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食生活赤信号〈14〉
魚はだいじょうぶか?

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月刊ボディビルディング1985年3月号
掲載日:2021.05.20
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

1.もっとも大切なタンパク源

 ボディビルを実施する者にとって、筋肉発達の材料となるタンパク質をいかに上手に食べるかは重要な問題である。四方が海に囲まれた日本では魚を抜きにした食生活は考えられない。
 一流選手の食事法にも魚は毎日必ずメニューに入ってくる。海外でも魚の持つ価値が見直されており「ビルダーよ、肉でなく魚をもっと食べよう」と外国雑誌にもそんな記事がときどき載っている。
 「いや、肉を食べた時のほうがパワーがつく感じがする。魚はどうも食べた気がしない」という人も中にはいるが、後述のように栄養学の立場から見れば肉と魚は差がない。むしろ、魚のほうに軍配が上る項目が多い。多くの人は、イメージだけで思いこんでいるのであり、魚を嫌わずドシドシ食べていただきたい。
 魚が嫌われる理由をいくつか考えてみると、
①魚には骨が多く、食べにくい。のどに刺さって痛むことがある。
②味が淡白で、食べた気がしない。
③目玉がついていて、気味が悪い。
④内臓が気持わるい、なまぐさい。
⑤お母さんが料理しにくい。魚も包丁で切れない女性が結構いる。
---などである。魚の栄養について考えれば、このような理由は消しとんでいく。以下に「魚と肉」の比較を述べてみよう。

2.魚チームと肉チームは?

 魚は種類が多い。近海の魚、遠洋の魚、川と湖の魚と、捕れる場所でもちがう。小さなシラス干しや丸干しからマグロや鯨(正しくは哺乳動物であるが)まで大きさも違う。数の子やタラ子、アサリやシジミ、えびも貝も含めると大変な数になる。料理法も刺身から、焼魚、煮魚、干し魚、缶詰、かまぼこ、さつまあげと種類が多い。それだけ変化に富んだ食生活ができるわけである。
 いっぽう肉のほうは、以前に連載したように、牛肉・豚肉・鶏肉が大部分で種類が少ない。産地や大きさの差もさほど無い。料理法も刺身や干し肉は一般的でない。
 それではこれらを一括して、魚グループと肉グループの両者を誌上で対戦させてみよう。
〈表:魚と肉の一長一短〉

〈表:魚と肉の一長一短〉

 この表は魚全般、肉全般を大ざっぱに比較したもので、大体の傾向が判断できよう。魚の場合、干したり、佃煮にすれば水分が減少するので、相対的に栄養価は高くなる。肉の場合、内臓(レバー)や舌、胃など部分別に詳しく見ると数字が高くなっている。けれども普通の魚や肉を100g食べる場合を考えて上表にまとめてある。しらす干し100gとか豚の腎臓100gを食べる例はあまり無いと考えられる。
 栄養価は前記のような幅だけでなく平均的な数字(もしくは中央値)が大切であるが、たんぱく質量では魚も肉も約20%前後で大差はない。脂肪は季節的な変化や、充分に成長したものか、そうでないものか、食べる部分がどこかにより大きな差が出る。
 EPAは魚から最近発見された脂肪酸の一種で、血液の粘性を低下させ、悪玉コレステロールを減らすことが判明している。

