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JPA技術入門講座<16> パワーリフティングセミナー 試合を目指してのコンディショニング 《パート1》

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月刊ボディビルディング1984年9月号
掲載日:2021.03.11
著者=JPA技術委員会委員長・中尾達文
監修=JPA国際部長・吉田 進
 前号では、ビギナー・リフター諸君にとって、平素の地道なトレーニングこそが、我々リフターにとって一番大切なことであり、そして、1年半か2年のパワーリフターとしてのキャリアを積めば、どしどし試合に出るようにすることが、実力をつける上で何より必要であることを述べた。

 そこで、今月号からは試合を目ざしてのコンディショニングについて解説してみたいと思います。

 ひと口にコンディショニングと言っても、単に肉体的なものから、リフティングの技術的なもの、さらには試合に際しての精神的なものまでと、あらゆる面から考察すれば、問題点は非常に複雑、かつ難解なものとなってきます。

 そして、それぞれの選手の実力のレベルによっても自ずとコンディショニングの仕方が異なってくるのも当然で最終的には、やはりコンデイショニングといえども千差万別で、各人各様であると言えます。

 さらにまた、期間的な問題、たとえば、試合の1年~6ヵ月前の長期的なコンディショニングから、中期的なもの(試合の3ヵ月~1ヵ月くらい前)、短期的なもの(試合の1ヵ月~1週間くらい前)と、その期間によって、かなり調整の仕方は違ってきます。

 本稿では、一般的な男女ビギナー・リフターを対象としている関係から、まず当面の課題として、試合前1カ月~1週間くらい前までに的をしぼって解説することにします。

 ところで、まず何をさしおいても一番大切なことは、試合の1ヵ月前から1週間前までは、とにかく確実に計画的な規則正しいスケジュールに基づいたパワーリフティング3種目のトレーニングをきちんとこなしていくことである。これが確実に実行されていることを絶対的な前提条件として、試合1ヵ月~1週間前までのコンディショニングについて述べていきます。

<1>3種目のリフティングの技術的な見地からは、自分の体型に最もフィットしたフォームをきちんと固めて最終的なチェックの段階に入れるようにすること。

<2>コスチュームにおける注意点としては、試合当日に着用するスーパースーツやツリパン、シューズ、ニーバンデージ、くつ下、手首のバンデージ等は、少なくとも試合の10日~1週間前より実際に着用して練習し体を充分に慣らしておくこと。

 特にスーパースーツを使用したときのスクワットのフォームをきちんと固めておくこと。また、コールされてから試技までの1分間ルールをしっかりと理解して、ニーバンデージを手早く巻けるように訓練しておくこと。

<3>体重は毎日、練習前と練習後に必ず計測すること。特に体重を増減する必要のある選手は、最後の1週間が勝負となるので、食事の回数と量には充分に注意すること。

 私の体験では、減量を要求される選手は、試合の1日~2日前に一気に体重を落とした方が、挙上重量のダウン幅が少なく食い止められるような気がします。もちろん、これは体質、経験等によっても違いますので、誰もがそうだということではありません。中には、10日~1週間くらいかけて、徐々に体重を落としていった方がよいという人もいると思います。

<4>試合前1週間くらいは禁欲生活をすることが望ましいように思われます。年令、体力、性別等によっても多少異なると思われるが、特に軽量級の選手は、セックスによる体力の消耗が予想以上に大きいことを自覚して、試合前2~3日間のセックスコントロールにつとめるようにしていただきたい。

<5>食事については、パワーリフターの場合は、極端なタンパク質一辺倒になる必要はないと思うが、やはりタンパク質の摂取は重要である。同時にカロリー源である炭水化物も充分に摂るべきである。大よその目安としては、炭水化物4、タンパク質3、ビタミン、ミネラル、脂肪2、その他1、このくらいの配分を基本にして、各人で工夫を加えられるとよい。

 そして、試合1週間くらい前からは、総合ビタミン剤とか、カルシウム、レバー錠等を食後に補助的に用いることは良いと思う。

<6>体調には充分すぎるほど注意することは選手として当然であるが、特にパワーリフターにとって胃腸を快調に保つことは、心肺機能に次いで重要なことである。

 食事内容が体調に微妙な影響を与えることもある。試合前夜の夕食はカラシ、コショー等の香辛料や塩辛い食事は避けた方がいいと思う。

 香辛料を使った焼肉や、サシミ等をあまり食べると、アルコール類を多量に飲んだのと同じで、胃腸を弱らせ、便も軟らかくなり、特に腹に力を入れるスクワットやデッドリフトにとってはマイナスとなることが多い。

 私のすすめる夕食のメニューとしては、ポタージュスープ、ごはん、ジャガイモと肉のうす味の煮物、焼魚(あるいは魚のバター炒め)等が好ましいと考えている。

<7>精神的には、実は、これがコンデイショニングの上で一番むづかしいことなのであるが、あまり高ぶるのもよくないが、さりとて、あまり余裕がありすぎるのも、いざ、試合当日になって燃えないものである。

 要するに、まず、自分自身でしっかりと目標を設定して、たとえば、自己最高記録なり、日本記録なりに挑戦するんだと、心の中に言い聞かせ、あまり他の選手の記録や言動にまどわされないことである。そして試合当日、試技に臨んだ時に、その秘めた気迫を一気に爆発させることである。

 これはあまり公表したくないことであるが、試合前夜、及び試合当日の試技の直前の精神的なコンディショニングとして、私の場合は必ずウォークマンで、平素より自分の最も好きな演歌を2~3曲、何回も何回もくり返して聴くようにしている。何を隠そう、私の試技におけるファイティング・スピリットは、実は演歌そのものである。海外へ出た時など、この演歌のテープに何度ふるいたたされたことであろうか!!

<8>最後に、今後、選手生活を永く続けていく上で必ず心して欲しいことは、試合で、3人の公認審判員の見ている前で挙上した記録がすべてであって、それこそが自分の本当の力であるということをしっかりと認識することである。

 よく、ジムでの練習中に何kgを挙げたとか、もっとゆっくり試技できたら何kgは楽に挙がったに違いないと口にする選手がいるが、誰だって平素から充分に慣れ親んだバーベルを使って、自分の好きなペースでもって、ゆっくりとリラックスした状態の中で挙上すれば自己のベスト記録は出せるものである。

 試合というものは、本来、各選手にとってベストな設備と状態の中で行わせてあげられたら一番よいのであるが、現実はそんなに甘いものではない。

 ガタガタの器具で、ローレットの全くないシャフトで、しかも言葉が充分に通じないという最悪の条件で試技をしなければならないことだってたくさんある。しかも1分以内のルールでの試技を厳しく要求されるのである。

 すなわち、どんなに器具が悪かろうと、最悪の状態であろうと、その大会で挙げられた重量が本当の自分の実力であると知るべきである。

 試合は生き物である。一寸先に何が起こるかわからない。それが試合なのである!!

 来月号はコンディショニング・パートⅡをお送りする予定です。
[1984年度全日本選手権大会における私のデッドリフト]

[1984年度全日本選手権大会における私のデッドリフト]

月刊ボディビルディング1984年9月号

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