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減量法総点検

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月刊ボディビルディング1982年8月号
掲載日:2018.12.23
健康体力研究所 野沢秀雄

1. 減量はどこまで必要か?

 ボディビルを行う者にとって、余分な脂肪を除くことは、必要最低限の条件である。「シェイプアップ」という言葉のように、体型を美しく仕上げるには、たるんだ脂肪が邪魔になる。ウエストが細く、筋肉が浮かびあがるような体質と体型に持ってゆくのが理想的である。

 ましてコンテストに出場して、タイトルを獲得しようとすれば、筋肉の上を厚く覆っている脂肪層をなるべく薄くしなければならない。そうしないといくら筋肉のバルクがあっても、きれいなカット、いわゆるディフィニションやセパレーションが得られず、上位入賞は望めない。とくに内外のボディビル・コンテストでは、筋肉のバルクと同時に、筋肉せんいの目立った体が高く評価される傾向にある。

 IFBB方式で審査が行なわれる場合、体重別で出場申込みをすることになる。70kg前後の体重の人は、ライト級に出場すべきか、ミドル級に出場すべきか、お互い相手のレベルを予想しながら、自分の体重をコントロールしなければならない。チームで団体優勝をねらう場合は、自チームのメンバーで、誰がどの級に出場するか、さらに厳密な作戦を立て、体重調整をしなければならない。

 1979年度のフィリッピン・マニラで行われたミスター・アジア・コンテストでは、検量直前にトイレで食べ物を吐き出させて、何とか計量をパスさせようと、実に苦しい思いをしている選手たちを何人も見かけた。

 減量はビルダーにとって重要な課題である。日頃から正しい知識と習慣を身につけておくことが大切である。

2. 種目によって異なる減量の意義

 筆者らは、健康体力研究所設立以来、ボクシング、ウェイトリフティング、レスリングなど、体重制競技種目について、体協の先生方と共に、減量の意義とやり方について具体的な調査研究を実施している。

 ボクシングでは、体協および学連のボクシング・ドクターである青木寛先生と共に、学生選手全員について、体位・皮下脂肪・血圧・眼底検査をおこない、試合前に、何日間、どのような減量法を実施しているか、データをとっている。

 レスリングや重量挙についても基礎データを得て、本誌上に発表したことがあるので、覚えている読者もおられることだろう。

 体協のスポーツ科学委員会では、ボクシング選手が連続して、無理な減量後に試合に出場して、死亡する事故が続いたので、減量法に関する研究班を作り、運動種目ごとに詳しい実態調査をおこなった。その中にボディビルも含まれており、当時(昭和50年ごろ)東京農大ボディビル部の選手たちが全面的に協力し、採血したり、採尿したり、大きな貢献をしてくれた。

 このときの研究成果は、体力医学会に報告され、体協の研究報告集に掲載されている。

 研究員のメンバーの1人であり、現在、筑波大学体育学系・運動生化学で教鞭をとっておられる、伊藤朗先生に最近お逢いした。伊藤先生の話によると、「減量がうまいのはボクシング選手で、大会の3日前くらいまでは何でもよく食べ、3日くらい前になると、パッタリと食べ物も飲み物も制限してしまう。検量が終ると、回復力のすぐれた食べ物をとり、元のような体力ある状態に戻している」と、ボクサーの減量法を高く評価しておられた。

 これに対して、「ボディビルダーの減量法は特殊で、変っている。たんぱく質をとって、炭水化物はカットしているが、この方法は一般スポーツには適さないのではないか?」と、ビルダーの減量方法とその目的はまだよく理解されていないようだった。

 一般の人たちがこのような判断をすることは当然といえば当然だが、本質的には間違った認識といえよう。体重制スポーツでは、試合前の検量時に、体重計の指す数字だけが、一定の限界以下であればよい。その一瞬だけ、水分でも、血液でも、尿や便でも、ツバでもよい。要するに体重の数字さえ低下していれば良いわけだ。体に脂肪がついていようと、無かろうと、体の組成はあまり問題にされない。絶対的な体重の数字だけが、検量の瞬間に合格していればいい。

