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食事と栄養の最新トピックス(39)

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月刊ボディビルディング1984年5月号
掲載日:2021.02.09

食生活赤信号<4>
プロティンはだいじょうぶか

健康体力研究所 野沢 秀雄

1.プロティンの大ブーム

 シリーズ第4回は「とり肉と卵」をとりあげる予定で、すでに原稿の2/3が完成していた。ところが、プロティンについて、ビルダーや一般の人の間に「過熱状態」といえるほど問題が噴出している。そこで急拠、連載予定を早めて、プロティンパウダーについて、その安全性や効果・効能をチェックすることにした。

 プロティンの過熱現象として、私が驚いたことを列挙してみよう。

①「有名人健康法」と題して、芸能人やスポーツマンの心掛けている食事法や体操をのせた記事や写真が、ある出版社の本に発表されていた。その中に、「プロティンを愛用している」という人が何人もいる。

 実際に研究所にも有名な人たちが買いに来られるが、この本を見て、予想以上にプロティンが普及していることを肌で感じた。

②スポーツ雑誌やマンガ雑誌などを開けると「グングン筋肉がつくプロティン」「背が伸びるプロティン」「ダイエットできるプロティン」と、何社も大きな通信販売の広告がのっている。

③読者の人たちから、「○○社のプロティンを買ったが効果がない。分析して調べてほしい」とか、「雑誌にのっている××社の物を買いたいが、本当に安心できるものか?」といった問合せが急増している。

④本誌に連載の「一流選手の食事法とトレーニング法」をみると、普通時にも減量時にも、予想以上にプロティンが多量に摂取されている。中には、ほとんどプロティンが1日の食事の大部分を占めている選手さえいるほど。

 わかっている範囲でさえこれだけ多く飲まれているので、潜在的には相当に飲みすぎている人が多いのではないかと、心配になる。

⑤プロティンを販売する業者側にもオーバーヒート状になっていて、確固たるデータが無いのに他社の製品を悪く言う者が出てきている。誇大表示や、中傷もほどほどにしないと制限がない。

⑥「プロティンのような高タンパクの食事を続けると、高尿酸血になり、痛風にかかるのでは?」という記事や、読者からの疑問が出はじめている。

2.プロティンの効果はどこまで?

 順を追って、これらの問題点を一つずつ検討してゆこう。

 プロティンが広く一般に普及すること自体は決して悪くない。人びとが栄養について関心を深め、健康と体力づくりに心がけることは喜ばしい。

 だが、高すぎるプロティンや、誇大広告で善良な人を欺すかのような販売は許されない。

 「筋肉がつく」「体重増加」「減量用」「背が伸びる」といった言葉を、プロティンのレーベルにのせたり、広告文に使用することは、薬事法の法律に違反している。食品には、効能・効果をのべてはならない。

 理論からいって、プロティンを飲むだけでこんな効果があるとは信じられない。原理を知っている賢明な読者なら、大々的なキャッチフレーズに乗ったりしないが、知らない人たちは「その気になって」高い費用を出すハメになってしまう。

 プロティンが効果をあげるのは、あくまでもトレーニングと2本立てで使用する場合だ。そうすればトレーニングの効果と相乗的に作用して、「筋肉がつく」「体重がふえる」「やせる」などの効果が得られる。「ウェイトトレーニングのパートナー」という謙虚な姿勢が正しい。

 ろくろく研究もしないで、「よく売れそうだから」と安易な通販業者たちは、プロティンだけを一人歩きさせてオーバーな宣伝文や写真・イラストをのせて、消費者に迷惑をかけている。販売価格も常識を超えて高い。

 「こんなに高いのだから効くだろう」「外国の輸入品だから効くだろう」と買う人もウッカリ誤解しやすい。

 逆に、「こんなに徳なプロティン」と安いことを利点に、先発会社のあとで楽に儲ける業者もある。ビルダーにとって安いことは有難いが、なかには大豆カス粉末だったり、安いカゼイン(分離乳タンパク)粉末だったり、ひどい場合は、きな粉そのものだった例がある。

 プロティンが効果をあげる一つの要素は、単に大豆タンパクだけでなく、不足しているアミノ酸を補足し、プロティンスコアを高めて、95以上にしていることが大切といえる。また、ビタミンB6を始めとする、微量成分にも配慮されていることが大切だ。そうでないと、「総合的な栄養補給」という点で、ワンランク効果はおちる。

