フィジーク・オンライン

やさしい科学百科<12> 眼にも栄養が必要

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1984年7月号
掲載日:2021.02.22
畠山晴行

◇視力回復と栄養

 眼の疲れをうったえる人が最近ふえているようです。とくに、オフィス・コンピュータの普及に伴なって、CRT(テレビ画面)のこまかい文字を見ながら仕事をする人などは「眼が疲れる」といいます。

 "眼精疲労”という言葉がよく使われますが、この言葉からは「眼玉全体の精気が失われること」というような意味にとられがちです。しかし、眼が疲れるということがどんなことなのかを知れば、打つ手もあるはずです。

 13世紀ヨーロッパには面白い(現代人からみれば)目薬がありました。それは、レタスを蜜につけ込んだものです。眼のいい鷹がレタスを食べることから、これはきっと人間の眼にも効くにちがいないと思ったらしいのです。

 このような発想は、今日でも存在しています。例えば、オットセイの睾丸のエキスが精力減退に効くとか、ホルモン焼きで精力ゼツリンなどです。

 もっとも、ふだん私たちが眼が疲れたら目薬、胃が痛んだら胃薬と、薬局で売られているクスリを科学の結晶と信じて乱用する姿は、古代人のクスリの発想とあまり変わりません。

 こんなことを書いている私だって、数年ほど前までは、断片的知識の寄せ集めしかなく、知らぬ間に視力をおとしていました。

 当時、私はひとりぐらしの気楽さから、かなり片寄った食事を続けておりました。常識的な栄養学の基礎は身につけていたつもりですが、まだまだ当時の考えは浅く、ビタミンやミネラルなどは、欠乏症にかからなければ、それはふだんの食事で十分に足りていると考えていたのです。

 歯グキから時々血が出ることもありました。また、今でも傷あとが残っていますが、右上腕部の外傷がなかなか治らなかったのです。そして、1.2はあると思っていた視力がガタッと落ち0.8以下になってしまったのです。

 その頃、たまたま図書館で分子生物学、遺伝子工学などの書に目を通す機会がありました。そして、これらから得た知識をもとに、栄養について再度考えなおしてみたのです。とくに、ポーリング博士の「さらばカゼ薬(講談社)」が、私に大きな影響を与えたのは否めません。

 つまり、それまでまったく考えたこともなかった細胞レベル、分子レベルで生化学をつっこみ、栄養学と結合すれば、当時の私の症状のすべてが"栄養の片寄り"に起因していることに気づいたのです。

 さっそく、ビタミンCの原末を手に入れ、総合ビタミン剤を飲み、卵、野菜……ともかく栄養素をまんべんなく摂るように努力したところ、まず歯グキからの出血がなくなり、外傷がウソのように治ったのです。

 それに気をよくした私は、眼については指圧(浪越徳治郎師の著書を参考に)、遠視法などをつくしました。その結果、視力もかなり短期間で回復することができたのです。現在の視力は1.2以上です。

 次項に述べる通り、眼のためには栄養が十分でなければならないことも、眼の指圧がよいというのも、昔ながらの遠視法が多少なりとも役に立ったであろうことも、眼の筋肉について知れば、これは納得のいくことです。

◇眼の疲れとは

 次ページの図をごらんください。眼はよくカメラにたとえられますが、フィルムに相当するのが網膜です。

 網膜に像がはっきり映って、それが神経を通じて電気信号で脳に送られれば、ものがはっきり見えます。ピントがずれると、ボヤッとした像になります。あたりまえのことかも知れませんが、このピント調節の役を担っているのが筋肉なのです。

 レンズである水晶体のまわりには、毛様体筋という筋肉があります。これは肛門や尿道などのまわりの筋肉と同じように、緊張するとギュッとしまる輪状筋(B)と、収縮でもとに戻ろうとする従走筋(A)とがあります。輪状筋がしまると、チン氏体でつながれた水晶体はそれ自身の圧力で厚くなり、ピントは近くに調節されよす。

 逆に、輪状筋が弛緩して従走筋が収縮すれば水晶体は薄くなって、焦点距離が長くなり、遠くがはっきり見えるようになります。つまり、最近のバカチョンカメラと同様に、眼のピントは自動調節されているわけです。

 フィルムに相当する網膜に映る像のうち、中心部に映る部分がピント合わせの基準です。自動ピント調節の眼は近くばかり見ていると、筋肉をつねにギュッと引きしめていなければなりません。それが長時間続くと当然、疲れてきます。徹夜で眼を休ませることがなければ、やはり眼は疲れます。

