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☆日本トップ・ビルダーのトレーニング法☆
肩と腹部のトレーニング法
<その注意点とアドバイス>

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月刊ボディビルディング1983年9月号
掲載日:2020.11.20
1982年度ミスター日本 小山裕史

《1》肩のトレーニング

 俗にいう肩とは三角筋をさすが、トレーニングでは、この領域をかなり拡大解釈しなければならないだろう。というのも、三角筋の働きは、肩甲骨の動きの影響、上腕二頭筋との関係を無視しては語れないからである。

 人体の中でも、肩周辺の機構ほど複雑な動きを示す部位はないと言える。これは進化の過程で、前脚に当る部分が、直立姿勢をとるようになったために、いわゆる脚とは全くちがった働きをするようになったことにもよる。

 各部のトレーニング法の中でも肩の考察が最も枚数を割くに値するといってもよいが、ここでは詳細は除いて、必要事項のみを追ってみたい。

 先ず、三角筋は、前方が鎖骨より、側方が肩峰より、後方が肩甲棘より起こり、肩上腕関節の前、側、後方に付着しているということを理解しておきたい。

 三角筋の収縮による基本的な動きとは、上腕骨に平行した線に沿っての上腕骨の挙上である。腕を前や、後ろに振り上げる作用は、三角筋単独の働きと考えやすいが、これは、棘上筋、棘下筋、小内筋、肩甲下筋などとの協応作用である。

 この協応作用をもう少し細かくみると、前部三角筋は上腕骨をやや内旋させながら、前方挙上を行い、横部三角筋は腕の外転を、後部三角筋は上腕骨を後方へ伸展し、外旋を行うということがわかる。これらの特性をうまくつかんでトレーニングすることが、三角筋の発達へと結びつくのである。

 例えば、ラテラル種目(サイド・レイズ系)で、頭部側面まで腕を挙上した方が、より強い緊張を得られるように考える人がいるが、上腕骨が3働いたとすれば、そのうちの1は胸部に対する肩甲骨の回旋が行われていることを覚えてほしい。

 腕を全部挙上した場合では、60度の角度を得て肩甲骨が作用している。

 これに加え、腕の挙上方法を考慮しないのであれば、運動刺激は三角筋ではなくて、僧帽筋、肩甲挙筋等へ移行するのは自明である。ただ、肩甲骨の回旋なしの外転では、三角筋は短くなり、意外にも緊張も減少する。

 サイズとパワーの両方を求めるならこの三角筋の3つのヘッドが、うまく働くような形で行うプレス系統の運動が有効であるが、実際には、プレス運動では、前部三角筋のみが強く働く傾向があり、レイズ系統の運動を充当することにより、その完成を期さねばならない。
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 今回は、このプレス系統と、一般に難解とされているレイズ系統の運動について特に述べてみたい。

 三角筋の運動をするときに痛感されるであろう僧帽筋等を含めた上背の運動参加は、上腕を鎖骨に押し当てようとする機能の働きによるが、プレス系運動を全うするためには、これは、前部から横部の運動であるという認識のもとに、その完璧を追求するという形をとるのが賢明な方法である。

 前部三角筋の特性は、上腕の内旋をともなった上腕の前方挙上である。そして、横部三角筋は上腕の外転であった。これを十分に作用させるためには、例えば、フロント・プレスの場合、スタンディング・ポジションで、両上腕を体側(体の前方ではない)で構え、3分の1くらいまで挙上した点で、頭奥部へ腕を押し上げるように、捻り上げることである。

 ビハインド・ネック・プレスの場合も同様であるが、三角筋は後述するように、体側にある位置から90度くらいの挙上をみた位置までがその主動作となる。よって、プレス系統の運動で、完全伸腕にこだわることはない。

 サイド・レイズ(ラテラル)系統の運動の時、このことは顕著となる。この運動では主動部を三角筋横部ととらえて運動すべきである。三角筋横部の主動作は、上腕の外転であるが、この横部をできるだけ単独に鍛える場合には、いくつかの注意点をマスターして欲しい。もちろん、フォームそのものも問題になる。

 横部三角筋は、床と上体が水平位にある時、緊張度合が高まる。そのためには、挙上時、鏡に自分の姿が映るようなフォームでは、この水平位は保ちづらくなる。

 そこで、やや上背を前屈して、運動をスタートする必要がある。そしてこの時、ダンベルを握った親指が小指よりもやや下位にあるように留意して挙上する。別の表現をとれば、肘をやや後方に捻る形をとることになる。こうすることによって、三角筋横部の緊張度合をより高めることが出来る。