 ボディビルダーの場合はこれだけではすまない。検量があるうえに、舞台上に立ったとき、余分な脂肪が付着しない美しい身体を披露しなければならないからだ。「体重の数字よりも、プロポーション・筋肉の持つ迫力が重要で、そのためには脂肪を体から除くことが必要不可欠」ということになる。無駄な脂肪を除いた体こそ、外観的にも、機能的にも価値があると考えられる。

 ボクシングやレスリングなどの場合も本来は同じ考え方が必要ではなかろうか? 体重は同じでも、筋肉質の体と、脂肪質の体では、戦力として大きな差が出るのではなかろうか?

 中・重量級選手の場合、欧米の各選手が実質的に筋肉が体重の大部分を占めているのに対し、日本選手は脂肪が腹部を中心に相当量付着している。これではとうてい勝てるはずがない。

 軽量級の場合は、選手層が厚いが、それだけ無理な減量による害が現われやすい。飲食を全くせず、死人のように毛布にくるまって3日間もすごし、フラフラの状態で検量する。トイレでは嘔吐物が散乱し、控え室では血液を抜きとったりさえされている。こんな健康を損う方法が「減量技術がよい」と称さられていいのだろうか?

 ある選手は利尿剤を飲まされ、皮ふも舌もカサカサに乾いて、「生きているミイラ」と呼ばれたりした。

 こんな馬鹿げた減量法だけは、健康な体をつくるはずのボディビル界に持ちこまないように願いたい。

3. 一時的な減量にすぎないサウナ

 本当の減量とは、体重計に乗って数字が減った、増えたと騒ぐのではなく皮下脂肪計で、体の各部分、特に腹部中央およびサイドの部分を測定し、一定の基準以下にすることである。つまり、水分や筋肉・血液成分が失なわれるのでなく、体脂肪が合理的に除かれる方法でなければならない。

 以下、広く実行されている減量法を「いかに脂肪がうまく除かれるか」という視点から総点検したいと思う。

 対象となるのは、サウナ法・低周波法・スリムベルト法・ジョギング法・耳ハリ法・漢方薬・低カロリー食品・マンナン製品・水を飲む減量法・もみ出し法・断食法・植物油法・プロティン法・ヨーガ法・ジャズダンス法など多岐にわたる。

 まずトップバッターはジムに普及しているサウナ。これは単に減量という目的だけでなく、汗をさわやかに流すという目的で設置されている。これはこれで役割を果しているので、決してサウナの効用すべてを否定するわけではない。

 確かに汗の成分として、老廃物や有害重金属が流され、新陳代謝が活発になる。サウナに入ると気分もサッパリする。

 しかしながら「減量できる」とPRされているが、本当に脂肪が除かれるか?となると、効果は疑問が大きい。「サウナから出てくると、体重が2kgも減った」と喜こんでいるが、単に汗として出た分だけであり、そのあとビールやジュースを飲むと、すぐ元に戻ってしまう。

 ボクサーやレスリング選手が検量の前に、サウナに入ったり、サウナ着をつけて走って、汗でもいいから体重を減らしたいなら、一時的にしろ、目的は達せられるが、ボディビルダーの減量法としては、効果が期待できない。

4. 日光浴による減量法

 ボディビルのシーズンになると、肌を黒く焼きこむことが広くおこなわれている。外見上、たくましく見えるだけでなく、実質的な効用が多い。

 たとえば太陽に含まれる紫外線の働きで、ビタミンDが活性化され、骨格をじょうぶにしてくれる。また、殺菌作用があるので、ニキビや湿疹、水虫など肌の表面のトラブルをなおしてくれる。また、新陳代謝を活発にして、胃腸をじょうぶにしたり、心臓や肺にもよい効果を与える。