 もうお分りでしょう。眼が疲れるということは、わたしたちがよく経験する体の疲れ、つまり手や足の筋肉の疲れと同じようなものであるということが。

 その昔、第一次ビタミンブームのときに「肉体疲労にアリナミン、眼精疲労にもアリナミン」と言われたものでした。肉体疲労も眼精疲労も、本質的に同じものであるからこそ、同じ栄養剤で効果を得ることができるのです。

 疲れた筋肉をもみほぐすということを私たちは日常行ないます。眼が疲れた場合も、閉じた眼の上を手でこするとか、軽く指で押すなど、知らず知らずのうちにしています。
[眼の構造]

[眼の構造]

◇なぜビタミンB1か

 アリナミンは、アリチアミンというビタミンB1効果をもつ物質です。眼精疲労の本体がわかってくれば、涙のような目薬を使うよりも、十分な栄養をとって、眼を休めればよいことが分ります。

 さて、ビタミンB1が不足した状態では、ブドウ糖が完全に炭酸ガスと水に分解されず、その途中でブレーキがかかってしまいます。このへんのことについては、本誌でも度々とりあげてきましたので、詳しく説明することもないでしょう。いずれにせよ、エネルギー代謝がまともに進行しないことには、筋肉であろうが、他の細胞であろうが、こまったことになります。

 ここで重要なのは、エネルギー代謝がまともに進むために必要なのは、ビタミンB1だけでない、ということです。例えば、脂肪酸からエネルギーを引き出す過程ではビタミンB2が必要ですし、クレブス回路の入口ではパントテン酸が重要な鍵です。エネルギーを引き出す過程だけながめても、多くの栄養素が直接、あるいは間接的に係わっているのです。

 また、筋肉およびそれをコントロールする神経の生化学はとても複雑で、単にエネルギーを引き出すまでの条件さえそろえばよい、という訳ではありません。カルシウムやビタミンEなどは、神経、筋肉にとって重要な栄養素なのです。外国の例ですが、ビタミンEの大量投与で、近視、斜視に効果があったという報告があります。ビタミンEが抗酸化剤として、また血行改善に役立つからです。

 眼を上下、左右に動かすのも筋肉の働きです。騎手が手綱によって馬を自由にあやつるように、眼球を右に引っぱったり、左に引っぱったりする筋肉があるのです。上下1セット、左右1セット、そして斜筋というのが2本、計6本の筋肉がこの作用に関係しているのです。

 今から100年ほど前、ニューヨークの眼科医W・H・ベイツ博士は、この6本の筋肉で眼球を変形させてピント調節する、という説を発表したことがあります。前に述べた毛様体筋でピントを調節するというのが今日の定説ですが、異説を発表したこの眼科医は、6本の筋肉のトレーニングで多くの患者を治したと言われております。

 いずれにせよ、眼の筋肉のトレーニングは、遠くを見たり、近くを見たり斜めに視線を動かしたりということですから、毛様体筋であろうが、6本の筋肉であろうが、あまり関係ないと思います。

 なお、近視、遠視には眼球そのものが変形しているためのものもあり、6本の筋肉でピント調節するという説が本当なら、変形した眼球を正常にもどすことが目のリハビリテーションに有効かも知れません。

 近日中に、ハリで眼が治ったというデータが入ることになっています。これについては「電気バリで眼の細胞を支配する神経を刺激することによってそれらの細胞の代謝が活発になり、栄養素を取り込む能力も増す結果」と考えられます。それにしても栄養不足では、いくら電気バリでも大きな効果は期待できないでしょう。
[眼のピント調節のメカニズム]

[眼のピント調節のメカニズム]

◇トリ目

 「ビタミンA不足でトリ眼になる」これは栄養学のイロハです。

 ビタミン欠乏症をおぼえるのに「鳥のカツを買いに来る」と暗記すれば簡単です。「トリ(トリ眼・ビタミンA)、カツ(脚気・ビタミンB1)、カイ(壊血病・ビタミンC)、クル(くる病・ビタミンD)」となり、それぞれの欠乏症に対応するビタミンというわけです。

 さて、トリ眼、つまり夜盲症に動物の肝臓が大きな効果をあげることはずっと昔から知られていました。しかしそれについて詳しくわかったのはかなり後のことです。

 カメラのフィルムに相当するのが網膜だということはすでに述べましたがフィルムの感光物質に相当するものが網膜の細胞にもあります。名前をロドプシンといいますが、これはビタミンAからつくられたレチネンと、オプシンという名のタンパク質が結合したものです。

