食事と栄養の最新トピックス54
月刊ボディビルディング1985年8月号
掲載日:2021.06.29
ヘルスインストラクター 野沢秀雄
食生活赤信号<19>
カルシウムはだいじょうぶか?
1.12万円も損した!
本シリーズを連載中に多くの方々より「○○を使ってみたが無駄だった」「△△を使おうと思うがどうだろうか?」という相談を受けている。圧倒的に多いのが「背が高くなる」という宣伝をしている会社に対する苦情だ。
手紙や電話による被害数や、「そんな製品を買ってもムダだ」とアドバイスした数は実に多い。
その一例として東京都武蔵村山市から寄せられたAさん(17才・高校生)の手紙を本人の承諾を得て紹介してみよう。
「僕は幼稚園の頃から背が低く、並ぶ順番は一番前でした。小学6年の時に1年間で12cm伸び、喜んでいたのですが、中学に入るとまた伸びなくなりました。中学入学当時は145cmで、3年間で10cm伸び、卒業時は155cmで女の子並みです。高校に入学して現在までに1cmしか伸びていません。現在156cmくらいです。入学した時は僕より2cm低かった人が運動部に入っているわけでもないのに今は167cmになっているんです。『お前は伸びねえな』とクラスの仲間に言われるたびに『うるせえ、余計なお世話だ』なんてヘラヘラ笑っていますが、心の中では涙が出て来そうなぐらい悔しいです。
僕の家族は父が170cmで人並みの身長ですが、母が138cmと非常に小さいのです。そして兄弟3人とも母に似たようで、21歳の兄は158cm、14歳の妹が139cm、そして17歳の僕が156cmです。兄が高校時代に『背が伸びないのはお母さんの遺伝だからだ』とよく母に八ツ当りしており、今の僕も母に抵抗して困らしています。
今までに色々な通信販売の商品を試してきましたが何ひとつ効果がありません。簡単な運動で伸びるものとか、飲むだけで伸びるものとか、金額にしたら間違いなく12万円ぐらいは使いました。
どうせ効果は無いと思っていても、身長のことで傷ついた時や、街を歩いていて可愛いい女の子がいても、背が低いために声をかけられなかった時、久しぶりに小学校・中学校の友人と会った時など、背が普通以上にある者にはわからない悔しいことが多くあるのです。こんな心理状態で広告を見たときに「今度こそは絶対!」とワラをもつかむ気持で申込んでしまいます。
現在も日本ノイホルムという会社の「ニューハイゲッター」という訳のわからない錠剤を8800円もかけて飲んでいますが、効果はまるでありません」
2.ターミネーターのようにねばる
ちょうどタイミングよく、5月28日警視庁保安二課と目白署が「ハイセボン」というカルシウム食品を「筋肉モリモリ、背が伸びる」と誇大広告をして販売していた業者を摘発し、逮捕したというニュースが流された。
調査によると1びん60錠入り4800円の製品を「日本メールプラザ」「日本伸長研究所」の名前で2年間に26万本も売り、9億円もの利益をあげていたという。
広告は「少年ジャンプ」「サンデー」「マガジン」などの漫画誌や、スポーツ・芸能・オート関係の雑誌に1ページの大きなスペースをとり、「1日1粒で伸ばせるだけ伸びる」「20才すぎた人も伸びる」とうたいあげていた。この広告をみて申し込んだ大半は小・中学生と高校生で「背がこれで高くなれる」と言う夢を食いものにしていたわけだ。
筆者自身、この広告がひどいことを知り、何度か厚生省や都庁に広告のコピーを送り、善処を要望したことがあった。ところが「実際に被害にあった人が訴えないと取締りの対象にならない」とかで、とりあげられないまま、2年、3年と経過してしまった。この間に涙を流した人たちはどの位いたことだろう。
