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やさしい科学百科く7> プロティンの話

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月刊ボディビルディング1984年2月号
掲載日:2021.01.25
畠山晴行

<1>プロティンパウダー

 10年も前には、「プロティン」という言葉を知っている人は、ほんのわずかな数でした。栄養を専門に勉強した人か、プロティンパウダーを知っているビルダーなどだけでした。
 しかし、最近では、健康食品を扱うほとんどの店にプロティンパウダーを置くようになって、「プロティン」という言葉は多くの人に知られております。
 プロティンパウダーは、ビルダーが筋肉を大きくするとか、減量時に使うといったことだけではなく、いろいろな目的でタンパク質を強化したい場合に使えますので、実はとても便利なものなのです。
 そこで、プロティンそのものがどんなものかを知れば、有効に上手に使えることになるのです。
 一般には、ただ単に、減量のために使うもの、というのがプロティンパウダーに対する認識ですが、近い将来、これは大きく変わるはずです。

<2>プロティンとは

 タンパク質は国際的にプロティンと呼ばれております。だから、プロティンパウダーは、タンパク質粉とでも訳せばよいのでしょう。
 その昔、150年以上も前には、今わたしたちがタンパク質と呼んでいるものに「アルブミノーサ」という名が与えられ、しばらくの間使われておりました。アルブは、ラテン語で「白」、つまり、卵白を意味します。(アルバムの語源も同じ、写真をはる前のアルバムの色は「白」です)
 ところで「蛋白」も「卵白」も語源は同じ。これは、ドイツ語の「アイワイス(卵白の意味で、タンパクをドイツではこう言う)」を漢字訳したものです。
「蛋」という字は、中華料理のメニューに登場するくらいで、日本語では使うことがないので、「タンパク」「たんぱく」と、ふつう書きます。
 なぜ卵白かといえば、卵白から水分を除いたものはほとんど全部タンパク質で「そもそも卵白に似た物質が動物の栄養として欠かせないものであり、それはまた、動物ばかりでなく、生物全般のなかから同じようなものが見つかった」というのが、タンパク質発見の過程にあったからでしょう。
 動植物ばかりでなく、細菌でさえも、ウィルスでもタンパク質をもっています。「生命あるところにタンパク質あり」です。
 生命があるかないかは、タンパク質合成ができるか否か、と言っても過言ではないほどに、タンパク質は生命にとって基本となるものです。
 タンパク質を指す世界共通語、プロティンは、ギリシャ語のプロティオス(第一義的な、もっとも大切な)を語源とするものです。この名は1838年に発表されて以来、広く使われてきましたが、そもそもタンパク質研究家、オランダのミュルダーに、彼の先生がプレゼントしたものなのです。一生命に欠かすことのできない、基本的で、大切なものとして一ーー
「すべての生命は、タンパク質を基本としている」ということが重要です。

<3>タンパク質のいろいろ

 タンパク質は人間ばかりでなく、あらゆる生物にとって重要なものですが人間を中心にした“栄養学”の初歩では、「タンパク質は血や肉をつくる栄義」と教えております。
 わたしたち人間をはじめとして、すべての動物は、食物のタンパク質をもとにして、自分のからだのタンパク質をつくります。(植物は、タンパク質そのものを得なくとも合成できる力があります)
 食物といっても、人間の場合は雑食ですから、動物であったり植物であったりします。タンパク源として、ステーキや納豆を食べることがありますが、牛のモモ肉が脚の筋肉になるなどという保障はどこにもありません。ましてや、大豆のタンパク質とそっくりのタンパク質でつくられた血球などあろうはずもないのです。
 なぜかと言えば、食物のなかのタンパク質は消化管でバラバラに分解(消化)された後、血流に乗って全身の細胞(人間の成人では数十兆といわれる数)に送り込まれて、必要に応じて必要な姿のものを必要なだけ合成することになるからです。
 人間の場合は、必ず人間特有の姿のタンパク質が細胞内で合成されます。たとえ菜食主義であっても植物流のタンパク質が合成されることはありません。
 カエルの場合はカエル用、バッタの場合はバッタ専用のタンパク質が合成されているのです。
 わたしたちは、生きているかぎりタンパク質を摂り続けなければなりませんが、これは、常に細胞内でタンパク質の合成をする必要があるからです。
 なぜかといえば、常にこわされているからです。
 負荷をかけたトレーニングでは、筋肉のタンパク質が破壊されます。破壊されたものが新たにつくり直されるときに、より多くのものになる、これが筋肉を大きくしてゆく過程です。
 ここでは「こわされる」→「つくられる」がふつう以上に行われていることになりますから、トレーニングとともに十分なタンパク質が必要だということがわかります。
 ところで、細胞内でつくられるタンパク質が、人間は人間用のものであるといっても、それは多種多様。何万種類にもなるのです。
 あるタンパク質は、からだの構造を組立てている材料であり、また他のものはホルモン(ホルモンにはタンパク質形とコレステロール形の2種類がある)であったり、というふうに、ひと口で「血や肉をつくる」と言っても、タンパク質でできているものの種類や、その働きはいろいろなのです。
 病気から、からだを守る抗体、インターフェロンも、その実体はタンパク質。
 そして、もっとも重要なのは、からだのなかの何万種類もの化学反応の仲介となっている酵素(現在まで3000種ほど知られています)が、タンパク質でできているということなのです。
 筋肉を大きくしてゆく過程でも、多くの酵素が関係しているのです。

