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食事と栄養の最新トピックス57 中・上級者のための食事法<3> 筋肉発達のメカニズム

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月刊ボディビルディング1985年12月号
掲載日:2021.09.28
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1. プロティンパウダーの意義

 先月号で「たんぱく質のとり方」を述べたが、決して市販されているプロティン製品を否定したり、反対しているわけではない。ちゃんと読めばわかるように「適量を超えて多くとりすぎている」という現象に対して、ゆきすぎをセーブすることが目的である。

 食事法のむずかしさは、不足→適量→過剰の3段階があり、個人の状況(初心者か上級者か? 若者か中年か? 男性か女性か? 軽労働か重労働か? トレーニング方法などなど)や個人の体質により「適量の幅」が異なることである。これは減量しようとする時にも大きく影響する。

 とりわけ、たんぱく質のとり方はプロティン製品とかかわりあって誤解を招きやすい。体が発育する時期や、ウェイトトレーニングにより筋肉を発達させる時に、たんぱく質はぜひとも必要な栄養素である。ふつうの人より多くとるべきである。これにより体の発育や筋肉の発達は期待どおりに可能になる。

 具体的にいえば、普通の人が1日70g(体重1kg当り1.1~1.2g)必要とすれば、ウェイトトレーニングをする人はその5割増ないしは2倍までは多くとる必要性を認めるわけである。1日当りのたんぱく質の摂取量の目安は次のように心得えていればいい。

成人一般(体重60kg)――70g
成人ビルダー(体重70kg)――140g

 つまり体重1kg当り2gまではたんぱく質を増やしてよいし、その効果も期待できる。この際に市販プロティンは

 ①脂肪がほとんど無い。
 ②摂取量がわかりやすい。
 ③ビタミンB6をはじめ、他のビタミン類やミネラルもとれる。
 ④不足するアミノ酸を加えてある。
 ⑤アルカリ性である。
 ⑥有害コレステロール増加の心配がない。
 ⑦肉や牛乳、チーズなどより安価にたんぱく質がとれる。

――等のメリットがある。筋肉をぐんぐん発達させる時期の初級者の人も、造りあげた筋肉のバルクを維持したい中・上級者のビルダーも、適確な用い方をすれば、市販のプロティン製品は有効で、存在意義が大きい。

 けれども現実にはプロティン製品の過剰摂取がふえている。体重1kg当り2gをオーバーしているビルダーが多すぎる。そのうえ「飲むだけでやせるプロティン」とか「飲むだけで筋肉がモリモリつくプロティン」と宣伝して消費者をだます業者が増えていて、この被害にあっている人も多い。

 こんな状況だからこそ、今いちど目をしっかり開けて何が正しいかを見極めてほしい。

2. 「発育」と「発達」はちがう

 私たちの身体は全身で170兆個ともいわれる細胞からできている。ひとつひとつの細胞内で化学反応がおこり、古くなった細胞が壊れては同時に新しい細胞が作られている(これを新陳代謝という)。

 生れてから10代までは細胞分裂により細胞数自体が増える。体の部分により、また運動やトレーニングでよく使うかどうかにより異なるのは当然だが思春期までは細胞数がふえる。これが「発育」である。

 厚生省傘下の栄養審議会が1979年8月に発表した「日本人の栄養所要量」から、たんぱく質必要量と体重増加にフォーカスして表にしてみた。[別表]

 この表は簡単ながら奥ゆきの深いヒントを与えてくれる。

 ①たんぱく質の体重1kg当り必要量は細胞分裂の盛んな乳児期や幼児期ほど大きい数字になっている。(体重1kg当り2.5~3.0g)

 ②年間当り体重増加が大きいのは11歳~14歳で、1年に5kgほど体重が増える。この時に必要とされるたんぱく質量は体重1kg当り1.6~2.1gである。

 ③思春期が終る16~17才で、ほぼ体重の増加も止まり、1日当りのたんぱく質必要量は少なくなる。

 ④20才をすぎ成人になると、体重の伸びはほとんどなく、たんぱく質必要量も1日あたり70g、体重1kg当り1.1gとコンスタントになってくる。

 ⑤中年から老人になるにつれ、逆に細胞の数が徐々に失なわれて、体重が軽くなってゆく。

 ――当然のことであるが、身長の伸びと比例関係にある。つまり、骨格のでき方とも関係が深い。また女性の場合は、発育のピークが男性より1~2年ずつ早まり、15才ですでに1日70gのレベルになる。

3. 筋肉の「発達」とは?

 ではトレーニングにより筋肉が発達し、体重が増えることは生理学上どのように解釈されるのだろうか?