3.魚のこの点が心配

 では魚は手放しで賞めて良いものだろうか?この「食生活赤信号」のシリーズは、知らない不安が食卓にしのびより、業者まかせにしていると健康づくりにマイナスになる項目を筆者が選んで紹介している。魚の場合、どんな危険があるか、まとめておくことも重要な作業である。
①「水銀マグロ事件」といって、マグロに水銀が多量に含まれ、原爆実験の結果と騒がれたことがある。「マグロを食べると頭がハゲる」とうわさされ、スシ店ではマグロを注文する客が激減し、魚市場では相場が暴落した。現在もマグロに水銀が多いが、誰も騒ぐことなく、人気は復活している。
 また「ホタテ貝の養殖場が工場排水で汚染されたので危険」というニュースがあったが、いつの間にか話題にならなくなった。
 これらの教訓は「好物だからといって同じ物ばかり長期間食べつづけるのはやめよう」と解したい。種類が多いのだから、いろいろ食べることである。
②「フグは食いたし、命は惜しいし」という諺がある。おいしい物と危険が両立しない悩みをうまく捕えている。フグのキモのような危険のある物は、専門店で免許を持った調理師がつくったものに限る。これが賢明だ。
 釣りブームに乗り、汚ない河や海で魚を釣って帰る人がいるが、素性のわからない魚は用心しよう。
③工場排水のPCBなどが魚の内臓に蓄積されている。トレーニングで汗を流し、脂肪の新陳代謝をはかっている人にはPCB等もたまらないと、以前に述べたことがあるが、そうかといって危険なことをわざわざしない方がよいとも考えられる。内臓が除ける魚は除こう。丸干しやしらす干し、佃煮なども長期間常食しない方がよい。(もちろん1週間に2~3回食べる量なら問題はない)
④生の魚は腐敗が早い。冬なら生のまま遠方まで持っていったり、刺身で食べていが、夏はよほど新鮮な魚でないと危険。魚の目が澄んで透明なもの、ウロコがきれいで、身がひきしまっている魚を選ぼう。
 タンパク質の腐敗した物質は体にひどく有害で、中毒にかかった場合も症状が重い。(肉でも同じ)
⑤アジ、サバ、サンマなど干した魚は日持が長いので便利だが、古い物を売っている店では、表面が酸化して赤茶色に変色している。脂肪が変質し、過酸化物を生じている。ラーメン中毒のような下痢をすることが多い。なるべく色が白く、異臭のしない新鮮な干物を買おう。海のお土産にする時も注意が大切である。
⑥アジ、サバ、サンマ、イワシ、シシャモなどは「焼魚」にして食べることが多い。火を強くして表面が焦げると発ガン物質に変化する。焼鳥も同じだが、やたら焦がすことはやめよう。
⑦魚料理のもう一つの考えられる欠点は塩・しょうゆを使いすぎること。塩分が多いと高血圧や腎臓病が増加する。魚のおいしい漁村に、塩分好きな人が多いので、なるべく薄味で魚を食べていただきたい。レモンで風味を出すことは良いことである。

