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ビギナーのためのやさしい栄養シリーズ<1>
体力強化の食事法

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月刊ボディビルディング1983年9月号
掲載日:2020.11.24
健康体力研究所・野沢秀雄

“夏バテを防ぐ食事法”

◇夏バテの原因

 「オレは体質のせいか、夏の後半になると、体重が何キロも落ち、スタミナがなくなる」「僕も夏に弱く、胃腸をこわしたり、カゼをひいたりで体力がなくなる」と悩みを訴える人が多い。

 なぜ夏の季節に体力が低下するのかその原因を考えてみよう。

①気温と湿度の影響

 「気温32度以上、湿度80%以上になれば、体内の生理的機能に負担が急増してバテやすくなる」と一般にいわれている。この数字が実は「不快指数」と一致しており、日本の夏は毎日のように、不快指数80以上のいわゆる“全員不快状態”となるから体もラクではない。

②運動による体温上昇

 スポーツをする人は、筋肉を動かすたびに体内に熱が発生し、これをおさえていつも体温を一定(約37度)に維持するために、余計にエネルギーが消耗される。(冬は逆にホカホカして好都合だが)

③胃腸機能の低下

 暑さに負けて、コーラ、ソーダ、アイスクリーム、氷、すいか、ビール、麦茶、冷水、ひやむぎ、ひやし中華など、冷たい飲食物を多食しやすい。それで胃腸だけが冷たくなり消化不良、下痢、食欲不振になりやすい。

④水の飲みすぎ

 汗が出るからといって、水やジュース、牛乳などを飲みすぎると、逆に発汗が促進されて「悪循環」になる。なるべく飲む水をひかえ、かつ食塩や酢を補給するようにする。

⑤クーラーのかけすぎ

 人間の体は暑さに耐えられるように、夏になると皮下脂肪を薄くしたり、汗線をふやして汗を出やすくしたりして、体調を整えている。ところが、人工的にクーラーを効かせすぎると、体調が調整しきれず、とくに暑い戸外と冷房の効いた部屋を出たり入ったりすると、体内の機能が狂いだす。

 「夏カゼ」にかかる人が多いが、クーラーの普及とよく関連している。
<食品100g当りのカロリー>

<食品100g当りのカロリー>

◇土用のうしの日の鰻は迷信

 7月の終りの土用のうしの日。昔の暦では、この頃が猛暑のまっさい中。平賀源内という漢学者が「夏バテでまいっている人は、鰻を食べるといい」と発表。この先生の言葉を信じて、江戸時代の庶民はかなり無理をしてまで鰻を食べるようになった。それから今日まで、土用のうしの日には鰻を食べる習慣になっている。

 なるほど、食欲不振で栄養素が不足しがちなときに、脂肪やたんぱく質、ビタミンAやDが豊富な鰻は、もってこいの食品といえよう。

 当時の庶民が「ふだんは粗食だからせめて土用のうしの日くらいは鰻を食べてもいいだろう」と、大金をはたいて食べたのが今日までつづいているのだが、本当のことを話すと、平賀先生らしい策略だったのだ。

 江戸時代に鰻を養殖している業者が毎年、夏になると池の温度が上昇して酸素不足になり、鰻がバタバタ死んでしまうので「これではもったいない。なんとかならぬか?」と平賀先生に相談したところ「よーし、夏に庶民がいっせいに鰻を食べるようにPRしてあげよう」と二つ返事。

 かくて宣伝がうまくいき、業者はホクホク。
平賀先生が現代に生きていたら「ちがいがわかる!」などとやっているかも?

◇夏バテ対策五ヵ条

 ただ1日だけ、鰻を食べるだけで、ふだん何もしなければ意味はない。暑さに負けない体力をつくる方法をアドバイスしよう。

①体をぬらすこと

 まず第一は、体をこまめに拭くこと。シャワーや風呂に入ることができればいいが、そうでなくてもタオルをぬらして体を拭くことが有効である。これは、庭や道路に打ち水を「蒸発熱」が奪われて、とたんに涼しくなるのと同じ原理だ。

 1gの水分が蒸発するとき539カロリーの熱が肌から奪われてサッパリする。「あんまり暑すぎて眠れない」というときに、このぬれタオル法はたいへん良い効果をあげる。

②足を洗う

 これは別に「ヤクザをやめる」という意味ではなく、文字どおり、水道や井戸水で足をザーザー洗うことである。外出から帰って、靴をぬいだら、まず手と足をせっけんでよく洗うだけで気分が一新する。

