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“IFBBコンテスト審査規定”解説

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月刊ボディビルディング1982年6月号
掲載日:2020.09.04
松山令子★IFBB国際審査員★JFBB副会長(国際担当)
プレ・ジャッジンクの第1ラウンドでは、そのクラスの出場選手全員がステージにゼッケン番号順に並んで、前面、左横、背面、右横の4つの自然体を見せる。この写真は最初の正面の自然体

プレ・ジャッジンクの第1ラウンドでは、そのクラスの出場選手全員がステージにゼッケン番号順に並んで、前面、左横、背面、右横の4つの自然体を見せる。この写真は最初の正面の自然体

 今年9月にはIFBBアジア選手権が東京で行なわれる。それに参加し得る選手を選ぶための選抜コンテストが、7月25日、名古屋で行なわれる。アジア選手権のジャッジンク(審査)は、IFBBのアジア連盟のジャッジズ・コミティー(審査委員会)によって行なわれる。この時、ジャッジングの全過程は、すべて英語でなされるので、日本の選手諸君は今からその過程に対応することを学んでおかねばならない。

 また、シャッジンクでは、規定ポーズでの審査が行なわれるので、その規定ポーズを選手諸君は今から知り、そして、そのポーズを上手に出来るように練習して身につけておかねばならない。

 コンテストの当日、ステージの上で、次はどのポーズであったかなどと考えながらポーズをするようでは、決していい成績は期待出来ない。
 こう考えてきて、日本ではじめての国際コンテストであるアジア選手権で、日本選手にも精いっぱい実力を発揮してもらいたいという役員一同の願いから、7月25日の選抜コンテストを完全なIFBB方式で行なって、選手達にとって、これがアジア選手権のリハーサルになるようにした。

 その7月25日の選抜コンテストに間に合わすためには、1日も早く選手諸君にIFBB方式の審査と規定6ポーズを覚えて、練習してもらうために、ここに、選手達にとってのみ知っておくことの必要な事項を述べることにした。役員やジャッジの側から知っておかねばならないことは、別の機会にゆずる。

◆ⅠFBBコンテスト審査の概要

 ⅠFBBコンテストの審査は、コンテストに先立って行なわれるプレ・シャッジングと、コンテストのステージで行なわれる上位者の間でのポーズ・ダウン(ポージングによる戦い)の2つの部門の審査から成る。

 アジア選手権での審査員(ジャッジ)の人選は、アジア連盟のジャッジズ・コミティー(審査委員会)が行ない、IFBB国際ジャッジのライセンス(IFBB本部発行)を持つ人の中から、1力国あたり1名を選び出す。コンテストのジャッジは5名、または7名である(他に1名の交替用ジャッジを用意する)。

 各ジャッジの採点は、審査の進行中にきぴしくチェックされ、不審な採点が適当な方式で防止されるようになっている。注意されても改めないジャッジはおろされ、交替のジャッジがこれに代り、交替ジャッジの最初からの採点が採用される。

 ⅠFBB審査委細会は、えこひいきや、あまりにもかたよった主観によるジャッジの採点を極めて厳重にチェックして防止するから、選手諸君は、ジャッジングの結果を信頼してよい。公正なジャッジングこそはすべての選手の最も望むものである。

◆第1部 プレ・ジャッジング

 IFBB世界選手権(アマチュア)のようなレベルの高い、参加選手が100名を越すような大規模のコンテストでは、プレ・ジャッジングは、コンテストの前日に行なわれるのが普通である。何故なら、体重別にクラスが4つあり、その各クラスにつき最短2時間を要するときは、全体のプレ・ジャッジングには最短8時間かかる。

 このような心魂を傾け、体力を消耗するプレ・ジャッジングのあとで、選F達がコンテストに臨み、再び戦うことは無理だからである。

 世界選手権よりも参加選手の数の少ない大陸コンテスト――例えばアジア選手権などは、場合によっては、コンテストの当日、早朝からプレ・ジャッジングに入り、午後、比較的早い時刻に終ると予想される場合は、その夜、コンテストをするように設定している国もある。

 では、いよいよシャッジンクの実際について述べよう、

◆体重測定

 プレ・ジャッジングの1つのプロセスとしてプレ・ジャッジングに先立って行なわれる重要なプロセスは、体重測定である。IFBBのジャッジングは体重別クラスによって行なわれるので、エントリーに際して当人が決めていた通りの体重であるかないかを測定し、その時の体重によってクラスが決まる。

 自分が予定している通りのクラスで戦えるかどうかは、選手にとっては極めて重要事であるので、そのプレ・ジャッジング直前の体重測定に備えて選手は厳しく自分の体重を規制していなくてはならない。

 極く少量のオーバーの場合は、再測定まで30分の減量のためのトレーニングがゆるされる。30分汗を流してのち、再測定が行なわれ、その時の体重が最終的にクラスを決定する。この体重測定場のすぐ近くに、トレーニングの出来る部屋が用意されている。体電測定は、コンテストの時と同様に、トランクス1枚である。

 体重測定が終った頃に、ゼッケン番号のついたタグが渡される。体重測定は体重の軽いクラスから行なわれ、プレ・ジャッジングもその通り行なわれる。

 プレ・ジャッジングは3ラウンドで行なわれる。第1ラウンドは自然体、第2ラウンドは規定6ポーズ、第3ラウンドは1分間のフリー・ポージングである、

◆第1ラウンド――自然体

 これは、1クラス全員が同時にステージにゼッケン番号の順にならんで、体の前面を見せ、次に左横、次に背面、次に右横というように、4つの面からの自然体を見せる、この動作は、ステージで選手を指揮する役員(ジャッジズ・コミティーのメンバー)こより号令がかけられ、全貝が一斉に動く。

