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新ボディビル講座 ボディビルディングの理論と実際<37> 第6章 トレーニング種目

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月刊ボディビルディング1984年3月号
掲載日:2021.01.29
名城大学助教授 鈴木 正之

IV.前腕のトレーニング<その1.屈筋>

 前腕の屈筋群は、上腕骨の前面下端部、および前腕骨の前面側より起こり、手首の屈曲運動と前腕の回内・回外運動を行なっている。一部の長い腱をもつ筋は、手掌から指まで至って、指の屈曲運動を行なっている。〔筋肉図参照〕
 これら屈筋群の代表的な筋としては、浅層側(浅指屈筋と呼ぶ)に円回内筋、橈側手根屈筋、長掌筋、尺側手根屈筋、浅指屈筋があり、深層側(深指屈筋と呼ぶ)には長母指屈筋、深指屈筋、方形回内筋などがある。
 これらの筋肉は、胸や上腕の筋肉に比較して細くて小さいので、発揮する筋力も弱く、エネルギーを供給する血管も細いのが特徴である。したがって、血流の量も少ないうえに、未梢側にあるため、静脈で帰る血液の全体量が少ないので、ロー・レペティション(低反復回数制)では充血(パンプ・アップ)がしにくいことを意味する。
 したがって、前腕筋群における負荷と反復回数は、他の大筋群や中筋群に比較して、ハイ・レペティション(高反復回数制)でもってトレーニングしなければならない。
 実際に、強い負荷をかけて5~6回の反復でオール・アウトさせたとしても、前腕がいっこうにパンプ・アップしてこないことを、多くのボディビルダーが体験的に理解していることと思う。この点を踏まえてトレーニング内容を組み立てることが必要である。
 トレーニング処方の中で特に注意することは、手は抵抗を与える物体の最先端にあるので、手が疲労することは、手根伸筋中枢側にある大筋群、中筋群に刺激を与えることが困難になるので、前腕のトレーニングはその日の後半に実施するのが望ましい。
 また、手は日常生活の中で、物を握ったり、持ったりすることが非常に多いことから、比較的、持久性にすぐれた部分でもある。特に屈筋群の使用率は高く、伸筋筋よりも強い刺激を与えてやる必要がある。
 ポージングで前腕を見せる場合は、手首を屈曲させた状態から、回内させることにより、前腕をより逞しく表現することが出来る。
左〔前腕屈筋群〕右〔前腕伸筋群〕

左〔前腕屈筋群〕右〔前腕伸筋群〕

◎バーベルによるリスト・カール
《1》スタンディング・バーベル・パームズ・アップ・リスト・カール(通称・スタンディング・リスト・カール、中級者)〔図1〕

<かまえ>アンダー・グリップで両手でバーベルを持ち、大腿部前にかまえる。
<動作>手首を手掌側に巻き込み、元に戻す。
<注意点>前腕の屈筋を意識し、手首だけを巻き込むようにするが、多少、肘関節が曲ってもかまわない。
 立っているため、自由に行動ができるので、大・中・小の3種類のバーベルを用意して、重いのから順にオール・アウトしたら軽いのに移行するという方法で、マルティ・パウンデッジ・システム(重量減量法)を採用するとよい。プレートをはずして減量する方法は、立ってやると左右のバランスが悪く、しかも、バーベルにカラーを付けなくてはならないので向いていない。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図1〕スタンディング・リスト・カール

〔図1〕スタンディング・リスト・カール

《2》バーベル・オーバー・ア・ベンチ・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:ベンチ・リスト・カール)〔図2〕

<かまえ>アンダー・グリップで両手でバーベルを持ち、フラット・ベンチの上に前腕の背面をのせ、手首を背面側に曲げてかまえる。
<動作>手首を手掌側に巻き込み、元に戻す。
<注意点>前腕がフラット・ベンチによって固定されるので、全くチーティングができず、正確なリスト・カール運動となる。強度を増す場合とか、可動範囲を増す場合は、手掌まで伸ばして巻き込むようにするとよい。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図2〕ベンチ・リスト・カール

〔図2〕ベンチ・リスト・カール

《3》シーテッド・バーベル・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:シーテッド・リスト・カール、初心者)〔図3〕

<かまえ>アンダー・グリップで両手でバーベルを持ち、フラット・ベンチ、または椅子に腰掛け、大腿部の上に前腕の背面をのせ、手首を背面側に曲げてかまえる。
<動作>前項同様。
<注意点>リストの運動としては最もポピュラーな運動である。姿勢もとりやすく、意識集中しやすいので、初心者のリスト・カールは、このシーテッドから入るようにしたい。上級者はストリクト・スタイルでオール・アウトしたら、カーフ・レイズの要領で、足首を跳ね上げるように伸ばし、反動をつけながら動作を継続するとよい。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図3〕シーテッド・リスト・カール

