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月刊ボディビルディング1984年2月号
掲載日:2021.01.25

食生活赤信号〈1〉 飲料水はだいじょうぶか?

健康体力研究所 野沢 秀雄
 何気なく、われわれが食べたり、飲んだりしているが、本当は危ない要素を持っていたり、「これは効く」と言われて使っているが、実は何の意味もなく、高価な代金を支払わされたり、この世の中には「健康を損なうようなもの」あるいは「損をしてだまされるようなもの」が実に多い。
 ボディビルダーのわれわれは、トレーニングに夢中のあまり、広く勉強する時間がなかなかとれない。また経済的にも、せいいっぱいでがんばっている人がほとんどであろう。悪い業者、悪い製品に泣かされないためにも、本シリーズで食生活全般を見直して、実例をあげながら、アドバイスしてゆきたい。
 第1回は、「水」に関するテーマだが、水ひとつ取りあげても1冊の本になるくらい問題は多い。なるべくコンパクトに要領よく、ポイントを解説してゆこう。

1.「水にあたる」という言葉

 世界パワーリフティング選手権がインドで先年開催されたが、その時のエピソードを中尾達文さんから聞かせてもらったことがある。
「インドは水が汚い国だから飲むな」といわれ、各国の選手はホテルでも会場でも生水はいっさい飲んでいない。それにもかかわらず外国の参加選手は全部が全部といっていいほど、モーレツな下痢。日本の関団長はじめ全員が到着してから帰るまで、腹痛と下痢で熱が出るくらい。とうてい試合どころでなく、ガマンして出場しても下腹に力が入らず、好成績など出るはずはない。
 その結果、力を思い通りに発揮したのは地元の選手たちだけで、記録は低調に終ったという。
「もうインドなんてコリゴリ」と全員が後悔しているほど。
 なるほど「生水は飲まなかった」というのは事実で、カレーやスープなどの料理に水は使われるし、ジュースなどにも水は加えられる。野菜を洗ったりするにも水が使われるのだから、どんなに注意をしても、水から逃れることは不可能である。
 インドだけでなく、東南アジアやエジプト、ヨーロッパやアメリカへ海外旅行に出かけた人でさえ、水が体質にあわず、下痢やジンマシンで苦しんだ経験をしている。
 いや、海外だけでない。転勤などで故郷を離れ、ちがう都市で生活すると「水にあたる」「水に合わない」という体験をする人がいる。幸い日本の場合は、病源菌がいることはないので、たいてい数週間すれば体になれて、平気になってくる。
 だが、本質的に「日本の飲料水はこれでいいのか?」と指摘する人たちが最近ふえている。そういえば東京から大阪へ出張すると、「関西の水は何となくカビくさく、味がまずいのだ!」と感じるし、新築オープンした店のうどんやラーメン、その他どんな料理も味が悪くて食べられない。

2.水は栄養のナンバーワン

 われわれの体は約70%が水である。尿や血液に水が多いことはわかるが、固くみえる筋肉でさえ、約70%が水なのである。一流選手のアーノルドの体も、小山選手の体も、あなたの体もほぼ70%が同じH2Oという化学成分で示される水である。
 われわれが毎日口から食べる栄養のうち90%以上が「水」である。キャベツや大根など野菜のは90~95%が水、とうふは88%が水、牛肉や豚肉、とり肉なども約70%が水、ごはんも65%が水である。ラーメン1杯のうち約300gが水である。このほかに、スポーツドリンクやビール、コーヒー、紅茶、牛乳はほぼ100%近く水だから、1日をトータルして平均的な大人で2.5L、スポーツをする人や、発育期で新陳代謝の旺盛な人なら4~5Lの水を体にとりいれていることになる。
 有名な話なので知っている人が多いと思うが、「食事を全く口にしないで40日も50日も生きることは可能だが、水を絶つと2日目には生命が危なくなる」といわれ、いろいろな例が報告されている。もし不幸にも登山で道に迷たっり、転落して、体が動けなくなった場合にも、近くに雪があったり、水が流れていたり、あるいは木の実や草の葉が存在していれば、これらの水分を頼りにするだけで命が救われることになる。
 下表に体に入ってくる水分と出てゆく水分のバランスを示す。
記事画像1
 生体内における水の役割を大別するかと次のようになる。
①体内の栄養素や化学物質を溶かしており、さまざまな化学反応をおこすベースである。
②体液の濃度を一定に保ち、細胞の浸透圧(水分の出入りの圧力)を調整し、細胞の形態維持にあたる。
③栄養素の吸収、循環、および不要になった老廃物や疲労物質を体外に排出するときの運搬者となる。
④体温を調節する。

