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食事と栄養の最新トピックス55

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月刊ボディビルディング1985年9月号
掲載日:2021.07.15
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

食生活赤信号<最終回>
スポーツドリンクはだいじょうぶか?

1.あい変らず人気が高い

 スポーツ生理学の研究から誕生したスポーツドリンク。今から約5年前に「ゲータレード」「ポカリスエット」「リガッツ」「NCAA」「アクエリアス」など各社から一斉に発売され、たちまち若者の人気商品になった。

 いずれも「体内へ早く吸収されるアイソトニック飲料」と強調しており、汗で流れた水分を補給したり、のどの乾きをいやしたり、ファッショナブルなボトルがカッコ良かったり、時代にマッチしていたといえる。

 実際に従来の炭酸飲料は糖分が全体の10~12%も含まれており、甘さがベタベタ残るので、太りすぎになる心配があった。スポーツドリンクの糖分は約半分の5~6%に抑えられている。「最初はピンボケのような薄い味で物足りないと感じたが、慣れてくるとこの方が多く飲める」と好評だ。

 ボディビル・ジムにも自動販売機が置いてあり、1日に2~3缶飲むビルダーも珍らしくない。ある高校の修学旅行では1日に3~4缶飲む生徒が平均的で、最高1日に8缶も買って飲む男子生徒がいたという。

 こんなに普及しているスポーツドリンクだが、せっかく良い成分が含まれていても使い方が悪いと効果が半減する。また各社のスポーツドリンク間で成分が相当にちがっている。今月はスポーツドリンクを研究してみよう。

2.スポーツドリンクの原理

 スポーツをすれば筋肉が熱を発生するので、体温が上昇する。体温を一定の36~37℃に保つために汗が流れて蒸発熱をうばう。その結果、水分が多量に失われ、のどが乾く。水を飲むと吸収性がよくないので胃にもたれ、体が重くなりバテる。そのため「運動中は水を飲むな」と昔から言われていた。

 だが、現実に水分が2l~3l失われるのがスポーツやトレーニングの宿命である。水を飲まないで炎天下でランニングを行ない、熱射病で倒れて死亡する例がたびたびニュースで報道されている。

 水の吸収はそんなに悪いだろうか?下表にコップ1杯(200cc)の液体を飲んだ時、胃内に何時間くらい残るか一例を示す。
<表1>液体200㏄の胃内停滞時間

<表1>液体200㏄の胃内停滞時間

 以前に述べたが、アルコールや炭酸飲料は胃から直接体内へ吸収されるので、停滞時間は短い。夏の熱い時やスポーツや入浴のあと「ビールがうまい」「コーラが一番」と誰でも感じるが、確かに吸収が早いのである。

 では水分はどこで吸収されるかというと、胃→小腸→十二指腸→大腸と長い時間をかけて大腸に達してから主に吸収される。「満腹になるとポコンと腹が出る」というタイプの人は若者より中高年者に多いが、食事中に水分をオーバーに取ることと関係が深い。

 「水を吸収しやすくするにはどうすれば良いか?」「かつおぶしのスープが吸収されやすいのはなぜか?」という研究が続けられた結果、人体の体液に類似した組成とイオン濃度になったとき、スムーズに短時間で吸収されることが判明した。

 つまり、食塩の成分であるナトリウム、塩素、そして海水に含まれるマグネシウムやカリウム、これらミネラル成分を体液や海水と同じにする研究が各社でおこなわれた。

 もちろん手本になったのはアメリカのゲータレード。この粉末飲料はすでに1969年(昭和44年)にバスケットやフットボールの選手を対象として発売されていたのである。これを基本に日本の各社で配合を研究し、いっせいに新製品を開発したわけだ。

3.本当に効果があるのか?

