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ビギナーのためのやさしい栄養講座
〈1回目〉◎カゼをふきとばす食事法
     ◎ビタミンについて
    ◎タンパク質の効用

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月刊ボディビルディング1985年3月号
掲載日:2021.05.18
ヘルスインストラクター 野沢秀雄

カゼをふきとばす食事法

◇カゼの季節

 西高東低の冬型の気候になり、日本列島がすっぽりと寒気団におおわれるころになると、きまってインフルエンザにかかる人がふえてくる。
 カゼはビールスによって感染することはわかっているのだが、人によってはすぐカゼをひくのに、なかにはまったく平気な人もいる。ふだんから体力があって抵抗力のある人は一般にカゼにかからないといわれるが、スポーツマンで立派な体格をした人でも意外にカゼでダウンする人が多い。
 カゼで体調をくずしたり、練習不足になって、せっかくのぼり調子になったところでストップしてしまったという経験をもっている人も多いと思う。

◇カゼの症状と本質

 このように、病気のなかでも最も頻度が高く、1年のうちには誰でも一度や二度は必ず経験するカゼだが、残念ながら現在でも充分な解明がなされていないのが実情である。しかし、一般的には"熱っぽい・寒気がする・頭が痛い・鼻水やセキ、くしゃみが出る"といった症状があるときに「カゼ」あるいは「カゼ症候群」と呼んでいる。
 このカゼにかかる要因のほとんどがビールスの伝染によるもので、現在わかっているだけでも150種類のビールスに加え、数種類の細菌が関係しているといわれている。さらに未知のものを加えると、数限りなく病原体が存在することになるので、われわれは条件さえそろえば、いつでもカゼをひく環境の中で生活をしているのだ。
 だが、特に秋から冬にかけてカゼをひく人が増えるのはなぜだろうか?
 まず第1に「カゼのビールスにとって、冬の低温が適当な環境となり、われわれの体も寒さや空気の乾燥によりビールスに対する抵抗力が弱まるので病原体の影響を受けやすくなる」ということ。第2に「冬の生活環境は閉鎖的であるため、患者からまき散らされる病原体に接触する機会が多い」という2つの理由が考えられる。特に季節の変わり目は、体のほうが環境変化についていけないのでひきやすい。

◇カゼは気のゆるみから

 カゼをひきやすいのは、いま述べた気候や環境変化によるが、直接的な原因としては①疲労、②栄養不足、③睡眠不足、④保温の誤り・・・・・等だが、その他に意外と忘れがちなものに"気のゆるみ"があげられる。
 私の友人で、永年勤めた会社をやめて独立した人がいる。いわゆる脱サラである。
 彼は会社勤めの頃はしょっちゅうカゼをひいて休んでいたのだが、いざ独立してみると、生活がきびしく、1日中かけずりまわっていてロクな食事もとらず、睡眠不足でクタクタに疲れ果てているにもかかわらず、ピタリとカゼをひかなくなった。
 「カゼをひくなんて気がゆるんでいるからですよ。今の私にはカゼをひくことも許されないんですから」とその脱サラ氏はいう。
 つまり、精神のゆるみがビールスを侵入させる最大の原因なのだ。「寒稽古では何ともなかったのに、それが終ったらとたんにカゼをひいた」という人は、この気のゆるみのせいである。

