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食事と栄養の最新トピックス⑯
どこまでが有効で、どこからは無効か?<その4>
脂肪のとり方

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月刊ボディビルディング1982年3月号
掲載日:2020.09.18
健康体力研究所 野沢秀雄

1.脂肪に関心のない人が多い

 「たんぱく質は意識して多くとる」「炭水化物はなるべく食べないように制限する」というように,たんぱく質や炭水化物(糖質)については相当に気を使っている人が多い。ところが,脂肪のとり方については関心のない人が意外に多い。

 脂肪に関心を持たない理由は2つ考えられる。一つは肉づい卵などたんぱく質の多い食品を食べれば意識しなくても同時に体に入ってくること。もう一つは脂肪そのものを単体で食べることが少ないためである。

 つまり,たんぱく質ならプロティンやスキンミルク,チーズなど,糖質なら砂糖,ぶどう糖,果糖,シュガーカットなどの食品があって,簡便に使用されている。それに対して脂肪の場合は,食用油,バター,マーガリンなどの食品が存在するが,これらをそのまま囗にすることはほとんどない。せいぜい小麦胚芽油が液状ないしはカプセル入で発売され,サプルメントフーズとして利用されるぐらいだが,これとて脂肋の補給というよりも,ビタミンEの補給に主眼が置かれている。

 今月は,とかく忘れやすいが重要である脂肋について,合理的な食べ方をアドバイスしよう。

2.脂肪の意義と役割

 脂肪は炭水化物と同様に,体内で燃えてエネルギー源となる栄養素だ。炭水化物と異なる点は,燃焼するまでに経路と時間がややかかり,ビタミンB群のイノシトールやコリンを要求することである。そのかわり少量でハイカロリーを出すことができる。(脂肪は1g当り約9カロリーあるのに対し,他の栄養素は約4カロリー)

 また同じ量を貯蔵するなら,当然,脂肪のほうが多いカロリーを貯えることができる。ちょうど千円札を10枚持っているより,1万円扎で10枚持っているほうが金額が大きくなるのと同じことである。したがって脂肪は貯蔵に適した栄養索でもある。

 脂肪貯蔵量は個人差が大きく,男性は平均して体重の約18%であるのに対し,女性は約30%といわれている。スポーツマンは一般に脂肪量が少なく,健康体力研究所のデータでは,長距離ランナーや減量時のボクシング選手やレスリング選手は,全体重の約5%という例も珍らしくない。

 コンテスト出場時に,脂肪をカットして,きわだつディフィニションを見せる選手も5~7%になっている例がある。

 アメリカでは一流ボディビルダーを水槽の中に頭のてっぺんまで沈ませて体比重を測定し,脂肪の割合を出す実験がおこなわれている。それによるとコンテスト前で体重を約10キロしぼりこむと,脂肪の割合はやはり5~7%になる。体重調整しない場合は10~15%になり,相揆とりのような肥満体の場合,脂肪が50%を起えることもよくある。さて,あなたは体重のうち何%くらいが脂肪だろうか?

 ごく大ざっぱな日安として,皮下脂肪の厚さとほぼ比例ナると考えて構わない。メジャーで測定して5ミリの厚さの人はほぼ体重の5%が脂肪とみてよい。また,体重70kgで皮下脂肪か10ミリの人は,体重の約10%の7kg十αが脂肪といえる。プラスαがついているのは厚みが厚い人ほど,αの数字が大きくなるためだ。厳密な計算式や簡易計算表が発表されているので,もっと詳しく知りたい人は専門書を研究していただきたい。また機会があれば本誌上などで紹介させていただく予定である。

 脂肪はどの部分に蓄積されやすいか調べると,圧倒的に皮下が多く,とくに腹部(前や横),背中,ほほなどに貯蔵されやすい。よく動かしている指や右腕には脂肪が付着しにくい。

 解剖学のデータによると,全身のうち,皮下に50%,性腺20%,腎周囲12%,腸間膜10%,筋肉組織5%,網膜組織3%といったように脂肪が分布している。

 脂肋のもう一つの重要な役割は,ビタミンA・D・E・K・ホルモン・レシチンなど脂溶性微量物質を溶かしこんで,全身の必要個所へ輸送することである。また,コレステロールや性ホルモン,ビタミンDなどは脂肪から体内で合成される。これらの材料としても大切である。

3.動物性脂肪VS植物性脂肪

 このように重要な脂肪であるが,とればとるほど役立つというものでは決してない。他のたんぱく質・糖質・食塩などのように,少なすぎてもマイナスで,過剰にとりすぎると害を示す。