 また、前述のように、腕の振り上げ外転に際しては、三角筋横部が全てその作用を示すのではなく、三角筋横部2に対して1の割合で、肩甲骨がその作用をつかさどり、サイド・レイズ等の場合、体側から90度以上挙上した場合には、僧帽筋、棘上筋、棘下筋がその役割を受けもつことになる。

 前述したようなデメリットを除くためには、以上に加え、ベント・アームまたはストレート・アームにかかわらず、体側よりできるだけ遠いところへ腕を持ち上げるようにする。肩甲骨の働きを考慮した場合、このようなやり方が最も的確に刺激を与えてくれることになる。そして、できる限りこの位置(上体を90度くらい前傾させた状態で腕を挙上したポイント)で静止状態をつくるようなつもりで運動することである。鎖骨が頸部に近づくような形(肩をすぼめるようなフォーム)ではなかなか効果があがらない。

 最後に、後部三角筋について述べよう。後部三角筋は、垂直位では、上腕骨を外転・伸展させる作用をもち、ベント・オーバー・ロウイング、ロー・プーリー等でその発達を促進できるが専門的な種目としては、やはり、ベント・オーバー姿勢によるサイド・レイズ(リア・サイド・レイズ)が有効である。

 ただ、この姿勢では、単なる上腕骨の外転、伸展を心がけているだけでは発達は望めない。横部三角筋へもやや刺激は移るが、倒した上体とできるだけ90度に近い位置に上腕が上がるように留意すべきである。そして、肘をやや後方に引き上げるのである。あくまでも上背部を鍛える種目とは区別すべきである。
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◇肩のトレーニングの変遷

 ボディビル開始当初は、肩のトレーニング種目としてはバーベル・プレスオンリーであった。筋力がアップした時点(6ヵ月後くらい)でダンベル・プレスを補充している。プレス系統を中心にしたことは、筋力養成のためには有効であったようだ。ロウイング系統、レイズ系統の運動がないのは、この時期の激しい肩痛に原因がある。

 三角筋と上腕二頭筋は密接な関係を持っているが、私の場合は、上腕二頭筋と短内側頭の付着部(烏口突起)付近の損傷であったため、体の前方より肘が上がってくるフォームの運動はできなかった。

 3年目には、やや肩の調子もよくなり、バーベル・プレス、サイド・レイズ、ダンベル・プレスの基本3種目を実施しているが、現在のようなポイントを押えたトレーニングとは、ほど遠かった。

 でも、当時のガムシャラ・トレーニングなしには、今日の自分はなく、過渡期の一面として懐しく思い起こすことがある。ただ、理屈が判っていて、あれほどのトレーニングをしたのならと思うことがあるが......。

 特に、ボディビル開始4~5年目頃の吉見一弘選手(’82ミスター四国)と行なったプレス運動等が記憶に残っている。

 例えば、ビハインド・ネック・プレスを120kgまで、次々とチーティングやアシストを加えながらアップしていき、最高重量に達したところで、マルティ・パウンデッジで重量を軽減していくルーティン等が、当時の代表的なものであった。

 筋肉部位の組み合せは、肩と背を同じ日に実施することが多かった。別のルーティンで、肩と上腕二頭筋を組み合せる以外は、全てこの方式をとっていた。

 昨年4月、コンテスト・シーズンを前にしての肩のトレーニング法は次のようなものであった。

①サイド・レイズ(6~8回の反復を基調とし、極限まで、フォースド・レップスをつける方法で)20~40kg
②バック・プレス 50~80kg
③リア・サイド・レイズ 20~40kg
〔註〕背中と同じ日に実施。


 そしてミスター日本直前には、
 ①フロント・プレス 40~70㎏ 10セット
 ②サイド・レイズ 15~40㎏ 10セット
 ③アップ・ライト・ロウイング 45~90㎏ 15セット
 ④ダンベル・プレス 25~35㎏ 5セット
 ⑤リア・サイド・レイズ
〔註〕③と④は選択。以上のように重点度合が高まっている。
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《2》腹筋のトレーニング