〔図3〕シーテッド・リスト・カール

《4》スクワッティング・バーベル・カール・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:スクワッティング・リスト・カール、中級者)〔図4〕

<かまえ>アンダー・グリップで両手でバーベルを持ち、大腿部の上に前腕の背面をのせ、手首を下ろしてかまえる。
<動作>手首を手掌側に巻き込み、元に戻す。
<注意点>リストの運動としては前項と全く同じ性格を持つが、適当なベンチや椅子がなかった場合にのみ用いるようにする。一般にはグリップをしっかりと握ったままでよいが、筋群の屈伸を充分に行うためには、指まで伸ばしてから巻き込むようにするとよい。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図4〕スクワッティング・リスト・カール

〔図4〕スクワッティング・リスト・カール

《5》ハイ・フラット・ベンチ・バーベル・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:ハイ・フラット・ベンチ・リスト・カール、中級者)〔図5〕

<かまえ>ハイ・フラット・ベンチに伏臥し、アンダー・グリップでバーベルを持ち、手首を下ろしてかまえる。
<動作>手首を手掌側に巻き込み、元に戻す。
<注意点>上体を固定した状態で行うリスト・カールは、安定した姿勢のため、チーティングを使うことができない長所と短所があり、また、一人でバーベルを取り難いという欠点がある。カールするとき肘を軽く曲げてもよいし、ベンチの脚に肘を固定して行なってもよい。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図5〕ハイ・フラット・ベンチ・リスト・カール、

〔図5〕ハイ・フラット・ベンチ・リスト・カール、

◎ダンベルによるリスト・カール
《6》スタンディング・ツー・ダンベル・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:スタンディング・ダンベル・リスト・カール、初心者)〔図6〕

<かまえ>アンダー・グリップで両手にダンベルを持ち、大腿部の前にかまえる。
<動作>手首を手掌側、および尺側、梯側側にコントロールしながら巻き込み、元に戻す。
<注意点>前腕の屈筋群を意識し、手首を巻き込むようにするが、スタンディングにおけるダンベルの特殊性を活かし、手首を回内回外させながら、屈筋の尺側と橈側を使い分けて運動するとよい。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群(回内方向・・・円回内筋、橈側手根屈筋。回外方向・・・尺側手根屈筋、腕橈骨筋。)
〔図6〕スタンディング・ダンベル・リスト・カール

〔図6〕スタンディング・ダンベル・リスト・カール

《7》シーテッド・ツー・ダンベル・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:シーテッド・ダンベル・リスト・カール、初心者)〔図7〕

<かまえ>アンダー・グリップで両手にダンベルを持ってベンチまたは椅子に腰掛け、大腿部の上に前腕の背面をのせて、手首を背面側に曲げてかまえる。
<動作>手首を手掌側に巻き込み、元に戻す。
<注意点>バーベルの時と同様、リストの運動としては初心者でもやりやすい運動である。ダンベルのリスト運動はこれから入るとよい。中・上級者の足首の跳ね上げによるチーティングへの移行は《3》のバーベルの時と同様に行えばよい。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図7〕シーテッド・ダンベル・リスト・カール

〔図7〕シーテッド・ダンベル・リスト・カール

《8》ツー・ダンベル・オーバー・ア・ベンチ・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:ベンチ・ダンベル・リスト・カール、中級者)〔図8〕

<かまえ>アンダー・グリップで両手にダンベルを持ち、フラット・ベンチの上に前腕の背面をのせ、手首を背面側に曲げてかまえる。
<動作>手首を手掌側に巻き込み、元に戻す。
<注意点>バーベルによるベンチ・カールと同様、前腕を安定させた正しいリスト・カールができる。グリップは強く握ってもよいが、運動の可動範囲を広げるには、指まで伸ばすようにする。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図8〕ベンチ・ダンベル・リスト・カール

〔図8〕ベンチ・ダンベル・リスト・カール

《9》ワン・ダンベル・オーバー・ア・ベンチ・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:ベンチ・ワン・ダンベル・リスト・カール)〔図9〕

