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やさしい科学百科 <10>
プロティンの話

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月刊ボディビルディング1984年5月号
掲載日:2021.02.08
畠 山 晴 行

<15>コラーゲンというタンパク質

 調理に詳しい人なら、骨や皮を煮るとゼラチンがとれることを知っているでしょう。このゼラチンのもとは、コラーゲンというタンパク質です。

 コラーゲンは、からだのタンパク質の約3分の1を占めています。体重によって、また、骨や筋肉の量によって差がでてきますが、成人男子で3~4kg、ビルダーなどでは5kg以上もの重量に相当するだけのコラーゲンをもっていることになります。

 コラーゲンは、細胞と細胞とを結合したり、腱や靱帯を構成したりで、全身いたるところに存在しております。

 骨にもタンパク質がある、と既刊に記しましたが、骨は約50%がコラーゲンです。カルシウムはコラーゲンをつなぐようなかっこうでくっついています。だから成長期にはタンパク質も十分でないと、あまり背が高くならないのです。

 ところで、多くのタンパク質は、糸くずをまるめたような形をしていますが、コラーゲンは繊維状で、らせん型の三つ編みになっています。

 いくつものコラーゲンは橋をわたすように結合(架橋結合)しています。老化に伴って細胞数が減ったりすると橋の部分が多くなり、これが皮膚のシワの原因になるのです。

 コラーゲンをつくるためには、グリシン、リジン、プロリンといったアミノ酸が必要ですし、またビタミンCも不可欠です。

 ビタミンC不足で、歯茎から血が出るといった現象がみられます。これもコラーゲンが十分でなく、しっかりした歯茎ができていない、といったことに起因することが多いようです。このような人は、ケガや骨折の治りも遅いはずです。

 コラーゲンの他、結合組織には、エラスチンという球状タンパクも含まれており、これによって弾力がでます。また、粘質多糖体とよばれるコンドロイチン硫酸ヒアルロン酸なども結合組織にはあります。

 最近は、美容の世界でも、本当に素肌を美しくする、という目的で栄養を重視しだしております。某大手化粧品会社では、バイオテクノロジーを使って、肌をみずみずしくするヒアルロン酸の大量生産の技術開発に成功し、近くこれを配合した製品が発売されるそうです。

 ちなみに、肌を美しくする“飲むコラーゲン”というものが販売されておりますが、液体プロティンにビタミンCを添加したようなものです。
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<16>ストレスで生じる不利

 過労や精神的苦痛で病気になることがあります。ストレスの原因は、過労ばかりでなく、痛み、極寒、心労などさまざまです。このようなストレスの原因をストレッサーと呼びます。

 ストレスが生じれば、これにうち勝つような変化が、からだの中に生じます。すなわち、副腎皮質ホルモンの製造に拍車がかかり、ストレスに対抗するのです。このとき、体タンパクは分解され、ブドウ糖に変化する、といったことが起きてきます。そして、ビタミンCなどの消費も増大します。

 はげしいトレーニングも、生体にとってはストレスです。つまり、ボディビルに限らず、あらゆるスポーツを通じて、タンパク質やビタミンC、Eなどを普通の生活をしている人以上に摂取するようにするのが賢明です。

 ところで、体タンパク分解に供給が間に合わなければ、結合組織のコラーゲンも正常域をはずれ、血管壁や内臓までもが弱化してくるのです。

 自宅で療養するよりも、入院したり温泉で骨やすめをすれば病気の治りが早い、などといったことも、ストレッサーを少なくすることに関係しているのです。

<17>酒のツマミにタンパク質

 よく、酒のツマミにはタンパク質を多く含むものを、といわれますが、これにもそれなりの理由があるのです。

 宿酔(ふつかよい)は、アルコールが分解される途中で生ずるアセトアルデヒドによるものです。アセトアルデヒドがアセチルに変り、最終的には水と炭酸ガスになるのですが、この過程がうまく進まないと酔いが残ってしまうのです。

 だから、アセトアルデヒドがさっさと処理されれば問題はないのですが、この処理のための酸化酵素を合成するのに、ナイアシン、ビタミンB2が必要となります。

 ナイアシンがタンパク質を構成するアミノ酸のひとつ、トリプトファンから体内でつくることができることはすでに記しましたが、豆や肉の中にはナイアシンそのものも多く含まれています。また、ビタミンB2を多く含む食品をあげれば、納豆、チーズ、豚肉、サンマ、大豆、ホーレン草、ピーマンなどといったところです。

 つまり、タンパク食品と呼ばれるものは、酵素の主原料となるタンパク質と、アルコール分解のためのビタミンを合わせもっている、ということなのです。

 今夜は飲まなければならない、というときには、夕方、ゆで卵を1~2個と、総合ビタミン剤でも飲んでおけば、かなりちがうはずです。また、私ばかりでなく、何人もの人の経験上、ビタミンCの効果もあるようです。これは多分、ビタミンCそのものの酸化作用によるものでしょう。