3.水のブームにわいている

 昨年の9月「富士山が大爆発をおこす」と警告されて、日本列島は地震の恐怖におののいた。災害時には、栄養もさりながら、飲料水の確保は欠かせない。「2年間は腐らないでもつ」という保証で、筆者もデパートから「秩父源流水」を1ダース求めた一人だ。
 ところが富士山は爆発しなかったが「よい水を飲もう」というブームは現在も続き、お歳暮の人気商品になったほど。メーカーも「六甲のおいしい水」「山崎の名水」「宮水ミネラル」などと名付け、1Lの紙パックに詰めてスーパーにも山積みして売っている。1Lが190円とか200円もするので、牛乳と同じか、ガソリンより高い。こんなバカなことがあろうか?
 バーやキャバレーで出されるウイスキーの水割りにミネラルウォーターが使われ、家庭にもその「おいしさ」が浸透してきたといわれる。
「地震がなかったので1本くらい飲んでみたい」と試飲したら、ふつうの水道水に比べて格別においしい。
「あれ、同じ水でもこんなにちがうのか?」と消費者が驚いたにちがいない。かくして「おいしい水」のブームが定着してきたわけだが、ここで、ふつうの水の悪さについて反省することは重要だ。
 戦前の水と現在の水はこうちがう。

①農薬や除草剤、殺虫剤、合成肥料の使用量がまったくちがう。また川が流れる途中で、合成洗剤が入ったり、PCBが入ったりで、川に住む生物の生態系がちがってしまい、昔のような川自身の浄化作用がなくなっている。
②昔とちがって、塩素消毒を過剰におこなっている。その結果、赤痢、腸チフス、パラチフスなど伝染病は激減したが、水はカルキくさく、まずくなった。(注**)
③水ガメとなっている湖や、途中の川に、繁殖力の強い藻類が異常発生し、カビくさい臭いを生じている。
④マンションなどの高い建物が多くなり、タンクに異物がたまったり、配管から有機物が溶けだして、水を悪くしている。
⑤地下水をくみあげている井戸でさえベトナム戦争の枯葉作戦で使われたダイオキシンが各地で検出されている。
 このうち②の塩素消毒ひとつとっても問題はいくつもある。
 終戦直後に、アメリカ軍に占領された日本は、下水道の普及率が低く、水洗トイレの家庭はほとんど皆無。畑に人糞を散布していた。こんな様子を見たGHQ(アメリカ軍総司令部)は「後進国の水を飲むな。塩素をたっぷり加え、殺菌してから飲ませろ」と命令した。これが現在も続いて、「水道水には給水栓をひねった時に0.1ppm(百万分の1g)以上の残留塩素があるように」と厚生省令で指示されている。(元京大教授・川畑愛義氏の著書「水を飲む健康法」より)
 アメリカなどで、「過剰な塩素が結合してトリハロメタンとなり、これが発ガン性を有している」と6年も前から発表されているので、いかに過剰な塩素が危険なものであるかお分りいただけるだろう?

