フィジーク・オンライン

☆これぐらいは知っておきたい☆ やさしい栄養常識

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1984年9月号
掲載日:2021.03.12
ヘルス・インストラクター 野沢秀雄

ビタミンについて

◇原因不明の病気?

 「いままでほとんど疲れを感じなかったのに、最近は体調がすぐれずバテやすい」「脚がだるく、走ったり階段をかけのぼるのがつらい」「下半身がむくんで膝が痛い」といった症状に思いあたる人はいないだろうか。

 以前、九州地方から近畿地方にかけて、運動部に入って猛練習をする若者に上のような現象が起こり、大騒ぎになったことがあった。

 大学病院の調査班が懸命にしらべたが、さっぱり原因がわからない。

 ところが「どんな食事をしているか」を詳しく尋ねてみた結果、コーラやラーメン、菓子パンなどを常食している者にこの症状が多くみられ、結局、ビタミンB1不足によるカッケであることが判明した。

◇スポーツマンにとくに重要

 インスタント食品は、運動選手に限らず誰にでも便利なので利用することが多い。それなのに、どうしてスポーツマンだけに特にひどい症状があらわれたかというと、激しい練習の際、カロリーやタンパク質と同時に、ビタミンやミネラルが大量に消耗されたのである。

 厚生省が発表している「日本人1人当り標準栄養所要量」によると、20歳男子の場合、ビタミンA 2000IU、ビタミンB1 1.0mg、ビタミンB2 1.3mg、ニコチン酸 17mg、ビタミンC 50mg、ビタミンD 100IU、女子では、ビタミンA 1,800IU、B1 0.8mg、B2 1.1mg、ニコチン酸 13mg、C 50mg、D 100IUとなっている。

 これはあくまでも普通にすごす人の場合であって、スポーツ練習をする人は「重労働加算量」としてビタミンB1 0.4mg、B2 0.5mg、ニコチン酸 7mgを多く摂取するようになっている。計算してみると、いずれも約40%の増量で、1日3食を4食に増やしてもまだ足りないくらいである。

 また、ビタミンAとCの増量について、体協スポーツ科学委員会は「ビタミンAは疲労回復に、ビタミンCは過激なトレーニングのストレスに対して抵抗力をつける作用があるので、普通の人の2倍くらい多く摂るのがよい」と発表している。
[別表] おもなビタミンの作用と、含まれる食品

[別表] おもなビタミンの作用と、含まれる食品

◇ビタミン不足の原因

 「自分はいろいろな食品を相当に食べているのにまだ足りないだろうか?」と疑問に思う人があるだろう。単に腹いっぱい食べても、肝心の栄養素が補給できないことがよくある。その原因として次のような点があげられる。

①加工食品が多すぎる
 米、小麦粉、砂糖、化学調味料など、精製しすぎて、自然が本来持っている栄養素が減少している。

②温室栽培が多すぎる
 冬でもトマト、いちご、きゅうりなど自由に食べられるが、自然の大地で太陽を浴びてつくられたものとちがって、ビタミンCやミネラルなどが半分以下に減っている。

③流通経路が長すぎる
 畑でとれたばかりの野菜はビタミンが多いけれど、遠い産地から輸送され、市場に出て、さらに店頭に何日もさらされると、有効成分はどんどん減ってしまう。

④良い部分しか食べない習慣
 大根の葉やリンゴの皮を食べる人はほとんどいなくなっている。また魚の内臓や皮を食べる機会も少なくなり、スーパーで切身を買って食べる人がほとんど。

――といった実情のため、ビタミンやミネラルが不足しがちである。

 「それじゃ近くの薬局でビタミン剤やドリンク剤を飲めばいい」という人もいるが、一度にゴクリと飲んでも効果は一時的だ。また値段も高い。一度にとりすぎても体に害を与えるので、適量とる注意が必要である。

◇こんな配慮をするのが良い

 やはり基本はふだんの食事にある。ビタミンも炭水化物やタンパク質、脂肪などと共に、ほどよく混合して体にとり入れるとき、もっとも有効に利用される。

 グリコーゲンが燃焼するときにビタミンB1が効果的に働いてエネルギーを生む。また、タンパク質合成にビタミンB2やB6が補助をする。したがって、次のような食事法に留意すれば、ビルダーの体力強化に有効である。

