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なんでもQ&Aお答えします 1984年5月号

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月刊ボディビルディング1984年5月号
掲載日:2021.02.05

ベント・アーム・プルオーバーの正しい運動法とスケジュールの作り方

Q ボディビル歴は1年2ヵ月、市の施設でトレーニングしています。からだのほうはまだまだといったところですが、とにかくまじめにトレーニングしています。

 現在のトレーニング・スケジュールは下記のとおりですが、ベント・アーム・プルオーバーを新たにつけ加えたいと考えています。

≪トレーニング・スケジュール≫

 (隔日的、週3日実施)
記事画像1
 以上のコースに、新たにベント・アーム・プルオーバーをつけ加えるわけですが、それについて質問が3つあります。よろしくご指導ください。

<1>ベント・アーム・プルオーバーには、頭部をベンチの端から突き出して行う方法と、ベンチの上に載せたままで行う方法の二通りのやり方がありますが、効果の面での違いについてお教えください。

<2>ベント・アーム・プルオーバーで頭部をベンチの端から出して行う場合、どの程度出すようにすればよいのか、その点についてできるだけ解りやすく説明してください。

<3>ベント・アーム・プルオーバーを現在のトレーニング・コースに加える場合、運動の順序をどのようにしたらよいでしょうか。

≪現在の体位≫
記事画像2
(大阪市 荒井敬一 会社員 27歳)
[ベント・アーム・プルオーバー]

[ベント・アーム・プルオーバー]

A 同じ種類の運動であっても、ちょっとしたフォームの違いで効果が変ってきます。つまり、同種類の運動でもフォームが違えば、当然、運動で使われる筋の緊張度と収縮の仕方に差異が生じてきます。したがって、その分、効果の面でも多少変化が生じてくるわけです。そして、そのような傾向は、どちらかといえば単一の部位を鍛練する運動種目よりも種々の部位を鍛練する運動種目に強く見られます。では、質問順にお答えしていきます。

<1>ベント・アーム・プルオーバーは広背筋、大胸筋、上腕三頭筋等を同時に鍛練する運動であり、冒頭の説明の後者に属します。したがって、運動のフォームを変えることで、広背筋、大胸筋、上腕三頭筋等の使用筋の発達の仕方に比較的強い変化をもたらすことのできる運動であるともいえます。

 ベント・アーム・プルオーバーは先に述べた使用筋の他に、多回数で実施するときは前腕の筋にも強く効きます。そして、それら使用筋の作用の仕方と緊張の度合は、頭をベンチの上に載せた状態で運動を行うのと、頭をベンチの端から突き出して行うのとでは、効果の面でかなり差異が生じてきます。

 込みいった説明は省略しますが、頭をベンチに載せた状態で行う場合は、上腕三頭筋の緊張が強く促されるので、上腕部のバルクを増すのには有効であるといえます。しかし、広背筋と大胸筋に関しては、どちらかといえば、頭をベンチの端から出して行う方法のほうが有効であるといえます。

 つまり、頭をベンチの端から出して行う方法では、バーベルを頭越しに床の方へおろしたときに、頭をベンチに載せた状態で行う方法より胸郭が強く傾斜するので、その分広背筋と大胸筋が強く作用するようになります。

 以上、ベント・アーム・プルオーバーの二通りの方法における効果の違いについて述べましたが、念のために、運動上の注意すべきことがらについていくつか付け加えておくことにします。

※広背筋と大胸筋に十分な刺激を与えるためには、バーベルを床の方へできるだけ深くおろすようにする。

※ベント・アーム・プルオーバーは肘を痛めやすい運動なので、あらかじめ軽い重量を用いて十分にウォーミング・アップをしてから本運動に入ること。

※ベント・アーム・プルオーバーは肘だけでなく肩も痛めやすい運動である。肩を痛めないようにするためには、運動中に左右の上腕の内側が上へ向かないように留意する。つまり左右のグリップの間隔の広狭にかかわらず、左右の肘を内方へ寄せしぼるようにしてバーベルを保持する。

 なお、思うように左右の肘を内側へ寄せしぼることができず、どうしても左右の上腕の内側が上向きになってしまう人は、グリップ間隔を思いきって狭くして運動を行うようにするとよい。

<2>ベント・アーム・プルオーバーで頭部をベンチの端から出して行う場合、どのくらい頭を出したらいいのかについては、次のような点に配慮する必要があります。

※安定したフォームで運動が行えるかどうか。

※可動範囲全般にわたってスムーズな動作で運動を行うことができるか。

※頭の出し方が足りないと、たとえフォームが安定していても、上体が反りにくくなるので、スムーズな動作がしにくくなる。

※頭を出しすぎると、首が不安定になり、頭を支えるのに余分な労力が必要となるので、肝心の動作に対する集中力がそこなわれることになる。また、肩がベンチからはみ出す状態になるので、不安定な姿勢になり、運動がしにくくなる。

