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食生活赤信号〈12〉
日本茶はだいじょうぶか?

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月刊ボディビルディング1985年1月号
掲載日:2020.10.15
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1.さ、お茶を一杯どうぞ

 会社を訪問したり、知人のお宅に行くと、熱い日本茶が出される。街の食堂やそば屋、すし屋でもお茶はサービスで一番先に出てくる。
 職場でも日本茶だけは何時に飲んでも自由とされ、昔は女性が、今は自動販売機が熱い茶を提供してくれる。
 イギリスでは紅茶、アメリカでは薄いコーヒー、中国ではウーロン茶、というように、世界の国ごとにいろいろな嗜好飲料が愛飲されている。
 朝起きてから夜寝るまでに、われわれは何杯の日本茶を飲んでいるだろうか?お茶が好きで何杯も何杯もお代わりするファンも多い。
 ボディビル誌に石村勝己さんが「やっぱり日本茶、とくに抹茶をいただくとホッと落着く。私も愛飲している」と"アメリカだより"に書いている。
 お茶の歴史は、古く奈良時代にまでさかのぼるという。中国の風習が日本に伝わり、鎌倉時代に仏教にとりいれられ、戦国時代には武家のたしなみとして、利休らによる「茶道」が完成された。現代は表千家、裏千家など、お茶の流儀を教えるだけで高収入が得られるシステムができており、茶そのものや、茶に関する道具、茶菓子、懐石料理、茶室、庭園など、産業としてみても折からのカルチャーブームに乗り大盛況である。

2.水をさすわけではないが・・・・・

 日本古来の伝統が見直され、茶の作法を若い人が学ぼうと努力することはたいへん結構である。筆者自身も茶を飲むことは大好きで、京都の一保堂などの名茶を活水器の水でいれると実においしい。
 だが、お茶好きのあまり、茶の小売店を始めて数年になるSさんの例を知っているだけに、お茶も用心が必要と実感している。無意識に飲んでいる茶をとりあげ、現状と、正しい飲み方を伝えることに意義を感じている。
 当時Sさんは、44歳。会社員生活から流行の脱サラをはかり、奥さんと共に地方都市の商店街に小さな茶販売の店を設けた。全国各地のお茶だけでなく湯のみ茶碗や急須も置いた。若い人のために紅茶やコーヒー豆さえ品揃えをしたという。
 毎日のように茶問屋からセールスマンが訪れ、仕事熱心なS氏はそのたびに熱い日本茶をいれて、自分の舌で確めていた。ご存知のようにお茶は、産地、蒸し方、一番つみ、二番つみ、葉のよじれ具合、葉の大きさ等々により差異が大きい。そのうえ、番茶、ほうじ茶、玄米茶などブレンドによって別の味になる。「メーカーごとにいろいろなお茶になっていて、消費者に良い品質の茶を提供したいと必死になり、1日に20杯も30杯もお茶を飲んだ」とS氏は語っている。
 努力のお陰で顧客が増え、営業がやっと軌道に乗りはじめた6年目に、S氏が原因がわからない胃腸病にかかってしまった。運動が好きで、自己トレーニングを欠かさなかった彼は、体重70kgのがっしりした体格で、健康と体力に自信を持っていた。
 ところが何を食べても下痢をして、胃がキリキリ痛む。病院を何ヵ所も変えたが病名がはっきりしない。ある病院では「胃かいようと、十二指腸かいよう」といわれ、別のところでは「胃がんの疑いで生命は長くない」とさえ教えられた。
 1年くらいの間に体重が60キロを割り、その後急速に体力がなくなり、頑丈な骨組みのS氏が何と40キロ。最悪のときは38キロにまで落ちてしまった。「当時の写真がこれですよ。この世の最後の見納さめにと病床から起きて写真屋にとってもらいました」と見せてくれた写真は、全然別人のようなS氏の姿で、信じられないほど。
 近代設備の整った大学病院で、あとは死を待つ毎日だったという。こんなとき「どうせ死ぬなら、この民間に伝わる薬草を飲んでからでもいいのでは?」と級友の一人が与えてくれた煎じ薬を「どうせダメだろう」と期待もせずに約1ヵ月飲んでみたという。
 結果的にこの療法が功を奏して、S氏は間もなく病院を出て、自宅療養に専念。2年間ですっかり元の健康な体に戻ったという。

