フィジーク・オンライン

食事と栄養の最新トピックス㊲

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1984年3月号
掲載日:2021.02.01

食生活赤信号<2>牛肉はだいじょうぶか?

健康体力研究所 野沢 秀雄

1.牛肉に対する過大評価

 ボディビルダーだけでなく、日本人一般に、「牛肉は栄養が多く、食べればスタミナがつく!」と信じられている。ビルダーのメニューを見ると、牛肉〇〇gという文字がたいてい入っている。レストランでも最も値段が張る料理はステーキと決っている。
 なぜ牛肉に対する評価がこれほど高いかを考えてみると、
①日本の一般的な家庭では、高い牛肉に手が出ず、たまに肉料理のときには「今日は特別のごちそうだよ」と子供の時から教えられている。それがため「高い物イコール栄養が高い」と誤解しがちである。

②人間の体(筋肉)と組成が近いものほど、そのまま血となり、肉となり同化しやすいと誤解している。

③「特異力学作用」といって、肉や魚などたんぱく質の多い物を食べた後は体内で熱を多く発生するので、体がポカポカになって、いかにもスタミナがついたように誤解する。

④消化・吸収に時間がかかるため、満感が大きく、満足しやすい。
ーというように、実体よりも誤解のために、「牛肉はいいもの」と思われている。

 だが、食品成分表を開けば明らかなように、肉100g食べても60~70%は水分である。たんぱく質は15~20%すぎない。しかも、たんぱく質の品質の優劣を示すプロティンスコア(アミノ酸のバランス)は79にすぎず、豚肉90や、まぐろ89、あじ89、いわし91などより劣っている。
 おまけに牛肉に含まれる脂肪は、飽和脂肪酸がほとんどなので、中性脂肪を増やしたり、コレステロールを増加させたりする。(これに対して、魚に含まれる油はEPAなどの成分のために、逆に良い効果を持つことが判明)
 牛肉を燃やしたあとに生じる灰を分析すると、酸性が強いので、体を疲労させやすいともいわれている。

2.変な牛肉が街にあふれている

 せっかく牛肉を食べて満足しているのに、横から冷水をかけるようだが、筆者として黙っていられないような事態が、牛肉の世界に次々とおこっている。今回は「牛肉の謎」を追及することにしたい。
ⓐ「100%ビーフを使っています?」
 マクドナルドのハンバーガーの包み紙やチラシには「100%ビーフを使っています」と印刷されている。「なんだ当り前じゃないか」と思うことをワザワザPRに使うのはなぜか?
 ㋑他社は牛肉でなく、他の動物の肉を混ぜて使っている。
 ㋺他社は動物性の肉でなく、大豆や小麦などからつくった植物性代用肉を使っている。
ーーこのうち多いのは㋺のケースである。今から10年くらい前に、はじめて植物たんぱくを牛肉に似せて発売された頃、筆者はハンバーグやコロッケ、しゅうまい、スパゲティミートソースなど、肉料理に混入した試作品を数多く食べたことがある。
 10%、20%、30%とニセの肉を加えてゆくと、30%以上では誰でも「これは大豆の臭いや味が強すぎてダメ」と否定する。だが20%以下だと、ケチャップやスパイスを多く加えるために、よほど敏感な人でないと、差がわからない。まして、10%では「チガイがわかる男」といわれる人たちでも、全く識別できなかった。その後、品質に改良を加えて、最近では全く大豆の味や臭いを消した巧妙な代用肉が売られている。
 しかも大部分はレストランや食堂への業務用として、毎月何十トン、何百トンと販売されているのだ。
 読者の中には、調理関係の仕事についていて「自分の店は肉からひいているので大丈夫だよ」というならそれは本物だが、実は「ミートソース用ケチャップ」とか「ハンバーグ用ミンチ肉」と書かれた大きな丸2号缶や5ガロン缶で材料会社から買いつけている場合は、その半分くらいが代用肉が使われているといっても言いすぎではない。
 ハンバーグ、マーボどうふ、スパゲティ、ぎょうざ、しゅうまい、オムレツなど、ひき肉を材料にしたメニューの場合、しばしば「代用肉」を食べさせられる。
 といって、栄養上、それほど悪いわけでないが、ゴマかされるのは不愉快である。むしろ正々堂々と「植物性肉使用」と表示されたほうが、どんなに気分がよいことか・・・・・・。