①インスタント食品はなるべく少なくする。とくに砂糖の多いコーラやジュースはひかえる。また、インスタント・ラーメンなどもほどほどに。

②季節に出廻る野菜や果物をよく食べる。西洋野菜(キャベツ、セロリ、レタスなど)より、ほうれん草、たか菜、春菊、ピーマン、大根菜など緑色の濃い野菜を多く食べる。

③レバー、魚の皮、落花生の渋皮なども捨てないでよくかんで食べる。

④可能ならば、玄米、無漂白小麦粉、あら塩、黒糖などを使う。調味料も天然のもの(にぼし、カツオ、こんぶ)などをなるべく使う。

⑤プロティンなど体力づくりのための健康食品を購入するときは、ビタミンやミネラルが同時に含まれる製品を選ぶ。

⑥好き嫌いをなくし、なんでもおいしく食べられるようにする。

野菜ジュースで体力はつくれない

◇筋肉を鍛えるために

 筋肉には、①自分の意志で運動を行なうことができる骨格筋、②意志による運動が不可能な内臓筋(胃や腸の壁をつくっている筋)、③内臓筋の一種であるが、とくに厚くて、骨格筋と同じように顕微鏡でみるときれいな縞模様が見られる心筋、の3種類に大別され、一般の人で全体重の約40パーセント、筋肉が発達して皮下脂肪の少ないスポーツマンではおよそ45パーセントを筋肉が占めている。

 骨格筋をくわしく調べると、太さが0.01~0.1ミクロン、長さが1ミリ~10センチの細い糸の集まりで、核が数十~数百個あり、ところどころに縞模様が並んでいる。これを筋肉細胞、または横紋筋線維と呼ぶ。

 筋肉細胞をさらに拡大すると筋原線維という、さらに細い糸で構成され、そのまわりを筋形質という液体が埋めていることがわかる。その筋形質に栄養物質がとりこまれるわけだ。

 電子顕微鏡でなおも拡大して2万倍の大きさにすると、筋原線維もまたフィラメントと呼ぶ微細な糸から構成され、しかも、やや太いフィラメントとやや細いフィラメントに区別される。前者はミオシン、後者はアクチンと呼ばれ、互いに重なり合ったり、伸びて離れたりする作用を行う。つまり、筋肉の収縮と弛緩を行うわけである。

 興味深いことに、ミオシンもアクチンもタンパク質であり、トレーニングにより筋肉が太くなるのは、1つ1つのフィラメントが太くなるためで、数が増えるためではないことだ。

 フィラメントが太くなるのと同時に周囲の結合組織や血管組織が発達して筋肉が太くなるが、これら成分はほとんどタンパク質であり、何もしないでも、新陳代謝により、時々刻々、タンパク質の入れ替えを行なっている。

◇逞しい体にはタンパク質が不可欠だが

 高タンパク食では、筋肉の重量、パワー、血液中の色素量などが順調に増加するのに対し、低タンパク食では筋肉が発達しないばかりか、筋力の上昇も見られず、逆に血液中の色素が減少することが報告されている。

 実際にミスター日本コンテストに出るような一流のビルダーは、体重1kgにつき2g程度のタンパク質をとっている。

 「ボクは牛肉100gと卵1個を毎日食べているからいいでしょう?」

 「ごはんやパンは糖質食品だから、タンパク質は含まれないですね?」

 といった質問が、トレーニングを始めたばかりの人からよく出るが、どちらも間違ってる。

 というのは、牛肉を100g食べても、純タンパク質は20g程度しか含まれていないし、とうふ1丁では約12g、卵1個で7g前後だ。逆にどんぶり1杯のごはんで約6g、食パン2枚で8g程度のタンパク質がとれる。

 そのほか、タンパク質をとる場合の注意事項をあげてみよう。

①タンパク質は何種類ものアミノ酸が連結してできたものだから、アミノ酸のバランスの良い卵、チーズ、大豆、肉類を重視する。

②トレーニングの1時間前、もしくはトレーニング後30分たってから食べた場合に効果が大きい。

③タンパク質ばかりの食事は、かえって体に負担をかける。エネルギーの回復には糖質がよいので、バランス良く食べる。

④野菜ジュースにはビタミンやミネラルが含まれているが、タンパク質はほとんどない。

果物や果糖はとり方で太る原因になる

◇フルーツは美容にいいか

 「あなたの好きな食物は?」と聞かれて桃・柿・メロンなど季節の果物をあげない女性はほとんどいない。おいしくて、ビタミンCが含まれていて、しかもアルカリ性食品となれば、誰でも果物が好きになるのは当然だ。

 しかし、慶応大学医学部五島雄一郎博士は、次のように果物や果糖の危険を指摘している。

 「果物に含まれる果糖は体内で中性脂肪に変わり、肥満や肝障害の原因になります。来院患者で、厳重に食事制限をしているのに、体重がふえるばかりの人がいました。調べてみると、果物をモリモリ食べていたことがわかりました。柿1個、りんご1個、バナナ1本にそれぞれ約30グラムの果糖が含まれ、それだけで120カロリー。これが肥満の元凶ですよ」

 実際に同教授が、犬や人間に果糖を与えて、血液中に脂肪がどの程度ふえるかを実験したところ、ぶどう糖の1.5倍、でんぷんの4倍も多く中性脂肪が生じたという。

 果糖はドイツやアメリカで「砂糖を制限されている人の高級甘味料」として販売されており、日本にも愛用者が多い。砂糖よりも危険というのは本当だろうか?

