フィジーク・オンライン

食事と栄養の最新トピックス43 食生活赤信号<8> ごはんはだいじょうぶか?

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1984年9月号
掲載日:2021.03.16
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1. ごはんは太る? やせる?

 「ごはんを食べると太る」という迷信はどこから始まったのだろう?

 若い女性はもちろん、幼稚園児まで「ふとるからイヤ」とごはんを残す習慣がついている。わがボディビル分野でも、一流選手の食事法に代表されるように、ごはんをカットする人が多くなっている。あなたはどうだろうか?

 日本人の米離れの風潮は年々ひどくなるばかり。農水省が毎年発表している農産物需給表をみても、国民一人当り、米の年間消費量は昭和30年度を100とすれば50近くになっている「米を作るのは止め、休耕した田に手当をつける」という妙な減反政策のお蔭で米の在庫は減るばかり。

 「気がついたら倉が底をついていた」と笑えない出来事になり、今度は隣の韓国から高い費用をかけて輸入することが正式決定した。25万トンという膨大な量である。

 ところで「ごはんイコール肥満のもと」という常識が浸透している世の中で、逆に「ごはんをどんどん食べてやせる」と発表して話題になっている人がいる。

 鈴木その子さんという栄養士で「カロリーなんか忘れなさい」「やせたい人は食べなさい」「スーパーダイエット」などの著者である。

2. ごはんにやせる効果はない

 専門家の間では、鈴木さんの主張が「まれにみる珍説・悪説」と批判され続けてきた。彼女の説は「やせたい人にたんぱく質は敵である。できるだけカットしなさい。そのかわり、ごはんを満腹するほど食べていい」というのである。現在、内外のボディビルダーが実施している食事法とは正反対。粉末プロティンや液体プロティンを推せんしている幅広い人たちからも猛反対をあびていた。

 負けず嫌いの彼女は、なおも著書を大手出版社から出し続け、また有名な歌手の小坂明子に「私でも楽にやせられた」と本を出させ、いずれもベストセラーになっている。とうとう、医学関係の学界に「自分も10分間の発表をしたい」と申込み、公けの場で討論が行なわれ、これが新聞や週刊誌に大きくのったわけだ。

 「ごはんを良く書いてくれて大へん好ましい」「その通り実行したら、本当に5~6キロやせられた」という人たちの声が高まって、鈴木説の真偽が無視できない状態になっている。

 「では、本当にごはんはやせる効果があるのか?」と、筆者なりに改めてメスを入れてみることにする。

㋑おかゆにするなら一理ある

 ごはんでなく、うすいおかゆにして食べる方法を初期段階ですすめているが、これは「水分が多く、カロリーは少なく、満腹感を与える」ので、ある程度はやせるのに役立つ。

㋺個人の体質差が大きなポイント

 だが、ごはん自体を大食することは正しくない。「ホラ、私自身、おひつをお代りするほど、ごはんを何杯も食べるの。でも40キロそこそこの体重よ」と鈴木その子さんは取材記者の前で、旅館の料亭で出されたごはんを自分自身大食してみせる。「生きた証拠が歩いているから、みんな信用するわ」と自慢しているが、なるほど体はスマート。浅丘るり子バリの細さだ。

 だが「自分がそうだから他人も同じ」と結論を急いではダメ。鈴木さんは特異体質で、「食べた物をエネルギーに変えるスピードがモーレツに早い、一種のホルモン病患者」と判断する人がいる。確かに甲状腺ホルモンの分秘量が多いタイプの人は、いくら食べても太らず、異常なほど食欲が増す。このタイプの人は100人に1人くらいは存在するので、鈴木その子さんがこの例である可能性が大きい。

 逆に、「ちょっと食べただけで、すぐ太ってしまう」というタイプも、女性を中心に数多く存在する。エネルギー効率の良いタイプである。むしろ、鈴木さんのようなロスの多いタイプより、後者のタイプのほうが、切実に「やせたい」と願望しているので、こんな人が鈴木法を実行したら、たちまち太りすぎてしまうのでは?

 この中間タイプが日本人の90%以上だが、体質は重要な問題である。

㋩栄養失調になり、やせた?