 このラウンドでは、体のどの部分かに力を入れて、よく見せようとすると注意を受ける。必ず、どこへも力を入れず、自然体でいること。注意されても改めないと減点される。

◆第2ラウンド――規定6ポーズ

 この6種のポーズは後述するが、このポーズは順序が決まっているので、その順序を間違えてはならない。いままでの海外でのコンテストで、なれない選手で、言葉(英語)がわからぬ人は、隣りの選手を見て、それを真似しながらポージングする人もあるが、そうするときは、ポージングが一拍遅れるので、充分にポージングを決めることが出来ず、極めて不利である。必ずこのポーズ6種を充分過ぎるほど勉強して、自己最高の体を兒せることが出来るようにせねばならない。

 くれぐれもポーズの順序を暗記すると共に、くり返し練習して、考えずとも、その順に休が動くようにしておかねばならない。

 あとに出てくるこの6つの規定ポーズの写真には、いろいろ筋肉に番4がつけてあるが、あまりにも細かいので今ここではこの筋肉名を一々記さない。選手諸君はその筋肉名をいますぐ覚えなくてもよいから。しかし、ジャッジ達の眼は、このように細かく、選手の体の筋肉を兒るものであるということを覚えておくべきである。

 このラウンドでは、単独のポージングが全員終ったあとで、比較審査が行なわれる。ジャッジングの最も重要な部分はこの第2ラウンドでの比較審査である。この6ポーズによって各人の体はあますところなくジャッジの眼にうつる

 フリー・ポージングでは自分の欠点をかくすことも出来るが、この規定ポーズでは、ありとあらゆる部分が兒えるようになっている ごまかしでは決して睛てないことがわかる。

 このラウンドでは、人数にもよるけれども、先ず1時間以上かかると思っておいた方がよい。優秀な選手はこの比較審査で、呼び出され通しであるので、筋肉を休ませる暇がない。呼び出されることなく、後方に並んでいるだけの選手は疲れないかも知れないが、何回も何回も前に出てポーズを比較される選手はへとへとになる。日本のコンテストで、このような長時間のジャッジングに堪える経験のない日本選手は、今から体に、このような長時間のジャッジングに堪え得るような練習をしておくことが必要である。

◆第3ラウンド――フリー・ポージング

 このラウンドでは、各人が順にひとりずつステージへ出て、ポージング台の上で1分間のフリー・ポージングをする。このラウンドでは比較審査はない。

 以上で3つのラウンドが終り、その成績はジャッジズ・コミティ―の書記が保管し、誰にもわからない。

 普通は、プレ・ジャッジングの終ったあとで、本コンテストのリハーサルが行なわれるから、もし予告を受けたなら、定められた時刻に集介せねばならない。

 アジア選手権でも、プレーシャッジンクは5時間や6時間はかかると思わねばならない。

◆選手への禁止事項

①プレ・ジャッジングにもコンテストにも、ボディ・オイルを用いることは厳重に禁止されている。 人工着色剤は、プレ・シャッジンクの最短24時間前までに塗る時のみゆるされる。皮膚がギラギラしていると、白紙で皮膚を拭き、油か汁かを兒きわめられる。そして、油とわかれば失格処分を受ける。(油をバック・ステージで拭き取ってくるよう命じられることもある)

②イヤリング、ブレースレット、ネクレス、指輪などはつけてはいけない。チューインガムをかむこともゆるされない。

③皮膚の美しさも採点の対象になるから、よく手入れをしておくこと。また、髪形は自由であるが、清潔で、きちんと整髪されていなければならない。

④動作は、キビキビとして、且つ、礼儀正しくあること。

◆第2部――コンテストでのジャッジング

 コンテストでは、選手全員がひとりずつ、ステージで1分間のフリー・ポージングを行なう。1つのクラスが終ると、そのクラスの中から、プレ・ジャッジングで上位を占めた何人かが呼び出される。その呼び出たれた選手達の間でポージングによる戦いが行なわれる。
 そのポーズ・ダウンの戦いで得た得点が、プレ・ジャッジングでの得点に加えられ、これが最終点となり最終的な結果が決まる。そして直ちにそのクラスの上位3名の表彰式が行なわれ、それが終ると次のクラスに移り、同じように行なわれる。

 1979世界選手権(コロンバス)、1980世界選手権(マニラ)1981世界選手権(エジプト)では、選手1人ずつのポージングをする時間がなく、各国のティームが1つのグループとしてステージでポージングをした。今度のアジア選手権では、フリー・ボージングは1人ずつになるか国別のティームでするかはまだわからない。

 しかし、コンテストのステージで参加選手全員を見せることにはかわりがない。なおプレ・ジャッジングでの得点は、ジャッジズ・コミティ一の書記が秘密を守ってコンテストまで保管するから、誰にもその結果はわからない。わからないから、選手達はコンテストのステージで精いっぱいフリー・ポージングが出来るわけである。それが観衆をよろこばせる何よりの要素である。

 各クラス1こ位3名の入賞者と、国別の成績によって上位3力国が表彰される。日本は、1972のバクダッドと、1974のマニラでのアジア選手権で上位3カ国の中に入った。今年もぜひその中に入りたいものだと思う。

 アメリカとヨーロッパの選手の体のレベルは年々上昇しているので、世界選手権で日本が団体として入賞することは非常にむつかしい。しかし、アジアなら絶対に出来ないとはいえない。選手諸君の健闘をひたすら祈るのみである。    (了)
月刊ボディビルディング1982年6月号

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