 実は果糖は体内に収吸されてから、ほかの化学物質に変化するスピードがきわめて速い甘味料である。消化吸収が速いといわれるブドウ糖に比較しても、エネルギーに変わり、炭酸ガスと水に分解するまでの速さが3倍、肝臓でグリコーゲンに合成される速さが7倍、血液や組織で中性脂肪に変化する速さが11倍というように、超特急なみの速さなのだ。

 興味深いことに、果糖がどの物質に変化するかは、われわれの空腹状態に左右される。カロリーが不足しているときには、ただちにエネルギーになり、疲労回復に効果が高い。マラソン選手がコップに入った飲料をゴクゴク飲みながらランニングを続けるが、その内容は果糖やビタミン、クエン酸を溶かした特別なドリンクであることが多い。

 反対に食事を一人前に食べて、そのうえに果糖を食べた場合、余分なカロリーなので中性脂肪にかわり、非常時に備えて蓄積されるというわけだ。

 五島博士の実験がカロリー過剰の条件でおこなわれたから、中性脂肪に変わる量が多かったことも十分理解されよう。(同氏の実験では、どの甘味料も食事のほかに1日60グラムずつ与えられている)

 果物や果糖は過剰にとりすぎれば脂肪太りの原因になるが、カロリー計算をおこなって少しずつ食べれば、健康によいものと考えてさしつかえない。とくに果糖は甘さが砂糖の1.5倍あり、使用量は砂糖より少なくてすむ。熱いコーヒーや紅茶などの場合は甘味度が低下するけれど、さめるにつれ、元の甘さになる。だから煮物やケーキに使用するときも少量でよいわけだ。

減食もしすぎると精神異常になる

◇ホッソリ美人にあこがれて

 「身長150cmに対して57kgの体重は多すぎる。あと10kg減ったら、イメージがずいぶん変わるだろう」とA子さんは考えた。

 そして、最初は毎日、食べる食品のカロリー計算をしていたが、結局「食べなければいい」と、牛乳と野菜だけに減らしてしまった。

 空腹感は慣れると気にならなくなる。1週間で5キロもやせてきた。友だちも口ぐちにほめてくれる。不思議なことに「体をいためている」という気持ちが快く感じられ、頭がボーッとして、とてもいい気持になった。

 家族が口をすっぱくして中止させようとしたが、よけいに拒食症状を示して、とうとううわごとをいうようになってしまった。もちろん学校へは登校できず、わめいたり泣いたり……。体重は32キロまで減ってしまい、目だけがキラキラひかり、ほほはやせこけ、異常な様子がありありとみえてきた。

 半年後に精神病院に入院させられたが、すでに脳細胞に異常をおこしており、社会に復帰することは望みがうすいと宣告されてしまった。恐ろしいことに、精神病棟には彼女と同じように「やせる」執念が高じて、廃人になってしまった女性が何人も入院していたという。

◇減食からくる細胞の消滅度

 生命が保てるのは毎日三度三度食べる食事のおかげである。じっと何もしなくても、髪、爪、ひげなど、ドンドン伸びるし、アカは落ちてゆく。体の内部もモーレツなスピードで変化していることは容易に想像されるだろう。このような現象は、微細な細胞がおこなっているのだが、食事を制限すると細胞の活動ができなくなり、ついには細胞が消滅してしまう。身体が細くなっていくのと同時に、大切な機能が損なわれるのが問題である。

 「10日で5キロ無理なくやせる」「5日で3キロやせる驚異の方法」など、魅力的なキャッチフレーズが目につくが、内容をくわしくみると、76キロとか84キロの人が成功例にあげられており、こんな人が3キロやせるのと、50キロ台の人が3キロやせるのとでは全然ケースが異なると考えなければならない。脂肪が過度に蓄積している人なら、一時的な減食で、減量に成功することがあるだろう。だが、継続して、しかもタンパク質まで食べない生活を1週間も10日間も続けると、身体や精神がおかしくなることは当然といえよう。

 減量作戦に失敗して、病院や薬局を訪れる人がふえている。あなたはこんなことのないよう、体重が一割減ったら、一応満足だと考えてほしい。

植物油でも過剰にとると有害

◇料理の材料次第でかわる

 「同じ食べるなら、健康状態がよくなり、長生きできるものを食べたい」と誰でも望むが、料理に使用する油の種類次第で、血液の中のコレステロールが増加したり、低下したりすることが知られている。

