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食事と栄養の最新トピックス㉑
減量法総点検
〈3〉太る原因、やせる原因

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月刊ボディビルディング1982年10月号
掲載日:2018.11.17
健康体力研究所 野沢秀雄

1.コンテスト出場選手の苦労

 全国各地で今年もコンテストが盛会のうちに開催されたが、話題は「どの選手が何kg減量して、迫力ある体を見せたか?」であろう。
 例えばミスター東京で選手宣誓をおこない、初出場ながら7位入賞の鶴田和一選手。ふだん中野ヘルスクラブでコーチをしており、申込み時点で約100kgの体重だった。それが約2ヵ月間で、なんと17kgも体重(もちろん主に脂肪)を落として、コンテスト当日82~83kgで出場。皮下脂肪も5ミリ前後にまで落し、ディフィニションの点でも十分であった。
 もう一人目についたのは同じく7位に入賞の竹内明彦選手。彼もコンテスト歴7年余りの選手で、以前は「骨格と筋肉の質はよいが、体脂肪をどう落すかに問題がある」と思われていた。ところが今年はどうだろう、腹部を徹底して改善した努力がはっきりと体に現われていた。「10kg減量して、腹囲は73.5cmくらい」と語っていたが、きびしい減量の苦労が感じられた。
 その他、学生時代に活躍していた西垣昌宏選手が、まるでブロンズ像のように、脂肪をカットした体型で6位に入賞したことも話題である。
 優勝した川上選手は、コンテストシーズン外でも、常にベストコンディションを心がけていることで有名で、当日の仕上りは「まさにパーフェクト」と選手同志からもほめられていた。
 このように、どの選手たちも減量と戦い、脂肪をいかにうまく除去するか苦労を重ねている。

2.なぜ脂肪がついてしまうのか?

 いよいよ今月号より、食物と減量について焦点を合わせて述べてゆく。正しい栄養についての知識がないと、とんでもない間違いをしたり、悪徳業者の口車に乗って、高い費用をとられたりしてしまう。
 前提として、体に脂肪がなぜついてくるか、その原理を考えることから始めよう。

①脂肪は「栄養の備蓄」という点で大きな役割を果している。人間でも動物でも、いつ飢餓に襲われるか、不安定な存在であった原始時代から「食べた栄養を体内にエネルギーとして保存しておく」というメカニズムが備わっていた。とくに脂肪は1g当り9カロリーというハイパワーを持っているので、炭水化物やたんぱく質も、肝臓で脂肪に変化して、身体の各組織にストックされるわけだ。

②脂肪は内臓を保護する点でも役立っている。外気が暑すぎる時、寒すぎる時にかかわらず、ほぼ36~37度という体温を保つのに、脂肪は有効である。
 また、外力(ショック)が加わった時にも柔げるクッションの役割をしている。プロレスラーや相撲とりが太っているのは、ぶつかったり、当てられても内臓にまでひびかないためである。

③女性の場合、胎児を守るという役割も見逃せない。身ごもった時に、寒暑や外力から守ってあげるのは、厚い脂肪層にほかならない。

 ――というわけで、脂肪を悪者扱いしすぎるのは行き過ぎで、人類誕生以来の知恵である。とくに女性の場合は適度な脂肪を残しておくことは大切である。<表1>参照
 「やせる」というキャッチフレーズに女性は弱く、あの手この手と業者はやせる手段を宣伝し、ブームになっては冷めてゆく。<表1>のように「脂肪がつく」というのは女性の宿命であり、減量法がいつの時代でも話題になるのは当然といえば当然のことである。
<表1> 男性と女性の比較表(20歳)

<表1> 男性と女性の比較表(20歳)

3.どのタイプの太り方か?

 標準体重の出し方は、身長から100を引き、0.9を掛けて計算する。170cmの人なら63kgが標準体重という計算になる。これより10%多いと太りすぎ、20%多いと「肥満」と判定される。逆に10%以上少ないと、やせすぎと言われる。これは誰でも常識として知っているが、ボディビルダーの場合、この常識が当てはまらないことが多い。
 身長170㎝で体重が70㎏でも、脂肪が多くなく、腹筋がひきしまっていれば決して「太りすぎ」ではない。
 「標準体重より、皮下脂肪厚をポイントにおくほうがよい」と、筆者は常に主張している。つまり、ひとくちに太っていると言っても、次の4つのタイプがあるわけだ。

①脂肪太り……純然と皮下脂肪が多いタイプ。単に体の表面に多いだけでなく、内臓や血管内部、腸間膜などの内部にもベッタリと脂肪層が厚くなっているケースが多い。健康管理上も問題があるので、この場合は標準体重の前後まで減量するほうがよい。