※以上のことがらを考慮して、具体的にどのくらい頭部をベンチから出したらよいかといえば、首を下方へ屈曲した状態で、首の最も屈曲している箇所がベンチの端に当るようにする。そして首の力を抜いて自然な感じで頭を下方へ落とすようにする。このような状態では、首が十分に反りかえり、しかも、その状態を維持するのにほとんど首の力を必要としない。

<3>現在のトレーニング・コースの運動順序は非常によくできていると思います。しかし、新たにベント・アーム・プルオーバーを加えるについては、この運動の特性をよく考慮した上で、多少いまの運動順序を変える必要もあるかと思います。

 つまり、ベント・アーム・プルオーバーの大胸筋および広背筋の運動としての有効性を考慮して、運動の順序を決める必要があるのではないかということです。

 では、上記の趣旨によって、参考までにトレーニング・コース例を作ってみることにしましょう。

≪トレーニング・スケジュール例≫

  (隔日的、週3日実施)

①シット・アップ

②ベンチ・プレス

③ラタラル・レイズ・ライイング

④ベント・アーム・プルオーバー

⑤ベント・オーバー・ローイング

⑥フロント・プレス・アンド・バック・プレス・コンビネーション

⑦ツー・ハンズ・カール

⑧リバース・カール

⑨フレンチ・プレス・スタンディング

⑩スクワット

[註]あなたの首囲は、他の部位のサイズと比較して少し細いように見受けられますので、首のための運動も行うようにされるとよいと思います。

肩甲骨の内側と上側の発達を促し、背中を逞しくしたいが

Q ボディビル歴は3年、現在は下記のスケジュールでトレーニングしていますが、上背中央部の発達が思わしくありません。広背筋はかなり発達しているのですが、肩甲骨の内側と上側の筋の発達が弱いために背が偏平に見えます。なんとかこの部分の発達を促し、背中を逞しくしたいのですが、今後どのような運動を行えばよいでしょうか。

≪トレーニング・スケジュール≫

  (2分割法で週に各2回ずつ実施)
記事画像4
≪現在の体位≫
記事画像5
(熊本県 K・M 会社員 24歳)
A 肩甲骨の上側と内側の部分には、僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋、仙棘筋などの筋があります。現在あなたが採用しておられる種目の中にも、もちろんそれらの筋を使用する種目はあります。しかし、現在の種目だけで上記の諸筋の発達を促すことができないのであれば、あなた自身も考えておられるように、それなりの手だてをこうじる必要があると思います。

 つまり、上記の諸筋の発達を促すのに、現在のように他の運動の付属的な効果に期待するのではなく、もっと直接的な効果が得られる方法を採用しなければなりません。そのためには、前記の僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋、仙棘筋などの筋を主働的に、または、付随的であっても、比較的強度に使用する運動を積極的に取り入れる必要があると思います。

 では、次にそのような運動をいくつか紹介することにしましょう。
[写真・1]インクライン・リア・ラタラル・レイズ

[写真・1]インクライン・リア・ラタラル・レイズ

◎インクライン・リア・ラタラル・レイズ[写真・1]参照

<かまえ>両手でそれぞれダンベルを持ち、インクライン・ベンチ(インクライン・ボード)にうつ伏せに寄りかかり、両腕をぶら下げるようにする。

<動作>肘をいくぶん曲げた状態で、左右の腕を横、外方へあげる。この運動は、通常は肩(とくに三角筋の後部)の種目として行われる。しかし、三角筋のためにではなく、肩甲骨の上側部と内側部のために行う場合は、腕を横へ上げる動作のときに左右の肩甲骨を意識的に内側へ寄せ動かすようにする。そのためには、いくぶん反動を使って運動を行うようにしてもよい。

<効果>僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋。

◎ベント・フォワード・ダンベル・エクササイズ

<かまえ>両手にそれぞれダンベルを持ち、上体を45度くらいに前傾させ両手を下へたらす。

<動作>上体の前傾度を45度前後に保ち、肘を伸ばしたまま両腕を前方へあげ、次いで横へ水平に移動したら逆のコースをたどってかまえの位置へおろす。運動中は掌が下へ向くように留意し、左右のダンベルをたえず水平に移動させること。

