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1985第21回アジア・ボディビルディング・チャンピオンシップス報告――<その2>コンテスト
川上(バンタム)、北村(ライトヘビー) 優勝
朝生(ウェルター)3位、松原(ミドル)5位

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月刊ボディビルディング1985年12月号
掲載日:2021.09.06
日本チーム団長 重村尚
 9月14日、快晴。いよいよ今夕、本大会が行われる。我が日本チームはどうであろう。昨日の疲れが残っていないかナ。

 軽い朝食のあと、プールサイドで日光浴をする。みんな昨日よりは幾分リラックスした雰囲気がある。各々、手ごたえをどう感じただろうか?私の目からすると、朝生選手と松原選手は自分の持てる力を充分に発揮できなかった悔いが残るが、今日のファイナルでは何としてでも全力を尽してもらいたいし、当然、本人たちもその気であろう。松山先生もプールサイドで今までの大会を通じての貴重なアドバイスを与えてくださった。とくに、初舞台の北村、松原選手にとっては、どんなに心強いことか!

 夕方5時、バスで大会々場に向う。各国選手と共に呉越同舟である。やはりどの選手も昨日よりリラックスした感じが見受けられる。ただイラクの選手は、昨日の結果が思ったより苦しい戦いを強いられているのを感じとって緊張をゆるめない。

 バスの中では、各国の選手が、ライトの川上選手とライトヘビーの北村選手に「ナンバーワン」としきりに声をかけていた。

 会場は素晴らしかった。中華人民共和国がスリランカにプレゼントしたというこの建物は、ユニバースも含めて今まで私が見たコンテスト会場の中では一番立派である。内部は本格的な国際会議も出来るようになっている。

 すでに準備は万端ととのっていた。果たしてこの大きな会場を観客が埋めつくしてくれるだろうか。

◆コンテスト開幕

 いよいよ開幕である。選手の集合がかかる。私もマネジャーとしてプラカードを持って舞台に立つことになっている。司会はIFBB副会長のポール・チュア氏である。会場の二階席は早くも超満員、一階席もほとんど埋めつくされている。

 まずチーム・ポージングである。最初はフル・エントリーしていない国々がグループでポージングをするが、やはりまとまりがない。今年が初めてというネパールなどが特に目立つ。

 日本チームは朝生選手を中心に特訓しているはずである。4名のエントリーであるが、実力No.1の選手がそろっているだけに迫力は群を抜いている。ポージングも数を多くせず、まず4人がそろうことを念頭において特訓しただけあって、バッチリ決っている。「ウン、いいぞ、よし、よし」一人、審査員席でニンマリ。

 韓国のホン団長が「ジャパン・チームはクラス優勝が2名は確実だから、チーム・ポージングぐらいは韓国に入れなョ」と、冗談とも本気ともつかぬ感じで言っていた。

 日本以外で目についたのはマレーシア、シンガポール、イラク、韓国といったところ。特にマレーシア、シンガポールは有力選手がそろっているだけにチーム・ポージングにも気合いが入っている。韓国はうまくいって3位という感じ。結局、練習充分のシンガポールと日本の優勝争いになろう。
[左から川上選手、松山先生、松原選手、北村選手]

[左から川上選手、松山先生、松原選手、北村選手]

[今大会もまた減量に苦しんだ朝生選手]

[今大会もまた減量に苦しんだ朝生選手]

◆バンタム級決勝審査

 昨日のプレジャッジの上位6名が呼ばれる。もちろん優勝候補筆頭の川上選手は含まれている。対抗馬はシンガポールのイグラヒム選手と韓国のキム選手ぐらい。

 比較審査のあと、1人ずつのフリー・ポージングである。去年はテープの持込みで問題があったそうだが、今回はその点を確認し、事前に進行係に手渡してある。

 イグラヒム選手は全体的にキレが甘い。キム選手は広背の広がりがない。余程のことがない限り、川上選手の優勝は固い。

 フリー・ポージングに入る。川上選手の番である。何回も国際舞台をふんでいるだけに落着いていて、充分に見せ場をつくって審査員も観客も引きつけていく。

 このクラスでは、以前、シンガポールのモン・テク・ヒンという有名な選手がいたが、その後釜を川上選手が踏襲した感がある。ポージングもバッチリである。優勝はもらった。幸先がいいぞ!

