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やさしい科学百科<13> 体質とは何か

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月刊ボディビルディング1984年9月号
掲載日:2021.03.15
畠山晴行

◇体質とは何か

 ボディビルのトレーニングを始めてだいたい3ヵ月もすればほとんどすべての人がその効果を肌で感ずることができる。

 しかし、同じだけの努力をしても、その効果に個人差があることは、多くの人が認めるところであろう。

 筋肉がつきやすい体質だとか、脂肪のつきやすい体質だとか、というのは実際にある。

 また、ある医薬品を投与した結果の副作用について、よく「体質のせい」という言葉が使われる。すべての人に生ずる副作用ではないのだから「たまたま、そのクスリに合わない体質なのだ」というのだろう。

 先日、ある医薬品を投与した場合の副作用について大学病院の医師に質問したところ、やはり「体質」という返事が返って来た。そして、その体質がどんなものであるかは「わからない」との答え。

 巷間では体質改善という言葉がよく使われているが、これに関する十分な説明を見聞きした試しはない。

 医学大辞典(南山堂)によれば『体質は総ての精神的身体的な人間の形質の総和である』という。そして単に体質というときには『遺伝的に制約された形質をさす』とされている。

 体質の研究では、従来クレッチュマーの体型に基づく分類が最も勝れているとされてきた。(一般的な医学書や百科辞典にもそう書かれていることが多い)

 しかし、別表を見ておわかりのとおり、クレッチュマーの体質分類はかなり大ざっぱなものでしかない。過去の勝れた研究ではあるが、そしてある程度は“当る”が、“完全”には、まだ遠いとしか言えない。

 クスリの副作用に対して医師が用いた体質を、クレッチュマーの分類から見つけることができないことは、いうまでもない。

 今日、体質は、遺伝学、免疫学の進歩によって、外形から判断される形質ばかりでなく、素因をも含めて考えなおされようとしている。

◇血液型と体質

 昨今、“血液型で相性をみる”というのが流行(はや)っていて、特に若い女性などは興味津々(しんしん)だ。

 某女性週刊誌の関係者によれば「血液型の本を出版すれば、必ずヒットする」という。知人の、演歌のレコーディングディレクターK氏が「仕事上の参考にもなるだろう」ということで集めていた“血液型”の本を見せてもらったが、なかなかオモシロイ。

 “血液型と相性”に関する研究者は、あまり数多くいないらしく、書店でみても、著者はほとんど同じ顔ぶれだ。

 この血液型相性の信頼性や確度はさておいて、体質が“遺伝的に制約された型質”であれば、親ゆずりの血液型との間に関係がない、と言い切ることはできない。もちろん何冊もの本にするだけの内容が、ABO式の血液型からひっぱり出せる訳などありえないと思うが、ハッタリだ、迷信だと言ってかたずけることもできない。

 巷の研究者の手によるものではなくもっと本格的、学問的研究には、まだまだ興味ある事実がある。
[別表] クレッチュマーによる体質の分類

[別表] クレッチュマーによる体質の分類

①O型の人は他の血液型の人にくらべて梅毒にかかりにくい

 O型の人すべてというわけではないが、ともかく梅毒にかかりにくい人が多いことだけは、はっきりしている。

 昔アメリカ大陸が発見され、ヨーロッパから梅毒が持ち込まれた時代、多くのアメリカインディアンはそれによって命をおとしたが、特別な“強さ”を持った者とその子孫は生き残った。今日、中南米インディアンの血をひく者にO型が圧倒的に多いのは、梅毒に勝った子孫であると考えられている。

②O型は黄熱病や脳炎にかかりやすい

 O型の不利な点のひとつに「黄熱病や脳炎などのウイルスの媒体の蚊が好む」というのがある。これもO型すべてにあてはまるわけではないが、子供の頃から虫にさされやすい人はそんな体質だと思ってまちがいないだろう。