<効果>僧帽筋、肩甲挙筋、菱形筋。
[写真・2]ベント・オーバー・ラタラル・レイズ

[写真・2]ベント・オーバー・ラタラル・レイズ

◎ベント・オーバー・ラタラル・レイズ[写真・2]参照

<かまえ>両手にそれぞれダンベルをぶらさげて立ち、上体を床面と平行になるくらいまで前倒させる。

<動作>いくぶん肘を曲げた状態にして、左右の腕を真横へあげる。この場合も、インクライン・リア・ラタラル・レイズと同様に、腕を横にあげるときに左右の肩甲骨を意識的に内側へ寄せ動かすようにする。そのためには多少、反動を使うようにしてもよい。

<効果>菱形筋、肩甲挙筋、僧帽筋。

◎ベント・オーバー・ダンベル・エクササイズ[写真・3]参照

<かまえ>前項のベント・オーバー・ラタラル・レイズの場合と同じ。

<動作>肘を伸ばしたまま両腕を横へあげ、次いで横から前、前から下へと動かす。つまり、水泳のバタフライと同じような動作をいくぶんゆっくりした動きで行う。

<効果>菱形筋、肩甲挙筋、僧帽筋。

◎ラウンド・バック・デッド・リフト

<かまえ>バーベルをオーバー・グリップで持ち、立った姿勢で大腿部の前にぶらさげる。

<動作>脚は伸ばしたまま、上背部を意識的にできるだけ彎曲させるようにして、バーベルを膝のあたりまでおろし、引きあげる。腕はたえず伸ばした状態で動作を行う。

<効果>仙棘筋、僧帽筋、肩甲挙筋。グリップの間隔を広くして行う場合には菱形筋にもかなり効く。

◎リーンバック・デッド・リフト[写真・4]参照

<かまえ>バーベルを大腿部の前にぶらさげ、壁に背と臀部を当てて寄りかかる。両足は壁から30cmほど離して位置させる。

<動作>背の上部だけを彎曲させるようにして、背が壁から離れない範囲でバーベルの上下運動を行う。仙棘筋に効かすためには、バーベルを引きあげるときに、できるだけ肩の力を使わないようにする。また、上体を彎曲させたときに背を壁から離すと、仙棘筋の上部に与える効果が半減する。

<効果>仙棘筋上部、僧帽筋、肩甲挙筋。

以上、他にもハイ・クリーン、クリーン・アンド・プレス、ハイ・プルアップなど、肩甲骨の上側部と内側部に効く運動はいろいろありますが、とりあえず上述した種目の中から3種目ほど選んでトレーニングするのがよいと思います。

◇選択例1

 ①インクライン・リア・ラタラル・レイズ

 ②ベント・オーバー・ダンベル・エクササイズ

 ③ラウンド・バック・デッド・リフト

◇選択例2

 ①ベント・フォワード・ダンベル・エクササイズ

 ②ベント・オーバー・ラタラル・レイズ

 ③リーンバック・デッド・リフト
[写真・3]ベント・オーバー・ダンベル・エクササイズ

[写真・3]ベント・オーバー・ダンベル・エクササイズ

[写真・4]リーンバック・デッド・リフト

[写真・4]リーンバック・デッド・リフト

最近6ヵ月間、胸部のトレーニングに力を入れてきたがほとんど効果がないが

Q ボディビル歴は3年です。以前はジムに通っていましたが現在は勤務先のクラブでトレーニングしています。からだも自分なりに多少は見られるようになったので、今年あたりコンテストに出場してみようかと考えています。しかし、友人たちにいわせると、わたしのからだは胸の発達が弱く、筋量的にも、まだ形状的にも不足するところが多いとのことです。

 そのことについては、自分でもある程度わかっていたので、この半年ほど胸のトレーニングには最も力を入れてやってきたつもりですが、ほとんど効果が得られませんでした。ちなみに、私が最近、半年の間やってきた胸のトレーニング法は次のとおりです。

≪胸のトレーニング・メニュー≫
記事画像10
 以上ですが、トレーニングのスケジュールとしては、もちろんスプリット・ルーティーンを採用しています。そして、胸の運動と同じ日に肩の運動(4種目で合計18セット)と上腕三頭筋の運動(4種目で合計14セット)を併せて行なっています。

 また、もう一方のコースの日には、腹、脚、背、上腕二頭筋、頸、下腿等の運動(合計14種目、53セット)を行うようにしています。なお、トレーニングの頻度は、胸、肩等をAコース、腹、脚、背等をBコースとして、交互に週3回ずつ実施しています。

 トレーニング後の疲労感は、かなり強度なもので、週末になるにつれてぐったりしてきます。効果のほどは、肝心の胸を含めて全体的に低調です。いや、低調というよりもゼロといったほうがいいかも知れません。

