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新ボディビル講座 ボディビルディングの理論と実際<29> 第6章 トレーニング種目

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月刊ボディビルディング1983年7月号
掲載日:2020.10.28
名城大学助教授 鈴木正之

Ⅴ チェスト・ウェイト系の背の運動

チェスト・ウェイトによるプーリー・マシンの特徴、及び注意事項については、肩の運動のところで述べたので、マシン自体の特徴については省略するが、肩との違いは、広背筋はヘビー・ウェイトのトレーニングが出来るので、最低60kgのプレートがついたマシンを選択することが大切である。  
 なお、背の運動としてのプーリー系運動は、ラット・マシンが代表されるので、まず、ラット・マシンを優先して行い、チェスト・ウェイトを使う広背筋の運動は、ラット・マシンの補助的運動として、細部にわたるこまかなトレーニングとして行うようにする。また、チェスト・ウェイトはストレート・アームで行った場合、広背筋主働型の運動として行うことが出来るので、上腕の補助筋が疲労しないよう、上腕二頭筋と三頭筋を合理的に組み合わせて、広背筋への集中刺激を高めるようにするとよい。とくに、ラット・プルイン(補助筋‥‥上腕二頭筋)からラット・プルダウン(補助筋‥‥上腕三頭筋)への組み合わせは簡単で、しかも継続した刺激を広背筋に与えることができる。このチェスト・ウェイトは危険性がたいへん少ないためトレーニング・フォームのできていない初心者や、リハビリテーションとしても利用でき、手軽で重量調節が容易なところを大いに活用すべきである。またラット・マシンとの大きな違いはハイ・プーリーの位置が、ラット・マシンより低い位置にあるので、立ったまま水平方向に引ける点も、初心者にとってはあつかい易く、なじみ易いものといえる。
 上級者は、この合理的器具の特徴を生かし、内容が複雑なスーパー・セットや、フラッシング・セット、マルティ・パウンデッジ法などを積極的に取り入れ、常に新しい刺激を求めるトレーニングをするとよい。其の他、プーリー系運動における共通の注意事項としては、引くときはストリクト・スタイルで力強く引き、戻すと時はゆっくりと広背筋を引き伸ばすように戻し、広背筋の収縮範囲より大きくする。

1.ツー・ハンド・プーリー・チェスト・ウェイト

左右別々にあるプーリーのハンドルを両手に持って同時に引くか、または左右交互に引く運動方法。これらの動きはラット・マシンに似ているが、交互に引く方法は、チェスト・ウェイトも特色ともいえるところで、初心者の段階から本能的に行うことが出来る程、手軽で簡単にできる器具であり、運動方法でもある。

《1》スタンディング・オールタネット・プルイン・オン・ハイ・プーリー(通称:オールタネット・プルイン、初心者)[図1]

[図1]オールタネット・プルイン

[図1]オールタネット・プルイン

<かまえ>プーリーに向って立ち、両手でプーリーのハンドルを持って、両腕を伸ばしてかまえる。

<動作>重心をややうしろにかけつつ、片手を引き、その腕を伸ばしながら、反対側の手を引き、次より交互に引く。


<注意点>最もポピュラーなチェスト・ウェイトの使用方法で、ふつう初心者が最初に行なうやり方である。
この場合、最も注意しなければならないことは、腕に力が入りすぎることと、上体のねじれによる引き方である。
上体をねじらないで、肘を後方に引く感じでもって引き込み、できるだけ広背筋を使うようにする。

<作用筋>主働筋......広背筋。補助筋......上腕二頭筋。

《2》スタンディング・ツー・ハンド・ストレート・アーム・ラット・プルダウン(通称:スタンディング・プルダウン、初心者)[図2]

[図2]スタンディング・プルダウン

[図2]スタンディング・プルダウン

<かまえ>プーリーに向って立ち、両手でハイ・プーリーのハンドルを持って、両腕を伸ばしてかまえる。

<動作>重心をうしろにかけながら、肘を曲げないように上腕三頭筋を緊張させつつ、広背筋を使ってハンドルを腰の横まで引きおろし、元に戻す。

<注意点>プーリーを引く時、重心が前に引かれるので、あらかじめ体重をうしろにかけるか、足を前後にかまえておくとよい。
引きおろす時は、広背筋への意識集中を高め、腕の力に頼った引き方をしないようにする。とくにストレート・アームの場合は、補助筋が上腕三頭筋である点を念頭に入れておくこと。
なお、同じ姿勢で腕を交互に引けば、オールタネット・プルダウンとなる。

<作用筋>主働筋.........広背筋。補助筋.........上腕三頭筋。

《3》スタンディング・ツー・ハンド・ラット・プルロー(通称:スタンディング・プルイン、初心者)[図3]

