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新ボディビル講座
ボディビルディングの理論と実際<31>
第6章 トレーニング種目

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月刊ボディビルディング1983年9月号
掲載日:2020.11.24
名城大学助教授 鈴木正之

◎上腕部の運動

I.  上腕三頭筋の運動

 腕の筋肉の中心は上腕部である。その上腕部の筋肉の特色は、我々が力を誇示する時に使う上腕二頭筋と上腕三頭筋にある。中でも上腕三頭筋は、長頭(起始:肩甲骨関節下)、内側頭、外側頭(起始:上腕骨後面)の3本の筋肉からなり、中央で1本の筋肉となり、馬蹄型の靭帯と共に尺骨の肘頭に付いている腕の最大筋肉である。〔図参照〕

 この上腕三頭筋の3本の筋肉が受ける運動刺激方向は、その起始の違いにより、肘を内側にしめるように運動すれば長頭から内側頭に強く刺激がかかり、肘が外側に開くように運動したときは、外側頭の方に刺激が強くなる傾向にある。
〔上腕の筋肉図〕

〔上腕の筋肉図〕

 上腕三頭筋をトレーニングする時の名称は、バーベル等でトレーニングする場合、一般的にフレンチ・フレス(French Press)と呼ばれているが、専門用語として動作の面で、基本的にこれらの運動を分類すれば、トライセプス・カール(Triseps Carl)、トライセプス・プレス(Triseps Press)、エクステンションの3つに大別される。

 この三者の動作は、肘を伸ばすという点では同じような動作であるが、動きの違いと、筋肉の使用状態によって区別される。

 基本的名称の分類は、バーと肘の位置関係にあり、肘がバーより高い位置にあって、肘を巻き込むようにプレスする動作をトライセプス・カールと呼ぶ。一般にフレンチ・プレスと呼ばれている用語は、この専門用語のトライセプス・カールにあたる用語である。日本ではフレンチ・プレスの方がより一般的であるので、以後、フレンチ・プレスと呼ぶことにする。

 なお、先にも述べたように、バーが肘の高さよりも上にあって、バーを押し上げるものをトラセップス・プレスと呼ぶ。同じ状態で、バーを押し下げる動作はプレス・ダウン。また、バーが肘の真下にあって、肘を上腕三頭筋で伸展させる動作をトライセプス・エクステンションと呼ぶ。

 以上の三者を合理的に組み合わせてトレーニングすることが、上腕三頭筋を全体的に発達させる上で重要である。

《1》スタンディング・ナロー・グリップ・フレンチ・プレス・アンド・トライセプス・プレス(通称:フレンチ・プレス)〔図1〕

<かまえ>バーをオーバー・グリップ(順手)で狭く持ち、頭のうしろに保持し、肘を耳横に寄せてかまえる。トライセプス・プレスの場合は、フロント・プレスのかまえから肘を前方に上げる。
<動作>肘を伸ばしながら、バーを頭上に押し挙げる。
<注意点>初心者にとっては日常生活にはない動作なので難しい。特に肘の位置と挙上方向であるが、肘を耳横にしめ、バーが頭の前の方に来ないように、頭上のやや後方に挙げるように注意する。上級者はフレンチ・プレスとトライセプス・プレスを交互に行なう方法や、フレンチ・プレスでオールアウトしたあと、三角筋の力を借りて、トライセプス・プレスに移行するとよい。このフレンチ・プレスはあまりハードに行なうと、肘関節や三頭筋を痛めることがあるので注意する。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。補助筋......三角筋(トライセプス・プレスの場合)
〔図1〕フレンチ・プレス

〔図1〕フレンチ・プレス

《2》スタンディング・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス・アンド・トライセプス・プレス(通称:アンダー・グリップ・フレンチ・プレス)〔図2〕

<かまえ>バーをアンダー・グリップ(逆手)で狭く持って頭のうしろに置き、肘を耳横に寄せてかまえる。トライセプス・プレスの場合は、バーを胸上にかまえて、肘を前方に上げる。
<動作>肘を伸ばしながら、バーを頭上に押し挙げる。
<注意点>オーバー・グリップでフレンチ・プレスを行なうとき、肘が外側に開き、上腕三頭筋の内側への刺激が少なくなる。そこでグリップをアンダーにし、肘をしめやすくして欠点を補う方法である。上腕三頭筋の主力運動は、あくまでも前項のフレンチ・プレスであるが、上手にできない人は、この方法か、またはW型のカーリング・バーを使用して行なえば、運動しやすく、刺激も大きい。
 なお、この運動の欠点としては、アンダー・グリップの場合、バーを保持する指が親指になるため、重い重量が扱えない点である。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
〔図2〕アンダー・グリップ・フレンチ・プレス