 腹筋は、ビルダーとしてタイトルを狙うならば、いくら発達していてもしすぎることはないといっても過言ではない部分である。

 内腹斜筋、外腹斜筋を含め、腹直筋と共に、そのトレーニング・ポイントを探ってみよう。

 腹直筋の主な性質は、体幹の前屈、脚部の挙上であるが、上部の腹直筋が前者を、下部の腹直筋が後者を特につかさどる。腹直筋が収縮するとき、両端が引っぱられる。

 別の表現をすれば、筋肉が収縮して短くなるとき、両端が中央に向って引っぱられる。この動きは、筋肉と骨との付着部のせいである。

 シット・アップ運動にあっては、殿部諸筋も運動に参加するが、これは頭や肩がボードから浮き上がった時だけであり(30~45度くらい)、上部体幹の働きだけが要求される。

 シット・アップ運動の要点は、腹直筋の完全収縮であり、これがとらえられるならば、上腕を頭部に当てる必要はない。ただ、上腕で後頭部をかかえるようにしていた方が、腹直筋の緊張が逃げないという利点がある。

 腹筋は、運動そのものが単調になりやすいので、多角的に種々の方法で鍛えてよい部分でもある。よく言われるように、高回数制にこだわる必要もない。高回数制もまた有利であるという認識の仕方でよい。

 時には、ウェイトを付加したシット・アップで15~20回前後のルーティンも盛り込む必要がある。ポイントは前述したように、完全収縮であり、そのためには、起き上がった時、完全に息を吐ききることである。シット・アップ時に、腹直筋の隆起が互いに当るようになれば、飛躍的に発達が助長されよう。

 レッグ・レイズの場合は、体の伸びた時、大きく息を吸って腹筋を緊張させ、脚を挙げた時、最大に体を折り曲げて息を吐ききるようにする。

 外腹斜筋は、シット・アップ、レッグ・レイズ等、他の部位の種目でも強化できるが、特に発達を求めるならばツイスティング系サイド・ベンド等を充当する必要がある。

 外腹部は、その発達と共に、引き締った腹部の印象を強めるためにも重要部位である。外腹部は、胸郭下部が狭い日本人ビルダーには、その顕著な発達を示す選手は少ないが、パワー・アップのためにもできるだけ強化しておきたい部分である。

 ヘビー・ウェイトによる体側の屈曲が外腹部の強化法の最も近道であるがこの屈曲時に息を吐ききって、屈曲角度を大きくしてやらねばならない。そしてスロー・テンポで実施する。

 外腹部の脂肪除去のためには、できるだけテンポの遅い高回数制のサイド・ベンドが有効である。スロー・テンポのこの種目のエネルギー消費量は大きい。私の実際にとる方法としては、4~6kgのダンベルを両手にして1000回連続で行うやり方である。

 シット・アップのみを腹部の脂肪除去法として行うのは不合理である。腹筋運動をこの目的で有効ならしめるためには、腹筋運動は腹筋強化と割り切ってエクササイズした直後に脚部の運動(ジャンピング・スクワットやランニング・ランジ)や、先のサイド・ベンドを付加した方が良策である。腹筋運動だけではエネルギー消費量が小さいから。

 ただ、腹筋運動のエネルギー消費量を高めるには、できるだけスロー・テンポでエクササイズすることで、脂肪除去の目的に近づけることができることも付加しておく。

 私のよく採用する腹筋のためのルーティンは次のようなものである。

①シット・アップ・ウイズ・ウェイト 15~20回
②レッグ・レイズ 最高回数
③サイド・ベンド 1,000回
 これが基本種目で、これに適宜次の種目を加える。
④メディシング・ボール・シット・アップ
⑤ツイスティング・シット・アップ
⑥バービー・レッグ・レイズ(パートナーに多角度に脚を押しつけてもらうレッグ・レイズ)
⑦トランク・カール
⑧ハンギング・レッグ・レイズ
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〔後記〕私の指導するスポーツ・チームの成果が、続々とニュース報道されてきました。そのいくつかを紹介します。

◆鳥取商高野球部春季大会初優勝

 このチームは、個人別のトレーニング、食事指導と、最も多くの時間をかけて指導してきましたが、この時の1試合の平均獲得点数が10点という強力打線に成長し、ベースボール・マガジン社などの論評でも『全国級』と称賛されています。

◆森美乃里選手(女子槍投げ)

 以前、本誌に窪田先生からも紹介されたが、昨年のアジア大会第3位に入賞した選手で、今春、自己記録を2m伸ばして58mの大台に乗せ(アジア、日本の第一人者、中京大の松井選手の今年の記録は56m台)、今季の活躍が期待されています。

