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JPA技術入門講座 <13>

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月刊ボディビルディング1984年6月号
掲載日:2021.02.09

パワーリフティング・セミナー(デッドリフト・パートⅢ)

オリエンタル・スタイル(相撲スタイル)その2

著者=JPA技術委員会委員長・中尾達文 監修=JPA国際部長・吉田 進
 私が以前から申し上げている「パワーリフティング競技はフィーリングのスポーツである」という意味について少し述べてみたいと思います。

 パワーリフティング競技は3種目すべてにわたって、基本的な土台と言える一定のフォーム、及びスタイルはきちんと存在しているが、最終的な各パワーリフター個々にとってのほぼベストと言えるフォームの完成は、上記のような1つの基本線をベースにして、3種目のすべてにわたって、パワーリフター各人がそれぞれの体型、体格、体質等の身体的要因と精神的な面において一番ピッタリとフィットした自分のフィーリングに完全にマッチしたフオームを何回、何度となく試行錯誤をくり返す中でしか創り上げていくことができないということである。

 そして、その3種目の中でも、最もフィーリングの大切さが要求されるのが、このデッドリフトではないかと筆者は考えている。

 そして、もう1つ注文しておきたいことは、ビギナー諸君にとって非常にむづかしいことかも知れないが、フォーム等は自分で創り上げていくものであると言うことは、充分におわかりいただけたと思うが、意識の集中、もっとくだけた言い方をすれば、試技にはいる前に、バーベルに“挑みかかる”くらいの精神統一をすること、すなわち、いやが上にも自分自身をエキサイティング(興奮)させることもまた、自分自身の心の鍛練で創り上げていくものであるということを知っていただきたいと思う。

 つまり、一流選手になればなるほど大きな大会等において大記録に挑戦する時など、彼らは巧みに自分で自分身を興奮状態へどんどん追い込んでいく術を充分に熟知しており、そして、これが記録達成へとつながっていくのである。

 確かに、パワーリフティング競技においては、筋力的な実力が均衡している場合、そのことが外面に明らかに表われる人と、内に秘めて外面に表われない人の別はあっても、上手に自分自身を興奮状態にもっていく技を会得している者の方がはるかに高い記録が出せると思う。

 このことは、おそらく他の武道等の格闘競技においても同じで、気迫で勝っているものが勝つということと共通するのではないかと思う。

 さて、本題に戻るが、同じオリエンタル・スタイル(相撲スタイル)のデッドリフトの引き方であっても、写真①~④のような一瞬のタイミングで引くフォームの場合は(私はこのフォームをクイック・フォームと呼んでいる)、同じ東洋系でもインドの選手や日本人選手では東京の槐選手や岡山の原田選手が行なう引き方であるが、このフォームの場合の呼吸方法は、前々月号でも述べたように、絶対的に腹式呼吸がよいと言えると思う。

 すなわち、最初にかまえの姿勢に入る写真①の時に、口から大きく息を吸い込んで、その息を、ツバを呑み込む要領で腹腔に充分にためたら、完全に呼吸を止めた後に、まっすぐに両手を伸ばして写真②のようにバーまで下ろし、その時、背すじはまっすぐに伸ばしたままでいることに留意する。そして、両手でバーをつかんだ瞬間、写真③④のように引き上げる。
記事画像1
 このテクニックの利点は、姿勢が直立した状態で呼吸ができるので、充分な息が吸い込め、意識の集中が非常にしやすいので、予想以上の力が発揮できる場合がある。

 その反面、欠点としては、両手を下ろしてバーを握る時に、視線が天井等の高い所を見つめたままでいるためにバーを握る時に位置がずれる可能性がかなり高い。このフォームでは、バーを握った瞬間に引き上げなければならないので、バーを一発でうまく握るタイミングを逸すると、全く無残な結果となってしまう危険性が常につきまとうことである。

 そして、このフォームでは、最初から視線の位置や背中の曲りなどをきちんと一定の型にはめて、あくまでもタイミングで引く引き方なので、かなりの熟練度を要すると思われる。しかし一考の価値は充分にあるフォームであることは間違いない。

 さて、オリエンタル・スタイルのフォームの正しい習得のためには、デッドリフトの動作をくり返す際に特に注意しなければならないことは、バーベルを引き上げるときよりも、むしろ引き上げたバーベルを下ろす際に、最初引き上げたときと同じような姿勢を保持しながら、すなわち、極力、背中を曲げないようにして、両手はむしろバーを握ってつり下げたままで、あくまでも両脚の屈伸、並びに伸展力(大腿四頭筋大臀筋、及び大腿二頭筋等)と背筋の力のみでバーベルを下ろしていくようにすることである。

 そして、その時のバーの動く軌跡は、最初にバーを引き上げたときと同じように、大腿部から下腿部へと、体の正面をこするようにして下ろしていくことが大切である。

 なお、このフォームでのデッドリフトを1セット当り3~5回の反復で実施する場合には、バーベルを下ろした際に、プレートを床に当てて、その反動で引き上げるタッチ・アンド・ゴーのやり方はさけるべきである。

 タッチ・アンド・ゴーをやると、床面との反発力が助けとなって、かなりの高回数が比較的にたやすくできる反面、ファースト・プルのときの力の養成を阻害してしまう欠点がある。あくまでもバーが床につくか、つかないかというところまで下ろして、引き上げるようにする。

 来月号ではヨーロピアン・スタイル<その1>をお送りします。
月刊ボディビルディング1984年6月号

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