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やさしい科学百科
カロリーとエネルギーの話<2>

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月刊ボディビルディング1983年9月号
掲載日:2020.11.26
畠山晴行

<1>熱とは何だろう

 焼芋でもラーメンでも、食べずにテーブルの上においたままにしておくとさめてきます。つまり、温度が下がっていく訳です。焼芋はホカホカがおいしいし、ラーメンもさめてしまっては食指が動きません。

 でも、さめて温度が下がるとはいえ部屋の温度以下にはなりません。つまり、熱は温度の高い方から低い方へ向かって流れていく訳です。これは、前号に記したとおり、エントロピーの増大なのです。

 さて、大昔の人は、木と木をこすり合わせて、そのとき発生する熱で火をおこしていました。これは、運動エネルギーから熱エネルギーへの変換ですね。運動エネルギーが、小さな点に集中して熱エネルギーに変わるので温度が上がり、火がつくのです。

 「運動と熱の間には何か関係がありそうだぞ」と、最初に考えた人は、アメリカのベンジャミン・トンプソンという人でした。彼は砲身をつくるために、ドリルで鋼の棒をくりぬくとき熱が発生するのを見て「熱の本性は運動の中にある」と考えました。

 この考えを支持したのは、有名なフランスの哲学者デカルトでした。「手をこすり合わせればあたたまるのだから、その考えは正しいよ」と、言ったとか。

 ということで、いろいろ調べていくうちに「熱とは、分子や原子の運動の状態だ」ということがわかりました。

 大きな焼芋は、小さなものにくらべて、分子の数も多いのですから、分子1個ずつの運動は同じでも、熱をたくさんもっていることになります。

<2>氷・水・湯・蒸気

 分子だとか、原子という言葉はあまりふだん使わないし、目に見えるものでもありませんが、エネルギーを知るためにはたいへん重要なので、水を例にとって簡単に説明しましょう。

 コップ1杯の水を半分ずつに分けてみましょう。さらにその半分の水をまた半分にします。ガマの油売りが刀の切れ味を試すように、次々に半分ずつをくりかえすのです。

 現実問題としては、そう何回も出来る訳ではありませんが、一応、理論的にはだいたい80回の折半操作で限界になります。

 
 このとき水は、水の分子H2Oになっています。これ以上、むりやり分けるともう水ではなくなってしまいます。
 水の分子H2Oは、水素原子Hが2個と、酸素原子Oが1個結合したものです。H2Oは水の性質を持つ最少単位です。そして、水素と酸素の場合はH2とO2がその最少単位で、これらを分子と呼びます。(水素原子Hは水素と性質がちがい、H2ではじめて水素と同じ性質になります)

 さて、水はふつう液状ですが、0°C以下では氷になり、100°C以上では沸騰して蒸気になりますね。(沸騰しなくても蒸気になりますが)

 前項で、熱は分子や原子の運動の状態だと書きましたが、氷でも水でも、湯でも蒸気でも、どんな場合においても水の分子は動いております。氷のときには形がくずれない程度に小さくゆれ動いているのです。そして、溶けて水になれば、かなり自由に動きます。気体の水蒸気では、それこそビュンビュン飛び回ります。

 そんな訳で、氷が溶けるときや、水が蒸気になるというような、状態が大かく変化するときには大量の熱が必要になるのです。蒸気は温度が高くなればなるほど、その動きは激しくなって分子同士が衝突する回数も増えます。これが圧力となって、体積も増えるのです。
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<3>分子のガチンコ

 食物が体内で燃えるのも、ローソクが燃えるのも、化学反応であり、そこには共通点があるはずです。

 ここでは、ローソクが燃えることを例にとって、化学反応がどのようにしておこるのかを説明します。

 ローソクにマッチで火をつければ、風でも吹かない限り最後まで燃えるでしょう。マッチで火をつけるということは、その熱で分子の動きを活発にする、ということです。

 ローの成分は、炭火水素といって炭素Cと水素Hだけが鎖のように長くつながった形をしていますが、熱でこれが溶かされ、鎖がちぎれてローの蒸気になります。(これはアセチレンC2H2やエチレンC2H4です)

 このあと、熱で空気中の酸素O2と、アセチレンやエチレンの分子とがガチンガチンとぶつかり合うわけです。その結果、これらが反応して炭酸ガスCO2と水H2Oができるのです。

 この反応では、ローの抱えていたエネルギーと、後にできた炭酸ガスと水のエネルギーの差の分だけのエネルギーが熱となって放出されます。この発生熱の一部が次の反応を起こすために用いられて、次々に反応がくりかえされることになります。

