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新ボディビル講座
ボディビルディングの理論と実際 <39>

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月刊ボディビルディング1984年5月号
掲載日:2021.02.08
名城大学助教授 鈴木 正之
第6章 トレーニング種目

Ⅴ.腹筋のトレーニング<その1>

 腹の筋は、中心となる腹直筋が前腹壁にあり、側腹壁には表層側を斜めに走る外腹斜筋と、深層側を斜めに走る内腹斜筋、そして後腹壁を横に走る腹横筋の4種類、6筋群によって構成されている。その他、後腹壁にある腰方形筋や3種類の小さな筋の協力も受けている。最も主働筋となる腹直筋は、強力な腱膜、すなわち腹直筋鞘につつまれ、この左右の腹直筋鞘が中央で合わされ、正中線となり、白線をつくる。

 腹直筋は恥骨より起こって上行し、第5~第9肋軟骨、および胸骨下端の剣状突起に付着している。そして腹直筋が収縮すると骨盤を引き上げるか、胸郭が引き下げられる状態、つまり体幹の前屈状態となる

 外腹斜筋は左右ともに第7~第12肋骨より起こり、斜め下方に走って恥骨の腹直筋鞘と鼠径靭帯に付着する。深層側の内腹斜筋は外腹斜筋の下にあり、骨盤の腸骨稜と腰背筋膜から起こり、外腹斜筋の下を交差して斜め上方に走って腹直筋鞘に付着する。内・外腹斜筋の左側、または右側のみが共に作用した場合は体側屈運動となり、右の外腹斜筋と左の内腹斜筋が作用した場合は、体幹の右側への捻転運動となる。

 このように、腹筋は6筋群によって構成され、体幹の前屈、側屈、捻転の運動を行うとともに、腹壁を構成して内臓を保護し、背筋群と協応して椎間板の負担を軽減し、呼吸の補助筋としても作用する。また腹筋は、横隔膜と共に腹腔内圧を高め、リフティング競技における間接的筋力発揮に寄与する。この腹腔内圧を高める作用は、排便、排尿、分娩、嘔吐などの重要な働きにも関係している。

 腹筋はこのように、身体運動時はもとより、生命の保護作用など、手足の筋肉などとは比べようもない重要な筋肉であるといえよう。そのため、腹筋のトレーニングにあたっては、縦方向、横方向、斜め方向の動きを考慮して実施することが肝要である。
記事画像1

◇腹筋運動の一般的注意事項

a.反復回数

 腹筋は各筋群の合体でもあり、しかも筋鞘、腱画、白線、靭帯などにより筋腹(筋のふくらみ)が小さく区分けされているので、背筋に比べて最大筋力が弱く、充血し難い欠点がある。そのため、トレーニングに際しては必然的にハイ・レペティション(高反復回数)となり、持久性トレーニングとなりやすい。そこで、反復回数を押えて効率的に充血させることがポイントとなるので、フォースド・レプス、マルティ・パウンデッジなどの方法や、補助器具を用いたトレーニングを採用することも考慮する必要がある。

 また、腹筋の筋走行が複雑であるので、これらの筋肉を合理的に働かせるためには、縦から、横から、上半身から、下半身からというように、種目にバリエーションをつけ、シークェンス・セットやジャイアント・スーパー・セット等の導入も必要であろう。

b.腰部にかかる負荷と傷害

 腹筋運動で最もポピュラーなのは、何といってもシット・アップとレッグ・レイズであろう。シット・アップについて、膝を伸ばして行なうか、曲げて行なうかは、議論のあるところであったが、1981年に東大関係グループの研究によって、傷害予防の意味からは膝を曲げて行なうほうがよいという見解が出された。

 この研究によれば、従来、腹筋の収縮が強まれば、腰椎への負担も減り、腰痛も起こりにくいという理論をもっていたが、中・高・大学の運動部員30名の被検者が、腹筋強化のために膝を伸ばし、足首を押えて腹筋運動をしていたことに注目し、腹筋運動の実験を次の4点にポイントを置いて行なった。