 昔はハダシや下駄だったが、現代人は窮屈な靴のために、足の皮膚呼吸ができず弱っている。

③食事は栄養のあるものを

 「サッパリした食事しか食べられない」という人は、意識してバランスの良い食事をするように努力していただきたい。前述のように、冷たい飲食物を最少限にへらし、そのかわりに、てんぷら、トンカツ、焼肉、とうふ、チーズ、サバの缶詰など、たんぱく質がたくさん含まれる食品を欠かさず食べることである。

 冷しソバやうどん、菓子パン、インスタントラーメンなどでは失格である。

④レモン、梅干し、酢を使う

 「食欲不振で食べられない」とこぼている有名選手に「レモンを毎日1個使いなさい。ごはん、みそ汁、とうふ、納豆、ハンバーグ、魚、野菜など、何にでもいいから、レモン汁をしぼってふりかけて食べるといい」とすすめた。

 彼はすぐに実行したところ、食欲がモリモリわいて、すっかり体力を回復し「おかげでコンテストで好成績をあげることができました」と感謝されている。梅干しや酢を多く使うことが食欲増進に役立つのはいうまでもない。

⑤熱い飲物を少量ずつ飲む

 ある大学の合宿に招かれて、健康と体力づくりの話をした。質問者が「自分は熱くわかした麦茶を飲んでいます」というので、それは賛成。できたら少量の塩を加えて飲みなさいと答えた。

 それから、このチームは全員がこの方法を行い、例年になく落伍者が少なくてすみ、やはり秋のシーズンに優勝した。もちろん、食事法をたんぱく質中心にきりかえ、スタミナ増強をはかったためでもあるが、お茶ひとつにも気をくばった成果があらわれたのだ。

 ――というわけで、ちょっと工夫するだけで、夏に強い体にすることができる。クーラーのある人は「気温よりも5度以内だけ低くする」と目安をたて冷房病にならないように注意する。むしろ、積極的に海やプールで日光浴を楽しみ、肌をさらして強くすることが有効だ。

 さあ、まだまだ暑い日がつづく。ぜひ今年は快適で、かつスタミナいっぱいに過ごしていただきたい。

“胃腸を強くする食事法”

◇同じように食べても

 合宿生活や寮生活をしたことがある人なら「同じ食事を、同じ時間に、同じように食べていながら、ある人は体重がどんどん増えていくのに、ある人はちっとも体重が増えない。それどころか、減っていくことさえある。これはなぜだろうか?」と疑問に思うことがあるにちがいない。

 これには、体質、胃腸障害、睡眠状態等による原因もあるが、ここでは一般的な問題について考えてみよう。

①年齢

 若い人ほど新陳代謝(身体組織の入れ替わり)がさかんで、栄養素がそのためのエネルギーに使われ、太りにくい。中高年になると新陳代謝が衰えて、余分なカロリーは皮下脂肪になり、太ってくる。いわゆる中年太りである。

②体質

 男性ホルモンの多い人ほど筋肉質で脂肪がつきにくい。女性ホルモンの多い人は、ポチャポチャと脂肪が体につきやすい。

③性格

 くよくよ物を考える人や頭脳労働者は、考えることにエネルギーが消耗されて、胃腸がうまく働かない。

④習慣

 てきぱき行動する人は、動作量が多いだけでなく、たとえば歩くときもスピードが早く、エネルギーを多く消耗する。スポーツを毎日おこなう人は、当然何もしない人よりも多く栄養補給に配慮しないと、体は発達しないわけだ。

⑤食べ方

 ゆっくりと時間をかけ、よくかんで食べる人と、あわただしく食事をする人とでは、消化酵素の作用に大きな差が出る。

⑥空腹かどうか

 空腹で「おいしい」と感じて食べると、すぐに消化吸収されるが、心配ごとがあったり、満腹なのにまだ食べようとすると、消化吸収に無理が生じる。

◇胃酸の分秘に大きな個人差

 以上のほかに、胃腸の機能に大きな個人差があることを次の新聞記事は示している。(朝日新聞55年2月11日)「消化をするときに大切な役割をする胃酸。この胃酸を分泌する細胞は、正常な人で10億個。ところが個人差があって、少ない人は1億数千万個、多い人になると10数億個。実に10倍の能力差がある。したがって、胃酸の分泌ひとつを見ても、胃腸の能力は生まれつきによって大きな開きがある」

 ――つまり、同じ食事をとっても、ある人はたちまち消化吸収して血や肉にするのに対して、生まれつき消化能力の低い人は、いつまでも胃にもたれ体内に吸収されにくく、せっかくの栄養素が胃腸を通過するだけで、便になってしまう。ひどい人は下痢ばかりを起こし、栄養素が身につかない。

