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食事と栄養の最新トピックス⑭
栄養の吸収と個人差について(下)
――第9回健康体力研究会講演より――

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月刊ボディビルディング1981年10月号
掲載日:2020.07.02
健康体力研究所 野沢秀雄

■消化吸収率を高めるには

食べた栄養素が効果をあげるかどうかは、その食品そのものの性質のほかに、自分の体の側の状況が大きく影響することを述べてきました。
それではどのようにすれば、消化吸収率が高まり、効率よく体に利用されるか、ポイントをあげてゆきます。

①一度に多く食べすぎない
高濃度のものを多量に食べると、消化吸収力に限界があるので、無駄になります。規定量が決められているものはこれを守り、むしろ回数をふやして食べるほうが効果が大きいことがおわかりでしょう。

②アレルギー性を再検討する
他の人には合っても、自分の体質に合わないというケースがしばしばあります。牛乳は日本人の10人に1人は下痢をおこすといわれます。体質によっては、ある特定物質に対して、超微量であっても過敏反応をおこすことが知られています。クロレラは特にこの傾向が強く、肌にブツブツと吹き出物を生じる人がいます。人によっては、卵やサバ、アジなどの青味の魚、タコ・イカ・しその葉・パンなど、全く意外な食品にアレルギーを示し、下痢をしたり発熱したりすることがあります。

③空腹を感じて食べる
同じ食べるなら、グーグー腹が鳴るような時に食事をとると、消化液が充分に出て、吸収率がよくなります。

④よくかんで食べる
また、よくかんでゆっくり食べるほうが胃腸に良い効果を与えます。食事中に、水やお茶をよく飲む人がいますが、消化液本来のものがうまく出ないので、過度な水分は考えものです。

⑤トレーニングをしっかりする
ろくに運動しないのに、高栄養素食品をとっても、身体が要求しないのだからあまり利用されません。逆に、肉体の限界ぎりぎりの負荷を与えて、超回復を期待するトレーニングをおこなっている人は、充分に高栄養素食品をとらないと、望む効果は得られません。

■補足的に有効な手段

⑥太陽にあたる
運動が新陳代謝を高めるということはいうまでもありませんが、日光浴をすることもひじょうにプラスです。細胞の活性度を高めて、栄養の吸収をよくすることが知られています。
新鮮な空気を吸うことも大切なことです。

⑦早寝早起きを実行する
人間には動物としてのリズムが残されています。朝早く起きるタイプのほうが生命力が強くなり、消化吸収の機能にプラスです。午後8時以降は口腔における酵素活性度が低下し、消化性が悪いことが知られています。
できるなら自然のリズムに合わせて活動するほうが良いのです。

⑧チューインガムをかむ
元気の良い若者ほどガムをかみ、睡液が旺盛で、そのためにいっそう活力が生まれます。ロッテさんのPRでありませんが、ガムは役に立ちます。

⑨固い食品も好んで食べる
するめやナッツ類、小魚など固い物を敬遠する風潮にあります。柔らかい物ばかり飲み込んでいる人たちが多いのですが、これはよくありません。歯ごたえのある食品をよくかんで食べることが時には必要です。

⑩胃腸の調子を整える
胸ヤケがする、胃が重苦しい、というのでは、いくら高栄養の食品を食べても利用率は低下します。いつも快調であるように、心身を鍛えておきたいものです。胃が痛くて重苦しい場合、手のひらの親指のツケ根の部分をマッサージすると、コリコリした手ごたえを感じます。ここをよく圧迫すると不思議に胃までひびいて、胃がたいへん軽くなります。