 とくに健康上問題になるのは動物性脂肪のとりすぎである。

 肉・魚・卵・乳製品など動物性食品には,脂肪中にコレステロールが相当量含まれている。そればかりでなく,血液中のコレステロール値を増加させるように作用する。おまけに脂肪を構成する脂肪酸は飽和タイプが多く,中性脂肪値をふやし,成人病の引金になりやすい。

 いっぽう植物性脂肪は,リノール油やマーガリンに代表されるように,コレステロールそのものが皆無といって良いほど含まれず,また血液中のコレステロール愃を低下させることが内外の研究者により発表され,公認されている。そのうえ構成している脂肪酸は,リノール酸・リノレン酸・オレイン酸など不飽和脂肪酸が多い。リノール酸は別名「ビタミンF」とも吁ばれ,人体では合成できない脂肋酸である。そのため厂必須アミノ酸」という言葉にならって,「必須脂肪酸」と呼ばれるくらい重要な成分である。

 近年「成人病の予防によい」と,リノール油やべに花油(サフラワー油)それに植物性マーガリン,植物性マヨネーズなどが発売され,評判がひじょうに良いのはこの理由である。

 〔図1〕は国立栄養研究所の鈴木慎次郎氏により発表された,コレステロールと脂肪の関係を示すグラフである。このような事実から,現在のもっとも進んだ考えは「植物性油と動物性油は2:1の割合でとればよい」という方針である。
〔図1〕食用油が人の血清コレステロール

〔図1〕食用油が人の血清コレステロール

〔図2〕1日当り脂肪最適摂取量(一般人)

〔図2〕1日当り脂肪最適摂取量(一般人)

4.必要量・安全量・危険量

 では1日にどのくらい脂肪をとるのが適切であろうか?

 厚生省で発表している「日本人の栄養所要量」には,脂肪の必要量が示されていない。けれども一般に総カロリーの約25%を脂肪でとることがすすめられている。つまり1000カロリーにつき30gの脂肪をとるように目標を立てればこの水準は達成できる。毎日3000カロリー食べている人は90g,4000カロリーの人は120gの脂肪をとるようにすればよいわけだ。

 健康体力研究所の食事分折では,一般の人なら60~80g,ボディビル選手のような激しいスポーツを実行している人なら80~100gとっている場合に最高位のランク4が与えられるように構成されている。

 減量時にしばしば見られるが,脂肪摂取量が40g以下になることがある。また甘い菓子や果物を偏って食べすぎている場合にも,脂肪が40%以下になることがある。このような状況では,体調が悪く,肌にもツヤが見られなくなる,いわゆる「油切れ」の症状である。激しい肉体運動に際して,脂肪の代謝が盛んになるので,基準量はしっかり食べてゆこう。
[表1]同じ食品でもカロリーが変る

[表1]同じ食品でもカロリーが変る

 とくに体重をふやしたい場合,脂肪を調理に用いるとカロリーが増える。食べる量はほとんど変らないのに,カロリーが大幅に増すので,〔表1〕を参考にしてメニューをつくるとよい。

 表の数字でわかるように,フライパンで油料理にしたり,フライや天ぷらにすると,カロリーが大幅に上昇してくる。体重増加を目指す人は,同じ食べるなら油を用いるのがよい。逆に減量段階の人は油料理をやや制限したほうが,カロリーを低下させるには効果か大きい。

 ところで,脂肪の消化能力は個人差や年令差が大きいことを知っておいていただきたい。若い育ちざかりの人が油っこい料理をおいしそうにどんどん食べているからといって,中・高年令者がまねをしてはいけない。また,多く食べると下痢をしやすいタイプの人がいる。特に古くなりかけた油は,消化不良や胸やけをおこすので,胃腸の弱い人はよく注意したい。

 脂肪を食べると,血中脂肪濃度が一時増加して,消化されると共に低下してくる。若い人や胃腸のじょうぶな人あるいは,運動量の激しい人は,スムーズに短時間で血中脂肪値は低下してゆく。しかし老年になるにつれて,脂肪代謝のスピードが鈍って,消化されにくくなる。「老人はこってりした料理が食べられず,あっさりした日本料理を好む」というのはこの理由による。

 以上から若い人でトレーニングを実行する人なら,積極的に脂肪を多く摂ってゆく方針がよい。といっても多すぎれば消化不良をおこし,カロリー過剰による体脂肪の増加に結びつく心配がある。また動脈硬化の原因になり,成人病につながる恐れがある。

 「自分が脂肪をどの位食べているか?」を知るには,1日の食事を書き出し,食品成分表により,栄養分折をすることである。トップクラスの選手の場合は,大体のカロリー計算をおこなって,状況を把握しているビルダーが結構ふえている。
月刊ボディビルディング1982年3月号

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