 わたしたちが体温を維持しなければならないのも、ローソクの場合と同じと考えてよいでしょう。つまり、次々に化学反応が起きる条件として、体温を維持するということです。

<4>角砂糖の手品

 かなり昔になりますが、ある少年雑誌に「角砂糖に火をつける」という手品が紹介されていました。

 角砂糖にマッチの火を近づけても、ふつうは燃えません。ところが、角砂糖の角にタバコの灰をこすりつけてマッチの火を近づけると、青い炎を出して燃え出します。

 タバコの灰は燃えかすですから、これ以上燃えるといったものではありませんので、タバコの灰は砂糖が燃える手助けをしたことになります。ちょうど、タバコの灰は、煮えきらない男女の仲をとりもつ仲人のような働きをしたことになります。化学では、このような反応の仲人を触媒といいます。

 一見、鉄は燃えないように思えますが、条件によっては炎を出して燃え出します。鉄のサビは、空気中の酸素と鉄が結合した結果のもので、少しずつ熱を放出しています。

 近年の化学工業は、触媒を上手に使って発展してきたといっても過言ではないでしょう。
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<5>酵素は触媒なのだ

 体内での化学反応は、37°Cくらいで進行していますが、これも触媒の働きによるものです。

 ブドウ糖や脂肪やタンパク質は、エネルギーを抱えていて、これらは体内で分解されていくうちにエネルギーを放出していきます。この分解はいっぺんに起こる訳ではなく、何段階にも分けられた反応の連続で行われます。そして、この何段階もの反応には、それぞれ異なった触媒が必要です。こういった生化学反応の触媒を酵素と呼びます。

 「酵素健康法」とかいうのがありますが、この場合の酵素は消化酵素をさしており、酵素全体からみれば、ほんの一部にすぎません。

 酵素は生化学反応を握るものですから、必要に応じて自前でつくるのが本筋です。プロティン・パウダーにタンパク質分解(消化)酵素が入っているのは、いっぺんにタンパク質を摂った場合に、完全に消化されるのをねらっものです。こういった場合や、老化とともに酵素(消化)づくりがにぶくなった人などを除いて、やたらに酵素を摂ってもあまり意味はありません。

 口車にのせられて、何万円もする訳のわからない“酵素”を買わされた人を何人か知っていますが、こんな高い買い物をした人は皆、酵素がどんなものであるかを知らなかったようです。ちなみに、消化酵素剤はそんなにベラボウに高価なものではありません。
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<6>エネルギーのカンズメ

 体内では、いくつものそれぞれ異なった酵素の仲だちにより、エネルギーを抱えた物質が分解されて、エネルギーを放出していきます。でも、ローソクが燃えるように、すぐ熱になる訳ではありません。

 分解の結果、放出されたエネルギーは、同時にカンズメにされます。このエネルギーのカンズメは、ATP(アデノシン3リン酸)といいます。これは、アデノシンという物質にリン酸が3個くっついたものです。

 ATPの原料はADP(アデノシン2リン酸)とリン酸1個です。エネルギーを使うときには、ATPを分解して、ADPとリン酸にします。

 つまり、リン酸を1個くっつけるのに高いエネルギーを必要とし、逆に、はなすときに高いエネルギーを放出するもので、この結合を高エネルギーリン酸結合といいます。

 ATP以外にも、体内でのエネルギーのカンズメはあります。特に運動時においては重要になりますが、このことについては、いずれ回を改めて説明したいと思います。

<7>エネルギーは引っぱり出して使うもの

 石油ストーブは、暖房のためのものですから、少ない燃料で、できるだけ熱が出た方がいいのです。完全に燃えてくれないと、一酸化炭素COやススがでます。これらはまだ余分にエネルギーを持っているので、完全に燃えない場合は、エネルギーをムダにしていることになるのです。

 それだけではなく、われわれの体内で酸素を運ぶ役目をしている赤血球へモグロビンに、一酸化炭素が強引に乗り込んできますので、酸素欠乏の害が生じます。この力は、酸素の50倍から300倍ともいわれておりますので、大変な毒です。

 さて、食事によって摂り込まれたエネルギー源は、分解されてATPにカンズメにされて使われますが、このエネルギーは体温を維持したり、細胞を新しく作りなおしたり、ホルモンや酵素などを作っていくために使われていきます。