 そこで質問します。わたしの場合、この半年の間、からだ、とくに胸部が発達しなかった原因はどこにあったのでしょうか。

 栄養の面については、バランスを考えた食事をとり、とくに蛋白質は1日に140g(体重1kg当たり約2kg)は摂るように心がけています。また、休養の面に関しては、睡眠を7~8時間はとるようにしています。そして、先月受けた健康診断の結果も、どこといって異状は認められませんでした。

 そのようなわけで、自分では、運動の効果が得られなかった原因は、やはりトレーニングのやり方にあると考えています。しかし、どこに原因があるのかは判りません。

 トレーニング上の不備な点の指摘と適切なアドバイスをお願いします。

≪現在の体位≫
記事画像11
(茨城県 S・Y 会社員 26歳)
A 一応、栄養状態と健康状態には問題ないものとして、効果の得られなかった原因をトレーニング上の問題にしぼって考えたいと思います。まず、不備な点として次の3点が考えられます。

<1>全体のトレーニング量が多すぎる

<2>トレーニングの焦点が不明確

<3>休養が不十分

 そこで、問題をもう少し掘り下げて考えてみることにしましょう。

<1>トレーニング量が多すぎる

 改めていうまでもなく、トレーニング量の適・不適は、トレーニングの週間頻度や休養などと関連して考えなければなりません。しかし、あなたの場合は、そのようなことをぬきにして考えてみても、トレーニング量が多過ぎる気がします。

 トレーニングの効果は、トレーニングによって消耗した筋組織がトレーニング前の状態に回復し、その後に超回復というかたちで得られるのです。したがって、回復と超回復に対する配慮をせずして、ただむやみやたらに運動を多く行なっても効果は得られません。

 つまり、次回のトレーニング時までに、超回復が十分可能であるように推量して運動の量を定めることが必要です。このことは、あなたのように分割法を採用し、同一種目を週3回ずつ、合計週に6回ものトレーニングを行う場合にはことさら強くいえます。

 ところであなたは、いまも触れたように、2分割法を採用して各コースを週3日ずつのトレーニングを行なっています。しかしこれは、現在のトレーニング量を考えれば、たとえ週2日ずつにしたとしてもまだ無理があるように思われます。

 したがって、この際、トレーニンの頻度はもちろんのこと、トレーニング量をも思いきって減らすことが必要ではないかと考えられます。そうすれば、胸だけでなく、全身的にも案外よい結果が得られるかもしれません。

<2>トレーニングの焦点が不明確

 あなたのトレーニング法を拝見すと、どこにトレーニングの焦点があるのか不明確で、ただからだを疲れさすために運動を行なっているのではないかとさえ感じます。

 現在のあなたの段階では、同じ日に3つもの部位を徹底的に集中トレーニングするのは少し無理があるように思われます。あなた自身は胸部のみを集中トレーニングしていると考えておられるかも知れませんが、実際には、他の部位に対してもかなり強度のトレーニングを課しているといえます。

 したがって、そのことが結果的にトレーニングの焦点をぼかしてしまうこととなり、ただいたずらに体力のみを消耗させ、部分的にも、また全身的にも効果が得られない原因になっているように考えられます。

 あなたの場合、胸部のトレーニングそのものも決して少ないとはいえないので、もちろんそのことについても検討を加える必要がありますが、まずは肩と上腕三頭筋のための運動量を現在の半分くらいまで減らしてみてはいかがでしょうか。

 なお、部分的な消耗ばかりではなく、全身的な消耗をも軽減させるためには、Bコースの運動量も少なくする必要があると思います。強度な全身的消耗は、部分的な筋の発達において当然マイナス的な要因になります。

<3>休養が不十分

 考えようによっては、あなたの場合、効果が得られなかった最大の原因はこの休養に関する認識不足にあるようにも思われます。前2項で述べたことと重複する部分もありますが、大切なことなので辛抱して読んでください。

 分割法(2分割法)を採用してもトレーニング量が少なければ、各コースを週3日ずつ行なってもさしつかえない場合もあります。しかし、ある程度からだが発達してきて、さらにその上の発達を望むようになると、トレーニングの量と強度が必然的に増加します。そして、そのようなことが繰り返されていくと、いつしか週3日ずつの頻度でトレーニングを行うのが負担になってきます。

 もちろん、中には並はずれて回復力が強いという例外もあるでしょうが、大方の場合は、各コースを週2日以内の頻度にするのが無難といえます。筋肉を早く大きくしたいと考えるのは誰しも同じでしょうが、そこをぐっとこらえて、地道にトレーニングを行うことが、よい結果につながると思います。
[回答は1959年度ミスター日本、NYE協会指導部長・竹内威先生 演技指導は平井ボディビル・センター会長・熊岡健夫先生]
月刊ボディビルディング1984年5月号

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