■体質を改善するには

筋肉質の体質、脂肪質の体質、筋肉も脂肪も付き難い神経質の体質と、人それぞれ個人差があります。これらは生れながらの遺伝による要素が大きいわけですが、これが主として、性ホルモンの配分比に起因していることは既に述べたとおりです。
このような体質は変えられないかというと、努力次第で、ウェイト・トレーニングを実行して、同時に食事法にも配慮をおこなうと、必ず望ましい体質と体型が得られます。私たちは何百人、何千人という人たちを指導していますが、「脂肪がつきやすく、体重も腹囲も標準よりオーバーしている」という人が、トレーニングを続けることにより、スリムで、筋肉が浮びあがるような体質に変身していますし、逆に針金のように細い人が、少しずつ筋肉をつけて、みごとな体型に完成されてゆく例を何度も経験しています。
全国各地のトレーニングセンターでも、このように成功した人たちが大勢おり、これがボディビル活動を支える原動力になっているわけです。
「良いとわかっても、いざ実行するとなると、なかなか大変だ」というのもよくわかります。継続すること、習慣づけることが大切ですが、これがなかなか出来にくいことですね。意志を強く持ってやりぬくことが大切です。
何か目的を決めて、どう変化してゆくか実験をするつもりで実行することもはげみになって良いことです。私自身は、現在レモンCを長期にわたって使用するテストを自分の体でおこなっています。
今から2~3年前の夏に、日光浴をしすぎて全身にひどいシミやソバカスを作ってしまったのです。それまでは春くらいから徐々に日光にあたって肌を焼くようにしていたのですが、仕事が忙しくなるにつれ、肌をていねいに焼く余裕がなくなり、その夏は真夏のある日曜日、朝から夕方まで一挙に強い日光を浴びてしまったのです。全身が赤く腫れあがり、やがて皮がむけてきました。昔の若いときなら新陳代謝が盛んで、皮ふの回復力もよかったのですが、体調が悪く、ストレスの多いときは、なかなか元のようにきれいな肌に戻りません。またその時の栄養状態もやや悪く、たんぱく質やビタミン・ミネラルが不足していたのでしょう。ずいぶんひどい肌の状態になり、今でもそのあとが少し残っているくらいなんです。
「これはいけない。元にもどさなくては」と決意し、今年の正月からレモンCを30~50粒ずつ、毎日わけてとるように配慮しました。2~3年もたってからの処置なので、本当にビタミンCでよくなるのかを知りたかったわけです。それ以来6か月経過して、かなり良くなっています。胸のほうはまだあと一歩ですが、肩や背はひじょうにきれいになりました。足などは以前と全く変わりないくらいです。
ビタミンCのテストをする前に「使用前の写真」をとっていますので、これと現在の状況を調べると、シミやソバカスなどがかなりきれいになっていることがわかります。この実験はもう少し続けていきますのでいつかまとめて発表することがあるかと思います。
肌を汚なくしてしまってから後悔して対処するよりも、肌を汚さないようにふだんから注意して、①急激に日に当てない。②ビタミンCやたんぱく質など栄養を充分とる。③ストレスなどで肝臓に負担をかけない――といったことを守るのが大切です。
「いつまでも若い」と思いこんで、昔と同じように無茶をすると、中年以後の人には無理やひずみを生じます。みなさん充分にご注意ください。

■参加者からの質問

以上の話に関連して、参加された皆様から何かご質問や、日ごろ疑問に感じられていることがありましたら、この機会にお答えしたいと思います。
質問「個人差が意外に大きいという話でしたが、同じ自分の状態をみても調子のいい時、悪い時で、差が相当にあるように思います。私はふだん気分がのらない時でも、バーベルでトレーニングを始めると調子がよくなり、食欲などもすすむように思います」
答「ひじょうに良い質問ですね。体調を自分でコントロールできるなら、ぜひそうしたほうがよく、またウェイト・トレーニングがそのきっかけになるのでしたら、積極的に利用したらよいでしょう。自分でこの日はやる!と決めて実行してください。やる気がおきるのを待つより、自分でまず意欲をわかせて、強制的にでもいいので実行をしはじめることが大切です。調子がよくなれば体内のホルモンや消化腺からの分泌がよくなり、好循環をしてゆくわけです」
質問「消化吸収率なんですが、炭水化物がひじょうに良くて、たんぱく質がやや悪いようですが、同じたんぱく質でも食品によって良いもの、悪いものと差が出るのでしょうか?」
答「その通りです。卵や納豆、とうふ、プロテインパウダーなどは、ほぼ100%近く吸収されるものですが、肉や大豆そのもの、落花生などは吸収率がやや少なくなります。また野菜などにも少量のたんぱく質が含まれますが、これらの消化性はあまり良くなく、栄養的には期待しにくいといえます」
質問「野菜があまり好きではないのですが、やはり多く食べなくてはいけませんか?」
答「野菜の役割は①微量なビタミンやミネラルの供給、②アルカリ性なので、体質を疲れにくくする、③含まれる繊維が腸の調子を整えて体調をよくする等であり、とくに③の役割が近年重要視されています。この代用をするものはなかなか無いので、やはり意識して食べることが必要です。生のまま食べるとボリュウムが大きくて、食べにくいので、煮て食べてもかまわないのです。下宿している人で、どうしても面倒な人は、アルファルファ製品やクロレラ製品を用いると良いでしょう。便利に使えますので……」
月刊ボディビルディング1981年10月号

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