 分解により引っぱり出されたエネルギーの大部分は、からだから出ていくときには熱の形をとることは前号に述べたとおりです。

 この熱は体温を維持するために必要なのですが、安静時においても、熱の生産のうちの半分くらいは筋肉で行われるということは重要です。従って、貧弱な筋肉では熱の生産が少ないわけです。

 筋肉(横紋筋)は、筋線維という細い線維の束でできていて、この1本1本は筋原線維の束で、その1本1本はまた、フィラメントという糸の束でできています。フィラメントは2種類あって、これがたがいちがいに重っており、筋収縮はこれのすべりによるものとされております。

 最大筋力を出した場合でも、フィラメント全体が一度にすべて収縮するものではなく、常に交代で収縮しております。

 筋肉が収縮するとからだが動くと思いがちですが、必ずしもそうではありません。筋肉が持続的な収縮状態を続けているときはからだは動きません。

 緊張がなくなれば、人間のからだはコンニャクのようになってしまうでしょう。わたしたちが姿勢を保つには、いつもある程度の緊張が必要です。

 背部の筋肉が弱ければ、背骨がしっかりしませんから、推骨の中を通る神経におかしな刺激を与えることにもなります。しっかりした筋肉を維持してエネルギーを上手に使うことが大切だということがわかります。
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<8>汗の効果

 トレーニングの後には、必ずサウナに入らなければ気がすまない、という人がたくさんいます。また、トレーニングで汗をかいた後は、何とも爽やかなものです。

 サウナの汗は、体内に熱を入れまいとする働きです。もちろん、体内では常に熱が生産されておりますので、これを外に出さなければこまります。運動の汗は、熱を外に出すためのものであることはいうまでもありません。熱は温度の高い方から低い方へ流れるのですから、当然そうなりますね。

 犬は汗をかくことができませんから呼吸を浅く速くくりかえして、舌や上気道から水分蒸発で熱を逃がします。このときの呼吸数はふだんの50~100倍くらいにもなります。鳥も犬と同じようなことをしております。浅速の呼吸では、炭酸ガスをかなり失いますので、血液は過度にアルカリ性となります。

 おもしろいのはカンガルーのたぐい(フクロネズミ類)で、彼らは熱くなると、足やお腹をなめて、毛をグチャグチャにぬらして、その蒸気で熱を外へ逃がします。あまり効果的な方法ではありませんが、ネコやネズミ、ウサギなども、ある程度同じようなことをやっています。

 このように、陸上にすむ恒温動物は水分蒸発を使って体温の上昇をおさえているのです。

 ところで、汗を流せば、汗といっしょにナトリウム、カリウムをはじめとするミネラル類、尿素やアミノ酸のチッ素、アンモニア、クレアチニン、ブドウ糖、乳酸や水溶性ビタミンなどが失なわれます。このなかでも特に注目すべきものは乳酸であり、その量は血しょう成分の2倍ほどになるというデーターがあります。

 乳酸は、酸素やビタミンB1が不足した状態で、ブドウ糖を分解したときに生じます。乳酸の酸はタンパク質を変性させますので、筋肉がかたくなったり、酵素のタンパク部分(主酵素)が変性すると、細胞内の化学反応がまともに行われなくなることもあります。

 乳酸は疲労物質ですから、汗をかけば汗と一緒に乳酸が体外に流れ、疲労回復効果が期待できるのです。

 なお、乳酸は肝臓でグリコーゲンに還元されて、再びエネルギーを放出させる回路に参加しますので、乳酸排泄はエネルギーの体外への放流ということになるのです。

 さて、ここで問題になるのが、ミネラルやビタミンの排出です。汗は鉛やカドミウムなどの有害な重金属も排出してくれますが、正常な代謝を維持するための微量栄養素も同時に失われますので、大量の発汗時にはこれらの補給を行うことが重要です。

 別の機会に詳しく記したいと思いますが、アメリカで起きたプロティンだけの減量法での死亡事故の続出は、カリウムやナトリウムの不足によるものと私は考えています。

 減量専門家のなかには、あちこちの出版物に書いてあることを寄せ集めて自分で消化することもなく、ただ「塩分はいけない」だとか言いだすので、こまったものです。

 汗をかいた後の塩分摂取は、あまり塩からいもので摂らない方がいいでしょう。塩分濃度が高いとナメクジ現象(浸透圧の関係)で食道や胃の粘膜をきずつけるおそれがあるからです。

<9>化学反応のテンビン

 化学反応には、ローソクを燃やしたり、ブドウ糖を分解するような、エネルギーを放出する反応と、これとは逆に、植物が太陽のエネルギーを使って有機物を作ったり、わたしたちがからだを大きくしていくような、エネルギーを吸収利用する反応があります。

