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食事と栄養の最新トピックス55
中・上級者のための食事<1>
連載開始にあたって

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月刊ボディビルディング1985年10月号
掲載日:2021.08.06
ヘルス・インストラクター
野沢秀雄

1.どこが初心者とちがうか?

 「初心者のための食事法は大体わかったので、中・上級者向きの専門的な高度な食事法を連載してほしい」という希望が多くの愛読者の方より寄せられたので、今月より約20回にわたり、やや専門者向きのスポーツ栄養学を述べてみたい。
 といっても決して今までの食事法が間違っていたり、程度が低すぎたというわけではない。
初級者から中級・上級まで基本は同じである。連続しているのだから、これまで述べてきたことと矛盾する点は無いのである。安心して今までの方法を続けて構わない。
 では「どの程度から中級者・上級者と呼ぶか?」の問題になる。
 ボディビルを開始して6ヵ月、ないし1年間は誰でも割合にスムーズに筋肉がついてくる。パワーも比例して増えてくる。人によっては2年目、3年目と順調に体位が増加する人も多い。
 初心者のうちは栄養のことは気にせず、トレーニングにだけ熱中すればよい」という意見を述べる人がいる。
だが食事に無関心で、単に満腹感をみたすために、コーラ、ジュース、菓子パン、スナック類ラーメン、ごはんの大食、アイスクリーム、ハンバーガー、フレンチフライポテトなど、ジャンクフードといわれる食品を食べている人が多すぎる。
 こんな食生活の現状のままでトレーニングをするより、「何が筋肉の材料になり、どのように食べると効果的か?」と研究し、実行するなら進歩はずっと早い。
 したがってトレーニング経験の浅い人は、ぜひ本誌のバックナンバーを読んだり、栄養学の本を開いて、基礎的な知識をマスターしてほしい。ジムのコーチや先輩にアドバイスしてもらうのもよい。

2.食事法にも「段階」がある

 そこで本連載では、トレーニング歴1年以上で、コンテスト出場を考える人たち、また本当に日本のトップクラスでミスター日本の上位12名に伍する人、さらには世界選手権に出場したり、プロとして活躍することを考えている人までを対象として筆者の意見を述べてみたい。
 ジムに入会して日が浅いのに、いきなり100kgを超えるバーベルでベンチプレスやスクワットをやれる人は皆無といっていいほど。コンテストに出場して優勝することも普通では考えられない。
それなのに「A選手はこんな食事法をしているから自分も同じ物を食ベ、同じようなメニューにしよう」と真似る人がどんなに多いことか?
 モデルとなる一流ビルダーが有名であればあるほど、真剣に、単純に信じこみ、自分も同じ食事法を実行しようとする。
一流選手はパワーの強さも筋肉量も内臓のじょうぶさも、初心者とまるで異なる。とくに「新陳代謝率」がちがっており、同じ物を食べても利用される割合がちがう。
同じようなハードトレーニングを1日何時間も、週に6日実行するトップビルダーとは状況が違うはずである。
 これを考えず、初心者のうちから高度な食事法を実行するのは意味がないことになる。入門してベンチプレスが40kg→60kg→80kg→100kg.........。と徐々に向上するのと同様に、食事法も初級→中級→上級と次第に高度になる。
 トレーニングならパワーやスタミナに限界があり、上級者の真似は簡単ではないが、食事法は費用さえかければ、初心者でもトップビルダーと同様に食べられる。
自分の体の状態を良く知って、段階に応じた食事法をしていただきたい。

3.トップビルダーに学ぶこと

 「それなら一流選手の食事法を知ることは役に立たないのか?」と思う人がいるかもしれない。そうではなく、一流選手の食事法はトレーニング法と並んで参考になるところが大きいと私はいつも感じる。
 トップに立つ選手たちは、いかに限界を破り、もっと強く、もっと大きくなるにはどのような努力と工夫をすればよいか常に頭にある。
「現状に満足し、とどまってはダメ。わずかでも大きくなるのに価値がある」とがんばっている人たちである。そこに多くのファンが声援をおくるわけである。
 一流選手たちの食事法には、自分らしい研究があり、ユニークな食品が登場する場合がある。これらの中で一般に通用する点は多いに学んでほしい。
後に続く若い人たちが、良い点を学び吸収し、実行することにより、日本のボディビルダーのレベルが向上し、世界的になってゆく。
 だが逆に、「これは変だ。おかしいぞ」と感じられる点が中には出てくることがある。こんな点までは真似して採用することはない。
 実例をあげよう。アメリカでトップビルダーの一人であるロビー・ロビンソンに食事法を聞いたことがある。
 ビー・ポーレン、つまり蜜蜂が集める花粉の粉末を固めた健康食品がひじょうに良い」と、彼は1日3食のメニューや間食に花粉をすすめている。
 確かに花粉はビタミンやミネラル、たんぱく質や酵素に富み、すばらしい栄養物である。
ところが一般人が簡単に花粉を買ってきて食べることは不可能な話である。
 結局のところ、それは、彼が専属でモデル契約をしている健康食品会社で発売している「健康食品」に結びついてしまう。
「宣伝のためにビーポーレン、ビーポーレン」と彼はいたるところで人びとにすすめていることになる。
 この例のように、特殊な食品(ある一定の会社の製品)をメニューに加えている場合、本当に信頼できる製品かどうか判断しなければならない。
日本でもクロレラやローヤルゼリー、アミノ酸剤など、一流選手が愛用していることが多い。
 確かに良い製品もあるが、中には「宣伝費をうんとかけて、高価格で売れればいい」という儲け主義の会社の片棒をかついで、人に迷惑をかける場合がある。
例の金商法で悪名をはせた「トヨタ商事」が有名人を使って老人たちを誘ったニュースは生々しい。
 消費者が用心深く研究しなければならないのと同様に、有名人、一流ビルダーは「自分が愛用している製品は他の多くの人びとが使用して迷惑にならないか?」「安易にすすめる結果が特定会社の利益にならないか?」と今いちど考えてほしい。
有名になればなるほど、責任が知らず知らずのうちにかかってくる。