 これは国立栄養研究所の鈴木慎次郎博士らが精力的に研究されたもので、まとめると次のようになる。

①バター・豚脂・牛脂などの動物性油脂は、概してコレステロールを増加させる。

②反対に、米ぬか油(ライスオイル)・小麦胚芽油・べに花油(サフラワーオイル)・とうもろこし油、などの植物油は概してコレステロールを低減させる。

③ただし、ゴマ油・大豆油・落花生油・綿実油のように、一般家庭で天ぷら油やサラダ油として使われる油には、コレステロールを上げる作用も下げる作用もない。

④コレステロールを低下させる油脂には、多過不飽和脂肪酸のリノール酸が多い。ただし単に多いだけでは効果が少なく「不けん化物」といわれるステロール類が同時に存在すると効果が高い。

◇食べすぎると脳軟化症に

 この報告は国内、国外の反響を呼び、それ以来、調合こめ油(こめ油70パーセントとサフラワーオイル30パーセントを混合した製品)が発売されたり、バターにかわってマーガリンを使用する家庭がふえたりしている。

 だが「好事魔多し」とはよくいったもの。植物油ばかり多量にとっていると、体内にリノール酸がふえすぎて「過酸化物」をつくり、その毒性のために、脳軟化症・筋萎縮症・貧血・生殖不能・浸出性素因(皮膚から体液がにじみ出す病気)がおこるのではないかと指摘する研究が発表されたのだ。

 今のところ、ヒヨコや豚の実験だけであるが、日本人のくせで「いいものは食べるほど効果が出るだろう」とつい多量に食べがちである。この悪習慣を警告するものとして貴重な意見である。

 天ぷら油を何度も使ったあとに、油が汗くさい臭いにかわるが、このときできるのが「過酸化物」である。古くなった油やインスタントラーメン、かりんとうなどを食べると、嘔吐や下痢をおこすことがあるのは、この「過酸化物」のためであり、リノール酸・リノレイン酸などの不飽和脂肪酸の多い植物油ほど危険が多いことも覚えておきたい。

低カロリー食品を過食すると下痢を

◇本格的な低カロリー食品

 「カロリーの10分の1のいちごジャム」「カロリー2分の1のオレンジジュース」と明確に表示された商品がデパートや薬局に並んでいる。砂糖のかわりに、体内に吸収されにくい還元麦芽糖水飴(マルチトール)を使用しているので、確かに低カロリー。そして、やせる効果も確認されているのだが……。

 夏休みを利用して、減食プランを立てた女子大生が、デパートで買い求めたのは、低カロリー甘味料、ママレード、ジャム、キャンデーなど。食べてみたら意外においしい。少しずつ試食したが、そのあとがたいへんだった。

 3~4時間たつと、お腹がとても張ってゴロゴロ鳴る。しばらくすると腹痛が激しくなり、思わずトイレにかけこんだが、ひどい下痢とガスでとても苦しい。

 そのうち頭痛や寒気が伴い、腹痛と下痢が繰返しておこり、何度トイレに通ってもおさまらない。このときはまさか原因が低カロリー食品にあるとは思わず、次の日、またママレードを食べたら、同じ症状になったという。購入したデパートに尋ねたら「説明書によく書いてあるはずだ。それをよく読まないあなたが悪い」と逆に叱られ、彼女は大憤慨。とうとうこの下痢のために、夏休みが終わるまで体調が元に戻らず、さんざんな目にあったという。

◇徐々に変えていくのがコツ

 還元麦芽糖は、でんぷんを分解してできる還元麦芽糖から水素添加法によりつくられる甘味料で、甘さは砂糖の80~90パーセント。人間の体内には還元麦芽糖水飴を分解する酵素がないので、食べても腸内を通過するだけで、そのまま便となって排泄されてしまう。だからカロリーにならないし、栄養的にはゼロというわけだ。

 糖尿病や肥満症で、砂糖は禁じられているけれど、どうしても甘い物が食べたい、というようなときに、この還元麦芽糖水飴は好適で、病院などで使用され、好成績をあげている。

 ところが一度に多量の還元麦芽糖水飴を食べると、同時に食べた食物を含めて、体外へ排泄してしまう性質があり、腸内微生物を刺激して炭酸ガスを発生させ、お腹が張り、便意を促し、急性の下痢状態になる。

 個人によって異なるが、概して神経過敏で、ふだん胃腸が丈夫でない人に影響が現われやすい。幸いなことに、細菌の繁殖による食中毒とは異なり、伝染したり、慢性的に続くものではなく、少量から食べはじめて、徐々に量をふやしてゆくと、体が慣れることが知られている。限度をきめて、少しずつ食べることが低カロリー食品を食べるコツである。
月刊ボディビルディング1984年9月号

Recommend