 日光浴もサウナと同様に、発汗を促がすので、一時的にしろ、体重減少の結果になる。筆者らの実験では、午前中の3時間だけで、体重が1kg減ったことが確認されている。

「サウナと同様に、一時的に水分が減るだけで水やビールを飲めば同じではないか?」と考えやすいが、日光浴のほうが、一歩すすんで減量の効果が期待できる。短期間に発汗を促す点ではサウナの方が有利であるが、長期間にわたり、脂肪を分解してゆく点で日光浴に軍配があがるのだ。

 第一の理由は、紫外線がホルモン系とくに男性ホルモン分泌を促して、たんぱく同化作用、脂肪除去作用をおこなうためである。実際に男性ホルモンの多い人は日光に焼けやすく、肌の色も黒くなりやすい。また焼けたあと、黒いまま持続しやすい。

 第二の理由は、気温による影響だ。日光浴が盛んにできる季節と、冬の寒い季節では、皮下脂肪の厚さに大きな差が出る。立教大学の香原教授のデータによると、高校3年男子の場合、顔面の皮下脂肪厚は、冬期の終った3月では平均11ミリ、夏期の終った9月で は平均9ミリと、実に2ミリもの差がある。

 ひとくちに2ミリといっても、体の全表面積を考えると、全体で大変に大きい脂肪量になる。よく例える話だが雪が1cm積ったとしても、日本全体、あるいは地球全体に1cm積ったと考えれば、全体の雪の量はたいへん膨大なものになる。

 日光浴を早春から行う習慣にすれば皮下脂肪はそれだけ薄くなりやすいことが、以上から理解されよう。皮下脂肪の1ミリの違いは、デフィニションに与える影響が大きい。

 だが、何事も「過たるは及ばさるがごとし」である。日光浴を急激に長時間おこなって、火傷状態になっては、健康上かえってマイナスである。体にしみやソバカスが生じ、30代になると消えにくくなる。また「紫外線に当ることは皮ふガンの原因になる」という学説が発表されている。徐々に慣れさせて、長時間日光浴できるように体調を整えることだ。

「熱くなりすぎて痛みを感じる」という場合、すみやかに太陽に当ることを中止し、タオルで体を覆ったり、プールや海・川の水で冷やすことを考えたほうがよい。サンオイルは有害な波長をカットする効果があるので、使用するほうが安全といえる。

5. タバコによる減量法

「タバコを吸うと脂肪がとれる」と、最近、若い女性を中心にプカプカ喫煙する人が増加している。

 煙に含まれるニコチンが血液中に入りこみ、脂肪を燃やす作用は学界でも認められているが、これは人体にとって危険な反応ともいわれている。

 ニコチンは毒物の一種で、心臓の鼓動を早め、血圧を上昇させ、その結果新陳代謝が高まると考えられる。

「タバコをやめると体重がふえる」とよくいわれるが、それほど体力を消耗していたことになる。

 ニコチン以外に、タールや一酸化炭素の害も無視できない。タールは肺の中で凝縮し、粘着性のあるヤニ状のものになる。肺の内面に密生している繊毛が破壊されて、炎症をおこしやすくなる。一酸化炭素は赤血球が全身に酸素を運ぶ働きを弱め、いわば栄養失調の状態にする。

 さらに、紙まきタバコは、慢性気管支炎や肺気腫の主要な原因になり、慢性の肺疾患は肺炎や心不全の危険を増大させる。また、高血圧の危険率を高めたり、女性のピル(経口避妊薬)の危険を高めたりする。タバコを1日に15〜20本吸う妊婦は、流産の危険が、タバコを吸わない人の2倍にも達することが知られている。また、未熟児を生む可能性も大きく、生れてきた子供も体質的に弱くなる。出生直後の赤ちゃんの死亡率が、吸わない人より30%高いという統計もある。

 タバコを1日に15〜20本吸う、平均的な人を例にとると、この人が肺がんで死ぬ率は、まったくタバコを吸わない人に比べて3.6倍 咽喉ガン13.6倍、口腔ガン7倍、食道ガン2.6倍、とそれぞれ高くなっている。また心臓発作で死ぬ率も、吸わない人の1.6倍と発表されている。(日野原重明ら監修「健康の知識大百科」講談社刊より)