4.アメリカがベストと限らない

 このことはステロイド使用問題と関係が深い。ある有名な日本のビルダーが「ステロイドを入手するルートを得たので、お前も使わないか?」と人びとにすすめた例を筆者は知っている。
 またアメリかに自らわたり、ステロイドを日本へ売ることで生計を立て、利益をあげる人も何人かいる。こんな悪例は根こそぎ中止すべきだ。
 「アメリカはボディビルの先進国なので、食事や栄養の研究もすすんでいる。製品も優秀にちがいない」と先入観でわれわれは判断しやすい。
 このような考えは部分的に正しいが、アメリカ流の食事法が全部正しいわけでは決してない。現に「かえって日本食の研究をして実行したほうが健康上よい」ということがわかり、アメリカの知識階級は日本食をとることをプライドにするほどだ。
アメリカのボディビル雑誌を見ていると「これはどうかな?」と思われる記事や広告にぶつかる。
 一例をあげると、「アミノ酸カプセル」である。「ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニンなど8種類の必須アミノ酸を理想的な比率で配合したカプセル」と宣伝されている。
 よく考えてみるとこれほど変な健康食品はない。たんぱく質はアミノ酸から構成されている。アミノ酸のうち8種類は人間の体内で合成できない。
したがって8種類のアミノ酸が一定の比率で構成されている時、利用率がもっとも高い。――それはそうなのだが、8種の必須アミノ酸以外のアミノ酸はどうなのか?
 グルタミン酸やアスパラギン酸、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、セリン、プロリン、アラニンなど、必須アミノ酸ではないが、重要なアミノ酸は多い。
 いやむしろ「必須でないアミノ酸のほうが重要」という説がある。体内で合成できるということは、重要成分だからこそ、他の栄養成分から変換して作られる。
不足すると大変だからこそ体内で合成できるようになっている。
 ————実際に毎日の食事で必須アミノ酸と非必須アミノ酸の比率はどの程度が、理想的だろうか?
 FAO(世界食料農業機構)の権威ある研究で、30%対70%といわれる。
別の研究でも50%対50%の線を超えるものはない。
 それなのに市販されている必須アミノ酸カプセルを常用すると、バランスがひじょうに悪くなる。「このカプセルを飲んでいれば肉や魚や卵をとらなくてよい」と考えると、とんでもない結果になる。
 また「必須アミノ酸の比率が理想的」であるにしろ、同時に食べた食品のアミノ酸構成を考慮しないと、実際に体内での利用率は狂ってくる。
したがって「アミノ酸剤」を高い費用を支払って使っても、効果は期待したほどでなくなる。

5.本連載のアウトライン(予告編)

 このようにアミノ酸ひとつ取り上げても奥行きは深い。次号以下に詳しく述べる予定である。
今のところ「たんぱく質とアミノ酸」「炭水化物」「脂肪」「ビタミン・ミネラル」「水分のとり方」「ステロイドホルモン」等について、中・上級者の立場を考えて意見を述べてゆきたい。
 またコンテスト出場者は脂肪カットのため、減量を避けて通れない。生まれつき体質が恵まれている人はよいが、脂肪質の人は減量との戦いが第一ラウンドである。
先日のミスター東京コンテストでも「17kg落とした」「22kgも減量した」というビルダーが何人かいたようだ。その苦労は並たいていでなく、イメージチェンジぶりに驚かされたが、無理をしてはいけない。
痛々しいほどでは気の毒である。
 私がよく知っているビルダーは、1シーズンに4~5回減量を強いられ、頑丈だった人なのに心臓を悪くしてしまった。「ゲストに来てほしい」と依頼され、断われずに無理を重ねていたのである。
 体質を無視して無理をしてはいけない。その人の年代・経験も大切な要素である。これらを含めた「減量法」についても再度研究してみたい。
 最後になるが、先日「今の日本のトップビルダーはまちがった方法をとっている人が大半ではないか?」という意見を寄せる人があった。
 彼によると、「昔はナチュラルというか、常識的な食事法で成功するビルダーが多かったが、現状はビタミン剤やミネラル剤、アミノ酸剤、レシチン、それにステロイドの使用
――まるで薬剤につかっているようだ。
ごはん類を全然たべないで何ヵ月も生活する。その結果、コンテスト終了後、体を悪くして寝こむ選手を何人も知っている」と伝えてくれた。
 筆者にもやはり思い当る例がいくつかあり、日本のビルダーは無理しすぎていると心配である。
 健康をつくるはずのボディビルで逆に健康を害しては何にもならない。
「健康」を絵に描いたような素晴しい肉体なのに、裏側では薬剤に汚染されているとしたら、これほど残念なことはない。
 ボディビルコンテストはスポーツの一種といっていい。勝つための努力は並々ならない。だからこそフェアプレイで一貫させてほしいと願うのみである。
この連載が何かの役に立つことを期待し、私自身ベストを尽くす心構えである。
月刊ボディビルディング1985年10月号

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