[図3]スタンディング・プルイン

[図3]スタンディング・プルイン

<かまえ>前項と同様。

<動作>重心をうしろにかけながら、左右の肩甲骨をくっつけるように、プーリーのハンドルを胸の横まで引き寄せて元に戻す。

<注意点>腕で引く感じが出ないよう、充分に広背筋に意識集中させて引き寄せる。前項のプルダウンよりハンドルが広背筋の近くに引かれるので、重い重量を扱うことができる。
そのため、フラッシング・セットの場合、プルダウンでオールアウトしたら、引き続きプルインを行なえば、補助筋が交替するので反復を継続することができる。
この運動を左右交互に行なえばオールタネット・プルインとなり、最もスタンダードなチェスト・ウェイト運動となる。

<作用筋>主働筋......広背筋。補助筋......上腕二頭筋。

《4》スタンディング・ベント・オーバー・ストレート・アーム・ラット・プルダウン(通称:ベント・オーバープル、中級者)[図4]

[図4]ベント・オーバー・プル

[図4]ベント・オーバー・プル

<かまえ>プーリーに向って立ち、両手にハイ・プーリーのハンドルを持ち、上体を前に倒して広背筋をいっぱいに伸ばしてかまえる。

<動作>広背筋が引き伸ばされた状態から、ハンドルを足元方向に引きおろし、元に戻す。

<注意点>ハンドルを戻す時は、肘を曲げずに、肩を支点として弧を描くように、できるだけハンドルを遠くにおく気持で広背筋を伸ばすようにする。
反復後半はチーティング・スタイルに移行してもよいが、その場合は、上体のあおりを上手に使って引きおろすようにする。

<作用筋>主働筋.........広背筋。補助筋.........上腕三頭筋。

《5》スタンディング・ベント・オーバー・ツー・ハンド・ラット・プルイン(通称:ベント・オーバー・プルイン中級者)[図5]

[図5]ベント・オーバー・プルイン

[図5]ベント・オーバー・プルイン

<かまえ>前項同様。

<動作>広背筋を充分に伸ばした状態から、ハンドルを腹の横まで引き寄せ、元の位置に戻す。

<注意点>腕で引く意識にとらわれず、肘を背中の方に引く感じでハンドルを引き、広背筋を充分伸ばすようにして戻す。
ベント・オーバーすることにより肩関節の可動範囲が大きくなり、それにつれて広背筋の収縮が大きくなるので、普通のスタンディングの場合に比べて、より強度を増すことになる。
これらの動作による広背筋の作用方向は胸椎方向より腸骨方向が主となる。

<作用筋>主働筋......広背筋補助筋......上腕二頭筋。

《6》スタンディング・ベント・オーバー・オールタネット・ラット・プルイン・オン・ハイ・プーリー(通称:ベント・オーバー・オールタネット・プルイン、中級者)[図6]

[図6]ベント・オーバー・オールネット・プルイン

[図6]ベント・オーバー・オールネット・プルイン

くかまえ>前項同様。

<動作>広背筋を充分に伸ばした状態から、片腕を体側まで引き、その腕を伸ばしながら、一方の腕を引き込む。

<注意点>広背筋を充分伸ばすためには、手を遠くに置くつもりで、腕と肩をしっかり伸展させるようにする。そして、交互に引くリズムをうまくとりながら行なう。その他は前項の注意点と同様。

<作用筋>主働筋......広背筋。補助筋.........上腕二頭筋。

《7》シーテッド・ツー・ハンド・ストレート・アーム・ラット・プルダウン(通称:シーテッド・プルダウン、初心者)[図7]

[図7]シーテッド・プルダウン

[図7]シーテッド・プルダウン

<かまえ>プーリーに向ってベンチに腰掛け、両手にプーリーのハンドルを持って、腕を伸ばしてかまえる。

く動作>肘を曲げないように注意し、広背筋を使ってハンドルを腰の横まで引きおろし、元に戻す。

<注意点>他のプルダウンと同様、重心をうしろにかけながら、広背筋への意識集中を高め、腕の力に頼らないように注意する。
スタンディングの場合よりシーテッドの方が重心が下がるので安定し易い。両腕を左右交互に引けばオールタネット・プルダウンになる。

<作用筋>主働筋.........広背筋。補助筋......上腕三頭筋。

《8》スタンディング・ベント・オーバー・ツー・ハンド・ラット・プルイン・オン・ロー・プーリー(通称:ベント・オーバー・プルイン・ロー・プーリー、中級者)[図8]

[図8]ベント・オーバー・プルイン・ロー・プーリー

[図8]ベント・オーバー・プルイン・ロー・プーリー

<かまえ>前項同様。

<動作>手を遠くに置いて、広背筋を充分伸ばした状態から、肘を曲げながら後方上に引き上げ、左右の肩甲骨をくっつけるようにする。

<注意点>上体が重量物に引き込まれないよう、重心を固定させ、広背筋の伸縮とエキセントリック(伸張性筋収縮)、すなわち、ゆっくりと筋を伸ばし、早く引き込むようにする。

<作用筋>主働筋......広背筋。補助筋......上腕二頭筋、菱形筋。

《9》スタンディング・ベント・オーバー・オールタネツト・ラット・プルイン・オン・ロー・プーリー(通称:ベント・オーバー・オールタネット・プルイン・ロー・プーリー、中級者)[図9]