①膝を伸ばし、足首を押えない・・・大腿四頭筋負荷60%

②膝を伸ばし、足首を押える・・・・  〃    100%

③膝を曲げ、足首を押えない・・・・  〃    30%

④膝を曲げ、足首を押える・・・・・  〃    80%

 以上のように、シット・アップのやり方の違いによる腹直筋と大腿四頭筋の収縮の違いから、次のような結論が得られた。

 腹筋の収縮状況は、①がやや多かったが、残りの3ケースは大差がなかった。ところが大腿四頭筋の収縮度の高かったのが②で、最も低い③は②の3分の1程度であることがわかる。このことから、目的とする腹直筋に対する収縮力に変化がないならば、膝を曲げて行なったほうがよいということになる。とくに、筋肉や骨格の未発達な高校生以下の若い人や、腰痛持ちの人は注意して行なったほうがよい。
[東京厚生年金病院と東大体育研究室による研究より]

[東京厚生年金病院と東大体育研究室による研究より]

◎シット・アップ系の運動

 シット・アップ(Sit up)は腹筋運動の中で最もポピュラーな運動である。正しくは「シット・アップ・オン・....」と続いて呼ばれなければ、フロアーのシット・アップか、あるいはボードの上か、それともベンチの上で行なうのかわかりにくい。一般にはアブドミナル・ボード(腹筋台)を利用した運動が多く、次いでフロアーで行なうもの、ベンチで行なうものの順となる。

 ただ、いずれの方法にもそれぞれ長所と短所があり、1つの方法で複雑な腹筋運動を全てやってのけることは不可能である。ここでは<Ⅰ>アブドミナル・ボードを利用した運動、<Ⅱ>フロアーで行なう運動、<Ⅲ>ベンチを利用して行なう運動に分けて、それぞれの特色を解説していく。

 この3つの方法に共通する注意点は、手を組む位置である。基本的には負荷をつけるために頭の後ろで組むが、腹筋の弱い人や、反復過程で負荷を軽くしていく場合など、変化を求める人は、手を胸の上や体側に移行させて行なうようにするとよい。
[アブドミナル・ボード(腹筋台)]

[アブドミナル・ボード(腹筋台)]

<Ⅰ>アブドミナル・ボード(腹筋台)による腹筋運動

 アブドミナル・ボードは平板にマットとレザーを張り、足をかけるベルト型のものと、足かけがローラー型のものとがある[図参照]。ベルト型とローラー型の違い、及び特色はというと、ローラー型の方が圧倒的に使用しやすいといえる。足をベルトの下に差し込むベルト型は、角度がつくとやりにくいという欠点がある。

 それに対してローラー型は、左右からサンドイッチ型に入れるので足を固定しやすい長所がある。製品によってはローラーが廻るものもあるが、回転しない方が足を固定しやすい。また、当然のことであるが、足をかけるときにつかまるバーがついていることが条件である。ベルトの場合はバーをつけることが出来ない欠点がある。

 次に、マットとレザーがしっかりした物でないと殿部が痛くなるので、ソフトで丈夫なものを選ぶこと。現在使用しているもので具合が悪いものは、座ぶとんを殿部に敷いて行なうようにするとよい。

 最後に、ボードに角度をつける肋木であるが、この肋木がボードにおける特色を出すのである。ボードは平らであるため、腹筋(胴体)を真すぐ(180度)にしか伸ばすことができない。つまり、最大伸展位から最大収縮位までの運動が完全にできない。そのかわり、肋木によって運動角度を目的に合わせて自由に変えることができる長所がある。この長所を生かして、各人のレベル、目的に応じたトレーニング法を組むことが可能となる。

 例えば、45度でオールアウトしたら、30度に角度を下ろし、再びオールアウトするまで反復し、さらに15度に角度を下ろして運動をくり返すといった、いわゆるフォースド・レプス・セットを採用することが出来る。
[図・1]シット・アップ・オン・アブドミナル・ボード

[図・1]シット・アップ・オン・アブドミナル・ボード

≪1≫シット・アップ・オン・アブドミナル・ボード(通称:シット・アップ、初級者)[図・1]