3.原因は日本茶にあった

 まるで小説やTVドラマのようなストーリーだが、S氏は現在も元気で、いつでも証人として皆さんの前に姿を見せて体験を語ってくれる。
 なぜS氏がこんな変な病気に見舞われたか---読者の皆さんはすでに意図を見抜いているように、S氏が毎日毎日飲んでいた日本茶に病気の原因があったのだ。
 当時(昭和39年ごろ)のお茶の状況を考えあわせて、お茶にどんな危険があるか、私なりに考えてみた。
①お茶にはもともとカフェインやタンニンが多く含まれる。上等なお茶ほど多い。カフェイン量はコーヒーを上廻るほど。(別表参照)これらの作用で胃が荒れた。
②産地ではお茶に農薬や化学肥料が使われる。はびこる雑草に除草剤も使用される。これら化学物質が茶の若芽に濃縮され、蓄積されていた。
③最近の食品加工技術が、悪い方に利用され、茶葉を蒸す工程で、グルタミン酸ソーダや核酸系調味料、その他の素姓不明のコクを出す物質が茶の葉にスプレーされ、乾されて、お茶になる。飲むと「おいしいお茶だ」と評判になったものに、はっきり調味料の味がする。
④信じられないが、同様に黄色や緑色の色素と、茶の香りがする香料、それにコクがスプレーされて人工の茶が作られる。大量に社員がお茶を飲む社員食堂や、学校給食など、安い茶や自動販売機に入っている茶に、こんな粗悪品が実在する。
「このお茶は何回いれても黄色い色が鮮やかで、香りも持つ」と女子社員が不思議に思い、白い毛糸を茶に浸すと黄色に染まった。調べると合成色素による着色であった。こんな石油からとった物質をガブ飲みさせられたわけである。
 ---このうち④の例は最近は少なくなっている。だが、安物のお茶には色素入りが残っていると、今も言われている。市販されていないが、業務用にパック詰めされていたり、ディスカウント店に流れている例があったと聞いている。食堂などで、色だけのお茶はなるべくお代りしないでおこう。
 問題は、農薬が残っていることだ。
 「いいお茶ほど何回も農薬が散布され大事に栽培されています。うまい、うまいと何杯も飲むのは危険です」とS氏は警告してくれている。
 食品添加物の危険性を古くから啓蒙し、日本の第一人者である郡司篤志さんを知っている人が居るだろう。彼こそとうふに使われていたAF2を追放した原動力である。
 「ヒステリックすぎる。安全な物までも使えなくなる」と食品業界や学会では嫌われているが、彼が主張したからこそ、現実に食品添加物の数は次第に減り、消費量も次第に減っている。もし誰かが犠牲になって歯止めをかけないと、業者たちは「安くできるから」と大衆の健康など深く考えずに、添加物を多用し続けていただろう。
 昭和30年代の食品業界に身をおいていただけに、大会社から零細企業に至るまで、添加物の実態は恐ろしいほどであったことを私は知った。
 この郡司さんが最近イラスト入りで「怖い食品1000種」(ナショナル出版)を発表されている。この本の「茶」の部分に、タール色素や化学調味料の大量使用と共に、農薬の濫用が次のように述べられている。
 ---静岡名産の番茶から、残留農薬の許容量を14倍も上廻るDDTが検出されたことがある。これは検出された100点のうち5点だけであるが、中には最高7ppmも検出されている」
 これに対して業界では「この数字は1年前の古茶であるから新茶に関係ないし、湯で100分の1に薄めれば人体に影響はない」と恐るべき無責任な発言をしている。彼ら製茶業者は我々消費者の健康をどう考えているのだろうか。殺人罪を適用されても不思議でないような人間が茶をつくっているのである---原文のまま引用した通り、オーバーな表現ではあるが、実際の危険を指摘しているわけだ。

