フィジーク・オンライン
  • トップ
  • スペシャリスト
  • 新 ボディビル講座 名城大学助教授 鈴木正之 ボディビルディングの理論と実際<25> 第6章トレーニング種目

新 ボディビル講座
名城大学助教授 鈴木正之
ボディビルディングの理論と実際<25>
第6章トレーニング種目

この記事をシェアする

0
月刊ボディビルディング1983年3月号
掲載日:2020.10.07

◎その他の胸の運動
◆ディッピング・バーやベンチを用いて行う胸の運動

 ディップ(Dip)とは、いろいろな意味に解釈されるが、ここでは身体が下がることを意味する。2本の平行棒の間に身体を入れて平行棒を握り、立位腕立の状態から肘を曲げ、身体を下げた状態のことである。この姿勢から胸筋と上腕三頭筋の力を使って身体を押し上げることによって胸筋に刺激を与えるという、動作としては単純な運動である。
 負荷は自分の体重、またはプレート等をぶらさげることによって加えられるので、たいへん簡単で手軽にできるところから、多くのビルダーがチンニング同様に行なっている種目である。
 基本的な注意事項は、肘の屈伸運動として行われやすいので、肘を伸ばしつつ肩甲骨を下方に押し下げるようにする。言い方を変えれば、首を上方に突き出すような気持で行うということである。

《1》ディップス(初級者)
〈かまえ〉平行棒かディップ専用バーを握り、立位腕立の姿勢で身体を支持してかまえる。中・上級者にとっては自分の体重だけの負荷では小さいので、リフティング・ベルトにプレートをつけるか、ディップ専用ベルトで負荷を強める。負荷をつけた場合、この運動をディップ・ウイズ・ウェイト[図1]という。

[図1]ディップス・ウイズ・ウェイト

[図1]ディップス・ウイズ・ウェイト

〈動作〉肘を外側に開きながら完全に曲げて身体を押し上げる。
〈注意点)ディップスの場合、上級者にとっては負荷をかけなければトレーニング効果があがらないので、負荷のかけ方の研究が大切である。逆に、初心者にとっては自分の体重だけでも重過ぎる場合もある。そのような人は、足を椅子などにのせて負荷を軽くし、反復が続けられるようにする。
〈作用筋〉主働筋......大胸筋(腹部)、小胸筋。補助筋......上腕三頭筋。

《2》リバース・ミディアム・グリップ・プッシュ・アップ(通称:リバース・プッシュ・アップ、初級者)[図2]

[図2]リバース・プッシュ・アップ

[図2]リバース・プッシュ・アップ

〈きまえ〉ベンチに背を向けて、肩幅よりやや広めに手をつき、フロアーに脚を伸ばして置く。中級者は負荷を強くするために、足をフラット・ベンチかカーリング・ベンチの上にのせる。上級者は足を高くした状態で大腿部にプレートをのせる。
〈動作〉肘を曲げて上体を上に突き出すように肘を伸ばす。
〈注意点〉負荷のかけ方に充分注意して行う。また、上腕三頭筋への負荷が強い場合には、フラット・ベンチを2台用意して、その間に身体を入れてディップス運動にすると胸筋への負荷をかけやすくなる。このプッシュ・アップ運動は肘屈伸を中心とした運動であれば上腕三頭筋が主働筋となる。
〈作用筋〉主働筋......大胸筋(腹部)、小胸筋。補助筋......上腕三頭筋。

◆レッグ・プレス・マシンを用いて行う胸の運動

 レッグ・プレス・マシンは脚のトレーニング器具と思われがちであるが、胸の運動としても、その利用価値は高い。とくにパワーリフティングを練習する人にとっては、補助運動としてへビー・ウェイト・トレーニングを行う場合や、ポーズ・プレス、ハーフ・プレス、およびアイソメトリックなどにも有効に利用できる。
 とくにレッグ・プレス・マシンは一定の高さに専用ストッパーがあるのでその安全性が高く、安心してトレーニングができる。そのため最近ではこのマシン・プレス専用バーがついているものが販売されている。

《3》ライイング・ミディアム・グリップ・プレス・アンダー・レッグ・プレス・マシン(通称:レッグ・プレス・マシン・プレス)[図3]

[図3]レッグ・プレス・マシン・プレス

[図3]レッグ・プレス・マシン・プレス

〈かまえ〉レッグ・プレス・マシンの下にフラット・ベンチを入れ、そのベンチの上に仰臥し、レッグ・プレス・マシンの固定板を持ってかまえる。
〈動作〉固定板をベンチ・プレスと同じように押し上げる。
〈注意点〉ヘビー・ウェイトのトレーニング時に使用するとよい。とくにハーフ・プレス、ポーズ・プレス、アイソメトリックの時に利用するとよいが、プレス・スタートの時、たへん重く感じるので、パートナーに補助してもらうとよい。
〈作用筋〉主働筋......大胸筋。補助筋......上腕三頭筋。

