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食事と栄養の最新トピックス25
老化は食べ物が原因だった

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月刊ボディビルディング1983年3月号
掲載日:2020.10.08
健康体力研究所 野沢秀雄

1. 老化は20代から進行する

 連載中の「減量法総点検」シリーズはトレーニングに関する項目が未完であるが、千葉の畠山晴行さんの減量体験とそれに伴う研究発表がしばらく続く予定なので、減量以外の話題について、興味あるトピックスを紹介しておこう。
 青春出版社から、USAのベンジャミン・フランク著・市川桂子訳の新書版「老化は食べ物が原因だった」が発売されている。本書は、老化現象が食品中に含まれる「核酸」と関係深いことを発表したもので、原著は6年前の1976年にアメリカでベストセラーになっている。
 核酸といえば、有名なマッスル・フイットネス誌にも、「ボディビルと核酸は関係が深い」と何回か特集されている。ボディビルダーにとって、若さの維持は重要なテーマだ。20代から特に進行が早まる老化についてスポットをあてよう

2. 個人差が大きい老化現象

 誰にも老化は訪れる。眼の調節力はすでに6歳から衰えはじめる。だが筋力をはじめとする体力は、25歳までは充実し、一般的には26歳で低下を始める。もっとも文部省などが実施している体力テストの結果だから、トレーニングを継続して実行している人は必ずしもこれにあてはまらない。
 アメリカでは47歳のアル・ベルクスが「ナイトオブチャンピオン」で若いビルダーたちを圧倒し、5,000ドル(100万円)の賞金を手中にしたことは耳新しい。1982年度ミスターオリンピアで優勝したのは44歳のクリス・ディカーソンだ。日本でも宮畑選手が40歳でも現役として気を吐き、前年よりさらに良い体になっていた。
 先日、健康体力研究所に訪ねてこられた谷田部俊彦さん(日野市在住)は4年前に日本ボディビル協会の指導者講習会でお逢いした方である。「私は今年で定年になります」と言われたが、どうみても50歳くらい。ずいぶん早く定年になる会社だなあと不審に思ったが、なんともう60歳だという。体つきや精神の若さから誰でも40代と思いこんでしまう。
 若いときは同級生同志で差はそれほど出ないが、35歳40歳45歳と年を重ねるにつれて、個人差が大きく開いてくる。私が以前勤めていた会社では「目がかすんで近くの物が見えない。足のつま先に痛風が出ている」という同僚がいた。彼の年齢は38歳になったばかり。38歳で老眼鏡の世話になるなぞ想像すらできないことだ。
 老化の一般現象とされている項目は次の通りだ。

①肌にシミ・シワができる。
②頭髪が脱けてハゲてくる。もしくは白髪が多くなる。
③視力の調節がきかなくなる。
④昔のような体力が無くなる。同じことをしても疲れやすくなる。
⑤腹がすかなくなり、大食できなくなる。
⑥睡眠が浅くなり、朝早く目覚める。代りに昼間グーグー眠くなる。
⑦骨がもろくなり骨折しやすくなる。
⑧筋持久力や運動神経が低下する。
⑨物覚えが悪く度忘れがひどくなる。
⑩セックスの回数が衰える。