②水ぶとり(むくみ)……腎臓病やホルモン異常で、水分が細胞内にたまって太っているタイプ。日ごろ塩分の多い食事を好む人に多い。指で押すと、押した跡が残り、元に戻りにくい。

③筋肉ぶとり……俗に固太りといわれ、ボディビルダーやスポーツ選手全般に多いタイプ。逆三角型で、筋肉がよく発達しており、標準体重をオーバーしているが、心配は全くいらない。

④骨ぶとり……骨格の発達がよく、肩幅も広い。足や手も大きく、手首や足首が太いタイプ。食事制限で減量しても、なかなか標準体重以下になれない。体重に占める骨の比率が大きいわけで、無理に標準体重にこだわることは不必要である。

 ――以上から、問題があるのは①と②であり、②の場合は早期に医師など専門家の治療を受ける必要がある。われわれの努力で改善を心がけるには、皮下脂肪の管理が大切である。ジムによっては、高価な皮下脂肪計を備品として購入して、会員の方々に測定しているところが増えてきている。
 個人でも、へその横1~2cmの部分を両指ではさんで、メジャーで厚みを測定するとよい。判定表を<表2>に示す。<表2>参照。
 もっとも、コンテストを目指すビルダーは、皮下脂肪がどの部分でも8ミリ以下でなければならない。上位入賞選手は5ミリ以下、人によっては3~4ミリまで脂肪をおとしている人がいる。判定表では「やせすぎ」で、「栄養失調」といわれるほどだが、ディフイニション、セパレーションを競うスポーツの極限をきわめた姿といえる。
<表2> 皮下脂肪厚判定表

<表2> 皮下脂肪厚判定表

4.カロリーの黒字と赤字

 脂肪の多い、少ないは何によって左右されるだろうか?
 当然のことながら、一日の生活や運動で消費されるカロリー(エネルギー)と、食事として口から入ってくる栄養素のカロリーの収支計算が問題になる。必要量より多く食べていれば、量は少なくとも積もり積もって、結局は余分なエネルギーが脂肪に変換されて体のあちこちに蓄積される。
 肥満している人でも、現在は収支のバランスがとれて、それ以上、太りもしなければ減りもしていないケースが多い。大体どの人も体重には変動がそれほど無いのが普通である。問題は過去のある時期、食べすぎが重なった時期があって、このときに脂肪が少しずつ増えたわけだ。
 したがって、減量を決意した人は、食べる栄養量をへらすか、運動でエネルギーを消耗させるか、あるいは両方を実行するか、考えられる選択は3つしかない。このうち、運動だけでは、少々実行したところで、容易にカロリーを減らせないことがわかっている。<表3>でわかるように、みっちり運動したとしても、カロリー消費量はそれほど多くない。炭酸飲料1缶、もしくは牛乳1本で約120カロリーなので、軽く10分ランニングして、ファンタを1缶飲めば、せっかくのトレーニングもプラスマイナスゼロか、ちょっとだけカロリーを消費したにすぎなくなる。
 したがって、減量しようとする者は「食事制限をする」ということを必ず考えなくてはならない。
 とくに過去に蓄積した脂肪を燃焼させるには、摂取カロリーを一時期、大幅にカットする必要がある。
 「ある程度の食事制限をおこないつつ、腹筋運動などを中心に全身トレーニングを行えば、たいへん健康的に脂肪が除去され、シェイプアップがうまくゆく」とわれわれは確認している。
<表3> 運動で消費されるカロリー