◇カゼとビタミンCとタンパク質

 以前、こんなポスターがあった。柿がたわわに実っている田舎の家の縁側で、おばあさんが若い女性に柿をむいてあげている。キャッチ・フレーズは「柿の好きな人はカゼをひきません。それはビタミンCが多いからです」
 ノーベル化学賞をもらったポーリング博士によると、ビタミンCはカゼを予防したり治療する効果があるので、大量に飲みなさいという。
 この説には反対をとなえる人も多くまだ定説にはなっていないが、ビタミンCは皮膚や筋肉の間にある結合組織を固くする作用が認められており、その意味から体の抵抗力を強めると考えてよい。この例として、1日5gのビタミンCをとるようになってから10年間、それまでよくカゼをひいていたのに一度もカゼにかからなかった人の例が報告されている。また最近では、1日1gのビタミンCをとる習慣をつけた人は、カゼをひく割合が36%も減った---というデータも出ている。
 次にカゼに関係する栄養素にタンパク質がある。タンパク質を多くとるようになって、4年間ずっとカゼをひかなかったという人がいる。カゼに対する抗ビールス物質をインターフェロンと呼ぶが、これはタンパク質より成っているので、充分にタンパク質をとれば、インターフェロンが増えて抵抗力がついてくる---という説である。
 その他に「夏の海水浴シーズンに、たっぷり日光にあたり肌を黒く焼いておくと、冬になってカゼをひかない」という説も一般に信じられている。
 これは、紫外線の作用で体内にビタミンDができ、体の骨がじょうぶになるからであろう。ただし、日光にあたりだめはできないので、夏だけではなく、秋や冬にも機会をとらえて日光にあたることだ。寒さに向うときに肌を紫外線にさらすこと自体にストレスに耐える効能がある。
 また「夏のうちから冷水マサツを長時間つづけるとよい」とも言われている。冷水マサツを長時間つづけると、寒さに対する反応がにぶくなるので、急激な環境の温度変化にもついていけるからだ。日光浴と合せて行えば一石二鳥である。
 ただし、いきなり寒気に肌をさらすと逆効果になってしまうので、徐々に慣らしていくこと。さらに、外出後の"うがい"や"石けんでの手洗い"は病原体の感染を防ぐので、ぜひ実行していただきたい。

◇外国ではカゼ薬を簡単に買えない

 カゼをひいたな、と思ったら、日本では薬局で気軽にカゼ薬を買えるが、外国では医薬分業が徹底しており、医者の処方箋がなければどんな薬も買うことができない。
 では、イザというときにはどうしているか。実はヨーロッパにも薬効をもった植物などの民間療法が伝えられている。日本でも昔から伝わるいくつかの民間療法があるが、次の方法などは手軽で副作用もないと思うので試してみてはいかがだろう。
①玉子酒を飲む。アルコールには解熱作用があり、玉子にはブロブリンという免疫体が含まれている。
②梅干しを焼き、ハチミツと一緒に熱湯で飲む。
③ドクダミやヨモギを煎じて飲む。
④にんにくを焼いて味噌で食べる。
⑤タマネギをスライスして生のまま食べる。
 以上の例は体などの個人差で、誰にでも効くとは言いがたいが、永く民間療法として伝えられてきたものなので、試してみる価値はあるだろう。それにしても何より大切なのは、ふだんから規則正しい生活と運動、そしてバランスのとれた食事をとって、強い体をつくっておくことである。

ビタミンについて

◇原因不明の病気

 「以前はあんなにハードにトレーニングしても疲れなかったのに、最近は体調がすぐれずバテやすい」「脚がだるく、走ったり階段をのぼるのがとてもつらい」「下半身がむくんで膝が痛い」といった症状に思いあたらないか?
 九州地方から近畿地方にかけて、猛練習をする運動部の選手の間にこのような現象が起こったことがある。
 大学病院の調査班が懸命にしらべたが、さっぱり原因がわからない。ジーパンなどの窮屈なズボンをはくからではないか」「新型のカゼではないか」などと様々な意見が出たけれど、調査の結果、どれも否定的。
 ところが「ふだんどんな食事をしているか」を詳しく尋ねると、コーラやラーメン、菓子パンなどを常食している者にこの症状が多く、結局、ビタミンB1不足によるカッケと判明した。
 次に示す表は、おもなビタミンの作用と含まれる食品である。
記事画像1

◇スポーツマンにはとくに重要

 インスタント食品は便利なので運動選手に限らず誰でもよく食べる。それなのに、どうしてスポーツマンだけにビタミンの欠乏症状があらわれたかというと、激しい練習の際、カロリーやタンパク質と同時に、微量なビタミンやミネラルが大量に消耗されるためである。
 厚生省が発表している「日本人1人1日当りの標準栄養所要量」による、20歳の男子と女子の場合、ビタミンの所要量は次のような数字になる。
記事画像2
 表の数字は、あくまでも普通にすごす人の場合である。スポーツ練習をする人や重労働をする人の場合は「重労働加算」としてビタミンB1 0.4mg、ビタミンB2 0.5mgニコチン酸7㎎を多く食べるようになっている。計算するといずれも約40%の増量であり、1日3食を4食に増やしてもまだ足りないほどだ。
 またビタミンAとCの増量について体協スポーツ科学委員会は「ビタミンAは疲労回復に、ビタミンCは過激なトレーニングのストレスに対して抵抗力をつける作用があるので、普通の人の2倍くらい多くとるのがよい」と発表している。

◇ビタミン剤やドリンク剤の効果は?