ⓑ発色肉、着色肉も増えている
 変な肉の二番目は、赤い色が鮮かすぎることだ。ケガをしたら出血して赤い血が出てくるが、空気中に放置すると酸素と反応して、色は黒くなる。衣類に血がついた跡をみると、赤より黒い色に変っている。これが本当で、牛肉も切っておいておくと、表面は黒くなってくる。
 「赤黒い肉なんてまずそう」と売れないので、ハムやソーセージの場合は亜硝酸塩の溶液に漬けて、赤く発色させ、いつまでも赤が残るように処理をする。
 牛肉を処理する段階で、このような発色剤が使われるケースがある。  もっと簡単な操作は、直接、肉を色素で赤く染めてしまうことだ。ちょうどタクワンを黄色に、しゅうがを紅色に、きゅうりの漬け物を緑色にするように・・・・・・。
 「まさか、牛肉にまで・・・・・・」と絶句する人もあろうが、輸入肉専門のある業者は、スライスした肉片を赤の染料(もちろん一応は正規に許可されている食品添加物)に浸して、赤い色に仕上げていた。
 「食べ放題1000円」などと書かれた店で、皿から肉をとり上げると、鮮やかすぎる赤色になり、ハンカチの端をつけると、本当は黒くなるのに、逆に赤色がきれいすぎるほど染まる場合は、着色のインチキがされているかもしれない。(なお、発色剤に使われる亜硝酸塩は、ガンをおこす物質としてマークされている)

ⓒ合成肉、成型肉とは?
 牛肉の食べ方のうち、最上級とされるステーキ。フランス料理にも、アメリカン風にも好まれる。ふつう、サーロインを始めとする背のロース肉、サイド側のヒレ肉、脚のモモ肉、こぶの部分のランプ肉などがステーキに用いられている。
 ロース肉は脂肪が適度にまざっていて、日本人は「もっともおいしい」と好んで食べる。ボディビルダーは脂肪が少なくて、たんぱく質が多いもも肉やランプ肉をステーキに焼いてもらうとよい。アメリカではリブ肉といって肋骨の近くの肉(人間でいえば大胸筋)を好んでステーキで食べるが、脂身が少なくておいしい。
ーー筆者が興味を持つことは、最近、合成肉とか成型肉という名で、ステーキの形になった肉がスーパーや肉店のショウケースの中に並べられていることだ。
 これは植物性のニセ肉を混入したものではなく、ロースやももを切りとった後に生ずる部分(いわゆるバラ肉)を集めて、強い圧力をかけてプレスしたものである。表面がやや黒いことや脂肪の混り方が不連続であることから判定できる。
 値段が安いこと、いろいろな部分の肉を食べられる利点はあるが、いかにも高級なステーキ風に見せかけている点が心憎い。「ほら今晩はおいしいステーキのごちそうだよ」と食卓に出されても、ルンルン気分で単純に喜こんではいられない。

3.知られていない牛肉の処理ルート

日米間で問題になっている「牛肉とオレンジの輸入制限」も関係が深い。アメリカでは肉が驚くほど安い。一般のレストランではステーキは500~600円で腹いっぱい食べられる。1000円も出せば東京のフランス料理店の豪華ステーキを口にすることができる。
 「そんなに安いのならドンドン輸入させろ」と消費者は要求するが、日本の畜産農家の立場になると「お気の毒」と同情したい面がある。

①牧場で仔牛から肉牛に育てるのに、高い配合飼料を使うため、1頭あたり約1万円の純利益しか出ない。

②したがって牛が病気になっても、獣医が来て注射を打ってもらうのに3~4千円かかり、なかなか治療してやれない。

③その結果、屠殺場に運ばれ、検査を受けると、病気のために1頭全部が捨てられたり、内臓の一部が捨てられた処分率は、「牛で49.5%、仔牛で77.7%、ブタで77.2%」に達している。

④つまり、検査で不合格になると、畜産者は大きな損害をこうむる。

⑤なぜ、不合格率がこんなに大きいかを考察すると、配合飼料中に「成長ホルモン剤」や「抗生物質」「ビタミン剤」など薬品や食品添加物が高度に混ぜられ、肝臓・腎臓・胃腸・心臓などがやられている。

⑥昔の牛は牧草を食べ、4つの胃でムシャムシャと反復して消化していたので、胃袋の壁は厚く、ホルモン焼で出てくる「みの」は1cm近くあった。ところが現在は、消化しやすい粉末配合飼料を与えられるので、ホルモン料理で「みの」を注文しても決しておいしくない。

⑦また、牛舎でジッと飼われているだけなので、肉の中に脂肪が入りこむ、典型的な肥満牛になり、日本人好みの「霜降り肉」ではあるが、スポーツマンのような筋肉質の肉にはなっていない。運動不足病である。
ーーこれらは「暮しの赤信号」という食生活の危険を知らせる情報誌にのせられた記事を参考にしたが、病変牛や病変豚のほかに、肉を検査すると、抗生物質が残留している、という理由で不合格になるパーセントも高いといわれている。

