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パワーリフティング競技とビタミン的効果をもつ
毎朝「3分間運動」のすすめ

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月刊ボディビルディング1983年9月号
掲載日:2020.11.25
90kg級・100kg級日本記録保持者 前田都喜春

◇まえがき

 これは、一般の人々の健康面についても活用でき、かつ、パワーリフターの練習上の疲労回復を早め、目的部分の強化を促進する、非常に欲ばった内容をもつ付加的補強運動について述べたものである。

 ここでの主旨は、普通一般のトレーニングと日常生活の中で、精神的・肉体的負担にならないで、効率の良い方法を模索していたものが、練習期間が空いた時期にふと行なったソフトな運動が、あまりにも身近で、忘れがちな種目でありながら、意外に大きな効果を持ち合わせていることに気付き、その活用法を検討したのが今回のテーマである。

◇トレーニングと休養のバランス

 アマチュアである我々は、スポーツと仕事を両立させ、健康的な生活をエンジョイしたいという願望を誰でも持っている。シーズン・オフの場合は、仕事優先のサイクルになり、間引き練習が多くなり易いが、試合の前にはハードな練習に入る。しかし、ハードになればなるほど疲労が蓄積し、その回復には時間がかかることは周知のとおりである。

 とくにパワーリフティングの特徴は技術力(スピードとタイミング)よりも筋力要素が優先している性質のために、きょう使い切った筋肉(身体部分)は、連日使用することができない状態になっている。つまり、筋肉そのものが、まともに強い負荷を受けるため、100%疲労してしまう状況となる。そして、ハードに使えば使うほど回復に時間を要するため、適度な休養が必要条件となる。このため、パワーリフティング(ボディビル)は“休養もトレーニングのうち”と言われており、運動と休養のバランスの良い取り方がきわめて重要になってくる。

 ただし、このようにあまり技術力に依存しないパワーリフティングは、その技術力不要の側面が、老若男女、誰でも入り易く、健康的な競技体系を生み出していることも事実であり、観るスポーツから実践するスポーツへの転換、健康維持、体力増強への足掛りとして「生涯パワーリフティング」をも可能にしている。

 このように、技術力不要の側面と、筋力そのものに依存するパワーリフティングは、積極的休養を取り入れた練習日程が疲労回復上好ましい。例えば試合前の限られた時間のなかでは“1日1種目法”(1982年5月号)が最適の方法と考えられ、中1日休んだあとの筋肉は、その部分のトレーニングが目いっぱい実施できる効用がある。

 ではここで、1日1種目法についてもう一度説明しておこう。

<曜日> <種目>

 日曜日 休み
 月曜日 ベンチプレス、スクワット
 火曜日 デッドリフト
 水曜日 ベンチプレス
 木曜日 スクワット
 金曜日 ベンチプレス
 土曜日 デッドリフト

 この日程は、休養後の効率の良いトレーニング効果をねらったものであるが、このうち、月曜日のみ2種目となり、かつ、火曜日にデッドリフトが入っているため、月曜日と火曜日は連続して同系列の脚力要素を使うことになる。しかし、水曜日以降は、使用筋肉に確実に中1日の休みが入ってくる日程となる。これによって、上半身(ベンチプレス)は週3回、下半身(スクワット、デッドリフト)は各2回ずつの隔日トレーニングとなり、運動と休養の効率的な練習が実施されることがわかる。

 高密度と高内容を要求される試合前1ヵ月は、前報のような最新強化法の考え方が最大の威力を発揮してくることになるが、高負荷トレーニングの代償として筋肉疲労が残ってくる。基本的には中1日の休養で対処しようとするが、実際の回復には中2日の休養が要求されるので、この疲労を早く回復させることが、次のステップの練習を効率的に行うのに必要な措置となる。

 このように、精神的に高揚している時期は、高重量になるほど肉体的についてはいけない時期と重なるため、疲労回復のためのメニューが計り知れない大きな味方になる。

 そこで、これらの疲労を早く回復させると同時に、その部分の筋力養成を行うのに便利で身近な方法が発見されたので、次に示す。

◇ビタミン的な効果をもつ毎朝3分間運動

 上述のように、試合前1ヵ月の精神的に充実した時期は、高負荷トレーニングというボリュームある料理がありこれに味付けをするための調味料、肉体的に考えれば体調を整えるビタミン剤が必要になってくる。ここでは、トレーニング的にこれらを解決していく方法として、毎朝3分間運動を提案したい。

 すなわち、毎朝5分早く起きて心身の準備ができたら、次に示す2つの3分間運動を行う。
①プッシュ・アップ(腕立て伏せ運動) 連続30回×1セット
②ヒンズー・スクワット(空身のスクワット) 連続50回×1セット
 一般の人は、プッシュ・アップは10回から15回、ヒンズー・スクワットは30回から50回程度とする。

 ここでの留意点としては、

 a まだ温もりが残っている身体に対する毎朝の刺激が、疲労と鍛練の整合性に対して効果が大きい。
 b 1セット以上できる気力があっても、それ以上は実施しない。セット数を増すと、その日は出来ても毎日の生活の中での連続性が困難となり、心理的な圧迫が生じ、かえって効率が悪くなる。
 c 日常生活の中に自然に溶け込んでいくように考える。