 「自分は相当に食べているのに、まだ足りないのだろうか?」と疑問に思う人がいるだろう。たんに腹いっぱい食べても、肝心の栄養素が補給できないことがよくある。なぜならば、
①加工食品が多すぎる
 米、小麦粉、砂糖、化学調味料など精製しすぎて、自然が本来持っていた栄養素が減少している。
②温室栽培物が多すぎる
 いちご、トマト、きゅうりなど冬でも自由に食べられるが、自然の大地で太陽を浴びてつくられたものとちがって、ビタミンCやミネラルなどが半分以下に減っている。
③流通期間が長すぎる
 畑でとれたばかりの野菜や果物はビタミンが多いけれど、遠い産地から輸送され、市場に出て、店頭に何日もさらされると、有効成分はどんどん減ってくる。
④良い部分しか食べない習慣
 大根の葉やりんごの皮を食べる人はほとんどいなくなった。また魚の内臓や皮を食べる機会が少なくなり、スーパーで「切身」を買って食べる人がほとんど。
 ---といった事情のため、ビタミンやミネラルが不足がちになる。
 「それじゃ近くの薬局でビタミン剤やドリンク剤を飲めばいい」という人もいると思うが、一度にゴクリと飲んでも効果は一時的だ。また値段も高い。とりすぎても体に害を与えるので、適量にとる注意が必要だ。

◇こんな配慮をするのが良い

 やはり基本はふだんの食生活を改善することだ。炭水化物やタンパク質、脂肪などと共に、ほどよく混合して体にとり入れるとき、ビタミンはもっとも有効に利用される。
 グリコーゲンが燃焼するときにビタミンB1が効果的に働いてエネルギーを生む。タンパク質合成にはビタミンB2 やB6が補助する。
 したがって、体力強化のためには、次のような食事法に注意すればよいだろう。
①インスタント食品はなるべく少なくする。とくに砂糖の多いコーラやジュースはひかえる。またラーメンやカップめんもほどほどにする。
②季節に出廻る野菜や果物をつとめて食べる。西洋野菜(キャベツ、セロリ、レタスなど)より、春菊、ほうれん草、たか菜、ピーマン、大根葉など緑色の濃い野菜を多く食べる。
③レバー、魚の皮、落花生の渋皮などを捨てないで、よくかんで食べる。
④可能ならば玄米、無漂白小麦粉、あら塩、黒糖などを使う。調味料も天然の小魚、カツオ、コンブなどを使うようにする。
⑤プロティンなど体力づくりのための健康食品を購入するときは、ビタミンやミネラルが同時に含まれる製品をえらぶ。
⑥好き嫌いなく、なんでも食べる。

タンパク質の効用

◇がっちり体重をふやす

 「オレは体重があと何kgほしい」という希望をよくきく。だが「脂肪」や「水分」でブヨブヨ太ってはなんにもならない。腹筋にくっきりとした段々(腱画)ができるような体にならないと意味がない。
 本誌の読者はそのためにボディビルをはじめたわけだが、トレーニングに関することはジムのコーチや先輩たちにおまかせするとして、ここでは食事面、とくに筋肉の発達にどうしても欠かせないタンパク質について説明していくことにする。
 まず、トレーニングと同時に、食事をタンパク質中心にきりかえること。といっても、ステーキやさしみ、チーズなど、高価で費用のかかる食事をする必要はない。工夫すれば安く、有効にタンパク質をとることができる。
たとえば、サバやサケの缶詰、豆腐、納豆、卵、スキムミルクなどを普通の副食のほかに加える。また、プロティン製品などをトレーニングの前後や間食などに用いるのもよい。激しい練習をするスポーツマンなら1日に100~120gを食べるようにしたい。