 シンガポールのイグラヒム選手はポージングはうまいが、何といっても全体的な甘さが目につく。韓国のキム選手と2、3位を分ち合うだろう。

 結果の発表である。やはり、我らが川上選手、堂々の優勝である。どのラウンドもほとんどパーフェクトの勝ち方であった。

1位 川上昭雄(日本)
2位 イグラヒム・シアット(シンガボール)
3位 キム・カーン・ホン(韓国)
4位 アブドル・イブラヒム(バーレーン)
5位 ゼームス・ムングキッド(マレーシア)

◆ライト級決勝審査

 このクラスには日本の選手の出場はない。しかし、私はジャッジをしなければならない。

 プールサイドで見た感じでは、マレーシアのジャスティン、イラクのユーシフ、タイのプリーチャの3選手が紙一重で並んでいた。3人とも体型的には細身でディフィニッション型である。日本選手で言えば井口吉美智選手のような体型である。もし彼が出場していたらどうだろう?とフト思う。

 自然体では昨日のプレジャッジの時よりイラクのユーシフ選手が迫力を感じさせたが、フリー・ポージングでマレーシアのジャスティン選手が逆転した感じである。タイのプリーチャ選手は良く見えたり悪く見えたり、つかみどころがない。意識集中が足りないのだろう。結局、

1位 ジャスティン・ソンポング(マレーシア)
2位 ユーシフ・ハッサン(イラク)
3位 プリーチャ・ソアナ(タイ)

◆ウェルター級決勝審査

 朝生選手の登場である。昨日は只一人オイルをぬっていなかった。あの二の舞いはすまい。決勝審査でどこまで追い込むか?

 上位6名のラインナップ。朝生選手が一番いい。ひいき目で言うのではなく、優勝候補と評判の高いアリー選手を絶対に押さえている。もっと意識しろ!審査員席でジリジリしながら、目で合図する。「朝生、君が一番いいんだぞ!」そう知らせてやりたい。彼は減量で一番苦しんだ。その努力が実を結んでもらいたいと、願わずにはいられない。

 アリー選手の表情はかたい。しかし自信をもってポージングをしている感じ。決して自信をもつほどの実力でもないと思うのだが……。

 フリー・ポージングに移る。朝生選手の手ごたえは観客の反応で充分感じる。多分、本人もそうじゃないかナ?今日はオイルをぬっているから、昨日の雰囲気とは全く違う。筋肉にも張りがあり、ポージングもダイナミックで観客に十二分にアピールするものがある。3位以内は絶対いける。それにしても昨日のプレジャッジが、かえすがえすも悔やまれる。

 シンガポールのアリー選手は、目が慣れてくると欠点が目につく。昨日より迫力もない。ポージングも自分のウィーク・ポイントを隠そうと、サイド・ポーズが多い。つまり、彼のウィーク・ポイントは、正面で立ったとき脚が弱いのと、全体的にうすっぺらに体が見える点である。でも、自信に満ちたポーズ運びであった。

 私のジャッジでは、どう見ても朝生選手が1位である。結果はどうなるか判らないが、やはり実力的には1位と私は見た。結果の発表である。

1位 アリー(シンガポール)
2位 マームド・ズダイン(イラク)
3位 朝生照雄(日本)
4位 サミ・アヨチョク(フィリピン)
5位 チャン・ヨン・チャン(韓国)
[左から川上選手、ヘビー級1位のマレク選手、北村選手、松原選手]

[左から川上選手、ヘビー級1位のマレク選手、北村選手、松原選手]

[レセプションでフィリピンの選手と。中央がウェルター級4位のサミ・アヨチョク選手]

[レセプションでフィリピンの選手と。中央がウェルター級4位のサミ・アヨチョク選手]

[さよならパーティでスリランカの美しい女性に囲まれて、ごきげんの日本選手団]

[さよならパーティでスリランカの美しい女性に囲まれて、ごきげんの日本選手団]

[左から朝生選手、ヘビー級1位のマレク選手、松原選手]

[左から朝生選手、ヘビー級1位のマレク選手、松原選手]

◆ミドル級決勝審査

 ラインナップで誰もが目をくぎづけされたのがインドのチャンド選手。彼は、このクラスではここ2~3年、圧勝しつづけている。話によると、1日に7~8時間のトレーニングをすることもしょっちゅうとか……。すごいバルクであり、セパレーションである。

 我らが松原選手は、初舞台でありながら大健闘している。近くで見る限りその充実度は素晴らしい。問題は舞台に立った時である。脚も鍛えこまれているが、上体に比べてまだバルク不足はいなめない。また、それを補うべきポーズが完全でない不安も残る。筋肉の充実度では、チャンド選手を除くと他の選手には決して負けていない。やはりバランスか?

 ポーズも少し緊張気味であるが、無難にこなす。すでに戦いを終えた川上選手、朝生選手と共に声をかける。脚のカットが甘くなると「脚!」「脚!」と大声で……。

 このクラスではやはりチャンド選手の一人舞台。彼は今回の全出場選手の中でも、一番いいかもしれない。

 昨年のミスター・ユニバースで、アジア地区からは日本の小山選手しか入賞できなかったが、小山選手に続いて今年入賞するとしたら、彼がその最右翼だろうと思う。

 そのチャンド選手の対抗馬は韓国のカーン選手。上背があり、バランスのよい選手である。4年前から知っているが、年々バルクがつき、欠点がなくなっていく。彼はサッカーの現役選手だという。だから、脚のトレーニングは余りしないとの事だが、見事な脚である。彼の2位は間違いなさそう。