相談に来た人の代理で、「スーパースターになれる!」と誇大広告していた日本ノイホルムに電話をかけたことがある。「本当に伸びるのですか?」という問に対して、「薬ではないので伸びる人と伸びない人がいる。全然伸びない人もいる。その割合は教えられない」という返事。
そこで、「広告を見たら誰でも伸びると思うのが当然だ。責任者はどなたですか?」と問い詰めたところ「絹田という者ですが、この手の問合せには社長は答えられません。ガチャン」と切られてしまった。
成長因子CGF配合――と広告にのっているが、CGFとはクロレラが含んでいる成分で、藻類の細胞分裂が早い理由とされている。だがCGFが人間の背に関係するなんて考えられない。「データはあるのか?」という問に対して、「実験はしていません」と無責任な答え。広告に名前をのせられた教授は知らないうちに名前を使われていたとのこと。ひどすぎる。
問題は「ハイセボン」や「ハイグッター」だけではない。同類の会社が十数社あり、同一製品を名前だけ変えたり、同一人間が会社名・所在地を変えて販売を続けている。
新聞やTVの報道によると、被害者の訴えをもとに警察が何回か警告をしたが、そのたびに無視して販売を続けている。警告が重なると名前や場所を変えて、平気で注文をとって営業をつづけている。もっとも驚いたことは、TBSが「社長逮捕」の2~3日後に、日本メールプラザを訪れたら、会社は堂々と営業をつづけており、電話注文を受け付けたり、忙しそうに発送をしていたという。
まるでアーノルド主演の「ターミネーター」のように、しつっこい。こんな悪らつな業者は「会社解散」させるくらいの権限が必要だ。
3.背が伸びる原理
以前に本誌に何度か発表したことがあるが、身長が伸びるのは「成長ホルモン次第」なのである。10代前半までに男女とも成長ホルモンが盛んになる。16才をすぎたら、5cm、10cmと伸びることは不可能と考えたほうがよい。
また骨の成分はカルシウムだけではない。水分とタンパク質が全体の約60%を占める。残り約40%が無機質で、石灰が主成分である
。詳しくいうと、リン酸カルシウムが85%、炭酸カルシウム10%、リン酸マグネシウム1.5%という構成になる。
幼児の骨は有機質(ニカワ質)に富み、弾性があって骨折しにくいが、老人の骨は無機質が多くなり、骨折しやすいと言われている。
成長期は骨細胞の新陳代謝が盛んである。とくに手足の長骨の両先端では植物の新芽のように細胞が次々と生れて、上下に骨を長くしている。この成長期に適度な栄養(たんぱく質・カルシウム・リン等)と適度な運動、適度な日光浴(ビタミンD活性化)をすれば、両親の遺伝の要素を超えて、背はぐんぐん伸びてゆく。
私が直接指導した例として、小学生までクラスの最前列だったMY君が、たんぱく質中心の食事法とトレーニングにより、大学入学時に178cmもの長身の青年に成長した。母親は143cmの小柄な人である。
このように成長期に適した処置をしていれば、確かに背は伸びてゆく。だが両骨端にある成長線が、性ホルモンのために停止し、灰化していると、どんな食事をとり、どんなトレーニングをしても、本当の背は伸びない。
ただし、運動により、脊柱や首の頸椎が伸びて1cmくらいなら高くなることはありえる。S字型がシャンと伸びるだけにすぎないが……。
本シリーズを連載中に多くの方々より「○○を使ってみたが無駄だった」「△△を使おうと思うがどうだろうか?」という相談を受けている。圧倒的に多いのが「背が高くなる」という宣伝をしている会社に対する苦情だ。
手紙や電話による被害数や、「そんな製品を買ってもムダだ」とアドバイスした数は実に多い。
その一例として東京都武蔵村山市から寄せられたAさん(17才・高校生)の手紙を本人の承諾を得て紹介してみよう。