<18>タンパク質は夜つくられる

 「寝る子は育つ」の諺どおり、睡眠と成長には重要な関係があります。

 睡眠にはいると、あるパターンをくり返すことがわかっています。1パターンは約90分。ですから8時間睡眠の場合は5~6回、パターンがくり返されることになります。

 眠りにはいって最初のパターンの半ばすぎ、つまり、1時間ほど経過したときに成長ホルモンが大量に分泌されます。成長ホルモンは、子供の成長に必要なホルモンということで名付けられたものですが、成人の場合、傷の修復や筋などの体タンパクの同化の役割を担っていると言われています。

 このように、眠りにはいって1時間ほどで成長ホルモンの大量分泌があり、その後はあまり変化がないということです。だから睡眠を何回にも分けてとればよい、ということになり、事実そのような結果が報告されています。

 つまり、昼寝の効果がこのような点で認められているのです。電車のなかで眠り込んだときとか、授業中にウトウトしたときなどでも、成長ホルモンの分泌量は多少増えるそうです。

 ところで、成長ホルモンの分泌量はタンパク質摂取によっても増加する、という報告がされております。トレーニングの前にプロティン・パウダーを摂るとよい、といわれるのは、このような理由によるものでしょう。

 成長ホルモンの分泌量の増大に伴い、血中の脂肪酸濃度が高くなることもわかっています。こんなところから、プロティンは脂肪を分解する、だからプロティンを飲めばヤセる、などと言われるのかも知れません。

 しかし、皮下脂肪由来の脂肪酸が血中に多くあらわれてきたとしても、それがさらに分解されて、水と炭酸ガスにまでならなければなんにもなりません。

 もみだしだとか、つまみだしなどというヤセるための療法によっても、皮下脂肪に由来する脂肪酸が血液の中に増えてきますが、食べるだけ食べてエネルギーを使うような努力をしなければ効果のあがるわけがないでしょう。ブーメランと同じで、また、もとのサヤに納まってしまうのです。
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<16>卵を積極的に食べよう

 本誌の「日本トップ・ビルダーの食事法」をみると、ほとんどの選手が1日2~3個の卵を食べています。卵は傑出した必須アミノ酸源(つまり、良質タンパク源)であるばかりでなく、ほとんどのビタミン、ミネラル類を含んでいます。

 しかし、卵にも欠落している栄養素はあります。それはビタミンCとナイアシンです。ビタミンCは人間やサル、モルモットなどを除いた動物では、ブドウ糖を原料にして自前でつくることができるからでしょうし、ナイアシンについても、アミノ酸トリプトファンを原料として自前で合成可能だからでしょう。

 卵は次代へ船出する生命と、その栄養物質のカプセルづめのようなものです。だから、これをわざわざメニューからはずすのは損ということになります。

 私はいつも、友人知人に卵を積極的に食べるようにすすめていますが、世間には「卵はからだによくない」というようなことを、まるで常識のように言ってあるく人がおります。そのような人の言葉を信じて、卵をガマンしている人がいくらでもいるのです。

 卵は「動物性だから・・・」とか「コレステロールが多い」「酸性食品だから云々」というようなおきまりの言葉が、グリコのおまけみたいに付けられていれば、一般の人は「やっぱり卵は敬遠したほうが無難だ」などと思ってしまうのでしょう。

 特に、コレステロールを気にしすぎて、卵やイカをメニューからはずしている主婦のいかに多いことか。

 そもそもコレステロールは、私たちのからだには必要不可欠の物質で、細胞膜の構成要素に使われたり、ステロイドホルモンやビタミンDの原料となるものなのです。

 だから、われわれのからだは、つねにある程度のコレステロールを要求するのです。この要求に応えることができなければ、しっかりした細胞はできないでしょうし、ホルモン生産にブレーキがかかり、からだをうまくコントロールできなくなるではありませんか。そのために、普通の食事に含まれる量の数倍のコレステロールが肝臓で合成されているのです。

 卵にはレシチンも含まれています。レシチンの乳化作用により、コレステロールは血液に混り合って、血流を妨げないばかりでなく、組織もこれをとり込みやすくなるのです。つまり、レシチンの働きによって、われわれのからだはコレステロールを上手に使うことができるようになるのです。

 ちなみに、犬にはレシチンが多く、コレステロールが乳化しているために胆石ができないといわれています。

 昔、食品中のコレステロールが血管壁をしみ通ってアテロール変性を起こし、脳溢血の原因になるという学説がありましたが、最近の病理学では、これは否定されております。

 卵が酸性食品だというのは、卵に高圧をかけて加熱したあと脱水し、残った灰が酸性であるというところからきております。この処理によって生ずるのは硫酸で、これは含硫アミノ酸メチオニン、システインのもつ硫黄に由来するものです。

 卵が含硫アミノ酸を多くもっているということは、むしろよろこばしいことです。システインは、体内での過酸化をくいとめるバリケードになってくれるからです。
月刊ボディビルディング1984年5月号

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