<かまえ>1つのダンベルを両端から握り、フラット・ベンチの上に前腕の背面をのせ、手首を背面側に曲げてかまえる。
<動作>前項同様
<注意点>リスト・カールの場合、運動領域が小さく、使用重量が軽いので、バーベルでは使用し難い場合があるのと、また、ツー・ダンベルではコントロールが悪い場合もある。特に女子の場合や初心者が問題である。そのような場合、ダンベルのセンターを握ることにこだわらずに、両端を握って行うとよい。なお、この方法は、トライセプス・プレスやバイセプス・カールなどにも応用できる。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図9〕ベンチ・ワン・ダンベル・リスト・カール

〔図9〕ベンチ・ワン・ダンベル・リスト・カール

《10》オールタネット・ダンベル・オーバー・ア・ベンチ・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:オールタネット・ベンチ・リスト・カール、中級者)〔図10〕

<かまえ>アンダー・グリップで両手にダンベルをもち、フラット・ベンチの上に前腕の背面をのせ、手首を背面側に曲げてかまえる。
<動作>左右交互にダンベルを巻き上げて、元に戻す。
<注意点>ベンチ・リスト・カールを特別にオールタネットで行う必要はないが、各種トレーニングのバリエーションとマンネリを防ぐ意味で実施してみるのもよい。
<作用筋>前項同様。
〔図10〕オールタネット・ベンチ・リスト・カール

〔図10〕オールタネット・ベンチ・リスト・カール

《11》ハイ・フラット・ベンチ・ツー・ダンベル・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:ハイ・ベンチ・ダンベル・リスト・カール)〔図11〕

<かまえ>ハイ・フラット・ベンチに伏臥し、両手にアンダー・グリップでダンベルを持ち、手首を伸ばしてかまえる。
<動作>手首を手掌側に巻き込み、元に戻す。
<注意点>バーベルの時と同様、伏臥することにより上体を安定させ、肘をベンチの脚に固定して、手首を曲げるようにする。肘は軽く曲がってもよい。
 この動作方向は、スタンディングの時と同様に尺側、橈側に方向づけができるので、前腕を鍛えるそれぞれの目的にそって、手首の回内、回外を行うとよい。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図11〕ハイ・ベンチ・ダンベル・リスト・カール

〔図11〕ハイ・ベンチ・ダンベル・リスト・カール

《12》ハイ・フラット・ベンチ・クロス・ツー・ダンベル・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:ベンチ・クロス・ダンベル・リスト・カール、中級者)〔図12〕

<かまえ>ハイ・フラット・ベンチに向って横向きに伏臥し、アンダー・グリップでダンベルを両手に持ち、手首を伸ばしてかまえる。
<動作>前項同様。
<注意点>運動自体は前項と同様であるが、肘が固定されないので、前腕を自由に方向づけることができ、細かくバリエーションを組むことができる。
<作用筋>前項同様。
〔図12〕ベンチ・クロス・ダンベル・リスト・カール

〔図12〕ベンチ・クロス・ダンベル・リスト・カール

◎プーリーによるリスト・カール
《13》スタンディング・フェイス・フォワード・ロー・プーリー・バー・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:ロー・プーリー・リスト・カール、初心者)〔図13〕

<かまえ>ロー・プーリーのワイヤーにショート・バーを付けて、アンダー・グリップで両手で持ってかまえる。
<動作>手首を手掌側に曲げて、元に戻す。
<注意点>プーリーもバーベル、あるいはダンベルの動きと同じように使用することができる。この場合のプーリーは、ラット・マシンのロー・プーリーを想定しているが、チェスト・ウェイトでも同じように使用することができる。
 プーリーによる運動の場合、他の運動と同様に、重量選定が簡単であり、しかも安全性が高いので、初心者にも自由に行えるので便利である。この場合、肘は多少曲ってもかまわない。
<作用筋>主働筋・・・・・・前腕屈筋群。
〔図13〕ロー・プーリー・リスト・カール

〔図13〕ロー・プーリー・リスト・カール

《14》スタンディング・フェイス・フォワード・ハイ・プーリー・ツー・ハンド・パームズ・アップ・リスト・カール(通称:ハイ・プーリー・リスト・カール、中級者)〔図14〕

<かまえ>チェスト・ウェイトのグリップを両手に持ち、肘と手首を伸ばしてかまえる。
<動作>手首を手掌側に曲げて、伸ばす。
<注意点>チェスト・ウェイトの多種目的利用方法の1つとして、ロー・プーリー、ハイ・プーリーを利用したリスト・カールがある。このリスト・カールは、器具の選択と重量選択が簡単なので、初心者でも比較的入りやすいが、ハイ・プーリーはやや動作が難しいので、中級者から行なったほうがよい。
<作用筋>前項同様。
〔図14〕ハイ・プーリー・リスト・カール

〔図14〕ハイ・プーリー・リスト・カール

月刊ボディビルディング1984年3月号

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