 鈴木さんが人にすすめるメニューは、「とにかく、ごはんを三食ともなるべく多く食べる。肉・魚・卵などのタンパク質はとってもいいが、なるべく最小限に(25gくらい。つまり、手紙くらいの重さにする)。脂肪ももちろんなるべく最小限にカットする」という内容だ。これが基本になっている。

 当然ながら、栄養バランスが悪いので、何ヵ月かこの食事法を続けると、体を構成しているタンパク質(筋肉など)まで衰えて、やせてくる。つまり栄養失調である。鈴木先生や小坂明子などは栄養失調になり、やせてきたとも考えられる。

㋥ごはんは食べ方で、どちらにもなる

 結論としては「ごはんは太る」「ごはんはやせる」の双方とも正しくはない。ごはん自体には太る効果もやせる効果もない。ふつうに食事をして、なおも余計にごはんを多く食べれば、カロリーとして余ったぶんが体内で脂肪に変り、太ってくるのは当然である。

 逆に、ふつうの食事をせず、おかずとしてのタンパク質もあまり食べず、脂肪もとらないで、単にごはんだけを食べた場合は「栄養失調」でやせてくる。ごはんは偏った食品である。とくに白米は、炭水化物だけだ。こんな食事だけを何ヵ月も続けると、体をつくっている成分まで動員されて、ついには徐々に体重が落ちてくる。

3. ビルダーとごはん

 以上のように、ごはん自体の問題でなく、食べ方の問題である。これは流行のプロティンも同じである「やせるプロティン」「ふとるプロティン」と業者はまことしやかにレーベルや広告に効果を宣伝しているが、もともとは「たんぱく質」そのものである。特別に「やせる成分」や「ふとる成分」が入っているわけでない。食べ方次第でまた、トレーニングとの併用で、目的をかなえるのに好都合にすぎない。

 食事制限時のタンパク質補給と考えれば、確かにウェイト・コントロール(とくに減量)に良い。逆に、筋肉発達時には高タンパクが要求されるので、1日3食の食事のほかに、プロティンを採用すれば、筋肉が大きくなるのも事実である。いずれも栄養素として効果をあげているのであり、何か魔法の成分を持っているわけではない。(もっとも素材をふやして、その要素を増すことは可能)

 プロティンに脱線してしまったが、ビルダーがごはんを「脂肪の敵」であるように考え、コンテスト時期はいっさい食べない、という風潮は明らかに誤りである。一流選手の食事分析のアドバイスでも、何回となく「食べすぎなければ、ごはんは良いエネルギー源だ」と述べている。

 現にアメリカでは、ごはんこそ低カロリー。パンならバターやジャムをつけたり、紅茶に砂糖を加えたり、太る要素が多いが、ごはんにサシミとみそ汁、タクワンなら理想的だと、人気急上昇だ。アメリカのボディビル誌にも「ライスの食べ方として、日本のように水でたきあげるのが一番。ピラフにしたり、チャーハンにしてはダメ」とヒントがのるくらいだ。

 トレーニングを懸命に実行する人なら、毎食ごとに茶わん1~2杯のごはんを食べても何ら差しつかえない。

 太りすぎている人なら、プロティンを始めとするタンパク質、つまり肉・魚・卵・チーズ・牛乳なども平等にカットした方がよい。「とり肉の皮は食べない」のは神話にすぎない。

4. もっと大きな問題

 ごはんは上手に炊けばおいしい。特に「ささにしき」「こしひかり」などの銘柄米は、ねばりや甘さが特別である。レストランや小料理屋で「当店はこしひかり米のみ使用」と札がさがっていたりする。

 だが不思議なことに、全国で生産され、出荷されている銘柄米の量より、全国各地で販売されている銘柄米の量の方が、1.5~1.7倍も多い。これはどうしたことだろう?

 「暮しの手帖」誌の推定では、

①ささにしき、こしひかりでない米を名前だけそう称して売っている

②本当の銘柄米に、他の産地の米を混入して売っている

――確かにこれしか考えられないが、一体、消費者は見分けられるのだろうか?

 ビールでも「キリン、アサヒ、サッポロ、サントリーと、ホップの量、成分はちがいません。レーベルだけの差です」と、はっきりビール工場の専門技術者からデータをあげて説明された経験がある。目かくしテストをすると自信がある人でも、99%まちがうとも言う。コーラでも「ペプシとコカコーラの差は当てられる人がほとんど居ない」とPRされている。このように人間の舌は意外に、頭にまどわされているのだ。「こしひかりと聞いて高い値段を出したのに、どうもまずい」という経験が誰にでもあるのでは?

 先年、宮城県の読者から「とれたばかりのささにしきを送る」と5キロ分いただいたことがある。この時の米の味は、絶妙なほどで、「米屋で売っているのは何か?」と自分自身、びっくりした。

 大切な米には、玄米か白米か、米に使われる化学薬品(農薬・殺虫剤・防かび剤・防虫剤など)の安全性、炊いたときに栄養が失なわれるかどうか、ビタミン強化米、外国産の米など、話題はまだまだ多い。いずれ機会があれば米の続編を述べたいと思う。
月刊ボディビルディング1984年9月号

Recommend