4.お茶の上手な飲み方

 緑茶にはビタミンCが含まれ、熱湯を注いでも湯呑み1杯当り6~8㎎のビタミンCがとれる。紅茶やコーヒーよりもこの点では健康づくりに適している。
 含まれるカフェインやタンニンは適量であれば脳や神経を刺激し、眠気を覚ましてくれる。筋肉の働きを活発にさせ、緊張される作用がある。小山選手などコーヒー党といわれるほどコーヒーをよく飲むし、石村選手は日本茶の大ファンという。
 利休や秀吉は精神修養や武力の高揚のために、お茶を自ら愛飲し、人々に普及させた。
 だが現代の日本茶は利休や秀吉の時代の茶と農薬や添加物の点でまるでちがっている。カフェインのために麻薬のような反復継続性がある。「おいしいから」と飲んでいるうちに、量が次第に増えて止められなくなる。こうなった時に蓄積された毒物の心配が現実になる。
 ステロイド等にも共通だが、現在使っている時点では平気であっても、将来のいつか積もり積っていた物質が、その人間の耐久力(ホメオスタシス)の限界を超えた時に、悪魔の力を発揮して生命をむしばんでゆく・・・・・。軽くあなどってはいけない。
 では以下にお茶の上手な飲み方を紹介しよう。
①標準以上に濃度をこくして飲まない
②グルタミン酸ソーダ(味の素)の味がするお茶は買わない。もちろん自然の茶にもグルタミン酸が少量含まれるので、ある程度はこのような味がわずか感じられるが、程度の強い茶は人工添加の可能性がある。(使用しても「表示の義務」がない添加物なので、レーベルに明示されない。この点も問題)
③熱湯をさまさずに、何杯も飲んだりしない。ガンの原因になる。(奈良県に茶飯の風習があり、胃がんによる死亡率が高い)
④茶の細かいカスはなるべく除く。決して好んで飲んだりしない。(最近は茶こし付きの急須が販売されている。これを利用するとよい)
⑤丸1日以上置いた茶は飲まない。タンニンが鉄と化学反応をおこして下痢をおこしたりする。また夏季はカビ発生の心配もある。
⑥茶の葉に湯を注いだら、全部、茶わんに移して湯を急須に残さない。水切りをよくしておく。
⑦抹茶や玉露などは1日に2~3杯にとどめる。
⑧日本は緑茶だけでなく、紅茶、中国茶、コーヒー、ココア、ミルクなど嗜好飲料の種類が多い。お茶だけを偏って飲むのでなく、1日にも種類を変えて飲むのがよい。
⑨最近では、鉄観音茶、朝鮮人蔘茶、甘茶ズル、西洋のハーブティ、百年茶など、原料がちがう各種の健康茶が広まっている。このような茶を嗜好に応じて使うのも良い。
⑩麦茶や玄米茶なども良いが、加工が進みすぎ、冷水でも味が出る製品には、いったん別に抽出したエキスが吹きつけられており、その際に着色料や香料、コクを出す物質が付加されている製品がある。レーベルの原材料の項目をよく調べて安心できる製品を買おう。

 最後に、それぞれのお茶の違いと、含まれるビタミンC、カフェイン、タンニン量等を別表に示す。
《別表》お茶の種類と成分表(成分の数字は、標準量の熱湯でとかしたときの、茶碗1杯当りの数字、㎎/100cc)

《別表》お茶の種類と成分表(成分の数字は、標準量の熱湯でとかしたときの、茶碗1杯当りの数字、㎎/100cc)

月刊ボディビルディング1985年1月号

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