◆バタフライ・マシンを用いて行う胸の運動

 バタフライ・マシンは、アメリカのユニバーサル・マシンの普及と共に日本に上陸し、ここ数年、目覚ましく広まってきた。これはアメリカでインナー・ペック・プレス・マシンと呼ばれ大胸筋を鍛える専用マシンとして、ベンチ・プレスやチェスト・ウェイトにはない特徴を持っている。
 また、一般的な傾向として胸のトレーニング種目の場合、大胸筋が最大に収縮したとき、その抵抗が弱くなる傾向にある。しかしこのバタフライ・マシンの場合は、可変負荷抵抗を持つノーチラス・マシンを除く一般的なものは、最大筋短縮時に最大負荷がかかるようになっている。(註:これと同じ性質を持つものとしてはケーブル・クロス・オーバーやプーリー・クロス・オーバーがあるが、大胸筋に近い肘関節に力を入れられる点は最も優れたマシンといえる)
 しかも、伏臥姿勢や仰臥姿勢をとらず、座位の姿勢で行うことができるので、初心者でも使用しやすく、効果をあげやすい特徴を持っている。今後、この器具はトレーニング効果をよりー層あげるために、ノーチラス型のカムを利用し、重量選択がワンタッチで出来る専用マシン・プレート付きのものになれば、重量減量法(マルティ・パウンデッジ)も採用しやすくなる。

《4》インナー・ペック・プレス・オン・インナー・ペック・プレス・マシン(通称:バタフライ)[図4]

[図4]バタフライ

[図4]バタフライ

〈かまえ〉椅子に腰をかけ、背もたれにしっかりと背を当て、両手をペックにかけてかまえる。
〈動作〉ペックを内側に押すように閉じて、大胸筋を引き伸ばすようにゆっくりとペックを開く。
〈注意点〉動作は単純なので初心者でも簡単にできる。注意するところは肘をペックより離さず、押す時に力強く押し、そして開くときはゆっくりと開くようにする。
〈作用筋〉主働筋......大胸筋(胸肋筋)

◆プーリー・クロス・マシンを用いて行う胸の運動

 プーリー・クロス・マシンは肩の運動のところでも紹介したように、垂直の力の方向をプーリーやワイヤーによって、ラット・マシンやチェスト・ウェイトと同じように、その力を水平方向に変えて行うマシンである。
 そういった力方向が左右にある特徴はバタフライ・マシンと同じであるがバタフライ・マシンとの違いは、ワイヤーを引く方向によって力方向が固定されず、しかも、ハイ・プーリーとロー・プーリーの使い道があり、胸をトレーニングする場合は、大胸筋3方向を考えて自由にコースを選択できる特色がある。
 また、このマシンを単体として使用すれば、チェスト・ウェイトとラット・マシーンの運動を行うことができるので、多目的に大へん便利に利用できるトレーニング・マシンということができる。

《5》ハイ・プーリー・クロス・オーバー(通称:ハイ・プーリー・クロス)
[図5]ハイ・プーリー・クロス

[図5]ハイ・プーリー・クロス

〈かまえ〉立ったまま両手にプーリーのハンドルを持ち、胸を開いてかまえる。
〈動作〉左右の手が触れるか、交叉するまで引き合わせる。
〈注意点〉ワン・ハンドでクロス・オーバーを行うとき、重い重量の場合は身体が固定しにくく、ハンドルを引きにくいが、クロス・オーバーを専門とするプーリー・クロス・マシンを使用すれば、両手に同時に負荷がかかり、力を入れやすく、しかも身体バランスがとりやすい。開閉、および運動中に左右の腕の上下をかえるとよい。腕はフィニッシュにおいて曲がっていてもよい。
〈作用筋〉主働筋......大胸筋(胸肋部)

《6》ロー・プーリー・クロス・オーバー(通称:ロー・プーリー・クロス)

[図6]ロー・プーリー・クロス

[図6]ロー・プーリー・クロス

〈かまえ〉立ったまま両手にプーリーのハンドルを持ち、胸を開いてかまえる。
〈動作〉左右の手が触れるか、交叉するまで引き合わせる。
〈注意点〉ロー・プーリーを利用することは、胸筋の鎖骨部の鍛練を目的としているので、斜め下方より上に引き上げるように両腕をクロスさせる。なお、上体の前傾を強くすればロー・プーリー・ベント・クロス・オーバーとなり、刺激部は鎖骨部より胸肋部に移行してくる。その他の注意点はハイ・プーリーの場合と同様である。
〈作用筋〉主働筋......大胸筋(鎖骨部)補助筋......三角筋(前部)

◆ベンチ・プレス・マシンを用いて行う胸の運動

 このベンチ・プレス・マシンもアメリカのユニバーサル・マシンの普及と共に我が国に上陸し、ベンチ・プレスを専用とするプレートをつけた安全性の高い器具として、日本でも広く使われるようになってきた。
 このマシンの特徴は、初心者でも手軽に安全にできることと、肩を兼用して使用できる利点がある。しかし中・上級者にとっては、バーが固定されているため、どうしてもトレーニング種目が限定されることと、バーベルを押し上げた充実感が乏しく、トレーニングにマンネリ化がくる傾向がある。したがって練習者のレベルによっては、このマシーンの採用が必ずしもいいとは言いきれないという問題を含んでいる。
 このため、トレーニング終局は、やはりフリー・ウェイトによるトレーニングがいいのではないかと、最近とくに感じてきている。

《7》ベンチ・プレス・オン・ベンチ・プレス・マシン(通称:ベンチ・プレス・マシン・プレス、初級者)[図7]

[図7]ベンチ・プレス・マシン・プレス

[図7]ベンチ・プレス・マシン・プレス

〈かまえ〉ベンチ・プレス・マシンのベンチに仰臥し、両手にバーを握ってかまえる。
〈動作〉上方に押し挙げる。
〈注意点〉普通のベンチ・プレス同様に、ゆっくり下ろして力強く押し上げる。バーの上下コースが決っているので、技術的に注意することもなく、しかも安全性が高いので、初心者でも充分にオールアウトするまで行うとよい。
〈体用筋〉主働筋......大胸筋。補助筋......上腕三頭筋。
月刊ボディビルディング1983年3月号

Recommend