<かまえ>ボードのローラー(またはベルト)に足をかけて軽く膝を曲げ、手を頭の後ろで組んで仰向けになってかまえる。

<動作>上体を素早く起こし、背をボードにぶつけないようにゆっくり元に戻す。

<注意点>上体を起こすときは、腹を前に出さないように留意し、胸から上体を巻き込むように起こす。戻すときはエクセントリック・コントラクション(伸張性筋収縮)を意識し、ゆっくりと倒すようにする。

 呼吸方法は、初心者やパワー・トレーニングをする人は、吸い込んで動作を開始し、フィニッシュで吐き出すようにし、上級者や腹筋のディフィニションを求める人は、呼気の状態のまま動作を行なう。つまり、腹筋を見せる状態で動作を行なう。

<作用筋>主働筋・・・腹直筋、補助筋・・・内・外腹斜筋。
[図・2]インクライン・シット・アップ

[図・2]インクライン・シット・アップ

≪2≫インクライン・シット・アップ(初級者)[図・2]

<かまえ>アブドミナル・ボードのベルトに足をかけ、軽く膝を曲げ、手を頭の後ろに組んで、仰向けになってかまえる。

<動作>上体を丸く曲げるようにして起こし、背をボードにぶつけないように、ゆっくり元に戻す。

<注意点>反復回数と肋木の高さに注意してボードの高さをセットする。傾斜角度が強くなればなるほど負荷が強くなるので、前文の一般的な注意事項で述べたように、腰を保護するため膝は必ず軽く曲げて行なうこと。その他、前項と同様に上体を巻き込むように起こし、ゆっくり倒す動作や呼吸法に注意して行なう。

<作用筋>前項同様。
[図・3]ベント・ニー・シット・アップ

[図・3]ベント・ニー・シット・アップ

≪3≫ベント・ニー・シット・アップ(初級者)[図・3]

<かまえ>山型アブドミナル・ボードのベルトに足をかけ、手を頭の後ろで組んで上体を仰向けにしてかまえる。山型ボードがない場合は、しっかりと膝を90度に曲げてかまえる。

<動作>肘を膝につけるような気持で、上体を巻き込むように起こし、ゆっくりと元に戻す。

<注意点>膝を曲げるということは、腹筋を最大限に短縮させることが出来るということを意味するので、上体の最後の曲げ込みに意識集中して行なうこと。より強い負荷を求めるときは、通常のシット・アップと同様、プレートやダンベルを頭の後ろに保持してウェイテッド・シット・アップを行ない、オールアウトしたら重量物を離して反復をくり返す。また、この動作から上体を捻り起こすニー・ベント・ツイスティング・シット・アップを行なってもよい。

<作用筋>主働筋・・・腹直筋上部、補助筋・・・内・外腹斜筋。
[図・4]インクライン・アーム・イクステンド・ベント・ニー・シット・アップ

[図・4]インクライン・アーム・イクステンド・ベント・ニー・シット・アップ

≪4≫インクライン・アーム・イクステンド・ベント・ニー・シット・アップ(初心者~上級者)[図・4]

<かまえ>アブドミナル・ボードのベルトに足をかけ、上体を仰向けに倒し、腕を伸ばしてかまえる。

<動作>腕で上体に反動をつけて起き上がり、元に戻す。

<注意点>この運動は、ニー・ベントのフォームとボードの使用有無にこだわることなく応用できる。初心者は上体を起す補助動作として、上級者はスピードを求めた上体起こしとして採用できる。また、反復継続の最後のフオースド・レプスとして行なってもよい。

<作用筋>主働筋・・・腹直筋、補助筋・・・内・外腹斜筋。
[図・5]ツイスティング・ダウン・シット・アップ

[図・5]ツイスティング・ダウン・シット・アップ

≪5≫ツイスティング・ダウン・シット・アップ(中級者)[図・5]

<かまえ>アブドミナル・ボードのベルトに足をかけ、手を頭の後ろに組み、上体を倒さずにそのままかまえる。

<動作>上体を捻りながら、ボードに対して横向きに倒したら、真すぐに起こす。

<注意点>上体を捻りながら倒していき、体側がボードに触れてから捻りを戻すように真すぐに起こしていく。捻りの感覚は、倒すときに意識的に捻り、戻すときは捻りを徐々に戻す感じで行なう。この動作を交互に行なうとオールタネット・ツイスティング・ダウン・シット・アップとなる。