 要するに、確実にできるセット数を毎朝実施していくことが必要であり、出勤前の3分間は、そんなに負担にならないで済むため、この付加的方法が生活の一部として定着したときには、物心両面で意外な効果が現われることになろう。

 なお、プッシュ・アップとヒンズー・スクワットの解説は、本誌1983年1月号P45の挿絵等(神奈川県ボディビル協会による持久力競争の解説)が簡潔であるので、勝手にこれを引用させていただいた。
◇プッシュ・アップ

◇プッシュ・アップ

 ①胸が床に着くまで体をおろす。
 ②ついで肘が完全にまっすぐになるまで伸ばして起きあがる。
 ③身体はまっすぐ棒状に伸ばして反復する。
 ④腹部をつき出したり、逆に殿部を高くあげたり、ひざを曲げたりしてはいけない。
◇ヒンズー・スクワット

◇ヒンズー・スクワット

 ①直立して足を肩幅くらいに開く。
 ②膝が完全に曲るまで、腰・殿部を深くおろす。
 ③おろす位置は、ふくらはぎのヒラメ筋まで。
 ④腕の位置や手の位置は自由であるが、前傾したり、腰や背すじを曲げてはならない。終始、直立姿勢が望ましい。
 〔註〕ランニングが持久性をみるのに適しているといわれるが、ランニングやジョギングは自分の体重を水平に移動させるだけである。これに対して、ヒンズー・スクワットは、垂直にフルに体重を太ももにかけて上下させるので、運動量としてははるかにランニングより負荷が大きい。したがって、酸素摂取量も多く、はっきり有酸素運動(エアロビクス)ということができる。

◇実際面の適用効果

 実はこの方法は空論ではなく、私自身がすでに1982年11月、第8回中部日本パワーリフティング大会の10日ぐらい前から実施し、同大会の記録(体重91.2kg、スクワット☆337.5kg、ベンチプレス◎170kg、デッドリフト☆310kg、トータル☆817.5kg。註:☆印は日本新記録、◎印は自己新記録)の中にはこのトレーニングによる効果が入っているといってよかろう。

 試合前の練習期間が空いた時(勤務の都合等で)ふと行なったプッシュ・アップとヒンズー・スクワットが意外に効果があることに気付き、毎朝出勤前に取り入れることを考えた。

 つまり、前日練習した余韻が残っていて、まだほてりのある筋肉に対して「毎朝3分間運動」という、この付加的動作を行うと、何もしないで1日を経過するよりも、適度な刺激が疲労回復を早めるとともに、その部分の筋肉が徐々に鍛練され、毎日の身体の動きが軽くなるという、一石二鳥の感じが認められた。それに、精神的な充実感を考えれば一挙三得である。

 さらに、一般にパワーリフターの練習は、高重量のローレピテーション方式に徹して反復性の不足している状況のなかで、この3分間運動によるハイレピテーション方式の動作が筋量と筋群のバランスの良い発達を促進すると考えられる。

 また、前日の練習が行われていない筋肉部位に対しては、疲労回復よりもハイレピテーションによる補強効果が促進され、普段に鍛える筋肉強化の成果が顕著に現われるようである。

 したがって、高負荷が続く試合前の練習過程では、疲労回復を早くするためにいろいろな方策が考えられるが、トレーニング的に前日の疲労に刺激を与える、毎朝の積極的動作がその第一の解決策となろう。これが1日1種目法の有効な活用法へとつながり、中1日休んだ筋肉がより大きな役割を発揮することにもなる。

◇あとがき

 人間は食事を摂取し、それをエネルギーに変換しているが、そのエネルギー変換を効率的に行う物質としてビタミン類の効用があげられている。これを肉体的に考えれば、これまでに述べた「毎朝3分間運動」が、疲労回復のためのビタミン的効果をもたらしてくれるのである。

 そして、この運動は、重装備によって行き詰まっている記録の現状に対して、トレーニング疲労の早期回復とその部分の鍛練を促進し、精神的・肉体的に充足感を与えるベストな方法と言うことができよう。

 試合前のある時期のパワーリフターには、こういったエッセンスが必要であろうし、多忙な現代人ほど、1日わずか3分間で健康を手に入れることができる魅力、一般の人々にも毎朝3分間運動のもつ意義は大きいと考えられるが、どうであろう。

 私自身、38歳になったいま、残り少ない競技生活に対して、記録を少しでも伸ばしていく目標をもって、自己への果てなき挑戦を繰り返し、かつ健康という名の財産をいつまでも大切にする「生涯パワーリフティング」を目指して、調味料的なエッセンスを貪欲に吸収して、この小さな努力を積み重ねていきたいと思っている。それが次第に人生の差となって現われることを期待しながら、常に前向きの姿勢で臨みたい。

 パワーリフターのみならず、脚・腰の運動不足に陥っている現代人、および中高年層には、効用が多分に期待される僅か3分間の早朝運動が大きな役割を果たすことであろう。

 こんな良い方法を我々だけが独占していては申しわけない。幅広くPRして、併せてパワーリフティングの認識を得るための議論の場が持てるようにと発展させていきたいものである。
月刊ボディビルディング1983年9月号

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