<4>タンパク質の種類

 人間は人間専用、カエルはカエル専用、しかも人間だけをとっても数えきれないほどの種類のタンパク質を合成していることを知りました。生物ごとに特有な、しかも、それぞれが何万種類ものタンパク質を合成するとなると「いったいタンパク質の種類はどのぐらいあって、どうやって種類を見分けるのだろう」という疑問がわいてくると思います。
 実は、タンパク質はふつう20種のアミノ酸がたくさん(50コ以上)数珠つなぎになったもので、いろいろなアミノ酸のつながり方(順番と長さ)で種類が決まるのです。アミノ酸が50だとか200だとか300というようにたくさん数珠つなぎになり、それが1本の場合もあれば、何本かがくっついてセットになっているタンパク質もあります。
 アミノ酸の並ぶ順番がちょっとでもちがうと別のタンパク質になってしまいますから、タンパク質の種類は無限いえるのです。
 たとえば、20種のアミノ酸を使ってアミノ酸の3コだけつながったもの(3ペプチド)がどれだけの種類できるかといえば、20×20×20=8000種類となります。
 ともかく、アミノ酸の並び方でタンパク質の種類は無限にできるのです。
 そして、数珠つなぎになったアミノ酸は、となりどうしがひっぱり合ってらせんをえがいたり、途中で折れ曲がったり、いくつも隔たってつながっているものが結合するなどして、線だけではなく、立体になることの方が多いのです。例えば、糸くずを丸めたようなかっこうになります。
 アミノ酸の並びかたいかんで、タンパク質の立体的な姿も決まってしまうのです。
 そして、ここでもっとも大切なことは「必要なアミノ酸が、必要な分だけそろわなければ、タンパク質合成にブレーキがかかる」ということです。
 常にからだのタンパク質がこわされているのですから、合成にブレーキがかかれば、筋肉がやせ細るばかりでなく、先にあげた多種多様のタンパク質合成も、頼りなくなってくるのです。

<5>動物タンパクかそれとも植物か

 自然食派と称する人たちに言わせると「卵や肉はダメ、動物タンパクはからだに悪くて植物タンパクならよい」場合などの声が聞えます。
「なぜ?」と聞いても、満足な答えを得たためしがありません。まず、タンパク質がどんなものであるかもわからずにさわぎたてている人が多いのですから。
 大豆は畑の肉とも言われるほどで、確かに植物のなかでは、良質のタンパク質をもっておりますが、それでも質の点からみたら、卵や肉のタンパク質までは達しません。
 ここでいう質とは「人間がタンパク質を合成する際要求する、アミノ酸バランスをもつもの」ということです。
 牛のモモ肉と、大豆を比べて、どちらが人間の筋肉に近いかといえば、それは牛肉に決まっています。
 タンパク質の質に関して言えば、ほとんどといっていいくらい動物性のものに軍配が上がります。
 タンパク質の質の評価方法は、今のところ4種類ほどあり、それぞれで点数にいくらか差がありますが、どの方が動物のものより点数がよいという結論はでません。
 プロティンパウダーは、大豆分離タンパクをベースに、不足の種類のアミノ酸(大豆の場合はイオウを含んだ含硫アミノ酸ーメチオニンなど)を添加したり、乳、卵などのタンパクを混入したりして点数を高めているものが多いのですが、中には販売員でさえ詳細不明、「ともかく良い?」というものもあります。
 タンパク質の質の評価方法が4種類あることはいま述べましたが、もっとも広く用いられているのはプロティンスコア(タンパク価)です。
 プロティンスコアをはじめとする、タンパク質の質の評価は、すべて体内で合成不可能な8種類のアミノ酸(必須アミノ酸)のバランスがどうなっているかによって行われます。
 しかし、必須アミノ酸のバランスさえよければそれでよいとするのはおかどちがい。必須アミノ酸以外のアミノ酸は細胞内で、他のアミノ酸、ブドウ糖脂肪酸などから合成することはできますが必要なときには現物を直接調達するにこしたことはないのです。
 例えば、含硫アミノ酸のメチオニンは、システィンという別のアミノ酸に姿を変えることができますが、この変身は数段階もの過程を経て完了するのです。(システィンはビタミンEなどとともに抗酸化のはたらきを担うものです)
 最近、プロティンパウダーにビタミンB6の強化されたものが注目されておりますが、これは、アミノ酸の変身には欠くことのできないもので、特にタンパク摂取、及び消費に比例して増量する必要があると考えられます。

