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食事と栄養の最新トピックス(38)
食生活赤信号<3>
豚肉はだいじょうぶか?

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月刊ボディビルディング1984年4月号
掲載日:2021.02.04
健康体力研究所 野沢 秀雄

1.豚肉のファンが多い

 「昼食はカツドンかカツカレーに決めてるよ」というビルダーを知っている。なるほど値段の割にカロリーやたんぱく質が多くとれる。「骨太の彼の大きな筋肉はトンカツでつくられたものか」と感心したことがある。

 1食あたり754カロリーで、たんぱく質が23.3gもとれる。おまけに牛肉よりプロティンスコアが高く(90)、ビタミンB1が肉の中に含まれることが大きな利点である。

 先のビルダーは独身で外食生活をしている人だが、夕食や夜食にも「トンカツ定食」「一口カツ定食」などを注文するので、「トンカツさん」とアダ名がついてしまったほど。

 「豚肉は脂肪が多いので、避けている」という人も多いが、脂肪のない部分を食べれば栄養効果が大きく期待できる。心配はむしろ安全面にある。
今月は豚肉に関するアドバイスをお届けしたいと思う。
まず最初に、A新聞にのった豚肉に関する投書を紹介しよう。
2.だまされまいぞ脂身の豚肉
記事画像1

2.だまされまいぞ脂身の豚肉

 「パックの豚肉を買って今日もガッカリした。いつもいつも『今日こそは』とスーパーで豚肉を買うたびに、手に持ってながめ、裏にひっくり返して点検し、さらに斜めに持ち上げてじっと見る。『あ、大丈夫だ』と自信を持って帰り、さてラップをはがし、中身を取り出すと、脂身がべっとりついている。アー、またしてもやられた。そのたびに何ともいえない怒りがこみあげてくる。だまし討ちに遭った気分だ。商売人の風上にも置けぬ。一人で腹が立ってくる。どうしてこう、うまく隠すのだろう。

 主人の安月給で親子4人、住宅ローンを払い、四苦八苦のわが家の家計。少しでも安く、良い品を求めて東奔西走の買い出しである。先日は100g200円の豚肉ローススライスを530グラムと奮発した。グラム200円もしたんだから絶対大丈夫。そう思っていた。

 さて、ラップをはがし、まな板に広げると、きれいに上手にたたんだ脂身が次から次から出てくること、出てくること。ついに堪忍袋の緒が切れた。脂身ばかりきれいに切り取って、はかりではかってみた。530g中、なんと脂身が130gもあった。つまり380gの買い物である。値段にすると、肉は100g279円にもなる計算だ。

 ウム。どうしてくれよう。あのスーパーでは買わないことだ。不買運動である。たった一人の反乱だけど、私と同じ思いの人はきっと多いにちがいない。そのうちにお店も気が付いて、少しは良心的になるだろう、などとかすかな望みを抱いている。

 私の住んでいる町には肉屋さんが多い。ペダルを踏んで良心的な店をじっくり探してみようと思っている」

 千葉県市川市のYさん(主婦35才)の訴えである。「まったく同感」とニヤニヤするビルダーも多いにちがいない。
≪別表≫ 豚肉の部分別栄養価(100g当り)

≪別表≫ 豚肉の部分別栄養価(100g当り)

3.肉の脂身だましていないはず

 この投書が掲載されて半月くらい後で、同じ千葉県館山市で肉店を経営する48才の奥さんから、反論というか、プロの肉店経営者の意見がのせられている。この内容もぜひ紹介したい。

 「だまされまいぞ脂身の豚肉---を読み、食肉店の立場からいささか反論させていただきます。『ロース』と表示のあった豚肉をお買いになられ、100g200円もしたのだから脂身はないはず、とお考えになられたようですが、ロースという部位は脂身がついていて当り前のところです。脂身のまったく無いか、少ない部位は「ひれ」「うすもも」といわれるところです。いま私どもの業界は部位別の表示をして販売するよう農林水産省の指導を受けており、脂身のある肉を無い部位のように表示をして売るなどということは、とうてい考えられません。ただ陳列の際「見ばえ」のいいように、きれいなところを見せてならべるため、脂身の見えない場合もあります。

 対面販売の専門店では『ロースは脂身がありますよ。脂身が嫌いなら、もも肉をどうぞ』というようにお客様に説明しながら売ります。スーパーの場合はこうした対話がないわけですが、投書のYさんの場合も、ロースと表示があった由なので、決してだましたわけでないことをわかっていただきたいと思います。私どもも部位別にどんな肉があるかということを、消費者の皆様にもっと理解していただけるよう啓蒙の必要性を痛感した次第です。

 お客様あっての商売ですので、より良い品を気持よく買っていただけるよう努力しているのが大半の商人ということをご理解いただき、これからも肉類を召し上って下さるようお願いいたします」

 ---なるほど言われてみればその通り。消費者側も知識を持たないと、変に誤解して、逆恨みをしてもつまらない。別表は部分別の栄養比較表である。これを知っているだけで、買物は便利になるはずである。

 なお、「より良い品を気持よく買っていただけるよう努力しているのが大半の商人」という言葉は、まさにその通りと思われる。

4.豚肉はどこまで安全か?