4.ビルダーへのアドバイス

 肉とちがって、魚は骨・皮・卵など全部食べられる。栄養のバランスが良くなるので、ぜひ魚からタンパク質をとることも今後の重点に考えよう。そのためには次の点を参考にすると、いっそう体力づくりに有利である。
①缶詰は季節を問わず入手でき、殺菌工程(加熱)がされているので安全な食品である。価格も安い。
②体重を増やしたい人なら、マグロやイワシ、カツオの油漬けのようなカロリーの高い缶詰を愛用しよう。サバの味噌煮缶詰は安価で高タンパク量をとれるので筆者は昔からビルダーの人びとにすすめている。シーチキン缶詰もよい。
③減量する人はサバやサケの水煮缶詰やカツオのフレーク缶詰のように脂肪が少ない缶詰を選ぼう。
④缶詰に入っている油や水、みそは食べても食べなくても良いが、減量中の人は当然食べないほうが良い。
⑤缶詰は持ちが良く、2~3年たったものでも食べられる。ただし買うときに缶が外側に膨らんでいる商品は腐っているので絶対に買わないこと。
⑥魚屋には産地から氷だけ詰めた生の魚と、いったん冷凍したものを解凍して戻した魚と、2種類ある。冷凍魚が悪いわけではないが、戻し方が悪いと味が落ちる。なるべく生の魚を買うと刺身で食べられて、おいしい。
⑦スーパーで切身にしてパックされている魚より、魚屋で1匹丸ごと買ってきて、自分で料理できると良い。骨や頭まで吸い物に利用でき、経済的でいろいろの栄養素がとれる。
⑧太りたい人はフライや天ぷらなどの油料理が適している。太りたくない人は刺身や焼魚がよい。
⑨魚だけでなく、大根おろしやしょうが等の野菜を同時に食べよう。
⑩魚のタンパク質含有量は、前述のとおり大体20%くらいの場合が多いがアミノ酸のバランスを示すプロティンスコアの差が大きい。
 プロティンスコアの高いものはアジ88、イワシ91、さんま96、まぐろ90など肉と同等かそれ以上である。逆に低いものはサバ61、かれい62、ひらめ54、にじます65などである。
 プロティンスコアの低い魚は、メチオニンやシスチンなどの含硫アミノ酸が少ないためである。この対策として大根おろしにカツオブシをパラパラふりかける方法をすすめたい。なぜなら、カツオブシは少量でも、メチオニンが多いので、これらプロティンスコアの低い魚と同時に食べれば、胃腸内でアミノ酸バランスが補完されて、ちょうど良く体内のタンパク質合成に利用される。このように単品だけで食事をするより、混合して食品を食べたほうが、体の栄養強化に役立つ。
 米とみそ汁、パンと卵などは先祖代々の生活の知恵といえる。
⑪丸干しイワシやシシャモなどは魚全体を食べられるので、栄養上はすぐれているが、くれぐれも黒く焦がしすぎないように。
⑫佃煮の小魚も丸ごと食べられる点はカルシウムの補給になって良いのだが、塩分や糖分が強すぎたり、合成保存料や酸化防止剤など食品添加物を使用しているものが多い。買う前にレーベルの表示をしっかり確かめよう。
⑬シラス干し(関西ではチリメンジャコ)も同様に良い食品であるが、漂白剤を用いて白くしている場合がほとんどである。白い魚は外見はきれいだが、硫黄の臭いが残っていたり、しばらく放置すると黄色~茶色に変化する。したがって買うなら漂白していない、色の自然な黒い小魚のほうがよい。
 スーパーのパックでは水につけて湿らせて重量を増やしている製品が多いので、サラサラ乾いている物が上等といえる。
⑭魚の身をすりつぶして加工したカマボコ、ハンペン、ちくわ、さつまあげ等はタンパク質が10~15%と多く含まれるので、意外なタンパク質供給源である。しかしながら大量生産大量販売される製品には、さまざまな食品添加物が使用されている。日持ちをさせるための保存料、酸化防止剤に問題が多い。安いものはデンプンが多い。したがってホドホドに使う程度にしよう。手づくりで良心的な店のものなら良いが、現代では、入手しにくくなっている。
⑮えびやカニにコレステロールが多いと従来信じられてきたが、測定法の誤りで、実際にはさほど多くないことが判明した。適度に食べるなら問題はない。よく街角でトラックに積んでカニを売っているが、筆者は腐ったような変な味でこりたことがある。なるべく信用できる店で、新しいものを買おう。えびは頭から尾まで完全についてるのは生で、頭がちぎってあるのは冷凍物と考えてまちがいない。
⑯意外なことだが、シジミのプロティンスコアは卵と同じ100。アサリは88である。しじみ汁が肝臓に良いと昔から言い伝えられているが、現代科学でみても、納得がゆく。一晩清水に浸し、クギなどを入れて砂をはかせ、みそ汁で食べるとよい。
⑰広島や仙台の名産カキはプロティンスコアこそ63と低いが、アミノ酸の1種、タウリンが多く含まれ、強精強壮の効果がある。ビタミンやミネラルが多く、海のミルクと呼ばれるほどである。
 季節をはずすと、有毒物質を生じ味もまずいので、英語のRのつく月になるべく食べることにしよう。カキフライは体重増加をはかる人に最適のメニューである。
月刊ボディビルディング1985年3月号

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