4.疑問だらけの「水もの」製品

 こんな背景だけに、水を利用して事業にしようと考えるメーカーは多い。
 分類しながら例を挙げてみよう。また、私が感じている疑問点も述べさせていただく。

①水そのものとして販売されているもの。「ミネラルウォーター」や「○○の水」として売られている。外国でもびん詰の水は、場所によってはコーラやワインより高価な国もある。
 日本では幸いにもベースになる水が「飲めない」というほどでないので1本が200円もするのは納得がゆかない。せいぜい50~60円くらいまでだろう。そのうえ、埼玉県消費生活センターが、ミネラルウォーターとして販売されている製品を分析したところ、本当にカルシウムやカリウム、マグネシウムなど、その名にふさわしい成分を有しているのは10%くらいで、残りはふつうの水道水と大差の無いものばかりだったという。これでは困る。

②水を加工したり、成分を加えて売られているもの。
 健康食品の店で「カルシウムイオン水」1本760mlで2500円というのを買い求めたことがある。また、「高血圧によい根こんぶ水」を1本1000円で研究のために買ったことがある。いずれも効果は不明だった。
 つい先日も「ゲルマニウム水」と称して、どこかの温泉の水をびんに詰めて、無知な人や病人に売りつけ、5億も利益をあげた連中が警察に逮捕されるニュースがあった。
 こんなインチキ製品に貴重な金を投じてはならない。
 だいたいが、「水もの」として販売するメーカーに、あまり良心的な例は見られない。「空気」「水」「石」「草」などを売る人に私は用心している。

③水をおいしくする機械や道具。
 これにも種類がいろいろある。ひところ新聞や雑誌に大きく宣伝していた「アルカリイオン水生成器」は約5万円もする。機具の内部に乳酸カルシウムという食品添加物の粉末を入れておき電気分解の要領で、酸性水とアルカリ水にわける。飲むのは溶けたカルシウムイオンが集まるアルカリ水のほうで、酸性水は化粧に使ったりすることがすすめられていた。
 いつのまにか、宣伝は消えて、高価な代償を投じて買った人は、効き目があったのか無かったのか、わからないままホコリをかぶっている例が多い。
「太陽石」「麦飯石」といって、水槽に石を入れ、この中に水道水を入れる。1日放置し、かきまぜておくと、次の日は石から有効成分が溶けて、おいしい水になると宣伝されていた。
 何のことはない。1日水を放置している間に、塩素が飛んで、味がよくなったにすぎない。このメーカーはデパートの自然食品売場で、「金魚もこの通り」と、汲んだばかりの水、石を入れた水の両方に入れて比較させていたが、塩素の差で金魚がぐったりしたり、元気になったりするにすぎない。
 手品のようなインチキはやめてもらいたい。
「まとも」と思われるのは、活性炭(内部に吸着する凸凹の穴が無数にあって、水以外の物質がキャッチされる)を使った機具くらいだが、これにも活性炭の種類、量、価格などで大きな差がある。同じ濾過させるにしろ、性能の良い製品と、悪い製品では2倍以上の差がある。

5.どうすれば安全に水を飲めるか?

 本誌が社会的な公器である以上、特定のメーカーの有利になるような宣伝をやたらにすることは許されない。それは当然であるが、それでもなお、良心的にがんばっている会社や製品を広く紹介したい場合がある。「ポパイ」や「アンアン」「ノンノン」などの雑誌は全ページそんな店や製品を実名で並べたカタログのような雑誌である。
 今回の場合、コツコツと資料を集め基礎的な研究を重ねて、「ゼンケン活水器」を発表している越智社長のことだけはぜひ述べておきたい。
 越智社長が水を手がけた理由は次の2点に集約される。
①1日のうち、人間の体にもっとも多く入るのが「水」である。だからまず第一に「水」を安全に提供しなくてはならない。といって水道局の水を非難するのでなく、その水をいくらかでも良くするだけで使命があると考えた。