3. 老化のメカニズム

 では、いったいなぜ人間は老化するのだろうか? 老化を遅らせる方法はあるのだろうか?――日光に当りすぎて、醜く残ってしまったシミやソバカスをきれいにとり除くことは可能だろうか?
 一つの細胞(精子)と1つの細胞(卵細胞)が偶然に合体して、生命現象がスタートする。すでに胎内で受精した瞬間から、1が2になり、2が4に、4が8に、8が16に......とモーレツなスピードで細胞が増殖している。
 「オギャー」と生れたときにすでに数十兆個の細胞のかたまりになっており、幼児期・少年期・青年期と、細胞数は増え続ける。そして10代後半に、細胞数が一定になって、成長はストップする。背が高い人と低い人、肥っている人とやせている人、男性と女性などで差はあるが、細胞の数は40兆とも50兆とも言われている。
 「20歳で成人式」といわれるのは、肉体的に20歳で完成し、これ以上の細胞増殖は無いことを意味する。成人後でもトレーニングにより、筋肉が大きくなったり、脂肪太りするのは、細胞数が殖えるのでなく、個々の細胞の容積が増すためと考えられている。もっとも最近はこの説が必ずしも正しくなく、トレーニングにより筋肉細胞数まで明確に増加したり、食べすぎで脂肪細胞数まで増殖することが報告されている。これについては既刊号に紹介した通りである。
 成長期は当然のことだが、20歳を過ぎてからも、40~50兆個の細胞は休みなく新陳代謝をくりかえしている。古い細胞が壊れては、新しい細胞に変っている。単なる「物質」ならば、いったん存在する細胞は時間がたっても変化しないが、生物は動物でも植物でもモーレツなスピードで細胞を常に交替させているのだ。
 老人に比べて若い人は新陳代謝のスピードが早い。「ケガをしてもすぐに治ってしまう」とよく言われるように、すぐ新しい細胞に生まれ変わる。子供は体温が高く、ハダカで冬季に戸外で生活しても耐えられるが、成人が真似をしたら、すぐ風邪をひいてしまう。また若い人ほど、細胞中に含まれる水分量が多いので、弾力性のある、ミズミズしい体であることはご存知の通りである。
 これに対して、中年に近づくにつれて新陳代謝のスピードが鈍くなる。脳の細胞は1日に何百個ずつも失われてゆく。これがボケにつながる。筋肉細胞も、トレーニングで鍛えなければ、毎日容積が小さくなる。老年になれば、筋肉細胞や脂肪細胞の数まで減少してしまう。皮ふのタルミや深いシワはこうして生ずる。
 皮脂線から分秘する脂肪分秘が減少し、カサカサ固い肌になってしまう。「光り輝くような若者の肌にしたい」と誰でも希望するが、細胞の新陳代謝は鈍くなってくるのだから、宿命としてあきらめる人が大多数だ。

4. 老化は遅らせることができる

 ベンジャミン・フランクの著書では「老化と栄養、とくに細胞分裂の元になる核酸の多少が影響する」と述べている。一見して50歳に見えるが、実際は37歳の弁護士に、核酸中心の食事法を指導したところ、わずか半年で若返り、どこからみても32~33歳の若手弁護士に変身した例をはじめ、多数の実証レポートを紹介している。
 細胞が新陳代謝をくりかえす以上、その栄養源となるタンパク質やビタミン、カルシウムや鉄などが重要なことは誰にも想像できる。ビタミンCは細胞と細胞を密着させ、シミやソバカスを除く効果が認められている。
 だが、核酸という特別な物質に注目したことがユニークだ。通常、核酸は1つの細胞に1つしか含まれていない。たとえば「栄養豊富で優等生」といわれる卵は、タンパク質・ビタミン・ミネラルを多く含んでいる。ところが、核は大きな卵でも1つしかないので、核酸含有量はほとんどゼロ。老化防止という点ではあまり役立たない。
 また、牛乳は分秘物であり、細胞はない。したがってタンパク質やビタミンは含まれても核酸はゼロ。つまり今までは常識として、栄養があると信じてきたが、核酸の面からみると、失格になる食品が結構多い。
 では何に核酸が多いかというと、細胞がぎっちり詰っている食品が好ましいことになる。具体的には、レバーやいわし、サケ、豆類、エビ、カニ、ハマグリ、マッシュルーム、ほうれん草、酵母などが、高核酸食品である。また調味料として使われるイノシン酸なども目的にかなっている。
 肉類は、細胞数が多くないので、あまり高核酸食品とはいえない。またチーズやバター、油製品も、細胞が含まれないので核酸はゼロに近い。
「若さが得られるはず」と、生野菜やジュースを飲む人がいるが「こんな方法では、核酸が少ないので、かえって老化を早めるだけ」と著者は警告している。
◇食品の核酸合有量(同書より)◇