 20才をすぎてトレーニングすれば確かに筋肉が発達する。これは細胞の数は増えないが、細胞内の筋肉せんいの量がふえて大きくなるからである。最新の研究では筋肉線維は太くなって体積を増し、大きくなると再び分裂し、また大きくなる。これを繰り返していると報告されている。

 これをわかりやすく示したのが図である。

 この図は簡略化をしたイメージ図であるが、筆者の言いたい概念はよく示されている。実際の筋肉細胞は長さがおよそ5~10cm、太さ10~100ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)で線維状に層をなして筋組織をつくっている。

 筋肉細胞は筋線維とも呼ばれる。この中に多数の筋原線維がある。束状になって重なりあっている。

 筋肉細胞内にはふつうの細胞と同様に脂肪球やグリコーゲン粒が存在し、またクレアチンと呼ぶエネルギー備蓄性の窒素化合物も存在する。もちろん呼吸作用をおこなうミトコンドリアやゴルジ体・中心小体・小胞体などが存在する。他の細胞との差異は細胞が大きいので、核は一つではなく多数の核があることだ。

 これらは原形質と呼ばれ、水分の多いコロイド状になっている。重なりあった筋肉細胞は外側の組織間液(体液)と栄養や老廃物の相互交換をおこなっている。また、組織間液には毛細血管から浸み出した栄養液が混ざっておりこの中に各種アミノ酸やビタミン・ミネラルなどの栄養素や酸素が含まれている。

 また、古くなって壊れた細胞の材料や炭酸ガス、またピルビン酸や乳酸などの酸性疲労物質は細胞→組織間液→毛細血管→静脈→心臓→肺→肝臟→動脈→全身というように循環する。組織液→リンパ管→静脈というルートもある。これらにより必要な栄養素や酸素が全身の筋肉に運ばれている。
トレーニング前の細胞の横断面

トレーニング前の細胞の横断面

トレーニング後の細胞の横断面

トレーニング後の細胞の横断面

[別表] 1日当りのたんぱく質必要量(男)※絶対値として最高になる年代

[別表] 1日当りのたんぱく質必要量(男)※絶対値として最高になる年代

4. 筋肥大のメカニズム

 具体的にどんなプロセスで筋肉線維が増量するか考察してみよう。

 電子顕微鏡の倍率をあげて、筋肉線維を調べると、明暗の縞がはっきり見える。このことから骨格筋は「横紋筋」とも呼ばれる。

 そして筋肉線維はまた、さらに細いロープ状の束でできていることが観察される。これを「フィラメント」と呼んでいる。このロープ状の1本1本がアクチン、ミオシンという筋肉たんぱくである。収縮したときに「アクトミオシン」という筋肉たんぱくになる。これらはグルタミン酸15%、アスパラギン酸11%、ロイシン8%、イソロイシン7.5%、スレオニン7%、リジン7.6%、アラニン6.3%、アルギニン6.6%……というように個々のアミノ酸が鎖状にスパイラルに連結したものである。筋肉内にはミオグロビンという鉄を含んだ色素たんぱく質も存在し、酸素補給に役立っている。分子量16,800くらいである。

 トレーニング前のフィラメントは細く、体積も少ない。日常生活で使うパワーに見合っている。ところがウェイトトレーニングを開始すると、細いロープが収縮←→伸長のたびごとに刺激を受ける。このとき部分的にフィラメントが破壊を受ける。

 ジムへ入会した人が初めてバーベルを持った翌日、使った筋肉がジーンと痛くて動かせなくなるのは、フィラメントが破壊されて炎症をおこしているためだ。ハイキングや山登りの翌日に足が痛くなったり、久しぶりに草野球をした後、全身の筋肉が痛くなるのも同じ現象である。

 部分的に破壊されたフィラメントは細胞内の修理班が働いて、元のように修復しようとする。その材料が食事から得たたんぱく質→アミノ酸で、作業員がビタミンB6などの物質である。修理する際に「同じ強度だと再びトレーニングによる刺激を受けてすぐ破壊されてしまう。もう少し太いロープにしよう」とフィラメントの太さを太くする。

 ここまで書くと、「超回復のことだな」と読者は察しがつくだろう。このような「破壊→組立→破壊→組立……」をくりかえしつつ、筋肉内のフィラメントは太さや数を増し、体積をふやしてゆく。これを繰り返すことによってビルダーの体は次第に強くつくられていく。

 以上をわかりやすく示したのが別図の超回復の原理である。よく間違いやすい点をあげておく。

 ①筋肉が発達するのは練習中でなく、休養中である。成長ホルモンやたんぱく質同化ホルモンの分泌が盛んになるのは、夜、ぐっすり眠っている時である。だから、力いっぱい練習した夜、ぐっすり熟睡していると有利である。

 ②痛みは単に機械的な刺激で得られるだけでなく、筋肉内に生じた酸性疲労物質によるものである。(炎症をおこす)――すなわちパンプアップによる心地よい痛みはこの化学的刺激によるところが大で、本当にフィラメントが断裂するところは小と考えられる。