「僕は幼稚園の頃から背が低く、並ぶ順番は一番前でした。小学6年の時に1年間で12cm伸び、喜んでいたのですが、中学に入るとまた伸びなくなりました。中学入学当時は145cmで、3年間で10cm伸び、卒業時は155cmで女の子並みです。高校に入学して現在までに1cmしか伸びていません。現在156cmくらいです。入学した時は僕より2cm低かった人が運動部に入っているわけでもないのに今は167cmになっているんです。『お前は伸びねえな』とクラスの仲間に言われるたびに『うるせえ、余計なお世話だ』なんてヘラヘラ笑っていますが、心の中では涙が出て来そうなぐらい悔しいです。
僕の家族は父が170cmで人並みの身長ですが、母が138cmと非常に小さいのです。そして兄弟3人とも母に似たようで、21歳の兄は158cm、14歳の妹が139cm、そして17歳の僕が156cmです。兄が高校時代に『背が伸びないのはお母さんの遺伝だからだ』とよく母に八ツ当りしており、今の僕も母に抵抗して困らしています。
今までに色々な通信販売の商品を試してきましたが何ひとつ効果がありません。簡単な運動で伸びるものとか、飲むだけで伸びるものとか、金額にしたら間違いなく12万円ぐらいは使いました。
どうせ効果は無いと思っていても、身長のことで傷ついた時や、街を歩いていて可愛いい女の子がいても、背が低いために声をかけられなかった時、久しぶりに小学校・中学校の友人と会った時など、背が普通以上にある者にはわからない悔しいことが多くあるのです。こんな心理状態で広告を見たときに「今度こそは絶対!」とワラをもつかむ気持で申込んでしまいます。
現在も日本ノイホルムという会社の「ニューハイゲッター」という訳のわからない錠剤を8800円もかけて飲んでいますが、効果はまるでありません」
2.ターミネーターのようにねばる
ちょうどタイミングよく、5月28日警視庁保安二課と目白署が「ハイセボン」というカルシウム食品を「筋肉モリモリ、背が伸びる」と誇大広告をして販売していた業者を摘発し、逮捕したというニュースが流された。
調査によると1びん60錠入り4800円の製品を「日本メールプラザ」「日本伸長研究所」の名前で2年間に26万本も売り、9億円もの利益をあげていたという。
広告は「少年ジャンプ」「サンデー」「マガジン」などの漫画誌や、スポーツ・芸能・オート関係の雑誌に1ページの大きなスペースをとり、「1日1粒で伸ばせるだけ伸びる」「20才すぎた人も伸びる」とうたいあげていた。この広告をみて申し込んだ大半は小・中学生と高校生で「背がこれで高くなれる」と言う夢を食いものにしていたわけだ。
筆者自身、この広告がひどいことを知り、何度か厚生省や都庁に広告のコピーを送り、善処を要望したことがあった。ところが「実際に被害にあった人が訴えないと取締りの対象にならない」とかで、とりあげられないまま、2年、3年と経過してしまった。この間に涙を流した人たちはどの位いたことだろう。
相談に来た人の代理で、「スーパースターになれる!」と誇大広告していた日本ノイホルムに電話をかけたことがある。「本当に伸びるのですか?」という問に対して、「薬ではないので伸びる人と伸びない人がいる。全然伸びない人もいる。その割合は教えられない」という返事。
そこで、「広告を見たら誰でも伸びると思うのが当然だ。責任者はどなたですか?」と問い詰めたところ「絹田という者ですが、この手の問合せには社長は答えられません。ガチャン」と切られてしまった。
成長因子CGF配合――と広告にのっているが、CGFとはクロレラが含んでいる成分で、藻類の細胞分裂が早い理由とされている。だがCGFが人間の背に関係するなんて考えられない。「データはあるのか?」という問に対して、「実験はしていません」と無責任な答え。広告に名前をのせられた教授は知らないうちに名前を使われていたとのこと。ひどすぎる。
問題は「ハイセボン」や「ハイグッター」だけではない。同類の会社が十数社あり、同一製品を名前だけ変えたり、同一人間が会社名・所在地を変えて販売を続けている。