<作用筋>主働筋・・・内・外腹斜筋、補助筋・・・腹直筋上部。
[図・6]ツイスティング・アップ・シット・アップ

[図・6]ツイスティング・アップ・シット・アップ

≪6≫ツイスティング・アップ・シット・アップ(中級者)[図・6]

<かまえ>ボードのベルトに足をかけ、膝を曲げ、手を頭の後ろで組んで、仰向けにかまえる。

<動作>上体を捻りながら起こし、フィニッシュで肘が反対側の膝に触れるようにする。元の姿勢に戻すときは、捻りを戻しつつ、ボードに対して真すぐに倒す。

<注意点>前項の捻り倒す方法に対して、これは捻り起こす方法である。捻り起こす目安は、右肘が左膝(または左肘が右膝)に触れるまでを基本とし、片側ずつ連続して行なう方法と、左右交互に行なうオールタネット・ツイスティング・アップ・シット・アップがある。かまえの姿勢に戻る方法はこれまでのものと同じように注意する。

<作用筋>主働筋・・・内・外腹斜筋補助筋・・・腹直筋。
[図・7]オールタネット・ダブル・ツイスティング・シット・アップ

[図・7]オールタネット・ダブル・ツイスティング・シット・アップ

≪7≫オールタネット・ダブル・ツイスティング・シット・アップ(通称:ダブル・シット・アップ、上級者)[図・7]

<かまえ>ボードのベルトに足をかけたら、上体を捻って倒し、体側がボードにつくようにかまえる。

<動作>捻られた上体と反対側の膝に肘が触れるように捻り起こす。次いで、捻られたままの上体をそのまま倒し反対側に捻り起こす。

<注意点>前項と前々項のツイスティング・ダウンとツイスティング・アップを合わせたツイスティン・シット・アップ運動である。反復のリズムは、上体で8の字を書くように捻りを連続して行なう。負荷の調節には、他のシット・アップ運動と同様、ボードの角度と手を置く位置によって変化をつける。

<作用筋>前項同様。
[図・8]ウェイテッド・ツイスティング・ダウン・シット・アップ

[図・8]ウェイテッド・ツイスティング・ダウン・シット・アップ

≪8≫ウェイテッド・ツイスティング・ダウン・シット・アップ(上級者)[図・8]

<かまえ>ボードのベルトに足をかけ、プレートまたはダンベルを頭の後ろに保持してかまえる。

<動作>上体を捻りながら上体がボードに触れるまで倒したら、捻られた上体を元に戻すようにして真すぐに起こす。交互に行なえばオールタネットのウェイテッド・ツイストになる。

<注意点>重量物を保持して行なうこのウェイテッドの方法を、他の運動の中に取り入れて行なうことが出来るので、前項までのツイスティング・ダウンやツイスティング・シット・アップ、オールタニットやニー・ベントなどの中にも採用するとよい。捻り動作を入れることにより、腹直筋と外腹斜筋のセパレーツ(区分)がはかれるので、上級者になればなるほど積極的に取り入れるようにする。

<作用筋>主働筋・・・内・外腹斜筋、補助筋・・・腹直筋。
[図・9]サイド・シット・アップ

[図・9]サイド・シット・アップ

≪9≫サイド・シット・アップ(中級者)[図・9]

<かまえ>ボードのベルトを足をかけ、上体を横向きにねかしてかまえる。

<動作>上体の向きを横向きにしたまま上体を起こす。

<注意点>この運動は捻り起こしではなく、横向き起こしである。左肘が左膝に触れるように上体を起こしたら、再び同一方向の横向きに上体を倒す。片方がオールアウトしたら、その反対側を同じように行なう。手を頭の後ろで組むとボードに肘が当ってやりにくい場合があるので、手は胸の前で組むとよい。この場合は負荷が軽くなるが、その分はプレートなどを保持してやればよい。

<作用筋>主働筋・・・内・外腹斜筋補助筋・・・腹直筋上部。
月刊ボディビルディング1984年5月号

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