 3位以下は松原選手を含めて混沌としており、全く予断をゆるさない。結果は次のとおりとなった。

1位 プレム・チャンド(インド)
2位 カーン・チュー・スン(韓国)
3位 ホア・キ・ユア(マレーシア)
4位 カイザー・ペルブス(パキスタン)
5位 松原 博(日本)

◆ライトヘビー級決勝審査

 このクラスには期待の北村選手が登場する。昨日のプレジャッジの評判はいい。その勢いで突っ走ってくれればいいが……。

 ラインナップ。少し脂肪がついたように見える。全体的に昨日より甘い感じだ。筋肉の張りもない。大丈夫だろうか?心配である。

 北村選手の対抗馬はイラクのアリとイマドの2選手である。この2人は一発逆転を狙っているにちがいない。自然体の時から相当な入れ込みようである。

 ポージングが始まる。イラクの2人はともに固いポーズである。アリ選手の腹筋がやたらと目につく。我らの北村選手ときたら、昨日の腹筋はどこかに忘れてきてしまったようだ。ポーズも昨日に比べると少し落ちるが、まずまずの出来である“ヤバイ”一瞬いやな予感がした。

 結果の発表である。“2位、アリ・フセイン、イラク”やった!

 ニコニコしながら表彰台に上る北村選手。ほんとうに良くやった。

 これで1位が2名、3位と5位が各1名。全員入賞の堂々の成績である。朝生選手がベストであったらおそらく3クラスを制すことが出来たろう。それに、松原選手も、自分の良さをもっと知っていて、それを充分に強調したら、おそらく表彰台に上ったかも……。

 欲にはきりがない。来年にこの事を生かさねば……そう思いながら、晴々とした表彰台の北村選手を見る。

1位 北村克己(日本)
2位 アリ・フセイン(イラク)
3位 イマド・マモード(イラク)
4位 ハ・ヨン・ホ(韓国)
5位 マン・A・ウエン(台湾)

◆ヘビー級決勝審査

 日本からのエントリーはない。このクラスではイラクのアーメッド選手が優勝できるか?そして今大会、まだ一人も優勝者を出していないイラクに唯一の金メダルをもたらすか!というのが見どころ。

 それを阻止しうる選手はマレーシアのマレク選手である。全身バランス良く発達しており、さかんに「アジアのオリバ」と声援がとんでいた。それにもう1人、イラクのアジス選手の3人の争いになることは確かだ。

 イラクの選手団も力の入った声援を送る。だが、結果は、欠点のない見事な体型のマレーシアのマレク選手の優勝である。アバス選手の敗因はカーフの弱さであったとみる。それにしてもマレクとアバスの両者は、最初に見たときはそれほど差はないと思ったが、後半になればなるほど、その差をはっきり感じさせるのは何故だろう。マレク選手の余裕あるポージングに比べ、青白い顔色のアバス選手は最後まで固さがとれなかった。むしろ3位になったアジズ選手にも食われそうだった。結果は次のとおり。

1位 マレク・ヌーア(マレーシア)
2位 アーメッド・アバス(イラク)
3位 アジズ・カリム(イラク)
4位 サルマン・マサド(バーレーン)
5位 イバン・ウェルナンド(スリランカ)
[バンタム級2位のイグラヒム・シアット(シンガポール)]

[バンタム級2位のイグラヒム・シアット(シンガポール)]

[ミドル級1位のプレム・チャンド(インド)]

[ミドル級1位のプレム・チャンド(インド)]

◆団体4位、チーム・ポージング2位

 大会は終った。チーム・ポージングではシンガポールに次いで2位。団体成績は、フルエントリーで1位こそないが、ほとんど2、3位を占めたイラクが1位、日本は4名のメンバーで4位であった。4名のうち1位が2人いることを考えれば、内容は悪くないと思っている。

 大会をふり返って思う事は、戦う前は各国の選手とも和気あいあいとしているが、いざ大会となると、皆、自分の国の名誉のため、目の色を変えてくる。我々、日本の選手もそれをイヤというほど感じた。

 これまでに何回か国際大会に参加したが、そのたびごとに日本人としての“誇り”と“名誉”をひしひしと強く感ぜずにはいられない。出たからには負けたくない!勝ってもらいたい!そう思う。私は役員として参加しているのだから、物事をもっと冷静に分析しなければいけないのかも知れないが……、若いのかナ。

 今後とも、ぜひ日本の代表になった選手には、ベストの力を出しきってもらいたい。結果はともかく、勝負以前にその事を願う。

 スリランカの旅はこうして終った。“スリー”とは“美しい”そして“ランカ”とは“国”という意味。つまり“美しい国”という意味だそうだ。まさにその通り、美しい国だった。

 我々日本チームは無事、帰国の途につく。みんな、それぞれの思い出を胸に……。選手の皆さん、松山先生、ご苦労さまでした、と誌上をお借りしてそう伝えたい。 (おわり) 
[写真提供・松原博氏]
月刊ボディビルディング1985年12月号

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