 熱の生産の多くが筋肉で行われていることは前に記しましたが、もし、必要以上の熱が体内にある場合には、筋肉の緊張は必要なくなるはずではありませんか。長風呂でフラフラになるのも体温上昇によるものですし、病気で発熱した、ときにフラフラになるのも必要以上に体内に熱があるからです。

 それとは反対に、水風呂に入ったりすれば、筋肉は緊張して熱を生産します。寒中、上半身裸になって、空手のサンチンの型で息をはきながら全身の筋肉を緊張させれば、汗がダラダラ流れるほどにからだがほてるものです。

 このように、汗や筋肉収縮などにより、体温は実にうまくコントロールされています。

 人間の皮膚には、ある温度を境にして、それより高い温度と低い温度を感じる受容器を各々もっていて、まったく別の神経を通って脳に送られている訳ですが、脳のコントロール・センターでは、テンビンを使うように、その時々に応じて体内の化学反応をうまくあやつっているともいえます。(温度以外の要素もいっぱいありますが)

<10>入浴の効果

 サウナで汗を流すのは、乳酸排泄という効果があるのはいうまでもありません。高温(42°C位)の温水浴でも汗は出ます。従って、汗の効果だけでしたら温水浴でもかなり期待できることになります。特に温水中では、サウナのように体表面から水分が蒸発しずらいので、温熱効果は十分期待できるはずです。ところが、温水浴では汗は出るもの、湯が皮膚に浸み込んできます。入浴後、指の皮がシワシワになることからもわかりますね。これは浸透圧と水圧のためだと思われます。

 ですから、体重減少だけを考えればサウナの方が効果は大きいのですが、一時的な水分流出などあまり重要な問題ではありません。それよりも体温上昇ということが重要です。

 前項に記したように、温熱刺激によって筋肉は緊張がとけて弛緩します。そして、体表面の血管、特に30μ(1μは1000分の1mm)程の内経をもつ細動脈や10μ程の終末細動脈の組織にある平滑筋細胞も弛緩して広がり、体表面にたくさん血液を流すことになるわけです。

 こういったことから考えていくと、トレーニングや仕事の緊張をときほぐして、ゆったりリラックスさせる効果として、サウナや温水浴は大きな意味があるはずです。ただし、食事直後の入浴は消化吸収器管の血液を少なくしてしまいますから問題があります。

 さて、サウナと温水浴の異なる点をもう1つあげたいと思います。

 サウナの場合には、全身が空気に開放されておりますので、温水浴に比べて、皮膚呼吸で十分な酸素が取り込める利点があります。全身火傷では命がもたないことからも、皮膚呼吸がどのように大きいかがわかります。

 これに対して、温水浴の場合は、肩まで湯につかっていて、出ているのは頭だけです。だから、皮膚呼吸という面ではほとんどゼロに近くなります。

 脳の酸素消費料は、からだ全体の20%ともいわれておりますので、サウナに比べると、過剰の血液が脳に流れすぎるということを回避できるといえるでしょう。そして、新鮮な空気が多ければそれにこしたことはありません。

 こういったことを総合的に考えていくと、温水浴でもサウナの効果を得ることが出来ますし、サウナで効果的な入浴を行うこともできるでしょう。

 次に記すのは、私の考えによるものですが、これについて御意見があれば、当社「編集部」までお寄せいただきたいと思います。

①サウナ

 高温のサウナで長時間がんばる必要はない。低温(60~80°C程度)でも、サウナストーブに手足をかざせば大きな発汗効果がある。(これはまた省エネにもなる)

②温水浴

 42°C位の高温浴で、サウナ効果が期待できる。あまり無理をせずにくりかえし入浴し、新魅な空気を浴場に入れておく。


 両方に言えることですが、頭をつめたいタオルで冷やすのは効果的ですし、風呂からあがったら水をあびる(全身がむりな人は手足だけでも)と、体表面から必要以上にエネルギーを損失しなくてすみます。これはまた、湯ざめの防止にもなります。

 冷水をあびるときは、なれないと心臓に急激な負担がかかりますので、ぬるま湯からならしていくほうがいいでしょう。また、冷水をあびる瞬間は、思い切り息をはくことにより、筋収縮が起き、急な冷刺激をさけることができます。その他、入浴についてはまだまだ考察すべきところであるので、あとは次回にまわしたいと思います。
月刊ボディビルディング1983年9月号

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