[図9]ベント・オーバー・オールタネット・プルイン・ロープーリー

[図9]ベント・オーバー・オールタネット・プルイン・ロープーリー

<かまえ>プーリーに向って立ち、両手にロー・プーリーのハンドルを持って、上体を前に倒してかまえる。

<動作>片方の肘を曲げながら、うしろ上方に突き上げるように引き上げたら、元に戻しながら反対側の肘をうしろ上方に引き上げる。
これを交互に繰り返す。この動作を肘を伸ばして行なえば、ストレート・アーム・プルダウンとなる。

<注意点>動作の特徴はハイ・プーリーの場合と同様であるが、上体を前に倒してロー・プーリーにしたことにより、広背筋への刺激方向は胸椎の方に移行してくる。
とくに、肘を外側に開くようにすれば、肩甲骨を寄せる菱形筋を含んだ運動となり、広背筋の幅と厚みが増す。

<作用筋>主働筋......広背筋。補助筋......上腕二頭筋。

《10》シーテッド・ツー・ハンド・プルイン(通称:シーテッド・プルイン、初心者)[図10]

[図10]シーテッド・プルイン

[図10]シーテッド・プルイン

<かまえ>前項同様。

<動作>両肘を開くように肘を曲げながら、肩甲骨をくっつけるように引き込む。

<注意点>坐ることにより、姿勢が安定し運動がしやすくなるので、軽い重量を扱う初心者向きのトレーニングといえる。上級者で高重量を使用する人は、上体が引かれて不安定になるので、次項のワン・ハンドの方がよい。

<作用筋>主働筋......広背筋(胸椎方向)。補助筋......上腕二頭筋、菱形筋。

《11》シーテッド・オールタネット・ラット・プルイン(通称:オールタネット・プル、初心者)[図11]

[図11]オールタネット・プル

[図11]オールタネット・プル

<かまえ>シーテッド・プルダウンと同様、ベンチに腰掛け、腕を伸ばしてかまえる。

<動作>左右交互に肘を曲げながら、胸の横まで引き寄せる。

<注意点>プーリー系の運動の中で一番簡単な運動方法である。老若男女を問わずできるので、全く初めての人や高齢者、女性などはこの運動から入るとよい。
上級者はプルダウンとプルインとを組み合せた方法や、ロー・プーリーを利用し、オールタネット・ロー・ラット・プルにすれば、広背筋の伸縮運動も大となり、トレーニング強度も増す。

<作用筋>主働筋......広背筋。補助筋......上腕二頭筋。

《12》シーテッド・ツー・ハンド・ハイ・ラット・プルイン(通称:ハイ・プーリー・ロー、中級者)[図12]

[図12]ハイ・プーリー・ロー

[図12]ハイ・プーリー・ロー

<かまえ>両手にハイ・プーリー・ハンドルを持って、フロアーに腰をおろし、足をストッパーにかけて腕を伸ばしてかまえる。
<動作>腕をまわし、充分伸ばした状態から、胸を突き出し、両側の肩甲骨をくっつけるように肘を後方に引く。
<注意点>他のプーリー系の運動との大きな違いは、足のストッパーにある。
中・上級者になるにつれて使用重量が増し、自分の体重では支えきれなくなる。
その時は必ずこのストッパーを用いてのプーリー・ローを行なわなければ大きな広背筋は望めない。
ストッパーは形にこだわるkとなく、箱でも板でもよいからつけるようにしよう。
なお、スットッパーをつけると、ストッパーの力を借りた上体の前後運動になりやすいので、上体は後方45度以上は倒さないようにする。
<作用筋>主働筋・・・背広筋(腸骨方向)。補助筋・・・上腕二頭筋。

《13》シーテッド・ツー・ハンド・ロー・ラット・プルイン(通称:ロー・プーリー・ロー、中級者)[図13]

[図13]ロー・プーリー・ロー

[図13]ロー・プーリー・ロー

<かまえ>両手にロー・プーリーのハンドルを持って、フロアーに腰をおろし、足をストッパーにかけて腕を伸ばしてかまえる。

<動作>スタートの時、かまえの姿勢より肩と背をまるく曲げ、背筋全体を伸ばすようにする。その位置から胸を突き出すように、やや上体を後方に反らしながらハンドルを引き寄せる。

<注意点>ロー・プーリーの場合は力の方向が水平方向にあり、プーリー運動の中で一番力を入れやすく、上級者にとっては、ヘビー・ウェイトのラット・マシン・プルダウン同様、必須種目である。
上腕二頭筋が疲労しやすい人は、この運動でオールアウトしたら、補助筋を上腕三頭筋に変え、ストレート・アーム・プルダウンをただちに行なうとよい。

<作用筋>主働筋.........広背筋(胸椎方向)。補助筋......上腕二頭筋。
月刊ボディビルディング1983年7月号

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