 だが、本当の意味で販売業者がどこまで消費者の安全を考えてくれているだろうか?単に業者だけでなく、生産農家や、農家に飼料や薬品を売りつけるメーカーも真偽を問われねばなるまい。

 豚肉に関して不安な要素が最近多く指摘されている。

①狭い、暗い豚舎でギューギュー詰めで飼われており、ストレスがたまってそのまま殺してしまうとムレ肉になる。

②と殺場に運ばれたブタのうち、一頭全部が捨てられたり、内臓の一部が捨てられた処分率は合計77.2%にものぼる。(生きている時の生体検査、死んだときの内臓検査、解体して枝肉になってからの検査と、3段階で合否が決定される)

③と殺場へ来る2週間前からは、抗生物質の使用は禁止されているが、実際には相当数のブタが注射されている。(61頭中42頭・・・昭和56年度調査)

④さらに生後6ヵ月そこそこでブタを出荷するために、無理に高栄養素を与え、成長ホルモン剤やステロイド剤を使っていることも考えられる。

⑤抗生物質を打ったブタは、内臓に耐性菌をつくり、肺炎にかかったとき、ペニシリンを与えても効果がなくなる。

⑥ブタの胃腸が弱くなって、胃かいようや十二指腸かいようにかかる率が増えている。肝臓や腎臓もやられている。

⑦豚コレラのような死病が養豚業者の間でよく見られる。

⑧配合飼料に脂肪が添加されていて、ブタ肉を食べると口の中でヌルヌルする場合が多い。

⑨検査体制がしっかりしていれば良いが、検査する獣医が不足しがちで、検査にもれた病源ブタが市場に出廻ることが考えられる。

⑩豚肉を加工したハムやソーセージはリン酸や保存料のソルビン酸、グルタミン酸ナトリウム、亜硝酸等が使われている。まるで添加物を食べているようだ。

 ---こう並べると、ブタ肉を食べるのが恐ろしくなってしまう。何とか安心して、おいしく食べる方法は無いものだろうか?

5.安全な豚肉の食べ方

 トンカツファンの人びとにヒントを与えるとすれば、次のような点が考えられる。

①牛肉はサシミや半焼け(レアやミディアム)で食べてもいいが、豚肉にはジストマやトキリプラズマという伝染性病源菌を持っていることがあるので、必ず熱を通し、よく煮えてから食べること。

②ブタ肉の専門店で、「黒ブタ」と看板を出しているところは、本当だとしたら安心である。なぜなら黒ブタは飼料添加剤などを使わなくても病気が起りにくい品種で、大きくなるまでに約8ヵ月の期間をかけて出荷している。

③昔のブタはヨークシャーという脂身が多い品種だったが、今は大型で早く大きくなるランドレース種が多い。これは脂身が少ないので、ビルダーには向いている。早熟のブタより、人間なら17~18才くらいにならないと、本当においしい味の肉にならない。

④植物性のでんぷん、つまりジャガイモやサツマイモを食べさせて育てると、肉がひきしまり、味が良くなる。北海道や東北の黒ブタはこうして飼われている。

 配合飼料でブクブク育った大型豚の肉と、ひきしまった黒ブタ肉は次のようにして見分けることができる。

 なべに肉と水を入れて煮る。市販の大型種は40度Cくらいで早くも脂肪が溶けるが、黒ブタは70度Cでグツグツ煮ても脂肪は溶けない。後者のような豚肉が品質は良い。

⑤豚といのししを交配して作った「いのぶた」を食べさせる店がある。最近は豚の比率が多くて、いのししらしさは少ないが、脂肪が少なくてたんぱく質(肉)が多いのは確かである。

⑥また、以前に宮崎県のワイルドウォーター山崎さんから、「ボタン肉を食べませんか?」と100%いのしし肉をいただいたことがある。確かに肉が引締った点は良いのだが、何となく感じられる獣臭が気になった。この点を気にしなければ、たんぱく質の点で申し分ないといえる。

 ---牛肉に比べれば、豚肉のほうがずっと安いので、栄養を考えるならば豚肉のほうをすすめたい。
月刊ボディビルディング1984年4月号

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