◇食品の核酸合有量(同書より)◇

5. 老化を防ぐ食事法

 上表のような高核酸食品を多くとれば、年をとらないで人生を楽しく過ごせると、筆者らは述べている。
 具体的な摂取法は次の通りだ。

①週に4回はイワシを食べる
 ふつうの人なら1日3食として、1週間に合計21回食事するはずだ。21回のうち4回イワシ料理を食卓に供するといい。生でもいいし、焼いたり、煮てもかまわない。缶詰に含まれる油まで食べると高カロリーになるので、油はよく切って、イワシだけを食べるようにする。
②週に1回サケを食べる
 今年はサケが豊漁で味もうまい。生でもいいし、塩ザケでもよい。
③週に1回、エビ、カニ、カキ、ハマグリ、イカのどれかを食べる
 鍋物料理や地中海風スパゲッティやパエリア(洋風おじや)も好ましい。アサリやタコを代用に食べてもよい。
④週に1回、魚を食べる
 日本は海に囲まれており、サバ、タラ、サンマ、カレイ、ヒラメ、ブリ、マグロなど種類が多い。どんな魚でもいいから、週1回は魚を食べるがいい。もちろん週に何回食べてもよい。日本人は平均して週に2~3回多い人はもっと魚を食べていると思うので、この点は問題ない。アメリカは内陸部がほとんどないので、新鮮な魚は週に1回ぐらい食べられたらよい方なのだろう。
⑤レバーはあらゆる観点からすぐれた食品なので、牛・豚・鶏など何でもいいから週1回は必ず食べる
 日本なら、焼とりやホルモン焼という簡単な方法が便利だ。また、レバーを錠剤にした製品を採用することも考えられる。
⑥週に1回、かぶを食べる
 かぶは核酸こそ多くないが、体内で核酸を合成するときに役立つ成分を多く含んでいる。
⑦週に1回か2回、豆類を食べる
 豆は細胞数が多く、ビタミンB1、E、ナイアミン(B3)、パントテン酸、葉酸を多く含んでいる。カルシウム、カリウム、マグネシウムも抜群に多く含まれる。大豆がいちばんよいが、他の豆でもかまわない。納豆や枝豆は良いが、とうふ・ゆば・プロティンの場合は核酸量はやや低下している。
⑧毎日、次の中から1種類を食べる
 アスパラガス、ほうれん草、赤かぶ、マッシュルーム、カリフラワー。これらは核酸が多い野菜であり、同時に体内での核酸合成に役立つビタミンA・C・鉄・葉酸・ビタミンB2・リンなどをバランスよく含んでいる。

 以上のほかに、効果をあげる方法として、牛乳を毎日コップ2杯飲む。またフルーツジュースか野菜ジュースのどちらかを飲む、コップ4杯の水を飲む、ビタミン食品またはビタミン剤を併用する、といったことを筆者はすすめている。
 逆にまずいのは、週のうち半分以上を外食している人や、パン一切れにコーヒーといった安易な食生活をおこなっている人である。外食するのがやむを得ない人は、メニューの中から、イワシを始めとする魚、レバー、豆類きのこ類、貝類、濃色野菜などを材料に使った料理を注文して食べる習慣にしていただきたい。(肉料理や卵料理はあまり良くない。もちろん、インスタントラーメンやカップ麺、ハンバーガー、ポテトチップ、フライドチキンなどインスタント食品やファーストフードに偏った食生活ではダメ)
 以上の注意を守り、高核酸食の食事法を実行すれば、早い人で2~3ヵ月以内に、遅い人でも6ヵ月以内に若返りの効果が現われてくる。「あれっ、若々しくなったなあ」と周囲の人たちをびっくりさせるだろう。
 最後にトレーニングの効果に言及しておこう。当然ながら適度な運動を毎日の生活に取り入れている人ほど、新陳代謝が活発で、若々しい細胞が維持される。
 しかし食生活に無関心で、漫然とトのレーニングするのでなく、核酸のことやタンパク質・ビタミン・ミネラル・せんい等、栄養の摂取法に充分配慮することが大切だ。こうすれば体内からパワーが溢れだし、いっそう効果が大きくなる。
月刊ボディビルディング1983年3月号

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