新聞やTVの報道によると、被害者の訴えをもとに警察が何回か警告をしたが、そのたびに無視して販売を続けている。警告が重なると名前や場所を変えて、平気で注文をとって営業をつづけている。もっとも驚いたことは、TBSが「社長逮捕」の2~3日後に、日本メールプラザを訪れたら、会社は堂々と営業をつづけており、電話注文を受け付けたり、忙しそうに発送をしていたという。
まるでアーノルド主演の「ターミネーター」のように、しつっこい。こんな悪らつな業者は「会社解散」させるくらいの権限が必要だ。
3.背が伸びる原理
以前に本誌に何度か発表したことがあるが、身長が伸びるのは「成長ホルモン次第」なのである。10代前半までに男女とも成長ホルモンが盛んになる。16才をすぎたら、5cm、10cmと伸びることは不可能と考えたほうがよい。
また骨の成分はカルシウムだけではない。水分とタンパク質が全体の約60%を占める。残り約40%が無機質で、石灰が主成分である
。詳しくいうと、リン酸カルシウムが85%、炭酸カルシウム10%、リン酸マグネシウム1.5%という構成になる。
幼児の骨は有機質(ニカワ質)に富み、弾性があって骨折しにくいが、老人の骨は無機質が多くなり、骨折しやすいと言われている。
成長期は骨細胞の新陳代謝が盛んである。とくに手足の長骨の両先端では植物の新芽のように細胞が次々と生れて、上下に骨を長くしている。この成長期に適度な栄養(たんぱく質・カルシウム・リン等)と適度な運動、適度な日光浴(ビタミンD活性化)をすれば、両親の遺伝の要素を超えて、背はぐんぐん伸びてゆく。
私が直接指導した例として、小学生までクラスの最前列だったMY君が、たんぱく質中心の食事法とトレーニングにより、大学入学時に178cmもの長身の青年に成長した。母親は143cmの小柄な人である。
このように成長期に適した処置をしていれば、確かに背は伸びてゆく。だが両骨端にある成長線が、性ホルモンのために停止し、灰化していると、どんな食事をとり、どんなトレーニングをしても、本当の背は伸びない。
ただし、運動により、脊柱や首の頸椎が伸びて1cmくらいなら高くなることはありえる。S字型がシャンと伸びるだけにすぎないが……。
カルシウムを多く含む食品(一食分)
4.カルシウムの良否
それではなぜ、カルシウムを主成分にした製品が大小各社から発売されているのだろうか?
カルシウムは日常の食生活で最も不足しやすい栄養素である。毎年厚生省が実施している「国民栄養調査」で、所要量を満たしていないという項目はカルシウムだけである。牛乳や小魚、スキムミルク、チーズ等を愛用している人はよいが、平均的日本人は現実にカルシウムが不足している。これを補うために栄養補助食品が発売されている。
骨や歯はカルシウムが重要な成分であるが、筋肉や血管、血液、内臓などと同様に、骨も毎日毎日古い細胞と新しい細胞が入れ替っている。成長期を過ぎたあとも骨のサイズは変化する。適度なトレーニングで筋肉を鍛えていれば同時に骨も太くなる。長くはならないがガッチリした体つきに生れ変わることができる。
筋肉の新陳代謝が約80日で1/2の細胞が交替するのに対し、骨は約200日かかる。見かけ上の筋肉の変化は3~6ヵ月で達成されるが、骨は1年~2年という長い経過で判断しなくてはならない。だが必ず骨格も変化する。
カルシウムは血液や体液に溶けて、カルシウムイオンとなり、アルカリ性体質をつくる。精神のイライラをおさえ、安眠させる作用を持つ。また、ケガなどで出血したときに、血を固めて凝固させる。また運動神経がすばやく伝達される際に関係する。
以上のほかにも、カルシウムの役割はいろいろある。したがって適切なタイミングにより、カルシウム食品で補給することに一応の意義はある。