3.プロティンの製造方法

 「あの大豆から、各社のプロティンはどんな方法で生産されているのだろうか?」と誰でも知りたいにちがいない。意欲ある人なら、「やれるなら自分でもプロティンのような栄養食品をつくって発売してみたい」と思うだろう。筆者のところに、昔も今も相談される人は数多い。できるかぎり教えてげたいと思っている。

 「鬼は外、福は内!」と、節分にまく大豆。夏はビールのつまみに食べる枝豆、あの大豆が原料である。

 まず製油会社が大豆から油をとって天ぷら油やサラダ油、マーガリン等に利用する。そのあと「脱脂大豆フレーク」という状態で、水または弱アルカリ(カセイソーダを主に使う)でよく洗い、フィルターを通過させて、豆乳とカスに分ける。カスは動物のエサになる。

 液状の豆乳を酸(主に塩酸を使用)でよく振って、固まった物質と、上澄み液に分ける。前者は大豆カード、後者は大豆ホエイと呼ばれる。

 大豆カードを水洗して、煮つめて濃縮する。これを再びアルカリで中和したあと、スプレードライヤーという噴霧乾燥機にかける。そうするとサラサラした粉末の、分離大豆たんぱくができる。以上の工程をわかりやすい図に示す。

 ここまで読んだ人は「装置がたいへんだなあ」と感じるだろう。その通り相当に設備が必要で、また大量に生産しないとコスト安にならない。

 したがって大部分(99%)の会社は日本やアメリカで、すでに「分離大豆たんぱく粉末」になったものを、商社や製油会社、製粉会社などからバルクで購入する。

 国内のメーカーの多くは、ブレンダーとかミキサーと言われる機械で、アミノ酸やビタミン類、カルシウム、レシチン、酵素などを混合する。実は混合する方法や内容で優劣が生じる。均一になっていないと、摂取できるはずの成分が体に入ってこないので、何にもならない。

 悪い業者になると、広告には高価なビタミン類が入っていると偽って、実は安く購入した大豆タンパクだけを売りつけているケースもある。袋や缶に表示していながら、実は入っていない場合も実際にある。

 逆に、溶けやすくするために、食品添加物を加えたり、香料でごまかしたり、動物性タンパクと称して、乳製品の一部分を加えたり(実際にはその通りだが、本当の効果はむしろプロティンスコアで総合的にみた方が妥当)、このミキシング操作により、各社の姿勢や特徴が現われてくる。

 本来なら、食品を生産する者は、食品衛生法に基づいて、工場としての検査を受け、認可されなければ、袋詰めにできない。ところが法を無視して、家の一室や物置きのプレハブで無許可でパック詰めして販売する人も出てくる。
分離大豆タンパク製造工程

分離大豆タンパク製造工程

4.プロティンを飲むと痛風に?

 心ある読者が恐れることは、「肉、魚、レバー、大豆製品など、プリン体の多い食物をとり過ぎると、高尿酸血症になり、痛風にかかるのでは?」という点である。

 筑波大学体育科学系運動生理学研究室の伊藤朗先生がこの分野の第一人者で、読売新聞にも「大相撲の力士の約40%、プロ野球選手の約34%、東京オリンピックの元選手の48%が、高尿酸血症になっていた」と発表している。

 「なぜだろう。スポーツ選手は尿酸の材料になるタンパク質をたくさん食べるほか、激しいトレーニングで体細胞中の尿酸のもとになる物質が遊離して、尿酸の生成が高まる。さらに運動中はジン臓の機能が低下、尿酸の排出がうまくいかなくなる、といったことが重なり合い、しかもそれが長く続くため、とみられている」---と新聞記事に書かれている。

 これを知った人たちから、「プロテインを飲むことはやめた方がいいのでは?」と電話や手紙が寄せられたのも当然であろう。

 痛風は足の指など、関節にプリン体が結晶して蓄積し、ズキズキたいへん痛む。とてもトレーニングできない。欧米では「帝王の病気」と呼ばれ、肉や魚など、ごちそうを食べる人に多発するのが特徴である。

 「もしプロティンを飲む人たちに、こんな重大な障害が起きるのなら、直ちにプロティンの発売は中止しよう」とさえ思い、筑波大学から乞われるままに、プロティンを提供し、実験をお願いした。