 今は健康で何ら異常がなくても、将来いつ症状が現われるか、予測ができない。タバコはできることなら吸わないほうが望ましいので、減量のために無理に喫煙することは避けていただきたい。

 タバコは酸素と同じように気体だと思っている人があるが、顕微鏡でみると、1平方センチ当り百万個もの微粒子が集ったものである。「タバコの煙は気体でなく、固体が高濃度に浮遊した状態」ということをしっかり認識していただきたい。

 実際にタバコを10名程度の会議室で10本吸ったとする。その結果7.5ccの窒素酸化物が発生し、室内の汚染度は0.4ppmほどになる。これは自動車排気ガスで有名な東京都庁前のなんと5倍。すごい汚染状態に達していることがわかる。

 タバコの盲点は、自分だけでなく、タバコを吸わない隣の人に悪い影響を与えていることだ。当人はタバコの吸い方に慣れて、気管支や肺の奥にまで有害物質をとりこまない体制ができている。ところが隣の人には、呼吸のリズムに構わず煙が流れこむので、かえって肺の深くまで有毒物質が入りこみむせかえることが多い。「タバコを吸う当人より、隣の人が煙の危険度が高い」と言われ、これが嫌煙権運動の発端になったわけである。

 最近は飛行機に「NO SMOKING SEAT」がふえたし、新幹線も最先端の1号車は禁煙車になっている。

6. エステティック減量法

 別名「低周波減量法」と呼ばれる減量法で、「寝ころんでいるだけで脂肪がとれる」と、魅力的なキャッチフレーズで、TVや新聞に大きく宣伝されている。

 筆者らは4年前に、あるメーカーの依頼で、脂肪が本当に除去できるかどうか、約65名の人を対象として、本格的な減量試験をおこなった。

 プラスとマイナスのパッドを体の各部分に当てると、電流が流れて、その際に筋肉がピクピクとけいれんする。これを約10分続けると、マッサージをした効果がみられる。

 人間の体には「しょっちゅう使用している部分には脂肪が蓄積しない」という法則がある。手の指や甲は運動をよくおこなうので、脂肪が少ないが、腹部・背中・脚・ほぼ等は、運動量に反比例して、脂肪が蓄積しやすい。

 これらの部分にパッドを当て電流を流すと、ピクピク筋肉が動いて、運動した時のような感じがする。

 だが運動とちがって、心拍数は上がらないし、酸素消費量が増えるわけでもない。したがって、カロリーを消耗する役割はなく、単に部分的なマッサージ効果のみである。

 実験の結果、単にこの機械にかかるだけでは、脂肪はほとんど除かれず、体重や腹囲に変化はあまり見られなかった。ところが簡単なトレーニングと減食を併用すると、効果が相乗的に現われ、1ヵ月実行者は平均3.5kgも減量できた。なかには8.1kg減った人や6.8kg減った人が居り、試験そのものは成功であった。

 しかしながら、何でやせたか分析すると、運動と減食によるところが95%で、低周波減量器の効果とはいいがたい結論に達している。

 東京都立大学の永田氏らの意見でも「このようなバイブレーターの効果はほとんどない」といわれ、気分だけで実際には脂肪がとれないと判定されている。

 女性や中高年者の多いジムでは、ベルトを腰に当てて、ブルルと動かす機械を見かけるが、永田氏が3年前におこなった実験では「やせるどころか体重はむしろふえるほど」といわれ、期待した結果は得られていない。

「運動やトレーニングの代用になる」ときけば、モノグサ人間は飛びつくだろうが、心拍数が150くらいにならないと、本当の減量効果は得られないと述べられている。

「運動したような錯覚だけで効果なし」というのが、寝ころびながらやせられる機械の本質である。この機械が3万〜5万もするのだから、買った人には気の毒というより他ない。

(以下次号)
〈減量法の分類〉

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