<6>複合タンパク

 タンパク質は、アミノ酸がたくさんつながったものであることを知りました。このアミノ酸のつなげ方、つまり私たちの体内でのタンパク質の製造方法は、すべて親ゆずりの遺伝子に組み込まれております。
 だから、人間は人間用の、サルはサル用のタンパク質をつくることができるのです。
 遺伝子の情報がすこしでも狂えば、おかしなタンパク質をつくってしまうことになります。例えば、ガンの場合も、タンパク質の製造方法、つまりアミノ酸のつなげ方のミスによって生ずるということです。
 さて、アミノ酸がたくさんつながったもの、または、それが何本か集ったものがタンパク質だということを知りましたが、これにアミノ酸以外のものが結合したものを複合タンパクといいます。
 酸素の運搬役のヘモグロビンや、筋肉のなかにあって、酸素を抱え込んでいるミオグロビンは鉄を含む複合タンパク質です。
 からだのなかの“代謝”の鍵をにぎる酵素も、大部分は、ビタミン、ミネラルなどを抱えた複合タンパクなのです。
 だから「総合ビタミン剤を飲んでいるから、ことビタミンに関しては問題なし」と考えるのは早計なのです。
 タンパク質不足では、ビタミンも、ミネラルも十分には働いてくれないのです。

<7>タンパク質を上手に摂ろう

 タンパク質を摂る場合、その質、そして量が大切です。
 ふつうの人で、体重1kgあたり1日1g、ビルダーや成長期の子供、妊婦の場合はもうすこし増量する必要があります。そして、もちろん質のよいものがよい、ということはいうまでもありません。
 また、体内のタンパク質は常に分解されているので、食いだめがききません。だから、毎日、しかも何回かに分けて摂るのが好ましいのです。
 摂り過ぎた場合、タンパク質は糖や脂肪酸になってしまうので、ビルダーなどの場合でも、せいぜい体重1kgあたり2g位までしか有効に使われないでしょう。
 最近のプロティンパウダーには、各種のビタミン、ミネラルが添加されておりますが、タンパク摂取をプロティンパウダーのみに頼るというのもまちがいです。微量栄養素を含めて、人間に必要な栄養は、現在のところ約40種といわれております。いかに良心的なプロティンパウダーであっても、本来他のタンパク食品で得られていたすべての栄養素が完全に摂れるものではありませんから、あくまでもふつうの食事をベースに、プロティンパウダーは補助的に使う、というのが好ましいのです。
 日本人は、とかく低タンパクの食事になりがちです。やせていても腹だけポコッと出っぱっている人は低タンパク食の人に多いようです。
 低タンパクではキズのなおりもおそいし、折れた骨はなかなかくっつかないのです。(骨はカルシウムさえ摂ればよいと考えている人は多いのですが、骨にもたくさんタンパク質は含まれています)
 また、以前は、肝臓が悪くなったときには低タンパク食が指示されておりましたが、今日では十分なタンパク質を摂るように指示されます。
 なにしろ、タンパク質はからだをつくる源であり、生命の基本なのですから。

一×一×ー×

 *動物性タンパク食は、タンパク質そのものの質はよいのですが、多く摂ると、脂肪も増えてしまいます。動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸の摂り過ぎは、アテローム性動脈硬化などの原因になります。そんなことから、質のよいタンパク質を安価に摂る手段としてプロティンパウダーが注目されてくることになるのです。
月刊ボディビルディング1984年2月号

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