ところで新聞記事のように、カルシウム源にもいろいろあり、吸収率が悪くて利用されない製品も多い。
ボーン・ミールと呼ばれる牛骨や豚骨を高温で灰化した粉末は一般に人体への吸収率が悪い。また鉱物質のものや貝殻から得たカルシウム粉末も吸収率が悪い。魚の骨は大体良好と言われている。
だが、実はカルシウム源として使用する際のプロセス次第で、吸収率が変化することが判明した。低温で時間をかけて粉末にすると吸収率がよい。
カルシウムの体内利用に関して、内外で有名な五島孔郎東京農大教授が、ネズミを用いて、体内吸収率と体重増加の実験をおこなったところ、特殊なプロセスで得た骨カルシウムは81%もの吸収率を示した。牛乳のカルシウムが約50%、野菜に含まれるカルシウムが20~30%であるのと比べて、たいへん優秀で、同時に体のサイズが大きくなり、体重が増すことも確認された。
このように良心的な動物実験をおこなって、データに基づいて発売する会社ならよいが、現実には商売だけの儲け主義者が市場に参入して、いかがわし売り方をしている。まったく嘆かわしいことだ。
5.だまされないために
世界的にみて、平均身長が高い北欧や英国・アメリカで177~179cmくらい。日本は現在170cmを超えたくらいである。この20年間に国民の平均身長は6cmくらい伸びたが、栄養状態の変化と西洋式のテーブルにイスの生活によるものとされている。
また体の発達は年々若年化しており男性では15~16才、女性では13~14才で背はほぼ伸びなくなる。射精や初潮を体験する年令が早くなっている事実と関係が深い。
男性、女性とも小学生後半から中学1年生にかけて伸びが大きい。この年令くらいにカルシウムや高タンパク食品をとり、適度に骨端を刺激するトレーニングをするとよい。
16才を過ぎた人は残念ながら身長はあきらめたほうが賢明である。そのかわり、筋肉は男性ホルモンが活発化するにつれ、トレーニングに応じてモリモリ発達しやすい。
ところで広告にひっかからないための原則をぜひ述べておきたい。
①20才すぎても伸びるかのように広告している製品はウソ
5cmも10cmも伸びることはない。事実なら学会に報告してもらいたい。
②動物実験などのデータがとってない製品はダメ。その製品を用いて本当に効果があるかどうか、客観的な数字を示してもらいたい。
③「“飲むだけで伸びる”なんてあり得ない。薬ではないので……」と業者は質問に対してハッキリ答えながら、広告は薬のように効くとPRしている。おかしい。
④そもそも薬事法では「体重増加」「やせる」「脂肪がとれる」などの表現を禁じている。それなのに何と安易に広告や説明書、製品のレーベルまで堂々と書かれていることか!
⑤うかつに載せられる消費者にも落度があるが、こんな広告をのせる雑誌や新聞にも道義的な責任がある。広告料が収入になるため、内容はろくにチェックせずにのせることは、読者の迷惑になるわけだ。世論はマスコミ側も追及する事態になっている。しっかりしてもらいたい。
⑥最後に「飲むだけで筋肉がつく」というプロティンの広告が朝日新聞にのっていた。これはどうしたことだろう?
ボディビルを経験した者ならわかるが、ウェイトを荷したトレーニングを継続して実行しないと筋肉がつくことは決してない。「飲むだけで」という安易な方法はない。ステロイドホルモンのような危険な薬物でさえ、飲むだけでは目的は達成されない。
鍛えた筋肉が価値を持つのは、きびしいトレーニングを自分に課し、コツコツつくりあげるからだ。イージーに成果だけを望んでも夢は破られるだけにすぎない。
あくまでも基本になるトレーニングと食事法を積みかさねて、人びとに尊敬される体をつくってほしいと願うのみである。
それではなぜ、カルシウムを主成分にした製品が大小各社から発売されているのだろうか?