②「1日にたった10円だけで家族全員が安心して飲める水にしたい」ーー
 つまり、活水器の活性炭を年1回とりかえるが、価格を365日×10円の3650円にして、安く、誰でも水を飲めるように考えた。
 健康体力研究所が発足した、昭和52年6月1日の同じ日、同じ場所で、ゼンケンも発足し、活水器を世に送りだした。活性炭一式を含む定価が9800円のゼンケン活水器は発売以来7年近くになる。この間に型を変えたり、内容を変えたりしたが、現在では1ヵ月間に1億円も売れる業界一の製品に成長した。ナショナル、クリタなどライバルが多い中で、消費者の人びとの口コミで支持者がこんなに増えたのだ。
 「良い製品を、良心的に誠実に売っているので当然のこと」と言われているが、本物の製品は人びとに広く長く使われる証明であろう。
 筆者自身も、ゼンケン活水器を卓上型→水道直結型と7年近く使用している。その結果、「日本茶・紅茶・コーヒー・ウイスキーなど格別に味がよくなった」「ごはんがおいしく炊ける」「水だけ飲んでもおいしい」「生けた花がよくもつ」という経験をしている。
 このように活水器を使うことは、塩素や鉄サビ、PCBなどが除けるので健康上、おおいにプラスになっていると思っている。まして赤ちゃんの生れた家庭では、ミルクを溶かしたりするのに最適であろう。
 このほかに、危険な水をさける方法として、次の項目を心がけている。
①完成したばかりのビルや新築開店したレストラン、喫茶店、食堂などには当分入らない。タンクや配管が新しく、ペンキ塗りたてのような水が出てくる。こんな水でつくった料理はおいしくない。(業務用活水器を採用し、水を通しているような一流店は別)

②新幹線の列車や、駅構内や空港、ビルにある「飲料水器」からは、なるべく水を飲まない。今井良次氏によると(また新聞報道によると)、菌類がウヨウヨしているという。

③旅行先では生水をあまり飲まない。ビールやワイン、スポーツドリンクを飲むほうがよい。(わかして出てくる紅茶などは良い)

④家やマンションを新築した人には、なるべく活水器をプレゼントする。そうしないと、変な味の水がしばらく続くことがある。

⑤とくに関西方面にいった時は、喫茶店や食堂で出されるコップの水はなるべく飲まない。お茶の味もまずいのでできるかぎり遠慮する。

⑥緊急避難用に、ミネラルウォーターを10本くらい用意しておく。現在はびん入りで重いので、牛乳のような1L紙パックに変える予定。(プロティンやビタミン等と共に非常袋に詰めている。1年ごとに新しく入れ替え)

⑦温泉に入ると「飲むと病気にいい」といわれたり、神社の清め水で「飲むといい」といわれても、本当にその場で湧いている水でない限り、飲まない。

⑧山に登って、地中から湧いてきた水や雪がとけてできた水、自然にできた氷はおいしく食べる。同じ氷でも都会の工場で製造され、アンモニア臭が強い氷はやめておく。

ーーー以上のように「やや神経質すぎるのでは?」と感じる人がいるかも知れない。だが本当はこれ位用心してもしすぎでない。実際には自宅や会社がほとんどなので、水にばかり神経質というわけでなく、安心して毎日を過ごしているが・・・・・・。
 ひところよりは川の水がきれいになり、サケが上流に向って泳ぐニュースのが各地で報道されている。だが日本の水質そのものは年々悪くなっている。プラスチック類や農薬・洗剤による汚染がまだまだ続いているためである。
 健康を真剣に考える人が一人でも増え、日本の水がいつまでもおいしいことを願って今月はペンを置く。

注* 代謝水とは体内の化学反応で、栄養素が変化する過程で出てくる水をいう。

注** 水道水に塩素を加えることは水を家庭まで配る段階では菌の繁殖を
おさえ、腐らないようにするために必要なことであるが、イザわれわれが実際に飲む時には、塩素は全く不要物である。川畑氏の試算では、1年間に約10mgの塩素を体に入れることになり、これは健康上マイナスといわれる。たとえばせっかく摂取したビタミン類を破壊してしまうといわれている。
月刊ボディビルディング1984年2月号

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