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“ボディビルの再生産的価値”

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月刊ボディビルディング1982年10月号
掲載日:2018.10.16
 バーベル・トレーニングを通じて作り上げられた逞しい肉体にともなう強靭な精神力………これこそ、ボディビルがもたらす最大の産物である。だがビルダー自身でも、この無形の財産に気づかぬ人がたくさんいる。
 体が弱く、何事にもひっこみじあんで性格の暗い人が、肉体を改造するにつれ、明るく、積極的な性格の持ち主に変わっていくというのである。
 暗い、みじめな人生を送ってきた青年が、ボディビルを通して人生観を切りかえ、明朗な、真実一路の道を進んでいく例はいくらでもある。
 私ごとで恐縮だが、私自身の体験から、ボディビルの効用を述べよう。
 24~36歳ごろまで、胃をわずらい、そりゃあつらかった。なんとか治らぬものかと、いろいろ薬をのんだ。だが激務のため休むひまもなく、年中寝不足のうえ、酒は飲む、タバコはぷかぷか………ますますいけない。そこで、ふとボディビルに目をつけた。あれなら、相手もいらず、自分ひとりででもできる。
 さっそく、自宅に器具をそろえ、朝晩どころか、人と話をしている最中でも、ダンベルを振りまわしてトレーニング。おかげで目方はグングン増え、胃痛はいつしか忘却の彼方。54kgのやせた体は、60、63、65、67、70、そしてついに74kgに増えていった。
 この現実には、おのれ自身、まことにびっくりした。これほどキキメがあるとは!勇気がわいた。生きる楽しみが加わってきた。自信もついた。男一匹、この頑健な体さえあればどんなつらい仕事にも耐えぬいてみせるぞ!
 こんな気分になってきたのが、ボディビルを始めて4年目である。何をやっても長つづきしないタチだったが、このボディビルだけは、もう8年近くつづいている。
 それというのも、体質改善に必死だったからだと思う。もし、動機が薄弱で、それこそカッコよさばかり求めてこの道にはいっていたら、とっくの昔にゴルフか、ほかのスポーツにくらがえしていたかも知れない。
 ボディビルは、肉体、精神ばかりでなく、自分の仕事、生活面に無限の活力を与えてくれる、と信じることだ。
 そのためには、何も考えず、ひたすら1ヵ月バーベルをにぎり、持ち上げ存分に汗をかいてみることだ。そして自分の体に変化を見い出し、多少の発達を確認できたら、さらにもう1ヵ月つづけてみることである。この機会に自分自身の肉体上、精神上に革命を試みてみることだ。これは、誰を相手にするものでもなく、おのれ自身を敵とし、それを克服することによって、生きるために必要な可能性の限界を追求することなのである。
 あるいは、こんなふうに考えてみたらどうだろう。
 あなたが、いささかの費用を投じて身につけたボディビルを通じて、何ものかを再生産するのだと。つまり、ボディビルの生産的価値づけである。
 あなたは、先ず素晴らしい肉体を獲得する。そして、病気その他のムダな出費を節約することができる。次に、不屈の精神も手に入れる。病気がちな肉体では、とても考えることのできない積極的な闘争心である。これであなたは、多くの競争相手をしのぎ、サラリーマンであれば、数倍の成績をあげることができる。
 あなたが、自信にあふれた心身をもとに、あらたな事業をおこし、商売をはじめたら、これは文字どおり、ボディビルの再生産的価値が立証されたことになる。ボディビルから、あなたは投資した分の数十倍、数百倍の代償をうばいとることだ。
西野 博
月刊ボディビルディング1982年10月号

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