 光を受けると、感光物質であるロドプシンは、光のエネルギーで変形します。それが神経の電気信号になって脳に届くということです。

 変形された感光物質は使いものにならなくなり、次々に新しいものをつくっていかなければなりません。新しい感光物質は、おはらい箱になった感光物質の成分の再利用と、それに一部の新しい原料を補給して作られます。

 ビタミンA不足でトリ眼になるのは感光物質が不足するからです。感光物質のもう1つの成分であるオプシン、そして、先月号で紹介したビタミンAの運び屋RBPは、ともにタンパク質ですから、タンパク質不足ではこまるのです。

◇白内障

 白内障とは、レンズである水晶体が白くにごる病気です。年をとると、誰でも白内障になると言われますが、個人差はかなりあるようです。

 白内障は両眼が進行した場合は、水晶体をとりのぞき、厚い眼鏡をかけなければならないのだそうですが、最近では、プラスチックの人工水晶体を入れる手術も行われています。

 一応、難攻不落とされている白内障ですが、私の手元にある資料によりますと、そもそも水晶体はビタミンCをたくさん必要とするため、これを強化摂取することにより、かなり白内障の進行が押えられるというわけです。私は、水晶体内のタンパク質の酸化防止による効果であろうと考えましたが最近、水晶体内の多糖体の酸化防止によるものだという説が出たそうです。ビタミンC、E、セレニウムの強化摂取で白内障が完全に治ったという例もあります。

◇緑内障

 これもむずかしい病気です。眼球の中の液体の圧力で、ちょうど風船をパンパンにふくらませたようになってしまうため、視神経が傷ついたり、脳の内部までも圧迫するようになります。

 症状には個人差があり、目が激しく痛む、視野が曇る、視野が狭くなる、光源(たとえば明るい電球)のまわりに後光がみえるようになるなどがあげられます。

 目の下部の小さな流出孔から液体がうまく流れないため、とされており、流出孔までの間に手術でバイパスをつくる、などの治療が行われているようです。

 この病気に対しても、やはり、ビタミンC、E、セレニウムの抗酸化作用が効いたという報告があります。酸化しなければ粘度が高くならないから、流れやすくなるということでしょう。

 緑内障は一歩まちがえば失明となるおそれがありますので、症状が出たなら、眼科医をたずねるのが先決です。

◇網膜剝離

 目は三重の層の膜でおおわれていますが、内側の網膜がはがれるのがこの病気です。昔は、この病気にかかったら失明はまぬがれないとされていましたが、今日では手術の進歩によって、かなりの確率で治るといわれております。

 1年ほど前、大学の水泳とび込みの選手が、アメリカ遠征を前にして網膜剥離になった、と連絡が入りました。とてもひとすじ縄ではいかないものであるため、とりあえず手術をすすめ、同時に、ビタミンCとタンパク質を強化摂取するように話しました。

 手術の結果もよく、コラーゲン生成がうまく進行してくれたおかげで、その回復の速さに医師はびっくりしていたそうです。

 そのとび込み選手の卒業論文のテーマは「とび込みと網膜剥離について」でした。現在、彼は体育教師として元気に活躍しています。

 なお、この病気はボクシング選手などに多いとのことです。予防としては十分なビタミンCを摂ることです。

◇私の失敗例

 3年ほど前のことです。私は結膜炎になってしまいました。ともかく早く治したいばかりに、薬局でサルファ剤入りの目薬を求めて点眼したところ、すぐに効を奏しました。しかし、安心して徹夜の仕事をしたためか、前よりもひどい状態となってしまいました。

 サルファ剤は、菌がビタミンB群のひとつである葉酸から、PABA(パラアミノ安息香酸)をつくるのをじゃまして、菌が生きていけないようにする薬です。

 ところが、サルファ剤を連続使用したり、また、使用後に無理をしたりすると、かえって菌が強くなって逆効果になってしまいます。

 私はこの結膜炎を治すために1ヵ月近くもかかってしまいました。

 複合型ビタミン剤のなかには、さきのPABAの含まれているものがありますので、これとサルファ剤入りの眼薬を同時に用いることはさけなければなりません。

 なお、結膜炎にはビタミンB2の強化摂取がよいといわれています。サルファ剤での失敗の後、私は総合ビタミン剤でB2を強化摂取しました。
月刊ボディビルディング1984年7月号

Recommend