 筆者自身、某社の製品開発に際し、人体実験をおこなったことがある。水だけを基本として、3~4種類のスポーツドリンクを飲み、何時間後に尿量がどう変化するかを測定した。その結果、確かに水だけより、短時間に尿量が増えることが判明した。ただし、実験条件を同一温度、同一湿度、同一運動量、同一食事量と定めることが困難をきわめる。また、複数の人間では個人差が大きい。傾向として水を100とすると、70~80位の効果と思われる。

 ところで大塚製薬のポカリスエットは「アルカリ性飲料」「アイソトニック飲料」とTVや新聞で派手に広告を流している。これに対して東京都消費者生活センターなどが成分含有量の検査をおこなったところ、広告ほどは効果が期待されないことが判明している。そして今年に入って「不当表示」と判定され、広告から「アルカリ性飲料」という表示をはずしている。

 スポーツマンの元締めである体協でも、科学委員会のメンバーたちが大学の研究機関で「スポーツドリンクは本当に効果があるのか?」と追及を続けている。断片的に報道されるニュースでは「ある程度の効果はあるが過信しすぎるのは良くない」といわれる。また一部の学者は「水だけ飲んでいれば充分。大きな差はない」と断定している。

 それどころか「炭酸が含まれているスポーツドリンクは、体内で膨満感を与える。血液を酸性化する。スポーツ選手には不向きだ」と逆効果を説える人さえいる。したがって炭酸入りのスポーツドリンクは下火になっている。

 筆者は缶入りジュースやコーラに比べればスポーツドリンクはビタミンやミネラルが配慮されており、決して悪くはない、と考えている。前述のように糖分が少ないので太りすぎの心配も少ない。吸収が良いので早く栄養になり疲労回復が期待できる。とくに中高生はビールやしょうちゅうを飲めないので、代りにスポーツドリンクでのどの乾きをいやすのは結構と判断している。

 ただし、各社の精神がどれも良いというわけではない。<表2>のように同じ1缶100円でありながら、含まれる成分に差が大きい。同じ飲むなら栄養素のバランスを考えて、体に良い物をすすめたい。
<表2>主要スポーツドリンク比較表(東京都消費生活センター資料より)

<表2>主要スポーツドリンク比較表(東京都消費生活センター資料より)

4.スポーツドリンクの利用法
 <表2>には参考のために、粉末を溶かして使用するタイプや炭酸入りのスポーツドリンクも示してある。これらの検査結果はいずれも東京都消費生活センターが昭和57年11月に発表したものである。

 その後、メーカー側で手直しをした部分もあるが、内容が良い製品はサントリーNCAAがトップ、ポカリスエットやゲータレードはやや落ちる。表にはないがアクエリアスはポカリスエットとほぼ同等と考えられる。

 さて、せっかくのスポーツドリンクを「プロテインを溶かして飲む」「ジュースとまぜて飲む」「しょうちゅうやウイスキーで割って飲む」という使い方をする人がいる。これらスポーツドリンクはちょうど体液を海水と同じになるように微量成分を調整して、缶につめてある。粉末なら正規に表示された量を示されている水に溶かして始めて本来の効果を発揮する。

 それなのに他の物質をまぜたりすると、バランスがこわされる。その結果、体内への吸収が遅くなり、のどの乾きがいやされなくなる。飲むならストレートで、そのまま飲むのが正解である。

 「そうではなく一時的に腹がへったので素早く栄養補給をしたい」という人は、糖分の多いオレンジジュースや一般のドリンク剤を飲むとよい。その方がカロリーが高いので栄養補給に効果がある。スポーツドリンクはあくまでも汗で流れた水分やミネラルを早く補給し、のどの乾きをいやすための製品である。

5.本シリーズの終りにあたり

 これまで20回にわたり、ビルダーが口にすることが多い食品について、良い食べ方・悪い食べ方を述べてきた。スポーツフーズとして発表されている中に、いかがわしい製品も結構多い。「脂肪をカットするレシチンカプセル」「飲むだけで身長がのびるカルシウム」「飲むだけで筋肉がつくプロティン」などなど、データひとつ無いのに悪質な販売をし、消費者を泣かせる業者が後をたたない。

 結局は自分たちで正しい判断力をつけて、いい加減なキャッチフレーズに乗らない覚悟が大切である。金取引で老人たちが豊田商事の被害にあい、大きな社会問題になったが、若年層をねらったインチキな通信販売や街頭でのアンケート商法も金額をトータルすれば膨大な額になろう。このまま放置することは大きな社会問題である。くれぐれも安易な手に乗らないように。そして栄養やトレーニングの生理学を勉強して、自分のためにも、また後輩たちのためにも、よき指導ができるように、がんばっていただきたい。

 食事法のシリーズは次回より「中・上級者のための食事法」を連載予定である。コンテスト前や当日の食事、アミノ酸の知識、薬剤についての見解などについて述べてゆく。また内外一流選手の食事法の中から役立つ情報をとりあげてゆきたい。
月刊ボディビルディング1985年9月号

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