〔図2〕アンダー・グリップ・フレンチ・プレス

《3》シーテッド・ナロー・グリップ・フレンチ・プレス・アンド・トライセプス・プレス(通称:シーテッド・フレンチ・プレス)〔図3〕

<かまえ>バーをオーバー・グリップで狭く持って頭のうしろに置き、肘を耳横に寄せて、ベンチに腰かけてかまえる。
<動作>スタンディングの時と同様、肘を伸ばしながら頭上に押し挙げる。
<注意点>トレーニング目的や効果、及び採用方法はスタンディングの場合と同様であるが、腰掛けることにより正確な動作が要求されることと、腰の反動が使えないので、上級者はシーテッドからスタンディングに移行し、より強い刺激を与えることができる。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
〔図3〕シーテッド・フレンチ・プレス

〔図3〕シーテッド・フレンチ・プレス

《4》シーテッド・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス〔図4〕

<かまえ>バーをアンダー・グリップで狭く持って頭のうしろに置き、肘を耳横に寄せて、腰掛けてかまえる。
<動作>スタンディングの時と同様、肘を伸ばしながら頭上に押し挙げる。
<注意点>目的や効果、採用方法は前項と同様である。上級者は、この運動からグリップを持ちかえ、直ちにシーテッドのトライセプス・プレスからスタンディングのトライセプス・プレス、そして仕上げにフロント・プレスに移行すれば、4種目のスーパー、フラッシング・セットとなり、かなりハードな上腕三頭筋のトレーニングとなる。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
〔図4〕シーテッド・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス

〔図4〕シーテッド・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス

《5》ニーリング・ナロー・グリップ・フレンチ・プレス〔図5〕

<かまえ>バーをオーバー・グリップで狭く持って頭のうしろに保持し、肘を耳横によせて、床に膝をついてかまえる。
<動作>前項同様
<注意点>適当なベンチがない場合、ベンチに腰掛けてやるのと同じような効果があるので、この運動を行なうとよい。採用方法や種目移行は前項と同じようにできるし重心とバーベル・バランスもこの方がとりやすい。
<作用筋>作用筋......上腕三頭筋。
〔図5〕ニーリング・ナロー・グリップ・フレンチ・プレス

〔図5〕ニーリング・ナロー・グリップ・フレンチ・プレス

《6》ニーリング・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス〔図6〕

<かまえ>バーをアンダー・グリップで持ち、あとは前項と同様にかまえる。
<動作>前項同様。
<注意点>シーテッドの時と同じように、種目移行やセット内容を考えるとよい。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
〔図6〕ニーリング・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス

〔図6〕ニーリング・アンダー・グリップ・フレンチ・プレス

《7》ライイング・ベンチ・ナロー・グリップ・フレンチ・プレス・アンド・トライセプス・プレス(通称:ライイング・フレンチ・プレス)〔図7〕

<かまえ>ベンチにあお向けに寝て、バーをオーバー・グリップで持って額の上にかまえる。バーは、パートナーに取ってもらうか、ベンチ・プレス・ラックから取る。
<動作>肘を伸ばしながら、バーを胸の上に押し挙げる。
<注意点>この方法は、ライイング・フレンチ・プレスの最も基本的動作である。できるだけ正確に、額すれすれにおろし、三角筋や大胸筋の力を借りることなく、三頭筋のみでプレスするようにする。特に肘の外側への開きに注意する。肩関節の硬い人には、スタンディングやシーテッドより、この方法の方が運動しやすく、効果も上げやすい。さらに、トライセプス・プレスにも移行しやすい。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。補助筋.........三角筋、大胸筋(トライセプス・プレスの場合)。
〔図7〕ライイング・フレンチ・プレス

〔図7〕ライイング・フレンチ・プレス

《8》ライイング・ベンチ・ナロー・グリップ・フレンチ・プレス・トゥ・チン(ライイング・フレンチ・プレス・チン)〔図8〕

<かまえ>ベンチにあお向けになり、頭をベンチより出したら、その頭を下に落して顎を突き出し、顎の上にバーをかまえる。バーはパートナーにとってもらうか、床から拾いあげる。
<動作>前項同様
<注意点>上腕三頭筋の可動範囲を広げ、より強い刺激をえようとするならば、じゃまになる顔を台の下に落し肘を立てて行なうとよい。すべて動作はゆっくりと正確に行うよう心掛けること。
<作用筋>主働筋.........上腕三頭筋。
〔図8〕ライイング・フレンチ・プレス・チン

〔図8〕ライイング・フレンチ・プレス・チン

《9》ライイング・ベンチ・ナロー・グリップ・トライセプス・プレス(通称:ライイング・トライセプス・プレス)〔図9〕

<かまえ>ベンチにあお向けに寝て、バーをオーバー・グリップで狭く持って胸の上にかまえる。
<動作>上腕三頭筋で肘を伸ばすように、バーを胸の上で押し挙げる。
<注意点>この運動のポイントは、かまえの姿勢にある。肘を下げて外側に開くと大胸筋に力が入り、逆に、肘が体側につくようにすると三角筋に力が入る。従って、両者の大筋群をできるだけ使用しないようにするには、肘の位置を高くすることであるが、普通のバーでは手首に負担がかかるので、カーリング用のバーを使用するとよい。また、この補助筋を有効に生かすならば、ライイング・フレンチ・プレスから、トライセプス・プレスに移行すれば、強い刺激を継続して与えることができる。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。補助筋......大胸筋・三角筋。
〔図9〕ライイング・トライセプス・プレス