<表3> 運動で消費されるカロリー

5.新陳代謝と性ホルモンの関係

 さまざまな減量法がPRされているなかで、「食事制限の必要は全くありません。今まで通りの食事をして、〇○だけを使えば苦労なしに減量できます」等のキャッチフレーズが目立つ。○○の部分に、低周波美容器が入ったり、プロティンやマンナン、特殊な植物や酵素が入るわけだ。
 肥満の原理からみて、このような特効を持つ方法は「いかがわしい」と言わざるを得ない。
 「食べてやせよう」とPRされているものの、よく内容を検討すると、食べる種類は9品目(野菜や海藻など)あるが、炭水化物やアルコールはカットされ、トータルカロリーは減っている方法(和田式など)が多い。これならば理論的には正しいわけで、キャッチフレーズが巧みというか、まどわされやすいにすぎない。
 筆者らが「1週間でやせる本」を発表しているが、内容は「ごはんやビール、カレーやすし、キャンディなどを少量ずつ食べていいが、トータルして1000カロリー以下に。たんぱく質やビタミンはなるべくカットせずに」という基本方針に基づいている。
(これらの具体的な減量法について、その可否を次号以下に掲載予定)
 摂取カロリーと消費カロリーの収支バランスの他に、筆者らは「個人差、とりわけ新陳代謝が旺勢かどうか、消化吸収力の大小などをポイントとして考えている。
 [図1]は人体の脂肪細胞の模式図である。
 本誌7月号で、「太るということは個々の脂肪細胞のサイズが増すことであり、平常な人は1個あたり平均重量が0.65ugなのに対し、肥満している人は1.08ugと2倍近くまで膨らんでいる」と述べた。成人前までは容積が増すだけでなく、数も、2が4に、4が8に、8が16に……というようにふえるわけで、意外にも成人後でも無茶な食べ方をすると、脂肪細胞の数まで増加することを警告した。
 もう一歩掘り下げて、なぜ脂肪細胞がふくらんだり、数量が増すのか、そのメカニズムを考えてみよう。
 前提としては、過食(オーバーカロリー)があってのうえだが、同じように食べても、太る人と、太らない人がいる。運動をどれくらい実行しているかによるところが大きいが、それ以上に、個人ごとの「体質」が関係深い。「あなたはバルク型?ディフィニション型?」という特集を本誌1981年11月号に紹介した。この体質をつくるもとが男性ホルモン・女性ホルモンの分秘量の差である。<表1>に示した通り、男性にも程度の差はあるが、女性ホルモンが存在しているし、女性にも男性ホルモンが分泌している。両ホルモンの比率のちがいで、男性らしい人、女性らしい人の差が出てくるわけだ。男でありながら、脂肪がポテポテと付いている人もいるし、女性なのにゴツゴツ筋肉がついたり、脂肪がなくて、筋肉のディフィニションがはっきり見える人がいる。どちらも気味が悪いことだが……。
 筆者がポイントにしたいのは、新陳代謝が旺盛かどうかという点である。新陳代謝が盛んな人は、食物を食べてはエネルギーにどんどん変えるが、脂肪の形で蓄積される心配が少ない。それに対して、新陳代謝が衰えた人は、活動エネルギーや、体の組織の交替に消費されるエネルギーが少ない。食べすぎると、余分なカロリーは脂肪に変化して、体内に蓄積されやすい。
 <表4>は年令別の体重1kg当り基礎代謝量を示す。(単位はcal)
 明らかに年令が若いほど、体重1kg当りの基礎代謝量が高い。体内の細胞が増殖したり、新旧交替するスピードが早いためだ。年令と共に衰えて、40才のお父さんは16才の息子に比べて、15%も少ない量になる。これをわきまえず、同じように食べていると、たちまち脂肪に変化するわけだ。
 表の中で、※印をつけたところが最高値で、男性は16才、女性は14才になっている。体力や体重が人生でもっとも充実する年令といえる。
 健康体力研究所に、竹内良明さんいう24才の柔道マンがいる。わずか1年たらずで、胸囲125cmという素晴らしいトレーニング成果をあげて、私たちを驚かせている。彼の食欲はすごくて、次々とよく食べてゆくので尋ねたところ、「これでも昔と比べて食欲が落ちたほうです。16才~17才の高校生時代は2~3人前を食べても平気でした。それでいて太らないから不思議です」という答えだ。高校野球の選手たちの宿舎では、全員がモーレツに食べるので、ごはんをたいてもたいても追いつかないといわれている。その割に体は細くて、引締っている。
 26才をすぎると、新陳代謝のスピードが鈍くなり、すさまじかった食欲が衰えてくる。やがて体質も脂肪のつきやすいタイプに変化しはじめる。
 興味あることに、男性ホルモンの分秘量と関係が深く、19才でピークになり、30才までは高い水準を保つが、これを超すと、次第に低下傾向を見せ、40才では明らかに下降線をたどる。
 「女性は家庭を守るので筋肉がいらないかわりに、脂肪を多く蓄積して安全に備えるようできている。男性は古代から外敵と戦って、獲物を得るため筋肉は発達し、そのかわり余分な脂肪は付かない体質になっている」というのが、両性に備わった特質で、性ホルモンが支配していることはいうまでもない。男性も体力が充実してピークになっている10代~20代は、新陳代謝が旺盛で、体温が高く、赤血球数も多いが、中年になるにつれ、新陳代謝が衰えて体に脂肪を備蓄するようになる。「中年ぶとり」とよく言われるのは、この現象にほかならない。
 以上、今月は「なぜ脂肪がつくか」について、男性・女性本来の機能と新陳代謝・性ホルモン支配の原理を解説したが、決して「ではホルモン剤を使えばいい」と短絡的に走ってはいけない。危険な薬剤に接触するのでなく、スポーツマンらしく、自分の努力と創意で、脂肪を除くよう心がけていただきたい。
(以下次号)
[図1] 人体の脂肪細胞の模式図

[図1] 人体の脂肪細胞の模式図

<表4> 年齢別・性別基礎代謝値

<表4> 年齢別・性別基礎代謝値

月刊ボディビルディング1982年10月号

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