 陸上関係者によれば、槍投げの性質からいって、彼女の年齢(25歳)で1年間に2mの記録の伸びは驚異的と、注目を集めています。

 彼女のスクワット記録のことが、以前本誌に掲載されましたが、指導2ヵ月後の今冬、ナロー・スタンス(スーパー・スーツ無し)で150kgに成功しました。2ヵ月で30kg伸びたことになります。彼女の話では、当時、この記録は夢の夢で、もし150kgに成功すれば、槍投げでもロス五輪に出場できるような記録がきっと出せると言っていたのを懐しく思い出します。

◆由良育英高等学校陸上部、中国陸上大会で男女アベック優勝

 陸上界では有名なこの高校の成し遂げた快挙。特に女子の加藤選手は、ハードルで中国新記録(今年中には日本新記録が出せるのではないかと注目されています)と、三段跳びで1mアップの大躍進。

◆鳥取西高校女子バレーボール部

 大砲と目されながら、ジャンパーズニーの障害で、試合出場を断念せられていた塩谷選手の活躍で、インターハイの出場権獲得。
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 以上がその一部です。
 ウェイト・トレーニングというと、ベンチ・プレス、スクワット、ハイ・クリーン等のイメージで指導していくと、大きな落とし穴に出会います。
 例えばピッチャーの肩強化に、プレス運動は、投球動作の反動的筋作用を示します。ローテーターカフ等を中心とした細かいトレーニングが必要です。池田高校が盛んにアピールしたように『背筋の強化が必要だ』ということでデッド・リフトや上体そらしばかりやらせるのは大きな疑問符をつけざるをえません。
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 バレーボールやバスケットボール等の敏捷性を要求される種目と、陸上競技の瞬発力、持久力トレーニングが同一であるはずもありません。ジャンプ力強化にノーマルなレッグ・イクステンションも遠回りです。

 要は、選手の特性をつかんで、組合せ、時期、時節に応じた詳細なプランニングがキーです。ウェイト・トレーニングの必要分野は無限に広がっています。いろいろと勉強したいものですね。
〔メディシング・ボール・シット・アップ〕

〔メディシング・ボール・シット・アップ〕

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 長い間のご愛読、ありがとうございました。自分のノウハウ・マニュアルを公開するということは勇気のいるものです。でも、一人一人が勉強したことは、やがてそれが周知の事実となるくらいに、話し合い、教え合うことが必要だと思います。まだまだ狭いボディビルディング界にあって、自分のカラに閉じこもって、頑固に自分のことのみに固執することは、発展の妨げ以外の何物でもないと考えます。

 この6ヵ月にわたり私のトレーニング法の拙稿を書いたことは、自分なりに、今までの習得事項や、勉強してきたことを整理するのによい機会となりました。

 私の独断で一方的に書きつづけてきた面が多々あると思いますが、この間に、予想にもしなかったことですが、何人もの方々からの質問をお受けしました。一人にお返事を書くのに何時間も要します。私一人ではなく、当方のスタッフにも多大な労力を強いることになりました。喜んでくださった方も多かったようですが、中には誠意を示してくださらぬ方も多く、厭な思いもさせられました。本当に一生懸命に取り組んでいる方のみを対象にしようという相談の結果、不本意ながら通信指導の形をとることになりました。

 公器のこの誌面をお借りすることは誠に心苦しいのですが、その点をよくご理解いただきたいと思います。

 最後に『やれば報われる』式の考えでは進歩はありません。『やり方によっては報われる』と考えるべきです。

 また、どんなによい情報も資料も、現在の自分の能力を通してしか消化できないのだと考えると、周囲からのそれらの情報にふりまわされるよりも、先ず、自分で考え、実行する態度を身につけなくてはなりません。

 知識や情報というものは、いつでも取り出せる“引き出し”の中に入れておくのです。そして、必要な時にのみ少しずつ取り出して参考にすればよいのです。そんな意味で、今回の一連の私の拙稿が少しでも皆様のお役に立てば、これに優る幸せはありません。

 『たかがボディビル、されどボディビル』誰の胸にも去来する心境ではないでしょうか。ボディビルを心から愛する皆様のご成功とご多幸をお祈りしながら、最終の稿を閉じさせていただきます。
58.8.1  小山 裕史
月刊ボディビルディング1983年9月号

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