 ジャイアンツの王助監督は選手時代に「私は、どんな時でも食事がまずいと思ったことはない」と語っていたが事実、彼のような健啖家と「オレはいつも胃の調子が悪い」とこぼしている人とでは「天と地」ほどの差がある。

◇この心がけが大切

 「うーん、そういうわけか。生まれたときからの消化能力に差があるので、いくら栄養のあるものを食べたり、一生懸命トレーニングしても体が大きくなりにくいんですね。なんとか方法はありません?」

 ――こんな疑問や質問が当然おこってこよう。

 確かに「生まれつき胃腸が弱い」とか「胃下垂でどうしても太れない」という人がいる。こんな人にかぎって、より強烈に「じょうぶな胃腸をつくりたい」と念願している。筋肉強化のような外面だけでなく、体の内部の臓器まで強くじょうぶにする方法はないものだろうか。

 今までの私の体験から、次のような方法が有効である。

①あきらめず練習を続ける

 スポーツの練習をしたときと、しないときとでは、腹のすき具合がまるで違うことは誰でも実感していよう。適度に体を動かし、エネルギーを消耗すると、新陳代謝能力が高まって空腹状態になる。そして、空腹のときは消化酵素や胃酸の分泌が高まるので、栄養素がよく消化・吸収される。

②満腹のときは無理に食べない

 ふつう食事と食事の間隔は6時間おくのがよいといわれている。運動する人はこの限りではないが、食べたくないときに無理に食べることは効果がないだけでなく、かえって内臓に負担をかける。

③よくかんで、ゆっくり食べる

 口の中で食物をかむと、機械的な消化と同時に、唾液酵素のプチアリンが作用して、化学的消化を助け、胃腸機能をカバーしてくれる。

④コーヒー、タバコ等を避ける

 「コーヒーを飲むと胸ヤケがする」という人は体質が合わず、カフェインが胃の粘膜を刺激しているので遠ざけた方がよい。タバコは、タールやニコチンが煙りと一緒に体内に入るのだから、これこそ「百害あって一利なし」といってもいいだろう。

⑤良質のたんぱく質を食べる

 NHKで放送されている「サラリーマンライフ」に東大の内科教授が出演して「胃腸もたんぱく質でできている。胃をじょうぶにするには、良質のたんぱく質の補給が大切。食事として入ってきたたんぱく質は、胃腸をじょうぶに作ってくれる」と語っている。

 もちろん、筋肉もたんぱく質でできていることはビルダーなら誰でも知っている。胃腸をじょうぶにしなければ、せっかく食べた栄養素も消化吸収されず筋肉も太くならない。

⑥腹部をマッサージする

 胃腸が弱く、いつも下痢をしたり満腹感のある人は、手のひらでヘソのまわりをていねいにマッサージするとよい。腹痛の人は固いシコリを発見するだろう。マッサージしているうちに、痛みがやわらぎ、体調がよくなる。

 また、手のひらの親指のつけ根を押してみて、グリグリを感じたら、ほぐしてやる。さらに足のスネの部分の「三里のツボ」を指圧するのも有効だ。

⑦精神的な余裕をもつ

 胃腸にとって大敵はストレスだ。「勉強をしなければならない」「自分に合わない仕事をしており、いつもイライラしている」「何か大きな不安や心配がある」――こういう場合に、胃腸の機能は大幅に損われることになる。胃腸を支配する神経はきわめてデリケートだ。苦しいことがあると、まっ先に胃が重くなり、ついには胃かいようや十二指腸かいようになる。最近、若い人にふえているのでご用心。

⑧日光浴、空気浴をおこなう

 肌を太陽で焼いたり、外気にさらすことは、新陳代謝を促進し、栄養の吸収をよくする。外国人はひまをみつけては日光浴をするが、日本では実行する人が意外に少ない。

 また、ビルの屋上や野原で深呼吸をして、肌をさらす習慣を身につけよう。

 ある会社員は「毎日胸やけがして消化剤を飲むのが日課でした。それが、ジムに来て、練習と日光浴をするようになってからは、全身に力がみなぎって、胃腸が弱かったことがウソみたいです」と語っている。

 胃腸が弱くてふとれないと悩んでいる諸君は、くよくよ考えているだけでなく、なにごともまず実行だ。さっそく今日からやってみよう。道はそこから開ける。
《身長別体重基準値》

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月刊ボディビルディング1983年9月号

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