 いずれにしろ、人間の将来を思わせるショッキングな事実である。
 さて、本当にもっと驚くべきことはこの先にある。不合格になった牛の肉はどこに行くのか?」である。
 合格した肉は解体され、正規のルートで問屋を通し、小売店やスーパーで各部分ごとに等級をつけて販売されることはいうまでもない。最上のステーキ肉で「100g当り千円」というのが一般であろう。ふつう家庭では「100g当り300~400円くらいの牛肉を使っている」という人が多い。
 「検査で不合格になった肉を、ヤミルートで肉屋に安く卸して暴利をあげた」という新聞記事が以前にあった。「病変肉」を食べさせられるとは迷惑も甚だしいが、本当に廃棄しているとは限らず「給食用、あるいはひき肉の材料に売ってしまう」という話や「ファーストフードのハンバーガー業者に安く売られているのでは?」という説もある。
 また「ハムやソーセージの原料に使わるれのでは?」と疑問を持つ人もいる。もちろん筆者は全部を信じるわけでないが、大量の不良肉は、果してどこにいってしまうのだろうか??

5.牛肉はどう食べるとよいか?

 昼食に「牛ドン350円」と、安く食べられるのでファンも多いが、飯の上にヒラヒラ乗っている牛肉は脂身が多くて、たんぱく質はあまり含まれていない。それも道理1kg300円くらいの冷凍ショートプレートといわれる輸入肉。もっとも安い部分で、しゃもじですくいあげて油を石けんに利用する」といわれる肉を使用している。
 輸入肉には有機塩素系農薬がかなり残留していることも報告されており、これでは「安全な肉はあるのか?」と不安になってくる。

 一つの方法として「大地を守る会」(農薬公害の追放と安全な農畜産物の流通運動を進めている消費者団体。会長の藤本敏夫さんは元全学連の闘志として有名。奥さんはフォーク歌手の加藤登紀子)では、岩手県山形村の牛肉産直農家と提携して、安全な牛肉を会員が食べられるようにしている。
 ここでは和牛の中でも、輸入の高い飼料で飼われる「黒毛和種」(霜降り肉が多い品種)は避けて、稲ワラや野草を食べて育つ「日本短角種」を育てている。脂肪が少ないが、コストは安く、かえってビルダーには喜ばれるだろう。
 東京品川にある食肉流通センターを筆者も見学したことがあり、ボディビルダーの長淵義美さんが勤めていたこともある。ここで聞いた話では、全国から運ばれる牛たちの最近の特長は、「胴体ばかり脂肪太りで、足が細い。骨が弱くて輸送中に足が骨折していることもシバシバ」というのだから、いかに牛までブロイラー化され、運動不足で足腰が弱っているか、まざまざわかる。
したがって、一般の肉屋や焼肉屋で「この肉は安いよ」と言われても、なかなか食べる気にならない。「焼肉千円で食べ放題」と看板をあげた店に、運動選手やボディビルダーが仲間たちと大勢で食べに来て、店主や店員が不愉快になるほど、腹いっぱい食べてゆくという例は身近にたくさんある。
 だが、本当に「おいしい!」という味のある肉は少ない。コッテリしたタレの味や、こしょう、とうがらし、ソース、塩などで、味がわからないようにカバーされているにすぎない。
 これほど不安が多い牛肉を、よりによって好んで食べる必要性がどれほどあろうか?
 筆者はレストランに入っても、ステーキはあまり注文しない。どちらかというと魚料理ですませることが多い。わざわざ高いステーキを食べても、栄養としては魚より劣ることを知っているからだ。それに「ジューッと血がしたたるような味」を、あまり「うまい」とは感じないためもある。これは個人差だから、おいしいと思っている人に対して「やめろ」という意図は全くないが・・・・・・。

 いずれにしろ、牛肉を信仰しすぎる風潮は改めた方がよいと思う。牛肉以外に、たんぱく源として、いろいろ良い食品は多い。動物性でなく、植物性たんぱくですぐれた食品、たとえば、とうふ、納豆、ゆば、ナッツ、プロティンなどを適度にとることもよい。
 栄養という点からみると、卵、魚などのほうが、安くて多量に「たんぱく質」をとることができる。少なくとも「牛肉を食べると筋肉がつく」「牛肉はパワーを出す」などという迷信だけ:は捨てていただきたい。
「付表・牛肉の部分別栄養価表(四訂版食品成分表より) いずれも100g当り

「付表・牛肉の部分別栄養価表(四訂版食品成分表より) いずれも100g当り

月刊ボディビルディング1984年3月号

Recommend