 ③したがって、ガンガン無理な刺激を与えすぎて、本当に筋肉フィラメントの大きな断裂、ときによっては筋原線維の大幅な破壊をおこすことは行き過ぎである。いわゆる本当の筋肉故障(肉ばなれやねんざ等)をおこし、翌日や翌々日になっても修復されず、筋肉痛をおこし病院に通う破目になる。必要以上の刺激を与えることはよくない。

 ④とはいえ、中上級者が今のレベルよりさらに強大な筋肉を得ようとするならば、限界内の同一レベルの刺激ではフィラメントは壊されない。したがって多種目・多角度から筋肉をいじめつけて、何らかのpain(ペイン=痛み)を感じなければgain(発達)は得られない。No pain, No gainと言われるゆえんである。

 ⑤栄養面では、修復は常におこなわれている(つまり何もトレーニングしなくても筋肉内のフィラメントの一定量は破壊され、同時に新しく作られている)ので、トレーニング最中にもトレーニング直後にも一定量のアミノ酸が補給されていることが望ましい。

 つまり、血液100ml中のアミノ酸は個人の状態により35~55mgと変動している。血液中のたんぱく質も6.5~8.2g%というように変動している。空腹時には数字が低く、食後30分~2時間でピークになり、再び低下する。

 ⑥ということは、筋肉を発達させたい人は空腹時にトレーニングするのは不利である。ほんの僅かでよいから練習前1時間くらいに1回と、トレーニング終了後になるべ早くもう1回、たんぱく質豊富で消化されやすい食品をとっておくとよい。さらに、あと1回は就寝前に軽くプロティン製品をとっておけば理想的。

 ⑦この話をすると、「食品を消化するのに一定の時間がかかるので、スポーツの前・後に食事をするのは大反対」という説を述べる人がいる。確かに胃内停滞時間のデータをみると「牛肉100gが2時間45分、卵焼き100gが2時間30分、ビフテキ100gに至っては4時間15分……」といった数字になっている。

 だが、この数字は完全に胃からなくなる数字である。最初の一部分は30分くらいからすでに腸→血液への移行が始まっている。

 ぶどう糖の場合、血糖値は30分後から高くなり2時間くらいピークが続いている。消化や吸収は連続的におこなわれるものである。それに「肉100gを食べよう」といってるわけでなく、プロティンパウダーなら大さじ1杯(約7g)を牛乳1本にとかして飲むくらいでよい。もちろん多量すぎると血液は筋肉より消化・吸収に多く使われるのが通常である。消化不良のうちに激しいトレーニングを行うと、胃腸が痛んだり、消化不良のトラブルをおこす。あくまでも一定量に限る。

   ×   ×   ×   
[筋肉発達のしくみ超回復]

[筋肉発達のしくみ超回復]

<補足事項①>

 トレーニングの前・後になるべく近づけて高たんぱく食をとると、筋肥大や筋パワーの増強に効果が大きいことはポポワらの白ネズミを用いた実験などにより定説になっている。「トレーニングの間、およびその後の休憩時に筋肉は血中からアミノ酸などを多量に集めて筋たんぱくに変える」と説明されている。ただネズミの体重と人間の体重がちがう点もあるので、トレーニングの前30分よりも1時間くらい前にとっておけば充分と考えられる。

 いずれにしろ、血中たんぱくが7g%以下では医者は手術をしないくらいである。充分な回復が期待されないためである。

<補足事項②>

 破壊したあと修復までに24時間は必要で、同じ筋肉部位は翌日は使わない方がよい。分割法では1日もしくは2日あけてトレーニングすることになっている。その代り練習日には徹底的に刺激を与える。そうすれば本来は翌日同一部位のトレーニングなど筋肉が痛んで実行できないはず。――これは一流トップ選手の意見でもある。

 逆に初心者で「筋肉痛がなおるまでやめておこう」と丸2日とか丸3日以上たっているのに練習しない人がある。これは筋肉運動で生じた酸性物質が筋肉内や周囲に停滞して痛みをおこしているためだ。だから逆に、1日おいて再び軽い重さから練習を再開すれば血液・体液の流れがスムーズになり疲労物質が除去される。そうすれば不思議に筋肉痛がとれてしまう。単に休めばいいというものではない。

<補足事項③>

 大切な「筋肉発達時のたんぱく必要量」について述べるスペースが少なくなったので、たんぱく質の摂取量については、次号に廻すことをご了承ください。発育時と同様に、体重1kg当り2gを目安に1日の食事量や配分を考えれば充分とみておいてください。

 「一般の他のスポーツ選手」のように重労働者と考えられる人が、果して1日当りたんぱく質必要量が増すかどうかについても次号で論じます。
月刊ボディビルディング1985年12月号

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