストリクト動作を行なうために上腕を保持したが、反復後半でチーティングに入ると、反動で肘を痛めるおそれがあるため、肘を前に出したフロント・プレスに移り,三頭筋がダンベルを持った方の腕の動作だけでオールアウトしたところで、もう一方の手で肘を上方に押し上げて反復を続行させる。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
【図7】シーテッド・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス

【図7】シーテッド・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス

《7》シーテッド・ワン・ダンベル・ツー・ハンド・フレンチ・プレス(通称:シーテッド・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス,中級者)【図7】

<かまえ>ベンチに腰かけ,ダンベルのプレートかシャフトを両手で持って質のうしろにかまえる。

<動作>ダンベルを頭のややうしろ上方に向って,真すぐに押し挙げる。

<作用筋>この運動の特色は、パートナーが補助しやすいことにある。ワン・ダンベルの場合、重い重量を使用するので、かまえの姿勢がとりにくい点があるので、パートナーの力を借りてかまえると便利である。しかも、フォースド・レプス・セットに移行しやすいので、パートナーがいれば、このシーテッドを採用するとよい。とくにバルク・アップ、パンプ・アップに有効である。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
【図8】シーテッド・ベント・オーバー・トライセプス・エクステンション

【図8】シーテッド・ベント・オーバー・トライセプス・エクステンション

《8》シーテッド・ベント・オーバー・ワン・ハンド・トライセプス・エクステンション(通称:シーテッド・ベン
ト・オーバー・トライセプス・エクステンション,初級者)(図8)

<かまえ>片手にダンベルを持ってベンチに腰掛け、上体を前傾させて肘を曲げてかまえる。両手にダンベルを持って行なう場合も同じようにかまえる。

<動作>かまえの姿勢より前傾を強めつつ、ダンベルが円を描くように肘を伸展させ、ゆっくりと肘を曲げる。

<注意点>フレンチ・プレスの場合は、上腕三頭筋の総合的発達を促すが、主たる目的はバルク・アップにある。三頭筋にピークを作ろうとするなら、三頭筋の最大収縮時に最大抵抗負荷がくるようにしなければならない。そのためには、ベント・オーバーか、ライイングによるエクステンション運動が必要である。シーテッド・ベント・オーバーは、腰かけることにより上体が安定するので、初心者から採用してもよい。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。補助筋.........三角筋後部。
【図9】ベント・オーバー・トライセプス・エクステンション

【図9】ベント・オーバー・トライセプス・エクステンション

《9》スタンディング・ベント・オーバー・ツー・ハンド・トライセプス・エクステンション(通称:ベント・オーバー・トライセプス・エクステンション,中級者)【図9】

<かまえ>両手にダンベルを持ち、上体を前に屈し、肘を曲げてかまえる。

<動作>両手のダンベルをキックするように肘を伸展させて、ゆっくりと肘を曲げてくる。

<注意点>基本的な注意点は前項と同様であるが、かまえの時、背を床面と平行になるくらい屈し、肘を伸ばすにつれて前屈角度が強くなるようにする。上級者になれば反復後半に、上体の前後あおりでチーティング・レプスを利用する。スタンディング・ベント・オーバーの場合姿勢維持と両手ダンベルのため、コンセントレーションが悪い欠点がある。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。補助筋......固有背筋,三角筋後部。
【図10】ベント・オーバー・オールタネット・トライセプス・エクステンション

【図10】ベント・オーバー・オールタネット・トライセプス・エクステンション

《10》スタンディング・ベント・オーバー・オールタネット・ダンベル・トライセプス・エクステンション(通称:ベント・オーバー・オールタネット・トライセプス・エクステンション,中級者)【図10】

<かまえ>前項同様、ダンベルを両手に持って、体を前倒し、肘を曲げてかまえる。

<動作>片手ずつ交互に肘を伸ばし、ダンベルが円を描くように後方へ押し挙げる。

<注意点>目的や基本的注意は前項同様であるが、片手交互に行なうことにより、トレーニングのマンネリ化を避け、動きのリズムなどに変化をもたせることにより、トレーニングにバリエーションをつけることができる。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。補助筋.........固有背筋、三角筋後部。
【図11】ワン・ハンド・トライセプス・エクステンション

【図11】ワン・ハンド・トライセプス・エクステンション

《11》スタンディング・ベント・オーバー・ワン・ハンド・トライセプス・エクステンション(通称:ワン・ハンド・トライセプス・エクステンション,初級者)【図11】

<かまえ>片手にダンベルを持ち、上体を前倒させたら、もう一方の手を膝に置き、ダンベルを持った方の肘を曲げてかまえる。

<動作>かまえの体勢から前傾を強めつつ、ダンベルが弧を描くように肘を伸展させる。

<注意点>前倒からくる背筋への負担を軽くさせるため、ダンベルを持たない方の手が上体をカバーでき、しかもダンベルが片手しかないので、三頭筋に対するコンセントレーションもよくなるので、三頭筋のピークづくりにはこの種目から入れば、比較的トレーニングもしやすく効果的である。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。補助筋......三角筋後部。
【図12】ニーリング・ダンベル・フレンチ・プレス