 私などもその口だが、O型でしかも太りやすい体質の場合に多いようだ。私自身の研究課題でもあり、多分に脂質体謝に関係しているように思える。

③A型の女性が避妊用ピルを常用していると血栓をおこしやすい

 これは最近わかってきた事実だ。しかし、どのような理由によるものかはわかっていない。

④A型の人はO型の人にくらべてリウマチにかかりやすいが、潰瘍にかかりにくい

 O型の人は特に十二指腸潰瘍にかかりやすいともいわれるが、統計上、他の血液型の人の1.4倍にすぎない。

 以上、ABO式血液型と病気の関係について知見をあげたが、世界をみわたすと、その国、その土地で、ある特定の血液型が多いという分布がみられる。風土、生活様式にうまく適応した体質が、生き残るための条件だったのだろうと考えられている。

 よく、血液と遺伝病についてのひき合いに、黒人に多い鎌型赤血球症があげられるが、これは、赤血球が鎌の刃の型(三ヵ月型)になるものだ。ふつう、赤血球は、大福もちの真中をへこましたような型だが、遺伝的にヘモグロビンを構成するアミノ酸のうち、たった1個だけが他のものと入れ替ったために起る病気で、酸素運搬能が低く、生命活動には不利で、生存競走に負けざるをえない。しかし、この鎌型赤血球の持主を、マラリア原虫は好まない。そこで、アフリカのマラリア流行地では、鎌型赤血球症の人の方が強いということになる。

 血液型には関係ないが、糖尿病にかかりやすい遺伝子を持つ者について、最近、動物実験の結果、食料不足のときに有利であるという面白い報告もでている。

 弱いと見える反面、ある条件下では他の者より強いから、代々子孫を残すことができたのだと考えられるのだ。

◇HLAで未来の病気を予言

 ABO式の血液型は、赤血球の表面のタンパク質によって分類される。これは1900年に発見されたものだから、血液学というのはきわめて新しい分野の学問と言える。

 前項で、ABO式の血液型と病気の関係のなかから、いくつかを記したが今、専門家の間で最も注目をあびているのはHLAという血液の型だ。

 HLAは赤血球の型ではない。白血球の型である。

 HLAをチェックすれば、将来かかりそうな病気がわかる。しかも、現代病の80%までが予測できるようになってきているのだ。

 「あなたは胃ガンのタイプだ」とか、「あなたの血液には短命の相がある」などと言われると、誰でもドキッとするだろう。

 しかし、自分の弱いところがわかれば、弱いところをさけて通ればよい、ということになる。つまり、予防医学の上で、HLAは重要な鍵を握っていることになる。

 たばこを吸っていても長生きできる人もいれば、できない人もいる。塩をたくさんとっていて高血圧になる人もいれば、ならない人もいる。万人すべからく同じ構造ではないのである。HLAによって、自分の弱いところがわかれば、カナヅチが川あそびで溺れ死ぬようなことが少なくなるのだ。

 HLAについて、記事にするにはまだ時期が早いとも思っていたが、すでに一般健康書のなかにも、これについてふれているものがでてきたし、一部週刊誌でも記事としてとりあげたものもある。

 広い意味での“からだづくり”をめざすボディビルダーであれば、もはや既に個体差・体質を無視してはかかれない。

 そんな訳で、HLAをとりあげてみた。今日、日本ではHLAをチェックしてくれる病院は、国立佐倉病院など十数ヵ所にすぎないが、5年先、いや、もっと早い時期に、全国に広まることは十分考えられる。

 そのHLAによって知ることのできる“かかりやすい病気”は、私の手元の資料だけでも70を超えるが、そのいくつかを下に記しておく。

 枯草熱(花粉症)、喘息、高血圧症、ベーチェット病(慢性、再発性の口腔、外陰部潰瘍、関節炎……)、若年性糖尿病、胆汁性肝硬変症、急性虫垂炎、悪性貧血(ビタミンB12不足による)、ハンセン氏病、視神経炎、筋無力症、梅毒、ネフローゼ、ある種のガンやリウマチなど……

◇体質とビタミン

 近年、ある種のビタミンを大量に要求する体質が、次々に報告されてきている。これを“ビタミン依存症”というが、このような人に対しては「ビタミンはバランスのよい食事から」などと言っていられない。食事にだけたよっていたら命を落すことにもなりかねないのだから。

 このようなことを書くと、よく「それは特殊な人の例だ」という言葉がはねかえってくる。

 だいたい、所要量を満足していればこと足りる、と考えている人も多い。

 所要量決定にあたっては、個人差も含めて余裕をもって見積られるが、しかもなお、100人のうち何人かはその量でも不足となることは、多くの栄養学者が認めるところである。

