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ボディビルディング入門

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月刊ボディビルディング1983年1月号
掲載日:2020.09.30
 書店には1冊の雑誌がある。ボディビルディング誌だ。値段は、550円。この雑誌を、あたなはいま買おうか買うまいか、と考えて、手にとってみる。たくましい若者たちの写真がならんでいる。体を大きくし、力を強くする練習法や食事法が書いてある。

 しかし、あなたは考える。こんなバカデカイ体になって何になる。オレは興味がない。買うのはやめようか。が、見るからに”カッコいい”体格は、男としてもちょっと興味をそそられる。おれも、あんな体になれるのかなあ。あなたは、自分の体を見つめる。

 見れば見るほど貧弱な体だ。中学、高校時代はいろんなスポーツをやって、けっこういい体だったが、その後はさっぱり。付合いで酒を飲み、タバコもおぼえた。朝メシがまずい。カゼもよくひくし、たまに走ったりすると、吐き気がする。やせてしまって、顔色もすっかり悪くなった。

 こんな思いが、あなたの胸中を往き来する。どうせ、550円の投資だ。目を通すだけでも何かの役に立つだろう。あなたは金を捨てる気で、この1冊の雑誌を買う。

 さあ、これであなたは1つの”関門”を突破した。家に帰ってもう一度雑誌をパラパラとめぐってみる。おもしろそうだナ。やってみるか。たしか勤め先の近くにジムがあったはずだ。
 
 翌日、あなたはおそるおそるジムをのぞく。
すごい体の連中が重いバーベルを上げている。もしかしたら、オレも1年くらいやったら、あんな体になるかもしれん。

 あなたは、思いきって受付に申し出る……「入会したいんですが」。これで2つ目の関門通過だ。

 あとはワキ目もふらず、ただ黙々とトレーニングにはげむがよい。まわりのデッカイ連中は無視して、あなたはひたすらバーベルをにぎる。

 はじめは30kgでフーフーいう。しかし2ヶ月もすると、あなたの体が徐々に変わってきたのがわかる。まず肩の筋肉がつき、胸が厚くなったのに気づく。

 そして半年、1年たつ。あなたはもうボディビルダーだ。体は見ちがえるように大きくなり、体全体の色つやがよい。自宅の近くの坂道を上がるときあなたはいつも息を切らしていたものだったが、この頃はまるでカケ足の速さで一気にのぼる。まわりの見る目が変わってきた。

 「おまえ、どうなっているんだ」「おまえ、最近、ガッチリしてきたなァ」

 だれも知らない。オレがボディビルをやっているなんて。

 ある日、会社の一泊旅行で、あなたはどこかの温泉旅行に出かける。

 「オイ、ひとっプロ浴びるか」

 同僚と一緒に、あなはた大浴場に行く。いままでは貧弱な体が恥ずかしくて、みんなとフロに入るのが、いやでいやでたまらなかったのだが……。きょうはひとつ、みんなをおどろかせてやれ。どかどかとフロへとびこむ仲間からわざとおくれて、あなたはゆっくり裸になる。

 「オイ、見ろよ。すごい体のヤツがはいってきたゾ」湯気の向こうから、仲間たちがひそひそとしゃべっている。あなたは知らぬふりをして浴場へ入っていく。

 「ヒヤーッ、おまえか!」「オイ、いつのまにそんな体になったんだ」

 その瞬間、あなたは一つの目的を見事になし遂げた喜びを感じるのだ。

 あなたは、こんな空想をめぐらせながら、その1冊の雑誌を小ワキにかかえて家に帰る。

 ボディビルディング誌は、そんな役割をはたす雑誌にしたいといつも願っている。
(勝村琢磨)
月刊ボディビルディング1983年1月号

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