カルシウムは日常の食生活で最も不足しやすい栄養素である。毎年厚生省が実施している「国民栄養調査」で、所要量を満たしていないという項目はカルシウムだけである。牛乳や小魚、スキムミルク、チーズ等を愛用している人はよいが、平均的日本人は現実にカルシウムが不足している。これを補うために栄養補助食品が発売されている。
骨や歯はカルシウムが重要な成分であるが、筋肉や血管、血液、内臓などと同様に、骨も毎日毎日古い細胞と新しい細胞が入れ替っている。成長期を過ぎたあとも骨のサイズは変化する。適度なトレーニングで筋肉を鍛えていれば同時に骨も太くなる。長くはならないがガッチリした体つきに生れ変わることができる。
筋肉の新陳代謝が約80日で1/2の細胞が交替するのに対し、骨は約200日かかる。見かけ上の筋肉の変化は3~6ヵ月で達成されるが、骨は1年~2年という長い経過で判断しなくてはならない。だが必ず骨格も変化する。
カルシウムは血液や体液に溶けて、カルシウムイオンとなり、アルカリ性体質をつくる。精神のイライラをおさえ、安眠させる作用を持つ。また、ケガなどで出血したときに、血を固めて凝固させる。また運動神経がすばやく伝達される際に関係する。
以上のほかにも、カルシウムの役割はいろいろある。したがって適切なタイミングにより、カルシウム食品で補給することに一応の意義はある。
ところで新聞記事のように、カルシウム源にもいろいろあり、吸収率が悪くて利用されない製品も多い。
ボーン・ミールと呼ばれる牛骨や豚骨を高温で灰化した粉末は一般に人体への吸収率が悪い。また鉱物質のものや貝殻から得たカルシウム粉末も吸収率が悪い。魚の骨は大体良好と言われている。
だが、実はカルシウム源として使用する際のプロセス次第で、吸収率が変化することが判明した。低温で時間をかけて粉末にすると吸収率がよい。
カルシウムの体内利用に関して、内外で有名な五島孔郎東京農大教授が、ネズミを用いて、体内吸収率と体重増加の実験をおこなったところ、特殊なプロセスで得た骨カルシウムは81%もの吸収率を示した。牛乳のカルシウムが約50%、野菜に含まれるカルシウムが20~30%であるのと比べて、たいへん優秀で、同時に体のサイズが大きくなり、体重が増すことも確認された。
このように良心的な動物実験をおこなって、データに基づいて発売する会社ならよいが、現実には商売だけの儲け主義者が市場に参入して、いかがわし売り方をしている。まったく嘆かわしいことだ。
5.だまされないために
世界的にみて、平均身長が高い北欧や英国・アメリカで177~179cmくらい。日本は現在170cmを超えたくらいである。この20年間に国民の平均身長は6cmくらい伸びたが、栄養状態の変化と西洋式のテーブルにイスの生活によるものとされている。
また体の発達は年々若年化しており男性では15~16才、女性では13~14才で背はほぼ伸びなくなる。射精や初潮を体験する年令が早くなっている事実と関係が深い。
男性、女性とも小学生後半から中学1年生にかけて伸びが大きい。この年令くらいにカルシウムや高タンパク食品をとり、適度に骨端を刺激するトレーニングをするとよい。
16才を過ぎた人は残念ながら身長はあきらめたほうが賢明である。そのかわり、筋肉は男性ホルモンが活発化するにつれ、トレーニングに応じてモリモリ発達しやすい。
ところで広告にひっかからないための原則をぜひ述べておきたい。
①20才すぎても伸びるかのように広告している製品はウソ
5cmも10cmも伸びることはない。事実なら学会に報告してもらいたい。
②動物実験などのデータがとってない製品はダメ。その製品を用いて本当に効果があるかどうか、客観的な数字を示してもらいたい。
③「“飲むだけで伸びる”なんてあり得ない。薬ではないので……」と業者は質問に対してハッキリ答えながら、広告は薬のように効くとPRしている。おかしい。
④そもそも薬事法では「体重増加」「やせる」「脂肪がとれる」などの表現を禁じている。それなのに何と安易に広告や説明書、製品のレーベルまで堂々と書かれていることか!
⑤うかつに載せられる消費者にも落度があるが、こんな広告をのせる雑誌や新聞にも道義的な責任がある。広告料が収入になるため、内容はろくにチェックせずにのせることは、読者の迷惑になるわけだ。世論はマスコミ側も追及する事態になっている。しっかりしてもらいたい。
⑥最後に「飲むだけで筋肉がつく」というプロティンの広告が朝日新聞にのっていた。これはどうしたことだろう?
ボディビルを経験した者ならわかるが、ウェイトを荷したトレーニングを継続して実行しないと筋肉がつくことは決してない。「飲むだけで」という安易な方法はない。ステロイドホルモンのような危険な薬物でさえ、飲むだけでは目的は達成されない。
鍛えた筋肉が価値を持つのは、きびしいトレーニングを自分に課し、コツコツつくりあげるからだ。イージーに成果だけを望んでも夢は破られるだけにすぎない。
あくまでも基本になるトレーニングと食事法を積みかさねて、人びとに尊敬される体をつくってほしいと願うのみである。
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