 その結果発表会が3月20日同大学で行われた。

<実験方法>

 被験者は18~26才の体育専攻生を含む男子学生8名で、プロティンパウダーを毎日30gずつ摂取(4週間連続)させた。採血、蓄尿は、負荷前、摂取期間1週間ごと、摂取終了1週間後の計6回実施した。測定項目は、血清・尿中尿酸値・血清・尿中クレアチニン値・尿中尿素態窒素値・血清総タンパク値である。

 また、実験に先だち、該当プロティンパウダーに含まれる核酸(RNA)を定量したところ、RNA量は約310mg/100gであり、プリン体量は約100mg/100gであった。

<結果の概要>

 日ごろトレーニングしている鍛練者の場合、血清尿酸値は1週間後に0.48g/dlの上昇を示した。その後低下の傾向が見られ、有意でないが4週間目で0.4mg/dlの低下、さらに摂取終了1週間後で1.15mg/dlの有意な低下を示した。

 非鍛練者の場合も有意でないが、摂取期間全体を通して、低下の傾向がみられた。

 尿中尿酸排泄量は、鍛練者の場合、摂取1週間後に575mg/day、2週間目で少し減少したが319mg/dayの増加が見られた。しかし4週間目では有意差はみられなかった。非鍛練者の場合は大きな変化は見られなかった。

 (以下略)

<考察>

 この実験は、対象をプリン体そのものとし、尿酸の前駆物質であるイノシンを用いて行われた。イノシンの場合は明らかなマイナス現象があらわれたのに対して、プロティンパウダーの場合は、マイナスではなく、むしろ、逆に「プロティンを飲んでも安心」という結果になったわけだ。

 この理由については、牛乳や水などと共に飲んでいるので、尿酸を生じても体外に出やすい、という理由が大きい。また、該当プロティンパウダーが体内で利用されやすく(消化吸収率は96%以上で、抜群に吸収率がよい)、尿酸以上に分解されて、体外へ出ることも考えられる。

 いずれにしろ、当初心配した恐れが本実験により解消されたことになり筆者もうれしいし、長く使用されている方々にも大きな朗報にちがいない。

5.安易な販売、安易な使用に警告

 人びとが口にする食品を、実験データなし、安全の保証なしで販売することは無責任である。「ヒットしているから」と、安易に販売する姿勢はどうであろうか? とくに大手、中小を問わず、「儲かればいい」と宣伝ばかり先行している。

 使用するビルダーはじめ一般の人々も、これを機会に自覚していただきたい。幸いにも、尿酸の心配は、1日30g程度なら問題のないことが判明したが、限界をこえて、1日100g以上もとったらどうなるか?「体重1kg当り2g程度でよい」としているのにその2倍前後も食べ続けている人が結構多い。

 過去に何回も述べてきたように、プロティンはあくまでも「補助食品」にすぎない。勝手に大量に食べて、万一事故や病気になっても、メーカーは決して責任を100%負うわけでない。(ヒ素中毒やPCBのように、中味に毒物が混入されていたような場合は、当然、メーカーや販売者に責任が課せられる)

 私の知っている人は、胃腸薬のセイロガンを1回に1粒でいいところ、7粒も食べてしまい、その夜に死んでしまった。塩野義の頭痛薬セデスを少し多く飲んで死んだ人も知っている。この場合、会社は補償してくれただろうか? 答はノーである。「勝手に指示以上に飲んだのだから」と法律上の責任は問われなかった。

 もっと身近な例では、コンパにビールやウイスキーを大量に飲んで、急性アルコール中毒になって死亡した学生のニュースがある。原因はアルコールにあるのは明らかだが、そうかといってサントリーやキリンビールが補償金や見舞金を出した。という話はない。

 つまり、常識以上に、無茶苦茶に多く飲食したのは当人たちの責任、とされるのである。

 最近は消費者の権利意識が高まっており、メーカーとしても、何かあれば誠実に、せいいっぱいのことをしようとしている。これは当然であるが、そうかといって、独断のまま、無茶な実験を、大切な自分の身体を使ってすることはない。損をするのは自分が一番大きい。

 正しい使い方をすれば、プロティンは適切な効果をあげる。本質的に悪いものではないし、発売に当っては慎重にデータを得ながら、ベストを尽くしているのがふつうである。使用される人びとも慎重に、よく考えて、ご愛飲いただきたい。
月刊ボディビルディング1984年5月号

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