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やさしい科学百科<8> プロティンの話

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月刊ボディビルディング1984年3月号
掲載日:2021.01.29
畠山 晴行

〈8〉タンパク質所要量

 前号で、ふつうの人の場合、体重1kg当り1日に1gほどのタンパク質が必要だと書きましたが、日本における栄養所要量では、成人男子で1日に70gとなっております。
 この70gという数字は、体重1kg当り1.18gのタンパク質が必要だということであり、平均体重60kgと仮定して1.18g×60=71gという計算から導き出されたものです。
 そして、ここには「動物性タンパク質を40%程度摂取するものとして」というただし書きがあります。
 動物性タンパク質と植物性タンパク質とでは、すでに記したようにアミノ酸のバランスという質の面での差があり、なおかつ消化吸収率にもひらきがあるのです。

 ところで、わたしたちが日常とっている食事は種々雑多な食品から構成されており、毎日毎日その内容も変化するわけですから、「毎日、体重1kg当り1.18gのタンパク質を摂り、しかもその内の約40%は動物性タンパク質」ということを守ることはとてもむずかしいと言えます。

 栄養所要量は、あくまでも目安の数字ととるべきでしょう。タンパク質所要量の基本となっている1.18g/kgには、毎日分解されて排泄されるタンパク質の他に、食事の質、各種ストレスによって体タンパクが分解される量、それに個人差も加味されています。

 ところで、外国の場合はどうかといいますと、最も値の大きなソ連では99g、アメリカは56g、イギリスは75gとなっております。(成人男子)
 また、世界的な機関であるFAO/WHO(世界保険機関)では、体重60kgの成人男子の場合、タンパク質安全摂取量を43gとしております。

 なぜこんなにもバラツキがあるのでしょうか?
 FAO/WHOから出されている数字は、1973年に発表されたものですが以前は、やはり体重1kg当り1gほど数字が示されておりました。

 「国際機関の示す最新の値が正しいのだろう」と、ふつう考えてしまいがちですが、それぞれについて調べると、必ずしもマチガイだと決めつけられる決定的なものはありません。
 結局は「考え方のちがい」というところにおちつくようです。

〈9〉食糧事情とタンパク質

 1973年のFAO/WHOにおける報告以来、タンパク質は以前考えられていた量よりも少なくてよいのではないか、しかも、大豆などによっても質的に十分であろうという意見が多く聞かれます。
 そのなかでも、アメリカ・マサチューセッツ工科大学のヤング博士などの報告は有名で、最近、豆腐や味噌などが、健康食品としてアメリカでもてはやされています。
 1957年に発表されたプロティンスコアでは、大豆は56点という低い値でしたが、1973年の暫定基準アミノ酸パターンによる点数では、69点と13点も高くなっています。これは以前考えられていたものより、イオウを含んだ含硫アミノ酸(メチオニン、シスチンなど)が、少ないの値でもよいのではないか、というところからきているのです。
 しかし、これとても“暫定的”という言葉でわかるように、まだまだ修正を要するものですから、従来のプロテインスコアがまだ一般には使われているのでしょう。
 しかし、FAO/WHO発表のタンパク質安全摂取量と、その質の評価について見逃がせないひとつの問題があります。それは人口問題で、現在、1年間に2%の高率で人口が増加しているということです。15年ほどで食糧が限界に達するという絶望的な予測さえでています。

 わたしたち人間は、動物、植物の両方からタンパク質を得ることができますが、前の「カロリーとエネルギーの話」に記したように、もともとは植物に由来しているものです(食物連鎖)。
 牛や豚、鶏などを育てるためには、それらから得られる食肉の数倍ものエネルギーを含む農産物を必要とします。
 大豆に関していえば、牛肉の15~20の効率でタンパク質を得ることができます。
 無尽蔵にあると考えられていた魚類なども、年々減少の道を歩み、限界に近づいているとも予測されています。
 このようなことから、あまり安全を見込んだ大きな値を世界的機関が出すことはできないものと思われます。

 アメリカの上院における栄養問題特別委員会の食事指針の中には「動物性脂肪の量を減らし、赤肉、鶏肉、魚肉(いずれも飽和脂肪酸が少ない)を選択すること」という項目がありますがタンパク質摂取量を減らせということ言われておりません。

〈10〉理想的なタンパク質とは

 今まで述べたことでおわかりのように、卵にしても、乳タンパクでも、最近さわがれている大豆タンパクも、効率100%理想的なタンパク質など存在しないと言えるでしょう。
 日本の栄養所要量策定委員会は、タンパク質の所要量を計算するにあたって、卵タンパクの利用率を55%としております。この数字が正しいかどうかは別問題として、最良質の卵タンパクとて100%の効率で使うことができるとは言えないのです。
 ましてや、きのこの類では、プロテインスコアは20点ほどですが、タンパク質源としてはほとんど利用できないことがわかります。

 トウモロコシのプロスティンスコアは51点で、植物タンパクでは平均的な値ですが、この場合は、ちょっとやっかいな問題があります。それは、トウモロコシにナイアシン(ビタミンB群のひとつ)をこわす化学物質が含まれているということです。

 ビタミンは本来、食事に依存しなければならない栄養素ですが、ナイアシンの場合は、必須アミノ酸のひとつ、トリプトファンを原料に体内で合成できるのです。
 ところが、トウモロコシの中に含まれる物質が、ナイアシンをこわしてしまう。そしてトウモロコシで一番足りない必須アミノ酸がトリプトファンであるとなれば、トウモロコシのタンパク質は栄養としてほとんど価値のないものということになります。
 事実、トウモロコシのタンパク質だけを摂らせたネズミは筋肉が削られていって、やがては死んでいくという実験結果があります。(最近は品質改良はによって、かなり品質のよいトウモロコシが作られているという話はありますが・・・・・・)

 ところで話題の大豆ですが、日本では奈良時代から中国原産のものを食しておりました。今日はその多くをアメリカから輸入しておりますが、そもそもは江戸時代に黒船のペリーが日本からアメリカに持ち帰ったものだと言われております。日本においては大切なタンパク源とされてきた大豆ですが、アメリカでは1960年ごろまでは、ふだんの食事で大豆を食べることはあまりなく、大豆から油をしぼった後は、家畜のエサとか肥料にされてきました。
 ところが、大豆に沢山含まれているタンパク質が有用だということがわかって、カスとされ、家畜のエサや肥料とされていたものからタンパク質を分離してハムやハンバーグなどに混入されるようになりました。もちろん日本でも、ソーセージやハンペン、ハンバーグなどに盛んに使われています。
 プロティン・パウダーは、この大豆分離タンパクの質をさらに高め(前号に記したように、卵や牛肉などのタンパクやメチオニンなどを加える)、他の栄養素を混入して効率のよいものにしたものです。

〈表1〉タンパク質の質の評価
[註]プロティンスコアは1957年、FAO、アミノ酸価は1973年FAO/WHO発表の資料による。

[註]プロティンスコアは1957年、FAO、アミノ酸価は1973年FAO/WHO発表の資料による。

月刊ボディビルディング1984年3月号

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