 環境によっても、栄養素の必要量は大きく変動する。アメリカのミルズとロビンソンの報告によると、ビタミンB1の消費量は、15℃の気温のときと35℃のときとでは3倍もの開きがあるという。日本であれば、高温多湿であるから、更に大きな差がでてこよう。

 私事ではあるが、右手食指の第三関節部分が、かくべつ角化しやすくなっている。昔やっていた空手の影響が今も尾を引いているのだが、ふつうの食事では白く角化しているが、ビタミンAを1日に10000単位加えると、まもなくこれは消える。

 このような事態は、局部的に体質が変化したため、と考えざるをえない。

 これが、目で見えるところであるからこそ、確認の上で処置ができるのだが、体内であれば、わからずじまいになる。

 老人性白内症は、誰でもいつかはおとずれるものだが、年令に個人差のあることは既刊に記した。ビタミンCの大量投与でこれの進行がくいとめられた例が多々報告されていることからも所要量のビタミンCだけで、十分だと言い切れないことがわかる。

 1945年、シャーマンは、動物実験の結果から、成人のビタミンA要求量は5000単位(日本の所要量は2000単位)であるが、10000単位を摂るのがよいと述べている。ビタミンAの個人の要求量のちがいについては、この時代に既に明らかにされており、シャーマンは、安全の範囲で多く摂るべきだと主張したのだ。

 ビタミンCとEの大量投与(メガドース)は、今日日本でも定着したかにみえるが、海のむこうアメリカでは、すべてのビタミンについて多くの人が行なっている。

 個人的な必要量の差、ストレスや環境の変化による消費量の増大を見込んで、安全の範囲で大量に摂ろうとする人がかなりいるようだ。

 ニューヨークタイムスによれば、現在アメリカの総人口の44%、約1億以上の人々がビタミン・サプリメントを利用しているという。

 アメリカの国立ガン研究所が、1982年に、巨費を投じて「ビタミンと栄養のガン予防プロジェクト」を組織したことは、耳新しい。

 個人個人の体質と、そのときどきの状態によって、どのビタミンをどれだけとはなかなか言えないが、ビタミンB群などでは、所要量の3~5倍ぐらいは摂っていたほうがよいだろう、という意見を、何人かの医師、薬剤師などからも聞いている。

 スポーツマンなどでは、50~100mgのBコンプレックスを用いている人もかなりいるが、これだけ必要かどうかは何とも言えない。しかし、かなりのムダは承知で、不足の事態が生じないようにということで用いているのであれば、ことさらさわぎたてる必要もないと思う。

 ビタミンについての、日本の最高峰K博士によれば、日本人のビタミンA摂取量はまだ少ない、という。

 米飯と油ヌキ料理のダイエットで、世間ではダイエット革命だなどと言われているS女史と話をした際、美肌についての意見を求めたところ、どう感ちがいしたか「徹夜あけだから」という返事。S式であれば脂溶性であるビタミンA摂取量が少ないことは当然考えられる。徹夜明けであろうがなかろうが、ビタミンA不足では美肌は逃げてゆく。

 H嬢はレバーのタブレットを摂るようになってから、肌に自信がもてるようになったという。以前の食事内容は、決して悪いものではなかったが、それでもなお、ある種の栄養素(ビタミンAなど)が、H嬢にとっては足りなかったのだ。

 最近、アメリカのビタミン・サプリメントが次々に日本に輸入され、また日本のT製薬なども力を入れている。これらの製品の大半は、食事の不足分を補うといった程度ではなく、かなり高単位である。

 高単位のビタミン・サプリメントによって始めて何がしかの効果が得られたとするならば、それまでは自分に合った本当の意味でのバランスのよい食生活でなかったとも考えられる。

 栄養素の要求量には個人差があり、また内的及び外的な要因により、常に変動する性質のものである、ととらえるべきである。

 アメリカのサプリメントを輸入するO社のモニタ調査(ビタミン・ミネラルのサプリメント)によれば、痔が治った人だとか、視力を回復した人、疲れにくくなった人、肌アレが治った人など、効果を得た人は多岐にわたる。

 しかし、栄養に関する認識が日本ではまだ低いため、『クスリの効果』ととらえる人が多いらしい。
月刊ボディビルディング1984年9月号

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