〔図9〕ライイング・トライセプス・プレス

《10》ライイング・ベンチ・アンダー・グリップ・トライセプス・プレス(通称:アンダー・グリップ・トライセプス・プレス)〔図10〕

<かまえ>ベンチにあお向けに寝て、バーをアンダー・グリップで持って胸の上にかまえる。
<動作>前項同様
<注意点>オーバー・グリップによるトライセプス・プレスの場合、大なり小なり大胸筋と三角筋の動きが関係してくる。これはグリップの問題である。アンダー・グリップにすることにより、大胸筋の補助はなくなり、上腕三頭筋への意識集中も高まる。カーリング・バーがない場合はこの方法がよい。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。補助筋......三角筋。
〔図10〕アンダー・グリップ・トライセプス・プレス

〔図10〕アンダー・グリップ・トライセプス・プレス

《11》ライイング・ベンチ・ナロー・グリップ・トライセプス・エクステンション(通称:ライイング・トライセプス・エクステンション)〔図11〕

<かまえ>ベンチにあお向けになり、頭をベンチより外に出して落とす。バーはオーバー・グリップで狭く持ち、肘を直角にまげて頭の下にかまえる。
<動作>肘を支点として、バーを頭より遠くに置くように三頭筋でもって押し伸ばす。
<注意点>この運動の特徴は、上腕三頭筋が最大に収縮した時に、最大の負荷がかかることにある。今までに出てきたフレンチ・プレス、トライセプス・プレスは、三頭筋の最大収縮時に、負荷は骨によって支持されるので抵抗が弱くなる。その欠点を補う種目としてこの運動を取り入れるのがよい。前項と同様。この運動の場合も肘が外側に開くので、カーリング・バーを使用するとよい。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
〔図11〕ライイング・トライセプス・エクステンション

〔図11〕ライイング・トライセプス・エクステンション

《12》ライイング・ベンチ・アンダー・グリップ・トライセプス・エクステンション(通称:アンダー・グリップ・トライセプス・エクステンション)〔図12〕

<かまえ>ベンチにあお向けになり、頭をベンチより外に出して落とす。バーをアンダー・グリップで持ち、肘を直角にまげて頭の下にかまえる。
<動作>前項同様。
<注意点>トレーニング目的は、前項のナロー・グリップの場合と同様であるが、肘の外側への開きをなくし、三頭筋への意識集中を高めるのによい。これらライイング系統の運動を最も充実したセットにするには、フラッシング、トライ・セットがよい。その組み方は、トラセプス・エクステンション→トライセプス・プレス→ナロー・ベンチ・プレスの順で行なえば、上腕三頭筋を集中的に刺激し、いっきょにパンプ・アップさせることができる。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
〔図12〕アンダー・グリップ・トライセプス・エクステンション

〔図12〕アンダー・グリップ・トライセプス・エクステンション

《13》ライイング・フロアー・ナロー・グリップ・フレンチ・プレス・トゥ・ヘッド(通称:フロアー・フレンチ・プレス)〔図13〕

<かまえ>フロアーにあお向けになり、バーをオーバー・グリップで狭く持って額の上にかまえる。
<動作>動作はベンチの時と同様、肘を伸ばしながら、バーを胸の上まで押し挙げる。
<注意点>この場合は基本的動作であるから、ベンチの場合と同様に正確に行なうこと。ベンチが不用となるので手軽にできるのが特徴であるが、大きなプレートを使うとフロアーに当るので、5kgくらいのプレートを何枚かつけるとよい。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
〔図13〕フロアー・フレンチ・プレス

〔図13〕フロアー・フレンチ・プレス

《14》シーテッド・インクライン・ナロー・グリップ・フレンチ・プレス(通称:インクライン・フレンチ・プレス)〔図14〕

<かまえ>インクライン・ベンチに腰掛け、バーを狭く持って頭のうしろにかまえる。
<動作>上腕三頭筋を使って、肘を伸ばしながら頭上に押し挙げる。
<注意点>フレンチ・プレスを正確に行なうには、インクラインがよい。下肢の反動や上体の反動を使うことなくプレスすることができ、しかも次のセットに移行しやすい。インクライン・フレンチ・プレス→スタンディング・フレンチ・プレス→スタンディング・ナロー・グリップ・フロント・プレスのセットは、上腕三頭筋への集中トレーニングとして、上級者には最適である。なおインクラインにおけるグリップは、アンダー・グリップでもよい。
<作用筋>主働筋......上腕三頭筋。
〔図14〕インクライン・フレンチ・プレス

〔図14〕インクライン・フレンチ・プレス

月刊ボディビルディング1983年9月号

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