◇ある高校の先生の場合

 「タンパク質を主体にした食事やプロティンの採用で体重増加に成功した」という例はずいぶん多い。たとえば、広島県のある高校の先生は次のように語っている。
 「私は高校で体育を教えています。体重増加に有効な方法を探していた時、またまた野沢様にアドバイスをいただいたわけです。本当に効果があるかどうか、まず自分で実行してみました。始めてから1ヵ月。私はこの時ほど驚いたことはありません。10月上旬より開始して、現在(11月上旬)なんと4kg近い体重増加を得たのです。
 この増量が病的な肥満ではないかと一応疑ってみましたが、決してそうではありませんでした。筋肉のきれがいちだんとよくなり、ひきしまった体つきになって、体重もふえているのです。その後も順調に体重も増えつづけています。みんなにも自信をもってプロティンをすすめています」
 ---この例はボディビルを行いつつ食事をタンパク質中心に切りかえて、短期間で成功した例である。この先生の実行した食事法のポイントは、1日3食のほかに間食や夜食に卵やチーズを食べたり、トレーニングの前後にプロティン・パウダーや高タンパク質食品を摂ったことである。

◇動物タンパクと植物タンパク

 「牛肉100g食べれば、タンパク質を100gとったのと同じになりませんか?」と初心者の人から質問されたことがある。
 肉・魚・チーズなどはたしかにタンパク食品であるが、牛肉には水分が70%含まれ、正味のタンパク質は約20%しかない。だから牛肉100g食べてもタンパク質は約20gというわけだ。
 魚も肉とほぼ同じ。チーズは25%、卵は13%、牛乳は3%、豆腐は6%というように、意外に少ないものだ。したがって、毎日いろいろな食品を組み合わせて、トータルで100~120gになるように工夫すればよいわけだ。
 「体重1kg当り2gのタンパク質をとればよい」と一般に言われている。60kgの人なら120g、70kgの人なら140gが目標となる。
 「同じ食べるなら、植物タンパクより動物タンパクのほうが効果があるのではないか」という質問をよく聞く。たしかに小麦、米、大豆、とうもろこしなどの植物タンパクは、構成するアミノ酸の比率がアンバランスなので、プロティンスコアという点数をみると、卵や魚・肉より相当に低いことがわかる。
 ところが大豆タンパクの場合、不足するアミノ酸(メチオニン)を加えればプロティンスコアが高くなり、肉や卵、乳製品などと同じ効果をあげるようになる。そうすればこの大豆タンパクは次のような種々の利点があって、かえって健康増進に理想的といえるのだ。
①コレステロール増加の心配がない。
②アルカリ性なので、血液がきれいに保たれる。
③脂肪の害がない。
④経済的に安価である。
 タンパク質は動物性であれ、植物性であれ、いったん口に入り消化吸収されるときにはアミノ酸という物質に分解される。アミノ酸が血液と一緒に肝臓を通り、全身の組織へ運ばれる。そして、身体の各部分で細胞にとりかこまれて、筋肉・骨・皮・毛髪など、さまざまなタンパク質に再合成されるのだ。

◇タンパク質は身長にも関係

 「身長の高さとタンパク質摂取量とは比例する」と国立栄養研究所から発表されている。
 近年、若者の身長はぐんぐん伸びて18歳男子の平均が169cmといわれている。今から20年前は163~164cmだったから、この20年で実に5~6cmも背が高くなったわけだ。その原因は、食生活が豊かになって、1日当りのタンパク質摂取量が68gから80gに増加したためと説明されている。
 そのほか、太りすぎて減量する場合しばしば「タンパク質やビタミン、ミネラルまで少なくなり、かんじんの体調をそこなう」ということが起こりやすい。減食しても、タンパク質やミネラルなどの微量栄養素を減らさないように注意すれば、スムーズにきれいな減量ができる。
 また、ケガをしたあと、回復するのに高タンパク食にすると治療が早い。手術をしたあとやヤケドなどにも有効だ。その他、胃かいようや肝臓病、腎臓病(ネフローズ)、血圧の調整などにもタンパク質の多い食事が効果をあげる。
 次の表はタンパク質の多い食品のベスト10である。
記事画像3
月刊ボディビルディング1985年3月号

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