【図12】ニーリング・ダンベル・フレンチ・プレス

《12》ニーリング・ツー・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:ニーリング・ダンベル・フレンチ・プレス,
中級者)【図12】

<かまえ>フロアーに膝をつき,両手にダンベルを持って頸のうしろにかまえる。

<動作>他のフレンチ・プレス同様に、頭のややうしろに直線的にダンベルを挙げる。

<注意点>目的や効果はスタンディングのときと同様であるが、パートナーの協力が得られることと、重心を下げるため、身体のバランスがとりやすい利点がある。ダンベルを直線的に挙げるためには、上体を前方に反らせてダンベルを後方に挙げるようにするとよい。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
[図13]ニーリング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス

[図13]ニーリング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス

《13》ニーリング・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:ニーリング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス)(図13)

<かまえ>フロアーに膝をつき、片手にダンベルを持って頸のうしろにかまえる。片方の手は上腕を保持する。

<動作>肘を伸ばしながら、ダンベルを頭のややうしろに押し挙げる。もう一方の手はダンベルを持った方の肘が開いたり、前に出たりしないように上腕を押さえておく。

<注意点>シーテッドの時と同様、パートナーの力や、片方の手のフォローを上手に利用して、トレーニング効果を高めるようにする。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
【図14】ライイング・ダンベル・フレンチ・プレス

【図14】ライイング・ダンベル・フレンチ・プレス

《14》ライイング・ベンチ・ツー・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:ライイング・ダンベル・フレンチ・プレス,中級者)(図14)

<かまえ>両手にダンベルを持ち、ベンチにあお向けに寝て、ダンベルを両耳横のところにかまえる。

<動作>肘を伸ばしながら、軽く弧を描くように、胸の上押し挙げる。

<注意点>バーベルによるライイング・フレンチ・プレスと同じ動作であるが、シャフトが縦方向にかまえられるので、肘の開きや、下方への逃げが視覚に捕えられ、正しい動作に修正できる利点がある。そのため、この運動は特に正確にゆっくりと行ないたい。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
【図15】ライイング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス

【図15】ライイング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス

《15》ライイング・ベンチ・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:ライイング・ワン・ハンド・フレンチ・プレス,初級者)(図15)

<かまえ>片手にダンベルを持ち、ベンチにあお向けに寝て、ダンベルを耳横にかまえる。空いている方の手でダンベルを持った方の上腕を保持する。

<動作>前項同様、肘を伸ばしながら軽く弧を描くようににダンベルを押し挙げる。

<注意点>フレンチ・プレスを正確に行なうように留意することには変わりはないが、フォローする手が、反復後半において前腕に移動すれば、簡単にフォースド・レプス・セットに入ることができる。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。
【図16】ライイング・オールタネット・キック・バック

【図16】ライイング・オールタネット・キック・バック

《16》ライイング・ベンチ・オールタネット・ダンベル・トライセプス・キック・バック(通称:ライイング・オールタネット・キック・バック,中級者)(図16]

<かまえ>両手にダンベルを持ち、ベンチにあお向けに寝て、ダンベルを両耳横のところにかまえる。

<動作>片手交互にキックするように、顔の前方に肘を伸ばす。

<注意点>トレーニング目的は、ベント・オーバーの時と同様、最大収縮時に最大負荷がかかるので、三頭筋のピークをつくることにある。この点に意識集中(コンセントレーション)させてトレーニングする。

<作用筋>主働筋......上腕三頭筋
【図17】ライイング・サイド・フレンチ・プレス

【図17】ライイング・サイド・フレンチ・プレス

《17》ライイング・オン・ザ・サイド・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:ライイング・サイド・フレンチ・プレス,中級者)(図17]

<かまえ>片手にダンベルを持ち、ベンチに横向きに寝たら、肘を立てて持ったダンベルを胸の前にかまえ、もう一方の手を上腕に当てて保持する。

<動作>肘を立てたまま後方に開くようにして肘を伸ばしながら、ダンベルを挙げる。

<注意点>三頭筋の長頭への集中刺激を与える数少ない運動である。充分に立てた肘を支点とし、肩関節のうしろに引くように肘を伸ばすことが大切である。また、フォローする片方の手の役目も大切である。

<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。
【図18】フロアー・ダンベル・フレンチ・プレス

【図18】フロアー・ダンベル・フレンチ・プレス

《18》ライイング・フロアー・ワン・ハンド・ダンベル・フレンチ・プレス(通称:フロアー・ダンベル・フレンチ・プレス,初級者)(図18)

<かまえ>片手にダンベルを持ち、フロアーにあお向けに寝て、ダンベルを耳横にかまえる。もう一方の手は上腕に当てて保持する。

<動作>肘を伸ばしながら、軽く弧を描くように押し挙げる。

<注意点>ベンチや椅子を利用できない場合に採用するフレンチ・プレスである。ダンベルさえあれば、どこでも手軽にできるのが特色であるが、ダンベルがフロアーに当たるため、運動の可動範囲が小さくなる欠点がある。

<作用筋>主働筋............上腕三頭筋。
月刊ボディビルディング1983年10月号

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